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9.独占欲に目がくらむ煌星
僕は答えずに凪のスラックスを脱がせた。何をされるのかと首を傾げている凪のお尻を撫で、なめらかな双丘の間を指の先でつつく。
「やっ、そこやだ」
怯えて逃げ腰になる凪の体を押さえつける。いつも甘えた表情の凪を見るのが好きだけど、今日はちょっと意地悪して泣かせてみたくなった。
こんなふうに体格差を利用して凪を押さえ込もうとしたことはなかった。僕はDomではあっても、好きな相手にサディスティックなことをする趣味はない。でもなんとなくそういうことをする人間の気持ちがほんの少しわかった気がした。
――僕だって今日は嫌な気分を味わったんだ。凪も少しくらい我慢してよ。
ヘッドボードの収納にこっそり入れてあるローションを取り出し指に垂らす。濡れた指で凪のすぼまりを突き、中にゆっくり押し込んでいく。まだ指先しか入っていないのに凪は焦って足を閉じようとした。
「やだ、気持ち悪いよ」
「しーっ。凪、Stay。足開いて力抜いて」
凪はコマンドのせいで反射的に仰向けのまま足を開いてだらんと体から力を抜いた。不安そうにこちらを見つめている。実はこれまでも何度か後ろの方を慣らそうとしたことがあったが、凪はあまり好きじゃないようだ。
「Present 凪」
彼は潤んだ目でこちらを見つめながら、秘部がよく見えるように更に足を開く。扇情的なその姿を眺めつつ、僕は目を細めた。
――こんな姿を見ていいのは僕だけ。
「上手だよ」
「もうやめて……」
――どうして泣き顔までこんなに可愛いんだ?
普段人目に触れることのないデリケートな部分にローションを垂らした。中指を優しく押し込む。潤滑剤の力を借りてそこはじわじわと僕の指を飲み込んでいった。恐怖で短く息をしている凪に声を掛ける。
「大丈夫――ほら、痛くはないでしょう?」
「なんで……? そんな、ふぁあっ」
凪は鼻にかかった声で僕を挑発する。
――だめだ、やめてあげられない。
凪の目から涙がこぼれ落ちる。僕はそれを綺麗だと思いこそすれ、この先の行為をやめようとは思わなかった。
「痛い?」
僕の問いかけに凪は無言で首を横に振った。だけど、こうされるのを歓迎してるわけではない。さっきまではち切れんばかりになっていた彼の性器はすっかり萎縮してしまっていた。さすがに可哀想になり、彼の可愛い分身を口に含む。不意打ちされて凪が声を漏らした。
舌を使って、彼の好きなところをくすぐってやると凪は切なそうにうめいた。少しずつ口の中のものが大きくなるのを感じつつ、それに合わせて中に入れた指を動かす。
「あっ……あ、んっ……」
怖いのに、僕のすることを我慢してくれる凪。彼の仕草も何もかもが愛しい。他の誰かに取られるなんて絶対に嫌だ。
――凪はこの気持ち、分かってくれるよね?
ずっと我慢してきたけど、そろそろ凪のDomは僕だけなんだという確証が欲しかった。ただの幼馴染じゃなく、ただ彼のマスターベーションの手伝いをするだけじゃなく、彼と一つになりたい――……彼の全てを支配し、庇護したい。
「僕も凪と一緒に気持ちよくなりたいんだ。凪は僕のことが好き?」
「……好き……」
「じゃあ、僕のこと受け入れてくれる?」
「受け入れる……?」
僕は指をグッと奥に入れる。少し指を曲げると凪の腰がビクンと痙攣した。同時に彼は体を硬くしたが、僕の言いつけを思い出してまたすぐに力を抜いた。その反応に満足しつつ僕は指を動かし、凪の腿の内側に口づけしながら囁く。
「ここに、僕のを入れるの――だめ?」
「え……指じゃ、なくて?」
僕は指をゆっくりと引き抜いた。凪の内側はヒクヒクと蠢いて僕の指に絡みつこうとする。
「違う。そうじゃなくて、これで凪の中に入りたい」
欲望でギリギリまで張り詰めたペニスを凪の足の間に擦り付けた。そこはさっき凪に舐められたうえに彼のあられもない姿を目にして限界に達していた。
