65 / 85
第6章 煙の如き狂猿
64: 羞恥な遊び
しおりを挟む煙猿は俺の頭部を鈍器のようなもので殴った後、俺を自分の車に押し込み、更に何か薬のようなものを嗅がせたらしい。
普通なら目が覚めた俺は、自分が縛られていないかどうかを、すぐさま確認し、隙あらば車から逃げ出す算段をしていたはずなのだが、全然そうならなかった。
俺の生存本能の濃さは、練乳ミルク並なのに、である。
なんと俺は、後部座席に寝かされた酔っぱらいのように、弛緩したまま口をあんぐり開けて、車の外の光景をボーッと眺めていたのだ。
首も動かない、、身体の筋肉が弛緩しきっているようだった。
煙猿は、何かの薬物の吸引剤を使って、俺を縛り上げる手間を省いたのだ。
車は特に飛ばすでもなく、普通に街中を走っていた。
つまり煙猿は、蛇喰らの追跡をうまくかわしたという事だった。
・・・・・車で揺られている間に、例のUFOが俺に通信を送ってきた。
とうとう俺にも、宇宙人のグレイ君によるアブダクション招待状が届いたのかと思ったが、そうじゃなかったようだ。
と言うか、俺が時々見る、あの尾翼に二本の白い葉巻みたいのが生えたのは、UFOなんかじゃなく、やっぱり地上に降下してきたI.S.U.エンタープライズ号、、つまり江夏由香里がゴォークを使って変身させた俺の魂なんじゃないかと思えてきた。
そう言えば、リョウが時々、街中で出会うというミスター・スポッキィという人物の事だが、俺の情報では本名が二芋居礼雄というイカれたコスプレ叔父さんなんだが、そいつも本当は、何かの象徴なのかも知れない。
例えば、調子の狂ったゴォークシステムに発生したエラーだとか、、。
そして江夏の名付けた「I.S.U.」の頭文字は、Inner surface of the universe、内面宇宙の略だろう。
で、そのI.S.U.エンタープライズ号は、「なんとか頑張れオレ!でないと、リョウがやばいぞ」と、警告にもならない警告を、俺に送りつけているのだった。
『フレー!フレー!ニッポン』なんて、叫ぶだけなら誰でも出来る。
叫んだだけで、自分が何かをやった気になるな、って話だ。
俺同様、役に立たないUFO魂が、送ってきたのは、「黒いリョウ」の墜ちていく姿だった。
「黒いリョウ」は、本当のリョウではないことは、なんとなく判った。
つまり、俺が見せられるのは「お前がだらけていると、あのリョウは、こうなっちまうぜ」と言う、予測と不安の固まりなのだ、、、。
って事で、俺の身体は、エンタープライズ号に使われている転送装置で分解され、復元座標を指定される事もなく、「黒いリョウ」の側に転送された。
まあオカルト風に表現すれば、俺は「黒いリョウ」の憑依霊状態になっている訳だ。
それが、残された人間達を守る先祖の背後霊じゃないところが哀しい、、、。
・・・・・・・・・
コビト達の空耳音頭が聞こえてる。
俺の耳の中でコビト達が、ヤッサエイホーサッサと声を合わせて音頭を歌っているのだ。
そしてその音頭の歌声に、時々混じるように、何かを俺に向かって言ってる煙猿の声が聞こえた。
いやそれは現実ではなく、きっと調子の狂ったゴォークシステムのせいだ。
この世界での銭高零が立てたプランというのは、リョウと奴との二人で、檜根崎お初天神通りの天球儀ホテルに部屋をとり、男の姿から着替えと化粧を済ませて、夕暮れの高層ビル街をデートするというのが、第一ステージだったようだ。
あの銭高零とリョウが、なぜ一緒にいるのか、その事だけでも俺は気が狂いそうだったが、これが警告で、この洗礼を、俺自身が受けない限り、俺は元のエンタープライズには実体化して戻れないようだった。
リョウは、洋服をアフターのOL風にまとめている。
女の子というのは不思議なもので、男と違って、化粧をすると外見上の年齢の壁を一気に飛び越えてしまう。
もっともリョウが、女の子と言えるかどうかは、又、別の問題だったが、、。
ボーダー柄のブラウスとミニ丈のスカート、そしてそれに黒のジャケットを羽織り、下着はおとなしく白のブラジャーとショーツのセット。
足元はパンテイストッキングではなく、ロングストッキングをガーターベルトで止めている。
その姿は、地味だが、十分に可愛い。
だがリョウの側にいるのが、女装では大先輩に相当する零だから、この時点でリョウは、己の女装の出来映えにドキドキしているようだった。
見ていて、胸くその悪い光景だった。
「大丈夫。リョウはスタイルもいいし、顔も綺麗だから、堂々としていれば誰も気づかないよ。」
「でも....」
「いちばん良くないのは、必要以上におどおどすることかな。そんな雰囲気を出してると、相手は『おやっ?』って思うものだよ。」
たしかに銭高零の化けっぷりは、凄い、俺も一度ならず、二度騙されている。
だが三回目は、こちらから仕掛けてやったが、、。
「........」
「恥ずかしくなったら私の腕を取って肩に隠れればいい。そうすれば皆、私達のことをアフターファイブのレズカップル程度には思ってくれるわ。」
「はい.....」
「それと、途中では女の子になりきること。自分で男の子のシンボルを意識したり、間違ってもさわっちゃだめだよ。こんなものはついてないのよ、と思うくらいじゃないと、女の子になりきれないんだからね。」
「わかりました.....」
女装指南など、リョウには釈迦に説法だと思うのだが、この「黒いリョウ」は、素直に零の指示に従っている。
「この約束が守れたら、後で思い切り気持ちのいいことをしてあげるからね。」
「思い切り気持ちのいいことって.....」
