閨係の恋~高貴な方の閨係に選ばれた僕は、愛する人と幸せになります~

まんまる

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第六夜 愛しい兄を守る方法

本編 ※R15

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「兄さん、抱かせて」
「だ、だめっ!そんな事したら、僕、父様と母様に合わせる顔がないよ⋯」
「兄さん、でも、こうするしかないんだ」




伯爵家の次男の俺には、5歳違いの血の繋がらない兄がいる。
なかなか子宝に恵まれなかった両親が、遠縁から養子に迎えたのが兄のルイだった。
そしてよくある話だが、養子を迎えた途端、母が俺を身篭った。
これまたよくある話だが、いらない子になった兄は、両親からも使用人からも疎まれた。
⋯なんて事は全くなく、薄茶のふわふわの髪に、子猫のような金色の大きな瞳の愛らしい兄は、むしろ俺より屋敷の皆から可愛がられて育った。


伯爵家で何不自由なく育った兄だったが、俺に対して、どこか遠慮しているのは分かっていた。
でも俺は兄が大好きだったし、両親も心から兄を愛していたから、兄に遠慮なんてして欲しくなかった。

そんな俺の思いをよそに、今年の春、俺が学園を卒業して、父から領地経営を学び始めるようになると、兄が誰にも告げずに、こそこそと出掛けるようになった。
屋敷の皆は、兄に恋人ができたのではないかと、密かに盛り上がっていたが、俺は内心穏やかではいられなかった。

何故なら、俺はずっと兄に恋をしていたから。
俺は物心ついた時から、優しくて可愛い兄が大好きだった。
大人びて見えていた兄が、いつの間にか俺の胸にすっぽり収まりそうなくらい華奢だった事に気付いた時、俺の恋心は愛に変わった。


「アレン、何かあったのか?最近あまり集中できていないようだが」
「父上⋯、申し訳ありません」
「ふぅ、少し休憩しよう」

今日も執務室で父上から仕事を習っていると、俺の落ち着かない様子を父上に気付かれ、溜め息をつかれてしまった。
俺と父上はソファに移動して、メイドが持ってきた紅茶を無言で口に流し込んだ。

「で、何があった?」
「⋯父上、俺が家督を継いだ後、兄さんはどうなりますか?」
「ルイか⋯。私はルイにはずっとこの家にいて欲しいと思っている。お前達兄弟で力を合わせて、伯爵家を盛り立てていって欲しい、それが私の願いだ。それをルイが望んでいなくともな⋯」
「父上は何かご存知なのですか?」
「何かとは?」
「⋯この頃、兄さんがどこかに出掛けているようなんです」
「ああ⋯、その事か。ルイからは黙っていてくれと頼まれたが⋯、ルイはこの屋敷から出て行くかもしれん」
「なっ!?」
「アレン、落ち着け。伯爵家から籍を抜くとか、そう言う事ではない。ただ⋯、お前が結婚するとなった時、自分が屋敷にいたら、お前に迷惑がかかると⋯。母さんと一緒に何度も止めたんだが」
「兄さんは家を出る準備をしているんですか?」
「ああ、そうだ。まっ、待ちなさい!アレン!」

俺は執務室から飛び出して、兄さんの部屋に向かった。突然聞かされた話に、頭の中はぐちゃぐちゃだった。


「兄さんっ!」

「ア、アレン!?どうしたの!?」

廊下を走っていたら、ちょうど外から帰ってきた兄さんの姿が見えた。

「はぁはぁ、兄さん、話がある。部屋に入れて」
「う、うん、分かった」

兄さんは戸惑いながらも、扉を開けて俺を部屋に入れてくれた。

ああ、兄さんの部屋、いつぶりだろう。
はあ、兄さんの香りがする。

「アレン、話って⋯?」

兄さんは俺から目を逸らすように、背中を向けたまま、ゆっくりと上着をハンガーに掛けた。

「兄さん、こっちを見て」

兄さんはしばらく動かなかったけど、観念したようにこっちを向いた。でも下を向いたまま、俺と目を合わせようとしなかった。

「兄さん、出て行くって本当?」
「えっ⋯?」

やっと顔を上げてくれた兄さんは、戸惑っているような、今にも泣き出しそうな、そんな顔をしていた。

「好きな人ができたの?」
「えっ?」
「その人と暮らす為に、この家を出ていくの?」
「⋯⋯」
「兄さん!何で黙ってるんだよ!」

⋯っ!?