元気を取り戻した凪のそれよりも一回り大きい僕のモノを彼はぼんやりした目で見つめた。催眠のせいで焦点が合っておらず、会話の意味もよくわかっていないだろう彼が問う。
「煌星のおちんちん、ここに入れるの――?」
「そう。だめ?」
「煌星、困ってるの?」
「うん。このままじゃ治らなくて困ってる――すごく」
「そう――じゃあいいよ……。俺、煌星のこと助けるためならなんでもしてあげる」
凪はうっとりした表情でそう言った。僕はそれが催眠のせいであって彼の本心じゃないとわかっていても、自分の衝動を止めることができなかった。
◇
その後僕は凪に自分の欲望をぶつけた。彼を気持ちよくさせることだけ考えていた頃とは違う。完全に自分がしたいようにしてしまった。
凪は体力の限界を迎えて、気を失ったように眠っている。その彼の足の間に自分の放った白いものが飛び散っているのを見て僕は罪悪感でいっぱいになった。
――ここまでするつもりじゃなかった。凪の気持ちも確かめずにこんなことまでするなんてDomとして、いや人として終わってる。
これまで凪が自分の出したものでどろどろになってそのまま眠ってしまっても、愛しさと幸福しか感じなかった。僕が凪を満足させてあげられたという誇らしさすら感じていた。同意のないプレイが罪だということはわかっている。それでもこれまではまだ、凪の性処理を手伝っているだけだと言い訳できた。だけど、今回は――。
「ごめん、凪……ごめん」
僕は泣きそうになりながら彼の体を拭いた。そして翌朝彼がいつものように何もかも忘れて目覚めてくれることだけを願いながら、逃げるようにして部屋を出た。
◇
自室へ戻った僕は気分を落ち着けるため冷蔵庫に入っていたハイボールを開ける。
アルコールが入り酔いが回ってくると、少しずつ思考がまともになってきた。
――大丈夫、バレるわけない。今までだって凪はどれだけ触ってイかせても目が覚めたら全て忘れてた。そういう催眠を掛けてるんだから大丈夫だ……。
冷静さを取り戻すと、凪を迎えに行く前に読もうとしていた書類がテーブルの上に置いてあるのに気づいた。数日前に受け取ったものの気が進まずに目を通していなかった資料だ。
「グローバル人材育成プログラム、か」
僕の会社では数年に一度社内から選ばれた数名がヨーロッパへ研修へ行くのが恒例になっていた。今年たまたま成績が良かった僕がその数名のうちの一人に選ばれ声が掛かった。とはいえ断ることも可能なので、元々は悩んだフリだけして断ろうと思っていた。凪を置いて何週間も遠くへ行くなんて嫌だったから。
「いっそ海外でも行った方がいいのかもな……」
日程は一ヶ月ほど先で、期間は約二週間。これを機に少し凪と距離を置いて頭を冷やした方がいいかもしれない。それくらい僕は津嶋の言葉に動揺していた。
認めたくはなかったが、あの男に指摘されたことは正しい。凪は激務で、外で僕以外のDomに会うことなんてないと思ってた。だから僕が内緒で甘やかして、ケアしてるつもりでいた。それが凪にとっても一番良いだろうと本気で考えていた。
だけど今回の飲み会のようなことがあれば、僕のせいで凪が危険な目に遭いかねない。
――それにもう僕は凪を甘やかして少し触れるだけじゃもう満足できないだろう。
一度凪の中に入ってしまうと、今までどうしてああしなかったのかわからないほどにしっくり馴染んだ。凪の両腕と両脚が僕の体に絡みつき、僕の心ごとぎゅっと抱きしめてくれるみたいな感じ――。彼のとろけた顔と甘えた声は僕の理性を粉々にした。
あんな風に何度も繰り返し「もっと」と言われたDomがSubにどうしてやりたくなるか? 相手が気を失うまで緩急をつけて攻め、サブスペースに追い込み逃がさない――従順な凪の肉体はあれが気持ちいいことだと最後にはしっかり覚えた。
たとえ催眠状態であろうと、凪に身も心も受け入れられるのがあんなに素晴らしいことだとは思わなかった。凪は僕のもので、僕は凪のもの――そう実感できた。
