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ヌルゲーは世界を救う
マンジュリカ女学院の中等部に入学してから早一カ月。入学式の日、満開に咲き誇っていた桜の花びらは、すっかり路上に散り積もっていた。
ここは、女生徒たちが暮らす寮と学び舎を繋ぐ、片道5分程度の通学路。左右には等間隔に桜の木が並んでいるのみで、風を遮るものがない。学び舎に向かってやや上り坂のこの道で、ボクは木の裏に潜み、低姿勢を保っていた。心地良い春のそよ風が一瞬止んだその直後、ゴゴォオという音とともに、待ち望んでいた瞬間がやってくる。
「……いやぁっ」
「なんて風なのっ」
「毎朝毎朝、ほんと勘弁してよぉ」
眼福、眼福。満足げにうなずきながら、ボクは女生徒たちのスカートの中、神秘の花園を目に焼き付ける。やはりここは絶好のスポットだ。
「相変わらずいい趣味してるよな、シラン……」
そんなボクの姿を見て、悪友のアイリスが苦笑する。
「狙い通り。今日も、かんぺき」
「可愛い顔したお嬢様のくせに、やることは本当にゲスいよな」
「お嬢様のくせにってのは、アイリスも同じ。ボクたち、似た者同士」
アイリスは再び苦笑しながら、木の裏に隠れて朝食を頬張っている。それは朝一で並ばないと手に入らないと噂される、街で名物な総菜パンだ。お嬢様ばかりが通うこの女学院では、無断外出が禁止されているはずなのだが……どうやって手に入れたのかは、訊かないでおこう。
「貴女たち。朝から姿が見えないと思ったら、一体何をしていますのかしら」
聞きなれた声のする方向に顔を向けると、仁王立ちしている伯爵令嬢キャメリアの姿が目に入る。いい加減見慣れたものの、いかにもテンプレお嬢様な金髪ロールへアには感動を覚えてしまう。いけないいけない、早く言い訳しないと。
「美しいものを見ていた、それだけ」
「あたしはシランを見守っていただけだぜ?」
「……裏切り者ぉ」
何度となく繰り返してきたボクとアイリスの掛け合いに、ピクピクとこめかみを引くつかせるキャメリアだったが……深呼吸して気持ちを落ち着かせたようだ。朝から少し疲れた表情で、彼女はボクたちの手を取る。
「早く登校しないと、始業に遅れてしまいますわ。お二人とも、さっさとついていらっしゃいな」
キャメリアに手を引かれ、彼女の友人であり、俗に取り巻きと呼ばれる存在であるボクたちは歩き出す。
◇
『フラワーエデン』
それは、お嬢様たちが通うマンジュリカ女学院を舞台とした、キャッキャウフフな百合ゲームのタイトルである。
貧乏貴族の令嬢である主人公リリー。逆境の中で育った彼女だが、持ち前の前向きさ、そして万人に愛を注ぐ聖女のような性格で、周りの人々を魅了する。やがてマンジュリカ女学院に編入した主人公は、その魅力によって学院内のヒロインたちを攻略していく――。
そんな主人公にやたらと嫌がらせをしかけるのが、悪役令嬢キャメリア = フアネーレと、その取り巻きの少女2人だ。彼女たちは、ことあるごとに主人公の前に立ちふさがる。もっとも、「全ての美少女に幸せを」をコンセプトに掲げ、ヌルゲーと評される本作では、その嫌がらせも非常に可愛らしいものであったが。
さて、ここで問題となるのが、ボクがその悪役令嬢の「取り巻きその2」になってしまっていた点である。
いわゆる異世界転生というやつである。とは言っても、こういった展開でお馴染みのトラックに轢かれて死んだ記憶はない。あの日はたしか、この『フラワーエデン』に深夜まで夢中になっていて、そのまま寝落ちしたはずなのだ。とはいえ、三日間ぶっ通しでプレイしている状態から意識を失っているので……いや、それ以上は考えないでおこう。