俺が大きな声を出した途端、兄さんの大きな金色の瞳から、みるみる涙が溢れてきた。

「ご、ごめん!俺が変な事聞いたから!」
「ぐすっ⋯、ち、違う、アレンのせいじゃない」
「じゃあ、どうしてそんなに泣いてるの?」
「僕、好きな人なんていない。アレンにだけは、そんな事言って欲しくない⋯」
「兄さん⋯」

俺は、ぽろぽろと大粒の涙を流す兄さんを抱き寄せていた。

「だ、だめっ、アレン、離してっ」
「嫌だ、今離したら、兄さんは俺の前からいなくなるだろ?」
「だって⋯、僕、アレンに迷惑かけたくない⋯。アレンに邪魔って、思われたくない⋯。うっ⋯、ぐすっ⋯」
「俺が兄さんを迷惑なんて思う訳ない!俺がどんな気持ちで今まで⋯、くそっ」

抱き締めた兄さんの甘い香りで、俺の脳は煮えたぎる寸前だった。
俺の腕の中でむせび泣く兄さんが、愛しくてたまらなかった。

「兄さん、好きだ」
「えっ⋯?」
「ずっと兄さんが好きだった。俺、もう、抑えられない」

俺は兄さんの体がきしむ程、力いっぱい抱き締めた。

「ア、アレン、苦し⋯ぃ」
「兄さん、好き、好き、はぁ、兄さん、兄さん」
「アレン⋯」

俺は兄さんの頬に自分の頬を擦り付けて、何度も好きだと囁いた。


「ごめん、こんな一方的な告白、兄さんの迷惑も考えずに⋯」

俺はやっと我に返り、兄さんを腕から解放した。

「アレン、僕、この家が大好きなんだ。父様も母様も、屋敷の皆も、養子の僕に優しくしてくれた。だから、この気持ちは、絶対言っちゃいけないって思ってた⋯」
「兄さんの気持ち?」

兄さんは、まなじりを赤く染めて、俺をじっと見つめた。

「僕のこの気持ちは、許されないかもしれない。でも、アレンに嘘はつきたくない」

兄さんは俺の手をそっと両手で握った。

俺は息をするのも忘れて兄さんの言葉を待った。

「アレン、僕も好き。僕もずっとアレンが好きだった。あんなに小さかったアレンが、どんどん大きくなって、男らしくなって、かっこよくて、眩しくて⋯。こんな気持ちいけないって思っても、僕の心から消えてくれなくて。だから、出て行かなきゃって⋯、ぐすっ、僕、最後までアレンの兄さんでいなきゃって」

俺は泣きじゃくる兄さんの手を引き寄せて、胸に掻き抱いた。

「兄さん、愛してる。だから、出て行かないで。俺を置いて行かないで」
「アレン⋯、でも⋯」
「父上と母上は俺が説得する。俺、兄さんしかいらない。兄さん以外と愛し合いたくない」
「アレン⋯、少し考えさせて」



