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第7章 神に寄生する
60: 知的パラシートゥスたちの神
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海は極夜路からスマホで送ってもらった二人の女子高生の顔写真を使い、この都市最大規模の歓楽街・薔薇宿で聞き込みに回っていた。
捜索対象を夜の歓楽街としたのは、これといった目処があったわけではない。
「木を隠すなら森」の言葉通り、若く美しい女性が身を潜められて金を稼ぐ事もでき、しかもある程度は世の中の動きを肌で感じとれる場所という意味で、この街を選んだだけだ。
全くの見当違いなのかも知れなかった。
実際、海は「家出をした妹を捜している兄」という役所で、夜の街での聞き込みを続けているが、未だに手応えがまったくない。
それは極夜路が教えてくれた「ツグミ」という人物についても同じだった。
「煌紫、どうだ?少しでも気配を感じるか?」
『此処までで、既に3人のファイ種に出会っている。』
「3人!?何故、黙っていた?」
『彼女たちではないぞ。気配も隠していない。共食いとは無関係だろう。それに君は、それを聞いてどうする?いちいち人に寄生したファイ種を殺してまわるのか?』
そう煌紫に指摘されても、海はファイ種に乗っ取られた人間の家族や関係者の事を思うと、心のざわつきが抑えられなかった。
しかし同時に、自分が彼ら全ての敵討ちを肩代わりする訳にも行かない事は解っていた。
第一、今だに海は香川杏子とのケリが付けられていないのだ。
「、、お前達にとっては人間に寄生するのは本能。俺達にとっては寄生されるのは恐怖。だから煌紫の結論は、お互い知らない方が良い、だったな、、。」
『そう言ってしまえば身も蓋もないがね。我々、プシーの様に寄生はするが、乗っ取らないという共存の道を知的パラシートゥスが歩むためには、それなりの能力が必要なんだよ。他の彼らは意図して人間を乗っ取っているわけではない。肉食獣が草食獣を食べるのは生きるためだ。』
海は知らず知らずのうちに、繁華街の外れまで辿り着いてしまっていた。
目の前に教会の建物と小公園が見えた。
海は疲れを感じ、その小公園のベンチに腰を掛けた。
体力的なものではない。
精神的な疲れだ。
何気なく正面に見えるカトリック教会の建物を眺める。
薄曇りの夜空に満月がぼんやり輝いていた。
「なぁ煌紫、今、ふと思ったんだが、お前達に神様っているのか?」
『何度も言ってきただろう。我々を人間の尺度で考えるなと。神は人間の妄想だ。猿に神は必要か?虫に神は必要か?』
「、、だな。」
『だが人間の言う神に近い存在がいない訳ではない。』
「創造主という意味でか?」
『それも少し違うが、、我々は、第一知見でプシー種、等々力達、第二知見はキー種。判るかい?一番目に来るべきオメガ種がないだろう。』
「オメガ種というのがいて、それが神の位に該当するのか?」
『これから話す事を、海は不快な思いで聞くだろう。だが始めに言っておく。これに付いては私も半信半疑でいるんだ。まあ、そういう意味では、これは人間でいう所の神話に近い。ところで、海は何故、人間が他の動物たちの位置から抜け出し、今の様な存在になったと思う。』
「言葉を使ったから、火を使えたから、二本脚で立ち手が使えたから、道具を作れたから、色々な説がある事は知っている。」
『それらは全てきっかけだな。どうやって人間の脳の構造に変化が起こったかの直接的な説明にはなっていない。その答えは寄生虫だよ。我々の祖先が、寄生する事によって、人間になる前の生き物の脳に直接的に変化をもたらしたのだ。それがなければ、人間は人間はたり得なかった。我々がその身体を乗っ取っている訳だから、概念的に言えば、人間の祖先は寄生虫だ。そこから、現代に至る我々と人間との因縁が始まったんだよ。』
「冗談を言うな!」
『やはり怒ったね。無理もない。でも最初に言っただろう。実はこの話、私も信用している訳じゃない。我々のネットワークの片隅に古くから語り継がれているただのお伽噺だ。だから、これは人間の神話や、神に相当する話と前置きしただろう。ただ一つだけ、』
「一つだけなんだ?」
『この話には、我々が、何故人間に寄生しようとするのか、中でもなぜ人間の精神に拘るのかの答えが隠されているような気もするんだ。ユプシロン種だよ。彼らは一瞬だけ、自己認識の瞬間を得ただけで、満足して死んでいくんだ。ユプシロン種は我々の原初の姿に最も近いと言われている。我々の創造主だとも言われているオメガも、ユプシロン種と似たようものだったかも知れない。ただその時代には、その要求を叶えてくれる知性ある人間は、まだ世界には生まれていなかった。そこで全ての始まりの頃に、将来、人間となる動物と、我々知的パラシートゥスの始祖との間に、何かが起こったのは確かだ思う。』
「あのユプシロン種と、お前たちの神の根っこは同じってことか?」
『神は己の形に似せて人間を作ったのだろう?そして君たちの神が進化する様に、始まりのオメガもユプシロン種を産み落とした後、どんどん進化してるはずだ。それは神に実体がないように、オメガにも実体があろうがなかろうが同じ事なのだと思う。ただ君たちの神は信仰によって進化するが、我々には信仰に該当するものはない。もしオメガが、何らかの形で実在するなら、全く予想も出来ない方法で進化している筈だ。』
「知的寄生虫の神のオメガ種か、、いるのか、本当に?」