ただ、終わった後の虚しさは半端なかった。あれが凪の本心じゃないと考えただけで胸をかきむしりたくなる。凪が他のDomのものになるなんて耐えられないし、凪に本当のことを伝えて正式なパートナーにしてもらえたらと何度も考えた。
それも単なる悪戯で我慢できていた頃なら言えたかもしれない。だけど了承を得ずセックスまでした自分にそんなことを言える資格があるわけもなかった。
――だめだ、本当のことを話したら凪は泣くだろう。凪はそもそもSubであることを僕に知られたくないんだから。それなのに、僕がそれを知ってて利用してたなんてバレたら――。
「全部終わりだ」
僕は苛立ってハイボールの缶をテーブルに叩きつけた。飛び散った液体が資料を濡らす。
Subだと自覚してからはあまり笑顔を見せてくれなくなった凪。それがさっきみたいに催眠にかかると僕に柔らかく微笑みかけてくれる。
――いや、ちがう。僕が見たいのはあんな嘘っぱちの笑顔じゃない。
立ち上がり、本棚からアルバムを取り出した。五冊分あるアルバムには全て僕と凪の写真が収められている。データが消えてしまっても、紙で残しておけば安心だし何より僕がこうしてたまに昔の写真を眺めたくなるのだ。
「凪……」
アルバムの中の凪はどれも楽しそうに笑っている。だけどそれも高校くらいまでのこと。
凪が自分をSubだと知った頃から、笑顔の写真が減る。高校卒業以降はカメラ目線の写真はほぼ無くて、どの表情も暗く険しい。
「凪、笑ってよ」
僕は大学時代の凪の写真を指で撫でた。彼の不安げな表情を目にすると胸がざわついて落ち着かなくなる。好きなSubを支配するだけでなく、安心させたいと思うのはどんなDomだって同じだ。
僕だって催眠無しで凪を気持ちよくさせてあげたい。僕の隣にいるときはいつも微笑んでいてほしい。
だけど、凪がSubであることを僕に知られたくない気持ちもわかる。凪は男だしプライドもある。子どもの頃からヒーローでありたいという思いが強かったのは知ってる。だからなるべくそれを尊重したいと思ってきたけど、津嶋に指摘されてその気持ちが今揺らいでいた。
凪をずっと騙して閉じ込めておけるわけじゃない。二人きりなら今まで通りで良かったけど、社会に出て生活している以上そうもいかないようだ。
――どうしたらいい?
僕は小学生時代の凪の写真を見た。アルバムのポケットから何枚か写真を取り出してテーブルに並べ、屈託のない笑顔に見惚れているうちに瞼が下りてきた。
「やっ、そこやだ」
怯えて逃げ腰になる凪の体を押さえつける。いつも甘えた表情の凪を見るのが好きだけど、今日はちょっと意地悪して泣かせてみたくなった。
こんなふうに体格差を利用して凪を押さえ込もうとしたことはなかった。僕はDomではあっても、好きな相手にサディスティックなことをする趣味はない。でもなんとなくそういうことをする人間の気持ちがほんの少しわかった気がした。
――僕だって今日は嫌な気分を味わったんだ。凪も少しくらい我慢してよ。
ヘッドボードの収納にこっそり入れてあるローションを取り出し指に垂らす。濡れた指で凪のすぼまりを突き、中にゆっくり押し込んでいく。まだ指先しか入っていないのに凪は焦って足を閉じようとした。
「やだ、気持ち悪いよ」
「しーっ。凪、Stay。足開いて力抜いて」
凪はコマンドのせいで反射的に仰向けのまま足を開いてだらんと体から力を抜いた。不安そうにこちらを見つめている。実はこれまでも何度か後ろの方を慣らそうとしたことがあったが、凪はあまり好きじゃないようだ。
「Present 凪」
彼は潤んだ目でこちらを見つめながら、秘部がよく見えるように更に足を開く。扇情的なその姿を眺めつつ、僕は目を細めた。
――こんな姿を見ていいのは僕だけ。
「上手だよ」
「もうやめて……」
――どうして泣き顔までこんなに可愛いんだ?