俺は兄さんと心を通わす事ができて浮かれていた。兄さんもあれから家にいるようになり、安心していた。

「兄さん、父上の用事って何だったの?」
「う、うん⋯」

ある日、夕飯が済んだ後、兄さんが父上に呼ばれているのに気付いた。
兄さんが執務室から出てくるのを待って声を掛けると、兄さんは今にも泣きそうになっていた。

「兄さん!大丈夫?何かあったの?父上から何か言われた?」

執務室の前で俺が大声を出すと、父上が執務室の中からガチャリと扉を開けた。
父上は、俺が兄さんの肩を掴んで慌てている様子を見て、二人に執務室に入るように促した。

「父上、何があったのですか?」
「アレン、王家からルイを閨係に差し出すように言ってきた」
「はっ?閨係⋯?」
「そうだ。来週、第二王子の閨係に上がるようにとの、書簡が届いた」
「来週!?な、何故!?何故、伯爵家の長子の兄さんが閨係なんですか!?」
「詳しくは分からんが、以前ルイが夜会に参加した時、殿下がルイを見かけられて、気に入られたと聞いた事がある。その時は深く考えていなかったが、まさかこんな事になるとは⋯」
「そ、そんな⋯、王家の依頼なんて、命令と同じではないですか!それに、第二王子って、素行が悪いって有名な、あの殿下ですよね?」
「アレン、滅多な事を言うな。不敬になるぞ」
「構いません!どうして兄さんが、あんな男と閨を共にしないといけないんですか?!」

俺がいくらわめいても、父上はそれ以上何も答えてくれなかった。
しばらく沈黙があり、父上が俺と兄さんを交互に見て、重い口を開いた。

「アレン、ルイ、お前達は好き合っているのだろう?」

⋯っ!?

突然父上から本当の事を言い当てられて驚いた。でも、今は正直に話した方がいいと思った。
俺は兄さんと目を合わせて手を握り合い、そして二人で父上の目をしっかりと見た。

「はい、俺は兄さんを愛しています」

「父様、不義理をして申し訳ありません。僕もアレンを愛してます」

父上は微塵も驚く事なく、そうか、と言うと、嬉しそうな、でも悲しそうな顔をして、俺達に執務室から出るように言った。


俺は兄さんの手を握ったまま、無言で自室に連れてきた。

「アレン⋯、どうしよう、殿下の閨係なんて、僕、どうしたら⋯」

繋いだ兄さんの手が小さく震えている。
俺は兄さんの震える手を、強く握り締めた。

「兄さん、抱かせて」
「だ、だめっ!そんな事したら、僕、父様と母様に合わせる顔がないよ⋯」
「兄さん、でも、こうするしかないんだ。閨係は閨事を経験してないのが条件だろ?兄さんが俺と閨を共にすれば、きっと殿下も諦めるはずだ」
「で、でも⋯」
「本当は俺も、こんな理由で兄さんを抱きたくない。でも、そうしないと、兄さんが、兄さんが、うぅっ⋯、ぐすっ、くそっ!俺の兄さんなのに!やっと想いを伝えられたのに!王家に横からかっ攫(さら)われてたまるか!」
「アレン⋯、分かった」
「えっ?兄さん、いいの?」
「うん、でも準備があるから、アレン、明日の夜、僕の部屋まで来てくれる?」
「兄さん!」
「わわっ!」