『判らない。今夜の話は、海の疑問に付き合った座興の様なものだ。気にするな。』
そう言って煌紫は海の意識の中に沈んでいった。
捜索対象を夜の歓楽街としたのは、これといった目処があったわけではない。
「木を隠すなら森」の言葉通り、若く美しい女性が身を潜められて金を稼ぐ事もでき、しかもある程度は世の中の動きを肌で感じとれる場所という意味で、この街を選んだだけだ。
全くの見当違いなのかも知れなかった。
実際、海は「家出をした妹を捜している兄」という役所で、夜の街での聞き込みを続けているが、未だに手応えがまったくない。
それは極夜路が教えてくれた「ツグミ」という人物についても同じだった。
「煌紫、どうだ?少しでも気配を感じるか?」
『此処までで、既に3人のファイ種に出会っている。』
「3人!?何故、黙っていた?」
『彼女たちではないぞ。気配も隠していない。共食いとは無関係だろう。それに君は、それを聞いてどうする?いちいち人に寄生したファイ種を殺してまわるのか?』
そう煌紫に指摘されても、海はファイ種に乗っ取られた人間の家族や関係者の事を思うと、心のざわつきが抑えられなかった。
しかし同時に、自分が彼ら全ての敵討ちを肩代わりする訳にも行かない事は解っていた。
第一、今だに海は香川杏子とのケリが付けられていないのだ。
「、、お前達にとっては人間に寄生するのは本能。俺達にとっては寄生されるのは恐怖。だから煌紫の結論は、お互い知らない方が良い、だったな、、。」
『そう言ってしまえば身も蓋もないがね。我々、プシーの様に寄生はするが、乗っ取らないという共存の道を知的パラシートゥスが歩むためには、それなりの能力が必要なんだよ。他の彼らは意図して人間を乗っ取っているわけではない。肉食獣が草食獣を食べるのは生きるためだ。』
海は知らず知らずのうちに、繁華街の外れまで辿り着いてしまっていた。
目の前に教会の建物と小公園が見えた。
海は疲れを感じ、その小公園のベンチに腰を掛けた。
体力的なものではない。
精神的な疲れだ。
何気なく正面に見えるカトリック教会の建物を眺める。
薄曇りの夜空に満月がぼんやり輝いていた。
「なぁ煌紫、今、ふと思ったんだが、お前達に神様っているのか?」
『何度も言ってきただろう。我々を人間の尺度で考えるなと。神は人間の妄想だ。猿に神は必要か?虫に神は必要か?』
「、、だな。」
『だが人間の言う神に近い存在がいない訳ではない。』
「創造主という意味でか?」
『それも少し違うが、、我々は、第一知見でプシー種、等々力達、第二知見はキー種。判るかい?一番目に来るべきオメガ種がないだろう。』
「オメガ種というのがいて、それが神の位に該当するのか?」
『これから話す事を、海は不快な思いで聞くだろう。だが始めに言っておく。これに付いては私も半信半疑でいるんだ。まあ、そういう意味では、これは人間でいう所の神話に近い。ところで、海は何故、人間が他の動物たちの位置から抜け出し、今の様な存在になったと思う。』
「言葉を使ったから、火を使えたから、二本脚で立ち手が使えたから、道具を作れたから、色々な説がある事は知っている。」
『それらは全てきっかけだな。どうやって人間の脳の構造に変化が起こったかの直接的な説明にはなっていない。その答えは寄生虫だよ。我々の祖先が、寄生する事によって、人間になる前の生き物の脳に直接的に変化をもたらしたのだ。それがなければ、人間は人間はたり得なかった。我々がその身体を乗っ取っている訳だから、概念的に言えば、人間の祖先は寄生虫だ。そこから、現代に至る我々と人間との因縁が始まったんだよ。』
「冗談を言うな!」
『やはり怒ったね。無理もない。でも最初に言っただろう。実はこの話、私も信用している訳じゃない。我々のネットワークの片隅に古くから語り継がれているただのお伽噺だ。だから、これは人間の神話や、神に相当する話と前置きしただろう。ただ一つだけ、』
「一つだけなんだ?」
『この話には、我々が、何故人間に寄生しようとするのか、中でもなぜ人間の精神に拘るのかの答えが隠されているような気もするんだ。ユプシロン種だよ。彼らは一瞬だけ、自己認識の瞬間を得ただけで、満足して死んでいくんだ。ユプシロン種は我々の原初の姿に最も近いと言われている。我々の創造主だとも言われているオメガも、ユプシロン種と似たようものだったかも知れない。ただその時代には、その要求を叶えてくれる知性ある人間は、まだ世界には生まれていなかった。そこで全ての始まりの頃に、将来、人間となる動物と、我々知的パラシートゥスの始祖との間に、何かが起こったのは確かだ思う。』
「あのユプシロン種と、お前たちの神の根っこは同じってことか?」
『神は己の形に似せて人間を作ったのだろう?そして君たちの神が進化する様に、始まりのオメガもユプシロン種を産み落とした後、どんどん進化してるはずだ。それは神に実体がないように、オメガにも実体があろうがなかろうが同じ事なのだと思う。ただ君たちの神は信仰によって進化するが、我々には信仰に該当するものはない。もしオメガが、何らかの形で実在するなら、全く予想も出来ない方法で進化している筈だ。』
「知的寄生虫の神のオメガ種か、、いるのか、本当に?」
『判らない。今夜の話は、海の疑問に付き合った座興の様なものだ。気にするな。』
そう言って煌紫は海の意識の中に沈んでいった。
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