普段人目に触れることのないデリケートな部分にローションを垂らした。中指を優しく押し込む。潤滑剤の力を借りてそこはじわじわと僕の指を飲み込んでいった。恐怖で短く息をしている凪に声を掛ける。
「大丈夫――ほら、痛くはないでしょう?」
「なんで……? そんな、ふぁあっ」
凪は鼻にかかった声で僕を挑発する。
――だめだ、やめてあげられない。
凪の目から涙がこぼれ落ちる。僕はそれを綺麗だと思いこそすれ、この先の行為をやめようとは思わなかった。
「痛い?」
僕の問いかけに凪は無言で首を横に振った。だけど、こうされるのを歓迎してるわけではない。さっきまではち切れんばかりになっていた彼の性器はすっかり萎縮してしまっていた。さすがに可哀想になり、彼の可愛い分身を口に含む。不意打ちされて凪が声を漏らした。
舌を使って、彼の好きなところをくすぐってやると凪は切なそうにうめいた。少しずつ口の中のものが大きくなるのを感じつつ、それに合わせて中に入れた指を動かす。
「あっ……あ、んっ……」
怖いのに、僕のすることを我慢してくれる凪。彼の仕草も何もかもが愛しい。他の誰かに取られるなんて絶対に嫌だ。
――凪はこの気持ち、分かってくれるよね?
ずっと我慢してきたけど、そろそろ凪のDomは僕だけなんだという確証が欲しかった。ただの幼馴染じゃなく、ただ彼のマスターベーションの手伝いをするだけじゃなく、彼と一つになりたい――……彼の全てを支配し、庇護したい。
「僕も凪と一緒に気持ちよくなりたいんだ。凪は僕のことが好き?」
「……好き……」
「じゃあ、僕のこと受け入れてくれる?」
「受け入れる……?」
僕は指をグッと奥に入れる。少し指を曲げると凪の腰がビクンと痙攣した。同時に彼は体を硬くしたが、僕の言いつけを思い出してまたすぐに力を抜いた。その反応に満足しつつ僕は指を動かし、凪の腿の内側に口づけしながら囁く。
「ここに、僕のを入れるの――だめ?」
「え……指じゃ、なくて?」
僕は指をゆっくりと引き抜いた。凪の内側はヒクヒクと蠢いて僕の指に絡みつこうとする。
「違う。そうじゃなくて、これで凪の中に入りたい」
欲望でギリギリまで張り詰めたペニスを凪の足の間に擦り付けた。そこはさっき凪に舐められたうえに彼のあられもない姿を目にして限界に達していた。
元気を取り戻した凪のそれよりも一回り大きい僕のモノを彼はぼんやりした目で見つめた。催眠のせいで焦点が合っておらず、会話の意味もよくわかっていないだろう彼が問う。
「煌星のおちんちん、ここに入れるの――?」
「そう。だめ?」
「煌星、困ってるの?」
「うん。このままじゃ治らなくて困ってる――すごく」
「そう――じゃあいいよ……。俺、煌星のこと助けるためならなんでもしてあげる」
凪はうっとりした表情でそう言った。僕はそれが催眠のせいであって彼の本心じゃないとわかっていても、自分の衝動を止めることができなかった。
◇
その後僕は凪に自分の欲望をぶつけた。彼を気持ちよくさせることだけ考えていた頃とは違う。完全に自分がしたいようにしてしまった。
凪は体力の限界を迎えて、気を失ったように眠っている。その彼の足の間に自分の放った白いものが飛び散っているのを見て僕は罪悪感でいっぱいになった。
――ここまでするつもりじゃなかった。凪の気持ちも確かめずにこんなことまでするなんてDomとして、いや人として終わってる。
これまで凪が自分の出したものでどろどろになってそのまま眠ってしまっても、愛しさと幸福しか感じなかった。僕が凪を満足させてあげられたという誇らしさすら感じていた。同意のないプレイが罪だということはわかっている。それでもこれまではまだ、凪の性処理を手伝っているだけだと言い訳できた。だけど、今回は――。
「ごめん、凪……ごめん」
僕は泣きそうになりながら彼の体を拭いた。そして翌朝彼がいつものように何もかも忘れて目覚めてくれることだけを願いながら、逃げるようにして部屋を出た。
◇
自室へ戻った僕は気分を落ち着けるため冷蔵庫に入っていたハイボールを開ける。
アルコールが入り酔いが回ってくると、少しずつ思考がまともになってきた。
――大丈夫、バレるわけない。今までだって凪はどれだけ触ってイかせても目が覚めたら全て忘れてた。そういう催眠を掛けてるんだから大丈夫だ……。
冷静さを取り戻すと、凪を迎えに行く前に読もうとしていた書類がテーブルの上に置いてあるのに気づいた。数日前に受け取ったものの気が進まずに目を通していなかった資料だ。
