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第五章 亂 -らん-
四.運命の岐路
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一方城では、羅山からの砲撃に騒然としていた。
その動揺は、東の端、二の丸にも伝わっている。
「まさか、羅山からこようとは。やはり、あやつらのすることは、はかり知れん」
そう言いながらも、剛夕が落ち着いて見えるのは、育ちの良さからくる品によるものだろう。
だが、その心の内の動揺が、声の震えになって表れている。
椿はその声を背中で聞きながら、窓から外を見つめた。
大砲の音は一発。
市中に向かってのものだった。
その後は、銃声が響いている。
――山中で合戦に?
大砲の音が聞こえないことを思うと、接近戦。
だが、市中に配備されていた陸軍が向かったにしては、到着が早すぎる。
いったい、何が起こっているのか。
椿は考えを巡らせるが、答えは出ない。
ただ、危機が迫っていることは確かだ。
このまま城にいるべきか、と迷った。
銃声響く羅山に、日が沈んでいく。
夜になれば、山中は真っ暗になるだろう。
しかし。
と、椿は考える。
――もしも、夜のうちに兵を進めてこられたら…。
嫌な予感が胸を離れない。
「椿殿」
雪原の護衛頭、藤堂が来た。
二の丸の警備は、この藤堂率いる雪原の護衛隊が任されている。
「藤堂さん。夜明け前に、城を出ます」
七輪山を抜け、横洲に。
藤堂も頷く。
椿と同じ考えである。
椿は再び窓の外を見た。
空が、夕日で一面、赤く染まっている。
その空に、黒点が見えた。
近づいてくる。
椿は、急いで首にかけている笛を襟元から引き出し、吹いた。
甲高い音が空気を貫く。
あっという間に黒点に届いた。
黒点が、恐ろしい速さで、椿をめがけてくる。
椿が皮の手袋を付けた手を差し出すと、その手に大きな鷹がとまった。
さすがの剛夕も驚き、「わあっ!」と上げて後ろにひっくり返った。
が、椿は構わず、鷹の足の筒から紙切れを取り出した。
雪原からの知らせだ。
それを読む椿の顔から、藤堂は良くない知らせだと察した。
「開世隊は、羅山、七輪山、両方面から迫っています。剛夕様を、本陣にお連れするようにとのことです」
椿は厳しい目を上げた。
「七輪山も、とられたか」
剛夕の声に、あきらめが交じる。
「今すぐ城を出ます」
椿がそう言った時だ。
再び砲撃があった。
羅山からだ。
市中に着弾。
さきほどより、城に近い。
続いて二発。
同じような場所に着弾。
確実に城に迫ってきている。
「椿殿。今外に出るのは危険です。もうすぐ日も暮れる」
藤堂自身、動揺が無いわけではない。
だが、それを押し殺し、冷静な目を椿に向けた。
城の正面は真南ではなく、南西に向いている。
つまり、羅山の方を向いている。
正面から出ては、敵に知れる可能性が高い。
かといって、東から出て日之出峰に入れば、夜の山中で遭難する恐れがある。
「明日、日の出前に日之出峰にお入りください」
藤堂は落ち着いた声で続ける。
「日之出峰を越えて、町に。七輪山は羅山よりも険しい。あの山には大砲を持ち込むことなど不可能でしょう。都の東側を行けば、上から砲撃されることはない」
加えて、日之出峰を越えた先は、代々政府に仕えてきた家臣の邸が立ち並んでいる。
助けになってくれるはずだ。
椿も頷く。
それしかない。
「…皆は、どうするのだ」
剛夕は恐る恐る聞いた。
城には、城の警護に当たっている警備隊や陸軍だけでなく、参与はじめ役人、そして、避難している民がいる。
「我々は残って迎撃します」
「…勝てるのか?」
南からの侵入に備え、兵力は主に都の南に割かれ、城の兵力は十分とは言えない。
援軍も期待できるかどうか。
「分かりません。ですが、剛夕様が日之出峰を越えられるまで、敵の注意を引くことくらいはできましょう」
「…私だけ、逃げるのか」
剛夕は初めて、自分の立場を本当の意味で理解した。
誰の命よりも、自分の命が優先されている。
自分は、何がなんでも生き残らなければならない人間なのだ。
犠牲になった者、これから犠牲になる者のためにも。
剛夕の目に、覚悟が宿った。
「椿、よろしく頼む」
脅えを噛み殺し、凛とした、芯のある声だった。
「はい」
椿は力強く頷いた。
日之出峰を越えられれば、椿には本陣までの道が見えている。
山中で敵と遭遇さえしなければ。
椿は鷹に雪原への返信を託すと、夜の闇が迫る赤い空に放った。
その動揺は、東の端、二の丸にも伝わっている。
「まさか、羅山からこようとは。やはり、あやつらのすることは、はかり知れん」
そう言いながらも、剛夕が落ち着いて見えるのは、育ちの良さからくる品によるものだろう。
だが、その心の内の動揺が、声の震えになって表れている。
椿はその声を背中で聞きながら、窓から外を見つめた。
大砲の音は一発。
市中に向かってのものだった。
その後は、銃声が響いている。
――山中で合戦に?