とにかく自分が取り巻きの少女に転生していると気がついたボクは、悪役令嬢の末路、破滅エンドを回避しなければと思い立ったが、次の瞬間には考えを改めた。
何度も繰り返すようだが、このゲームのコンセプトは「全ての美少女に幸せを」である。その「全ての美少女」には、悪役令嬢であるキャメリアも当然のように含まれる。そりゃヌルゲーと評されるよって感じではあるのだが、ボクにとってはまさに不幸中の幸いだ。ヌルゲー万歳。
大抵のルートでは、キャメリア自身も主人公にほだされて百合ハーレムに取り込まれていく。それどころか、キャメリアルートまで存在するほどだ。最も扱いが悪いルートでも、精々捨て台詞を吐いてフェードアウトした後、主人公の前に登場しなくなる程度で、破滅エンドには程遠い。
ならば、作中で名前すら付けられていない「取り巻きその2」の自分など、破滅エンドとは無縁なはずだ。であれば、いっそのこと美少女だらけのこの学院で、自由気ままに生きてみようではないか。それが、ボクの導き出した結論である。
◇
転生したあの日から約一カ月、あまりにも好き勝手に過ごしすぎた結果か、いつの間にやらゲームとは随分異なる状況に変化していた。だけどまあ、破滅エンドさえ迎えないなら何でもいいよね。キャメリアに手を引かれて歩きながら、ボクはそんなことを考える。
そのとき、一陣の風が前を歩くキャメリアを襲う。
「きゃあっ……ってシランさん、しれっと覗かないでくださいな!?」
この道は本当に風通しが良いな。それと、キャメリアは真面目そうな振る舞いの割に結構セクシーなのを履いているんだね。
うん、今日も充実した一日になりそうだ。
ーーーーーーーーーーー
出番待ちの百合ゲー主人公「早くシランちゃんペロペロしたいよぉ」
通りすがりの女生徒「この美人、やべぇですわ……」
お気に入り登録やコメントなんかをいただけると、書き進めるモチベーションが上がるかもしれません(図々しい)
並行して『TS美少女は双子の妹と幼馴染の勇者を溺愛したい ~甘やかすのは姉の特権なのです~』という作品も連載しておりますので、宜しければ併せてぜひ。
ここは、女生徒たちが暮らす寮と学び舎を繋ぐ、片道5分程度の通学路。左右には等間隔に桜の木が並んでいるのみで、風を遮るものがない。学び舎に向かってやや上り坂のこの道で、ボクは木の裏に潜み、低姿勢を保っていた。心地良い春のそよ風が一瞬止んだその直後、ゴゴォオという音とともに、待ち望んでいた瞬間がやってくる。
「……いやぁっ」
「なんて風なのっ」
「毎朝毎朝、ほんと勘弁してよぉ」
眼福、眼福。満足げにうなずきながら、ボクは女生徒たちのスカートの中、神秘の花園を目に焼き付ける。やはりここは絶好のスポットだ。
「相変わらずいい趣味してるよな、シラン……」
そんなボクの姿を見て、悪友のアイリスが苦笑する。
「狙い通り。今日も、かんぺき」
「可愛い顔したお嬢様のくせに、やることは本当にゲスいよな」
「お嬢様のくせにってのは、アイリスも同じ。ボクたち、似た者同士」
アイリスは再び苦笑しながら、木の裏に隠れて朝食を頬張っている。それは朝一で並ばないと手に入らないと噂される、街で名物な総菜パンだ。お嬢様ばかりが通うこの女学院では、無断外出が禁止されているはずなのだが……どうやって手に入れたのかは、訊かないでおこう。
「貴女たち。朝から姿が見えないと思ったら、一体何をしていますのかしら」
聞きなれた声のする方向に顔を向けると、仁王立ちしている伯爵令嬢キャメリアの姿が目に入る。いい加減見慣れたものの、いかにもテンプレお嬢様な金髪ロールへアには感動を覚えてしまう。いけないいけない、早く言い訳しないと。
「美しいものを見ていた、それだけ」