俺は兄さんを力いっぱい抱き締めた。



コンコン

「はい」

翌日、俺は約束した通り、湯浴みを済ませた後、兄さんの部屋に行った。
部屋に入ると、湯浴みを済ませたばかりの兄さんが、頬を火照らせながら待っていてくれた。

「兄さん、綺麗⋯」

俺達は、引き寄せられるように抱き合った。
兄さんの温もりを感じて、切なくて泣きそうになった。

「兄さん、口付けしたい」
「うん、僕もしたい」

互いに見つめ合い、すうっと引き合うように、唇が触れた。
兄さんの柔らかな震える唇に触れた瞬間、俺の中の何かが、プツンと切れた。

俺は兄さんを横抱きに抱き上げると、ベッドに連れて行って仰向けに寝かせた。

「アレンの好きなようにして」
「兄さん、愛してる、俺、初めてだから、辛かったら言って」
「うん、アレン、僕も愛してる」


そっと触れる口付けから、徐々に深いものへと変わる。
兄さんの細い首筋に舌を這わせ、夜着の裾から手を滑り込ませて、胸をまさぐった。

「はぁ⋯、ん⋯、あっ」
「兄さん、愛してる、兄さんは誰にも渡さない」
「嬉しい、アレン、お願い、離さないでぇ」

俺達はあっという間に、二人だけの愛の世界に旅立った。


だから、寝室の入り口の扉が叩かれている事に、全然気付かなかったんだ。


ガチャッ


「お、お前達っ!?何してるんだ!!??」

「うわああぁぁ!!父上!!??」

「わわっ!と、父様!!??」

「ご、ごほん、二人共、早まるな。いや、やめなくてもいいが、いや、今はやめてくれ」
「父上、何を言ってるのか分かりません」
「お、お前達に急ぎの知らせがあって、探してたんだ!まさかこんな事になっているとは⋯」
「うっ⋯、まだ未遂です」
「そ、そんな報告はいらん!」

「あのぉ、父様、知らせたい事とは?」
「あ、ああ、そうだった。ルイの閨係の話がなくなった」

「「えっ!?」」

「元から素行の悪い第二王子だったが、ついにしでかしたそうだ」
「父上、何があったんですか?」
「あの馬鹿王子、後宮に忍び込んで、若い側妃に手を出したそうだ。陛下も今度ばかりは相当お怒りのようだ。閨係の件も、馬鹿王子が勝手にやったんだろうと、陛下も呆れて果てておられた」
「父上、じゃあ、兄さんは、俺が幸せにしていいんですよね?」
「当たり前だ。ルイにこんな事までしたんだ。アレン、ちゃんと責任を取りなさい」
「ち、父上!!ありがとうございます!!」

「父様、ぐすっ、ありがとうございます」

「ただし、続きがしたかったら、母さんと家の者に報告してからだ!」

「「は、はいっ!!」」



俺と兄さんは急いで着替えると、父上に頼んで、母上と使用人全員を居間に集めてもらった。

「皆に報告があります」

小さい頃から知っている皆の前で、兄さんと手を繋ぐのは照れくさかったけど、俺は覚悟を決めて兄さんの手を取った。
でも皆は、冷やかされる覚悟で繋いた手より、兄さんの顔を食い入るように見ているようだった。

俺は不思議に思い、隣にいる兄さんに目を遣って初めて、大変な事に気付いた。

なっ!?

俺は顔から火が出る程恥ずかしかった。
兄さんの細い首筋には、俺がさっきつけた口付けの跡が、無数についていた。

「こ、これには訳が⋯、その⋯、ごにょ⋯」

「父さんから事情は聞いたわ。アレン、ルイと幸せになりなさい」
「母上⋯、ありがとうございます」

「ルイもこの家で遠慮する事なんてないのよ。ルイは私達の大切な家族なんだから」
「母様、ぐすっ、ありがとうございます」

俺と兄さんは微笑み合い、繋いだ手の温もりを感じるように、互いの手を握り締めた。


「父上、母上、皆、俺は兄さん⋯、ルイと結婚します。これからもよろしくお願いします!」


皆の温かい拍手をもらいながら、俺は兄さんを優しく抱き締めた。

「あっ、そうそう、アレン、言い忘れていたわ」
「母上、何ですか?」
「アレン、あまりルイに無理させては駄目よ」
「うぐっ⋯、は、はい、反省してます」


「「「あははははは」」」


皆の温かな笑いに包まれながら、幸せそうに笑う兄さんが愛おしくて、俺は兄さんを抱き締めて、柔らかな髪に唇を落とした。



兄さん、俺、誰からも認められる大人になって、絶対兄さんを守るから。

だから兄さん、俺の隣で、ずっと笑っていて。




終わり

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