大砲の音が聞こえないことを思うと、接近戦。
だが、市中に配備されていた陸軍が向かったにしては、到着が早すぎる。
いったい、何が起こっているのか。
椿は考えを巡らせるが、答えは出ない。
ただ、危機が迫っていることは確かだ。
このまま城にいるべきか、と迷った。
銃声響く羅山に、日が沈んでいく。
夜になれば、山中は真っ暗になるだろう。
しかし。
と、椿は考える。
――もしも、夜のうちに兵を進めてこられたら…。
嫌な予感が胸を離れない。
「椿殿」
雪原の護衛頭、藤堂が来た。
二の丸の警備は、この藤堂率いる雪原の護衛隊が任されている。
「藤堂さん。夜明け前に、城を出ます」
七輪山を抜け、横洲に。
藤堂も頷く。
椿と同じ考えである。
椿は再び窓の外を見た。
空が、夕日で一面、赤く染まっている。
その空に、黒点が見えた。
近づいてくる。
椿は、急いで首にかけている笛を襟元から引き出し、吹いた。
甲高い音が空気を貫く。
あっという間に黒点に届いた。
黒点が、恐ろしい速さで、椿をめがけてくる。
椿が皮の手袋を付けた手を差し出すと、その手に大きな鷹がとまった。
さすがの剛夕も驚き、「わあっ!」と上げて後ろにひっくり返った。
が、椿は構わず、鷹の足の筒から紙切れを取り出した。
雪原からの知らせだ。
それを読む椿の顔から、藤堂は良くない知らせだと察した。
「開世隊は、羅山、七輪山、両方面から迫っています。剛夕様を、本陣にお連れするようにとのことです」
椿は厳しい目を上げた。
「七輪山も、とられたか」
剛夕の声に、あきらめが交じる。
「今すぐ城を出ます」
椿がそう言った時だ。
再び砲撃があった。
羅山からだ。
市中に着弾。
さきほどより、城に近い。
続いて二発。
同じような場所に着弾。
確実に城に迫ってきている。
「椿殿。今外に出るのは危険です。もうすぐ日も暮れる」
藤堂自身、動揺が無いわけではない。
だが、それを押し殺し、冷静な目を椿に向けた。
城の正面は真南ではなく、南西に向いている。
つまり、羅山の方を向いている。
正面から出ては、敵に知れる可能性が高い。
かといって、東から出て日之出峰に入れば、夜の山中で遭難する恐れがある。
「明日、日の出前に日之出峰にお入りください」
藤堂は落ち着いた声で続ける。
「日之出峰を越えて、町に。七輪山は羅山よりも険しい。あの山には大砲を持ち込むことなど不可能でしょう。都の東側を行けば、上から砲撃されることはない」
加えて、日之出峰を越えた先は、代々政府に仕えてきた家臣の邸が立ち並んでいる。
助けになってくれるはずだ。
椿も頷く。
それしかない。
「…皆は、どうするのだ」
剛夕は恐る恐る聞いた。
城には、城の警護に当たっている警備隊や陸軍だけでなく、参与はじめ役人、そして、避難している民がいる。
「我々は残って迎撃します」
「…勝てるのか?」
南からの侵入に備え、兵力は主に都の南に割かれ、城の兵力は十分とは言えない。
援軍も期待できるかどうか。
「分かりません。ですが、剛夕様が日之出峰を越えられるまで、敵の注意を引くことくらいはできましょう」
「…私だけ、逃げるのか」
剛夕は初めて、自分の立場を本当の意味で理解した。
誰の命よりも、自分の命が優先されている。
自分は、何がなんでも生き残らなければならない人間なのだ。
犠牲になった者、これから犠牲になる者のためにも。
剛夕の目に、覚悟が宿った。
「椿、よろしく頼む」
脅えを噛み殺し、凛とした、芯のある声だった。
「はい」
椿は力強く頷いた。
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椿は鷹に雪原への返信を託すと、夜の闇が迫る赤い空に放った。
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