「あたしはシランを見守っていただけだぜ?」
「……裏切り者ぉ」
何度となく繰り返してきたボクとアイリスの掛け合いに、ピクピクとこめかみを引くつかせるキャメリアだったが……深呼吸して気持ちを落ち着かせたようだ。朝から少し疲れた表情で、彼女はボクたちの手を取る。
「早く登校しないと、始業に遅れてしまいますわ。お二人とも、さっさとついていらっしゃいな」
キャメリアに手を引かれ、彼女の友人であり、俗に取り巻きと呼ばれる存在であるボクたちは歩き出す。
◇
『フラワーエデン』
それは、お嬢様たちが通うマンジュリカ女学院を舞台とした、キャッキャウフフな百合ゲームのタイトルである。
貧乏貴族の令嬢である主人公リリー。逆境の中で育った彼女だが、持ち前の前向きさ、そして万人に愛を注ぐ聖女のような性格で、周りの人々を魅了する。やがてマンジュリカ女学院に編入した主人公は、その魅力によって学院内のヒロインたちを攻略していく――。
そんな主人公にやたらと嫌がらせをしかけるのが、悪役令嬢キャメリア = フアネーレと、その取り巻きの少女2人だ。彼女たちは、ことあるごとに主人公の前に立ちふさがる。もっとも、「全ての美少女に幸せを」をコンセプトに掲げ、ヌルゲーと評される本作では、その嫌がらせも非常に可愛らしいものであったが。
さて、ここで問題となるのが、ボクがその悪役令嬢の「取り巻きその2」になってしまっていた点である。
いわゆる異世界転生というやつである。とは言っても、こういった展開でお馴染みのトラックに轢かれて死んだ記憶はない。あの日はたしか、この『フラワーエデン』に深夜まで夢中になっていて、そのまま寝落ちしたはずなのだ。とはいえ、三日間ぶっ通しでプレイしている状態から意識を失っているので……いや、それ以上は考えないでおこう。
とにかく自分が取り巻きの少女に転生していると気がついたボクは、悪役令嬢の末路、破滅エンドを回避しなければと思い立ったが、次の瞬間には考えを改めた。
何度も繰り返すようだが、このゲームのコンセプトは「全ての美少女に幸せを」である。その「全ての美少女」には、悪役令嬢であるキャメリアも当然のように含まれる。そりゃヌルゲーと評されるよって感じではあるのだが、ボクにとってはまさに不幸中の幸いだ。ヌルゲー万歳。
大抵のルートでは、キャメリア自身も主人公にほだされて百合ハーレムに取り込まれていく。それどころか、キャメリアルートまで存在するほどだ。最も扱いが悪いルートでも、精々捨て台詞を吐いてフェードアウトした後、主人公の前に登場しなくなる程度で、破滅エンドには程遠い。
ならば、作中で名前すら付けられていない「取り巻きその2」の自分など、破滅エンドとは無縁なはずだ。であれば、いっそのこと美少女だらけのこの学院で、自由気ままに生きてみようではないか。それが、ボクの導き出した結論である。
◇
転生したあの日から約一カ月、あまりにも好き勝手に過ごしすぎた結果か、いつの間にやらゲームとは随分異なる状況に変化していた。だけどまあ、破滅エンドさえ迎えないなら何でもいいよね。キャメリアに手を引かれて歩きながら、ボクはそんなことを考える。
そのとき、一陣の風が前を歩くキャメリアを襲う。
「きゃあっ……ってシランさん、しれっと覗かないでくださいな!?」
この道は本当に風通しが良いな。それと、キャメリアは真面目そうな振る舞いの割に結構セクシーなのを履いているんだね。
うん、今日も充実した一日になりそうだ。
ーーーーーーーーーーー
出番待ちの百合ゲー主人公「早くシランちゃんペロペロしたいよぉ」
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