閨係の恋~高貴な方の閨係に選ばれた僕は、愛する人と幸せになります~

まんまる

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第八夜 発情Ωは優しき王子の胸の中

本編

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私は王家の御者ぎょしゃを任されている、レイニーという者です。

今日は、王太子殿下の閨係を務められる、男爵令息のファン様を無事に王城までお連れする仕事を仰せつかった。


「それでは参りましょうか」
「はい、よろしくお願いします」

ファン様は、まだ幼さが残っているものの、Ωの妖艶な雰囲気が漂う、とても愛らしい方だった。

おっと、御者の私が、殿下の閨係を値踏みするような事は御法度ごはっとだ。


「出発いたします。揺れにご注意ください」
「くすっ」
「ファン様、どうされました?」
「御者さんはお優しいのですね。揺れにご注意なんて、男爵家の末弟の僕に言う人はいません」
「おや、そうなんですか?私は貴族の事はよく分かりませんが、私の仕事は、お客様を心地よく王城までお連れする事です」
「ふぁっ、御者さん、かっこいいです!プロって感じです!僕⋯、不器用で何もできないから、物作りをしている職人や、店先でお客さんの質問に答える商人とか、かっこいいなって、いつも思って見てたんです」
「ふっ、ファン様のその純粋なお考えの方が、私にはかっこよく見えますよ」
「そ、そんな事言われたの、僕、初めてです」

ファン様は、ぽっと頬を赤らめ、馬車の扉を閉じようとされた。

「あっ、ファン様⋯」

殿下の大事な閨係に関心を持つなんて、私は何をやっているのか。

「ファン様、まだお約束の時間には余裕があります。少し離れた場所で、私とお話しませんか?」
「えっ?」
「あっ、いやっ、やっぱり忘れてください」
「ふふっ、御者さんのお名前を教えてください」
「⋯レイニーと申します」
「レイニーさん、じゃあ、僕とお話してくださいますか?」
「は、はいっ、では出発します」


男爵家を出てしばらく馬車を走らせ、王城の手前の公園に馬車を止めた。
もう日がとっぷり暮れていて、人影もまばらになり、人目につかず話をするのには都合がいい。

私は御者席の後ろの窓を開け、前を向いたまま、中のファン様に声を掛けた。

「ファン様、乗り心地はいかがでしたか?」
「はい、とても静かで快適でした」
「それは良かったです」
「レイニーさん⋯、僕に王太子殿下の相手が務まるでしょうか?あっ、ごめんなさい、こんな事言ったら駄目なのに⋯」
「ファン様、私の事は馬だと思ってください。ファン様はただ独り言をつぶやいていらっしゃるだけです」
「くすっ、レイニーさんが馬だなんて⋯、とても優しいお馬さんですね」
「ファン様⋯、王太子殿下はとても穏やかな方です。きっと大丈夫ですよ」
「そうですよね。ごめんなさい、レイニーさん。僕が言った事、忘れてくださいね」
「はい、私は馬ですので」

私の言葉の後、少し沈黙があり、ファン様が口を開かれた。

「レイニーさん、お陰で覚悟ができました。王城に向かってください」
「はい⋯」

私が馬にむちを打とうとした時、閉め忘れた窓からファン様の苦しそう声が聞こえてきた。

「うっ⋯、はぁ、はぁ」
「ファン様!どうされました?!」
「レイニーさん、急いでください。発情が始まってしまいました。はぁはぁ、今日は発情期のΩと殿下が共寝をする練習だと聞いています。間に合わなかったら、男爵家が罰を受けてしまいます」

馬車の中から、ファン様の甘い吐息と、脳が痺れる程のフェロモンが漂ってくる。

「ファン様は本当にそれでよろしいのですか?」
「えっ?」
「直接会ったこともない殿下に抱かれる事に、抵抗はないんですか?」
「⋯はい。実は以前、殿下をお見かけした事があるんです。殿下が市井しせいを視察された時、民の話を真剣な眼差しで聞かれる様子を見て、僕、一瞬でかれてしまったんです。だから、たとえ一度で終わる関係だったとしても、僕、いいんです」

ファン様の心の奥底の気持ちを聞いて、私は後先考えずに馬車の扉を開けて、ファン様を抱き締めていた。

「レイニーさん!?僕に近づいたら駄目です!レイニーさんからαの香りがします!離れて!」
「嫌だ、離さない」
「レイニーさん⋯?」

私はファン様、いや、ファンの潤んだ瞳を見つめながら、被っていたカツラをずるりと掴んだ。

「えっ?金色の髪⋯」
「ファン、私の事が分かるかい?」
「はい、はい、ぐすっ、レイナード殿下ぁ」
「ああ、そうだよ。ファン、君を騙すような事をして悪かった。本当は、君から閨係を断ってもらおうと思って、御者のフリをしたんだ。閨係なんて、人の尊厳を踏みにじるような慣わし、私が王になったら廃止にしようと思ってたんだ」
「思って、た?」
「ああ、ファンの純粋で美しい心に触れて、私も一瞬で惹かれてしまったよ」
「えっ⋯?惹かれ、た?」
「ファン、私の番になってくれないか?」
「番⋯?で、でも、僕、男爵家なので、王家には嫁げません」
「そんな事関係ない。この国を私と共に導いてくれるのはファンしかいない。他の誰かでは駄目なんだ」
「殿下⋯、あっ、はぁはぁ、もう、苦し、ぃ」
「ファン!くっ、私も、もう、ファン⋯」

⋯っ!!

私がファンの柔らかな頬に触れた瞬間、決して離すなと魂が叫んだ。


「ファン、噛みたい、ファンを私のものに」

「レイナード様、僕も離れたくない」





あの日、馬車の中で番になった私とファンは、暇を見ては市井に下りて、職人や商人の働きっぷりを眺めて歩いている。


「おや、せっかち王子、またさぼりですか?」
「あははは、今日もファンとデートだ」


私はちまたでは、と呼ばれている。

何でも、番が到着するのを待てずに、自ら馬車で迎えに行った、せっかちな王子だそうだ。



「レイニー様、皆さんの誤解を解かなくていいのですか?」

「いいんだ。まあ、せっかちと言うのはあながち間違いではないからな。ファン、帰りの馬車の中で、いいか?」

「も、もう、レイニー様、せっかち過ぎます!」


「「ふっ、ふふっ、あははははは!」」




あの日、ファンを諦めなくて良かった。


ファン、心から愛してる。

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