「グローバル人材育成プログラム、か」
僕の会社では数年に一度社内から選ばれた数名がヨーロッパへ研修へ行くのが恒例になっていた。今年たまたま成績が良かった僕がその数名のうちの一人に選ばれ声が掛かった。とはいえ断ることも可能なので、元々は悩んだフリだけして断ろうと思っていた。凪を置いて何週間も遠くへ行くなんて嫌だったから。
「いっそ海外でも行った方がいいのかもな……」
日程は一ヶ月ほど先で、期間は約二週間。これを機に少し凪と距離を置いて頭を冷やした方がいいかもしれない。それくらい僕は津嶋の言葉に動揺していた。
認めたくはなかったが、あの男に指摘されたことは正しい。凪は激務で、外で僕以外のDomに会うことなんてないと思ってた。だから僕が内緒で甘やかして、ケアしてるつもりでいた。それが凪にとっても一番良いだろうと本気で考えていた。
だけど今回の飲み会のようなことがあれば、僕のせいで凪が危険な目に遭いかねない。
――それにもう僕は凪を甘やかして少し触れるだけじゃもう満足できないだろう。
一度凪の中に入ってしまうと、今までどうしてああしなかったのかわからないほどにしっくり馴染んだ。凪の両腕と両脚が僕の体に絡みつき、僕の心ごとぎゅっと抱きしめてくれるみたいな感じ――。彼のとろけた顔と甘えた声は僕の理性を粉々にした。
あんな風に何度も繰り返し「もっと」と言われたDomがSubにどうしてやりたくなるか? 相手が気を失うまで緩急をつけて攻め、サブスペースに追い込み逃がさない――従順な凪の肉体はあれが気持ちいいことだと最後にはしっかり覚えた。
たとえ催眠状態であろうと、凪に身も心も受け入れられるのがあんなに素晴らしいことだとは思わなかった。凪は僕のもので、僕は凪のもの――そう実感できた。
ただ、終わった後の虚しさは半端なかった。あれが凪の本心じゃないと考えただけで胸をかきむしりたくなる。凪が他のDomのものになるなんて耐えられないし、凪に本当のことを伝えて正式なパートナーにしてもらえたらと何度も考えた。
それも単なる悪戯で我慢できていた頃なら言えたかもしれない。だけど了承を得ずセックスまでした自分にそんなことを言える資格があるわけもなかった。
――だめだ、本当のことを話したら凪は泣くだろう。凪はそもそもSubであることを僕に知られたくないんだから。それなのに、僕がそれを知ってて利用してたなんてバレたら――。
「全部終わりだ」
僕は苛立ってハイボールの缶をテーブルに叩きつけた。飛び散った液体が資料を濡らす。
Subだと自覚してからはあまり笑顔を見せてくれなくなった凪。それがさっきみたいに催眠にかかると僕に柔らかく微笑みかけてくれる。
――いや、ちがう。僕が見たいのはあんな嘘っぱちの笑顔じゃない。
立ち上がり、本棚からアルバムを取り出した。五冊分あるアルバムには全て僕と凪の写真が収められている。データが消えてしまっても、紙で残しておけば安心だし何より僕がこうしてたまに昔の写真を眺めたくなるのだ。
「凪……」
アルバムの中の凪はどれも楽しそうに笑っている。だけどそれも高校くらいまでのこと。
凪が自分をSubだと知った頃から、笑顔の写真が減る。高校卒業以降はカメラ目線の写真はほぼ無くて、どの表情も暗く険しい。
「凪、笑ってよ」
僕は大学時代の凪の写真を指で撫でた。彼の不安げな表情を目にすると胸がざわついて落ち着かなくなる。好きなSubを支配するだけでなく、安心させたいと思うのはどんなDomだって同じだ。
僕だって催眠無しで凪を気持ちよくさせてあげたい。僕の隣にいるときはいつも微笑んでいてほしい。
だけど、凪がSubであることを僕に知られたくない気持ちもわかる。凪は男だしプライドもある。子どもの頃からヒーローでありたいという思いが強かったのは知ってる。だからなるべくそれを尊重したいと思ってきたけど、津嶋に指摘されてその気持ちが今揺らいでいた。
凪をずっと騙して閉じ込めておけるわけじゃない。二人きりなら今まで通りで良かったけど、社会に出て生活している以上そうもいかないようだ。
――どうしたらいい?
僕は小学生時代の凪の写真を見た。アルバムのポケットから何枚か写真を取り出してテーブルに並べ、屈託のない笑顔に見惚れているうちに瞼が下りてきた。
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