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1936年大日本帝国〜帝国陸軍軍議〜

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「思っていた以上に早く呼ばれるものだな。」

会議室に入るなり直ぐに杉山が永田に言う。非難っぽさはなくそこには純粋な驚きだけがあった。

「海軍将校達にとやかく言われていたとでも思っていたのか?」

「ああ、その通りだ。うちの陸軍程序列がハッキリしておらず、山本も積極的に注意するようなやつではないからな。」

杉山は永田の目の前に座る。二人の間には海軍軍議と同様に中国と日本の書かれた地図があった。その時永田は不思議なことに気が付いた。

「将校達はどうしたんだ?」

永田の質問に杉山はニコッと…いや正確にはニヤッと笑った。

「所詮アヤツらがおったところで軍議になんの役にも立たんからな。先に帰らせたのだ。」

「なるほどな。」

永田としては願ってもない状況だった。この方が配慮を考えずにものが言いやすい。

「先にわしから良いか?」

「良いぞ。」

杉山は紙袋から分厚い資料を2部取り出し、1部を永田に渡した。

「陸軍の現状が記された資料だ。各部隊の人数まで詳細に書かれているから使ってくれ。」

「ありがとう。」

「それじゃ陸軍からの要望を伝えるが、希望することは2つ。まず1つ目は朝鮮半島、満州国、蒙古国の3地域での徴兵を許可して欲しい。2つ目は赤の脅威だ。その2つについてお前の意見が聞きたい。」

ふむ…と永田は少し悩んだ後答える。

「参謀本部は現状とても悩ましい決断を強いられている。南方に広がる資源地帯を狙うのか、はたまた北の赤の脅威を排除するかだ。まだどのように世界が転がるのかわからない中、決めるのを躊躇っている。」

「北進論、南進論。まだどちらに舵を取るかが決まってないのか…陸軍としては北進論を是非とも推したいところではあるな。」

「杉山はシベリアに行ったことがあるのか?あの場所を侵略するのは手を焼くぞ。」

「…また満州国に視察に行くとしよう。それはそうとだ、各国から徴兵するのはどうなのだ。」

「なしでは無いと考える。しかし現存部隊に振り分けるのであれば反感は避けられないだろう?地元の反感も根強いだろうな。」

「もちろん部隊は新設するとも。しかし奴らも臣民であるぞ。我が帝国に協力する義務がある、そうは思わんか?」

永田は杉山の意見に納得はしている。しかし余計な反感を買って満州国などの治安がさらに悪化するのだけは避けたい…そう永田は考えていた。

「ならば問うが、現状では足りない頭数をどうやって揃えるつもりなのだ?戦争は占領して終わりではない。暴徒の取り締まりもしなくてはならないのだぞ?参謀本部は日中戦争はどのように運ばせようと考えている?」

「治安の意地には親日中国人を徴用し行わせる。現在参謀本部は中国国内の親日勢力と密な関係を保っている。必要に応じて武器の貸与も行い活動してもらうつもりだ。」

「内部から崩れる様に工作も行っているのか…。それは上々。……ふむ。陸軍としては参謀本部に従うこととしよう。作戦は今から練り始める。」

「そんなに丸投げしていいのか?」

「なんのための参謀本部なんだって話だ。疑問があれば問うし、無理なことがあらば無理だと言うから安心しろ。」

「そうか…。ならば1つだけ耳に入れて置いてくれ。雲南軍閥に内戦の兆しありだ。」
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