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しおりを挟む「おかけになった電話番号は、電波の届かない場所にいるか、電源が入ってないため、かかりません……おかけになった電」
ちっ、とヒロは舌打ちをする。
出ない。もう何回もアリスの携帯に電話しているが、まったく出ない。
ああ、嫌な予感がする。
危険な目にあっているのではないか?
頭の中は、あってはならない妄想が膨らんでいた。
催眠術で性奴隷になったお嬢が、あんなことや、こんなことを……。
「クソっ!」
想像すればするほど、居ても立っても居られない。
だが仕事をしなければならない。ヒロは犬のカットを始めた。
「……うーん」
ダメだ。仕事に集中しようとしても不安になってしまう。
犬は可愛い顔をして、『?』と首を傾けた。つい心の声が漏れる。
「お嬢のいないクソショップなんてつまらない……」
何とか犬の毛のカットを終えて、ハサミを置いた。
エプロンをとり、荷物をまとめ始める。
すると店員のお姉さんたちが、「え?」と不思議そうにヒロを見つめていた。
「俺はあがる。もう予約は入れるな」
「ヒロさん、どうしたんですか?」
「まだ仕事中ですよ」
わんわん、と犬も吠えている。
ヒロは優秀なトリマーなので、職場からいなくなると売り上げが落ちるのだ。店員たちは慌てて抗議した。
「急に抜けられると困ります」
「オーナーに怒られちゃいますよ~」
ははっ、とヒロは笑い飛ばした。
店から出ようと、荷物を持って歩き始める。
「お嬢を助けにいく。オーナーには俺から連絡するから大丈夫だ」
車に乗って、高速道路を走る。
本当に田舎だ。夕焼けが燃えるように山や森を赤く染めていた。
ハンドルを握るヒロは、アリスとの電話を思い出す。
彼女は詳しい住所を言わなかった。だがヒントだけはもらっている。
アリスが告げたインターを降りて、どこかで聞き込みをしようと考えた。
ネットで飲食店を検索し、いい感じのラーメン屋があったので入ってみる。
「っらっしゃ~せ~!!」
元気が良い声が飛ぶ。
店長だろう。すぐに水が出てくる。豚骨ラーメンを注文した。
きょろきょろと店内を見渡したが、他に客はいないようだ。
「お待ちどうさまで~す!」
大きな焼き豚がのったラーメンだ。
スープを飲む。うまい! 深いコクと旨味が溢れている。
麺はどうだ?
ずずー、うまい! 歯応えのある中太麺、ふっくらした焼き豚との相性は抜群だ。
「うまい!」
「ありがとう! お客さん初めて?」
「うん、店長はこの辺の人?」
「そうだよ、東京で修行してから地元のここで開業したんだ。もう10年になる」
「すごい!」
美味しそうに麺を啜るヒロ。
店長は満足げな顔をしている。
「ところで、この辺りで桜が綺麗な場所はない?」
「桜か……そんなのあったかなぁ」
首を傾ける店長。
情報なしか。他を当たってみよう。
ラーメンを食べ終えて席を立つ。店長の娘だろうか、可愛らしい少女がレジにいた。にっこり笑ったヒロは、財布からお金を払う。
「ありがとう、おいしかったよ」
「あの~、桜を探してるんですかぁ?」
「うん、何か知ってる?」
「おばあちゃんから聞いたことがあるよ~」
「なに?」
少女は目を細めて言った。
「山奥の桜には近づくな……魂を抜かれて鬼になるって……」
ぞくっとした。
ヒロはおそるおそる質問をする。
「その桜、どこにある?」
うふふ、と少女は不敵に微笑むと口を開いた。
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