「それは無事帰ってきてからのお楽しみ」
「じゃ、いこうか」
そんな感じで二人は会話を終え、部屋のカードキーを抜いて天球儀ホテルを後にした。
零はリョウに、まずは薄暗い公園で女装外出の試運転をさせ、その後で、ハルカビルの展望階に昇った。
リョウは、夜景をうっとりと見ているうちに、その気になったらしく、演技抜きで、零の腕をギュッと握り締めて、その身体を預けている。
それがレズぽい気分なのか、零の隠された男性に、女装したリョウの女の部分が反応しているのかはよく判らない。
第一、相手はいくら世界と次元が違うとはいえ、あの銭高零なのだ。
俺は複雑な気分になったが、この霊体のような身体では、手出しのしようがない。
零も、リョウの肩に手を回して、リョウのアンダーバスト部分を澄ました顔をして撫でている。
「ア...」
「ふふふ、こちらはどう?」
今度は手を前に回して、スカートの上からリョウの恥ずかしいところを撫で始めた。
既にリョウの股間は興奮して固くなっているようだ。
零はそれをわざと確かめるように、何度も何度も手を上下さている。
「やめて.....、やめてください....」
リョウの声が消え入りそうになる。
「、、お手洗いにいかせてください....」
「今のあなた、入れるのは女性用だからね、気をつけてね。私はそこでコーヒーも飲んでるわ。」
そういって零はリョウと別れ、展望階の喫茶スペースに入っていった。
一瞬女性用のトイレの前で、リョウはそこに入るかどうかを迷ったようだが、やがて思いきったように入室した。
これも本来のリョウとは違う。
俺の知っているリョウは、女装したら完全に女性になりきっていて、トイレの男女の選別に迷ったりはしない。
第一、リョウみたいな可愛い女の子が、男性トイレに入ってくる方が問題は大きいのだ。
化粧室には他に誰もいない。
リョウは個室に入りカギをかけ、スカートを捲り上げショーツを下ろしている。
おいおい、なんでこんな所まで、俺はついて行ってるんだと、思ったが、今の俺は「黒いリョウ」に群がる雲霞の固まりの霊体みたいなものなのだろう。
「あぁ、こんなに大きくなっちゃった.....」
ホテルを出る時の零との約束もあったのだが、リョウはもう我慢できなくなったようだ。
リョウは、思わず自分のペニスを握り締め、腰を動かしながら、オナニーを始めた。
、、まあ俺も男だから、その生理は判る。
以前の世界では、俺は結構、女装した時のリョウを神格化している部分があったが、こちらの「黒いリョウ」はどうやら平凡な男の子のようだ。
というか、この黒いリョウは、俺の概念の抽出だから、それで当たり前なのかも知れない。
それが、俺がゴォークに接続されているという事の意味なのだ。
「リョウって、すごい変態、女装して、女性のおトイレでオナニーしているんだから.....」
自虐の言葉を呟きながら、リョウの右手のストロークが早くなっている。
リョウは思わず出てしまいそうになる自分の声を低く押し殺している。
しかし、それでもリョウの絶頂はすぐにやって来たようだ。
女性用トイレの便座の上に、リョウの体液が飛び散った。
「、、、気持ちいい、、」
意識が吹き飛びそうな感じ、こんな気持ちのいいオナニーは初めて経験した。
・・・って、ソレは俺の感覚だった。
リョウとシンクロしてる・・なんだか、俺はこの理屈がよく判らなかった。
リョウが洋服と化粧を整えて、展望室の零の所に戻ると、零は冷たい口調で言った。
「遅かったわね、リョウ。」
「あ、あの....おトイレが混んでたんです。」
「あれ、リョウのあとから行った人は早く帰って来たよ。」
「えっ.....」
「やっぱりトイレでいけないことしてたんでしょ。」
リョウはとっさに言葉が出ないようだ。
「私は、お外でエッチ過ぎる子って、あまり好きじゃないんだけどなぁ。常識ないんじゃない?」
零はテーブルの上の伝票をとって、スタスタとレジの方へ歩いていく。
リョウは慌てて零の後を追った。
零は下に降りる高速エレベーターに乗った。
エレベーターの中は誰もいない。
「零さん、ごめんなさい....」
リョウが可愛く言った。
俺はこんな可愛らしい口調のリョウを見たことがない。
しかし零は、冷たい横顔を見せるばかりで何も話さない。
リョウの顔には、零さんに嫌われちゃった、、という後悔の表情が、浮かんでいる。
馬鹿野郎、そんな奴に嫌われたって、なんにも問題ない。
第一、そいつは、お前を、、。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
(完結)姑が勝手に連れてきた第二夫人が身籠ったようですが、夫は恐らく……
泉花ゆき
恋愛
蘭珠(ランジュ)が名門である凌家の嫡男、涼珩(リャンハン)に嫁いで一年ほど経ったころ。
一向に後継ぎが出来ないことに業を煮やした夫の母親は、どこからか第二夫人として一人の女性を屋敷へ連れてくる。
やがてその女が「子が出来た」と告げると、姑も夫も大喜び。
蘭珠の実家が商いで傾いたことを口実に、彼女には離縁が言い渡される。
……けれど、蘭珠は知っていた。
夫の涼珩が、「男女が同じ寝台で眠るだけで子ができる」と本気で信じているほど無知だということを。
どんなトラブルが待っているか分からないし、離縁は望むところ。
嫁ぐ時に用意した大量の持参金は、もちろん引き上げさせていただきます。
※ゆるゆる設定です
※以前上げていた作の設定、展開を改稿しています
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる