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2.僕と薫のこと

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その翌週、またフォーク症の人が殺された。しかも今度は僕が住むマンションから徒歩10分もかからない場所でだ。

「薫……ねえ薫」
「なに?」
「ニュース聞こえてる?」
「うん」

しかし彼はテレビを見ることもなく、手元のスマホから目を離さなかった。

「ねぇ、なんでこんなにフォークばっかり殺されるのかな?」  
「さあ、俺に聞かれてもね」

薫は僕の顔を見て目を細めた。

「安心して。いい物件を見つけたんだ。今月中には引っ越しができるよ」
「え……本当に引っ越しするの?」

「うん、これ見て」と彼はスマホの画面を見せてくれた。
マンションの間取りや写真が載ったwebページだ。

――冗談かと思ったら本気だったのか。
これまでも比較的短いスパンで引っ越ししてはいた。何かから逃げるように――いや、本当はわかっている。薫は継母の嫌がらせから僕を遠ざけようとしているのだ。

僕の実の母親は幼い頃に亡くなっている。その後父が再婚し、弟も生まれた。僕は家族と仲良くしていたつもりだった。だけど、そうじゃなかったようだ。
うちは政治家を多く輩出している家系で、父も議員だ。継母は弟を後継者にしたくて、邪魔な僕を排除しようとしていたのだ。
ずっと気づかずにいたけど、薫が守っていてくれただけで彼がいなければ僕は今頃どうなっていたかわからない。命を落としかけたことが何度もあり、それが継母の手によるものだと知ったのは実家を出た後だった。

僕が安心して頼れる唯一の存在であり、現在恋人でもある薫は僕より5歳年上の29歳。以前は彼の母親と共に僕の実家の使用人として住み込みで働いていた。
僕は小さな頃から優しい兄のように接してくれる彼のことが大好きだった。

それが4年ほど前から二人で実家を出て、住居を転々とするようになった。
継母と暮らすのは限界だったし、僕は薫と一緒ならどこで暮らしても構わなかった。政治なんて元から興味も無い。僕は勉強もあまり出来なかったし、体が弱くて学校も休みがちだった。一応大学は出たけど、誰でも金さえ払えば卒業出来るような所だから自慢にもならない。

生活に困らないだけのお金は父から与えられていた。薫に家計のやりくりも資産運用も全て任せているから、僕のすることはない。

僕はこの歳になっても天気が悪いと体調を崩しがちだ。だから、晴れた日にだけ外へ出て散歩が出来る。
実のところ薫が普段何をしているのかよく知らない。日中一人で出掛けて行くこともあって、生活に必要な手続きをしていると言っていた。
そんなときはいつも帰りに食材を買ってきて、美味しいご飯を作ってくれる。

僕は日がな一日本を読んだり、サブスクで映画やドラマを観て過ごす。
雨の日は身体が溶けそうなくらい怠くてベッドから起き上がれないこともある。そんな日はただ、薬を飲んで横になっている。

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