アンプラグド 接続されざる者

Ann Noraaile

文字の大きさ
3 / 66
第一章 遺産 

03: 狙われる真言

しおりを挟む

 夕食を取るには、遅すぎる夜の11時前という時間だったが、保海真言はアーチャーの店に立ち寄った。
 アーチャーの店はトマリオル市の中でも、かなり物騒な危険区域の中にある。
 空腹もあったが、彼の意識の中には実家に帰りたくないという気持ちが働いていた。

 特に母親の忍の顔を見たくなかったのだ。
 忍は夫の死を目前にしても取り乱さない女だったが、真言はそれが表面的なものに過ぎない事を知っていた。
 ただ流囲の人間に気を使って耐えてるのだ。
 そして忍の性格から考えて、息子の慰めさえ拒否するだろう。
 かと言ってその心の内の悲しみは癒えることはない。
 そして真言は真言で、父親である保海源次郎に複雑な思いを持っていたのだ。


 オートバイを、アーチャーの店の前に止めたとき、周囲の空気が変わった。
 真言を遠巻きに取り囲むようにして、数台の武装装甲オートバイが出現していた。
 タイヤが異常に太くて、車体もくまなく分厚い装甲に覆われているから、何かの巨獣が四つん這いで地面に伏せているようにも見える。
 彼らは、自らの存在を隠そうともしない。
 いやむしろ、その武装過剰気味のあり様を、周囲に誇示しているようだった。

 銀色に輝くバトルアーマースーツを装備した銀甲虫達。
 流騎冥が、彼らを引き連れて来たのか?
 考えにくいことだった。
 流の性格から考えて、保海の口封じの為に他人に助成を請うことは絶対にあり得ない筈だし、保海自身が銀甲虫達のターゲットになるような事をしでかした記憶もなかった。
 たかが若造一人を、銀甲虫チームが締め上げる様な事があれば、それこそ彼らの威信が地に落ちるというものだ。
 保海真言はそこまで考えて、彼らを無視することに決めた。
 ところが、アーチャーの店の客達はそうは判断しなかったようだ。
 保海が店内に足を踏み込んだ途端、店の中の雰囲気が水を打ったように静まり返った。

「今度は何をしでかした。」
 カウンターの奥ので店主であるアーチャーが固い声を出した。
「冗談じゃない。僕が奴らを引き寄せるような大人物に見えるのか?それより熱いコーヒーとクラブサンドを頼む。」
 アーチャーは垂れた頬をふるわせて何かを言おうとしたが思いとどまったようだ。
 こんなヤバイ地域で深夜営業を営む男なのだ。
 それなりの度胸と見識はある。
 この店の客達はそれに惹かれてやってくるのだ。

「ソウシキとやらはやるのか?」
 アーチャーがコーヒーを差しだしながらいつもの口調で真言に尋ねた。

「お袋と叔父貴は、碌でもない故国の伝統に則ってソウシキをやりたかったようだが、当の本人が俺が死んだら海に散骨しろと言ってたらしい。仏さんは恥ずかしがり屋だったんだろうよ。」
 真言は『恥ずかしがり屋』と冗談めかして言ってから苦笑した。

 何処の世界に、その身体が空から降ってくる恥ずかしがり屋がいるのだろうか?
 一週間ほど前、名もない漁村に、得体の知れない生き物と海水が空から降り落ちてくるという怪異現象が起こった。
 その降り落ちてきたものの中に、真言の父親は虫の息で混じっていたのだ。
 本来なら今年の重大ニュースの一つに数えられる珍事であった筈だ。
 しかしその事実は、彼の知らぬ強大な権力によって厳重に封鎖されてしまっている。
 真言がこの事実を知る事が出来たのも、保海源次郎の身柄が保海家に引き渡されたのも、件の漁港を縄張りに含む地元の暴力団が、保海組との繋がりが深かったせいだ。

「今のご時世だ。それが正解さ。どんな大事な人間が死んだって、事務的には半日でけりがついちまう。その方がいい、その分、諦めにかかる時間が前倒し出来るってもんだ、、。法的な手続きはもう済んでいるんだろう?」
 アーチャーの口調には慰めの色があった。
「信じられないけど、親父は僕に遺産を残したようだ。その手続きが明日で完了する。それで全て終わりだ。」
「いよいよ、決めるんだな、あの話?」
 保海組の跡継ぎの話だ。

「結論は別にして、そういう事になるな。僕はどうでもいいが、お袋は約束を守る女だ。」
「保海組を継ぐのを、なぜ嫌がる?あんたなら、みんなも嫌がらないぜ。若いが実力があるのをみんな知っている。古い人間は経済やくざという言葉を知っているが、あんたにはそういう匂いがする。頭の切れだけじゃない、焦げ臭い匂いだ。今のヤクザには、もうそういう匂いはない。やくざなんて名前だけだ。あるのは、自分らのやってる事とはなんの関係もない、ご大層な儀式の真似事だけだ。」

「、、僕はヤクザが嫌いだ。それに器じゃない。親父を見ろよ。みんなから組長の器量はある、ただ頭が良すぎて、それに収まらない、それじゃ仕方がないって言われて、許されたんだぜ。で代わりに叔父貴が仮の組長を引き受けた。、、、そんなの在りかよ。」
 保海真言は、彼に対してここ最近繰り返されて来た何度目かの質問に対する答えを口にした。
 『親父が組長をふけたんなら、俺もそうする』、、子供じみていたが要はそういう事だった。


 その時、彼らの背後で凄まじい爆発音と光の洪水が生まれ、アーチャーの店の通りに面した窓ガラスが全て内側に向けて吹き飛んだ。
 保海真言は自分の背中に細かな傷みを感じたが掠り傷程度だろうと判断した。
 窓際に席を取っていた客達は、散々な目にあったに違いない。
 保海真言は、カウンターの奥にかがみ込んだアーチャーの怪我が、大したものではない事を確認すると、通りに向かって飛び出して行った。

 通りの中央では、元は車らしきものが炎上していた。
 どうやらこの車が爆発したらしい。
 銀甲虫達の布陣は変わっていない。
 炎の照り返しを受けて、彼らの体表の金属色は赤く燃え上がっている。
 なおも突き進もうとする保海真言は、足の裏で何か柔らかいものを踏みつけて下を見つめた。
 それはちぎれた人間の手だった。
 皮膚の表面が奇妙にテカテカとした光沢を持っていた。

「ビニィか、、、。どういう事だ?」
 ビニィは遺伝子工学が生み出した人間もどきの別称だ。
 今の段階ではビニィ達は外見上は人間そっくりだが、その知能程度はチンパンジーにも及ばない。
 彼らの行動は全て外部からのプログラムによって支配される。

(ローズ。奴に警告してやったらどうだ。この調子だと、保海真言の行く先々で死体が大勢転がる事になるぞ。)
 アーチャーの店の前に突入してきたビニィの車を、炸裂弾一発で仕留めた銀甲虫・グリズリーが、その言葉を通信でリーダーのローズに送った。

(アイスマンのあのグダグダした指令書を読んでなかったのか?俺達はあの坊やを警護するが、いかなる理由があろうとも坊やの行動の自由を妨げてはならんのだ。警告を与えれば、坊やは己の行動を自重するかも知れないが、それは俺達がやる事じゃない。俺達は引き続き、あの坊やの後を金魚の糞の様に追跡し、外敵から保護する。ただそれだけだ。)
 ローズは自嘲気味に、しかし、鋼の様な意志を込めてグリズリーに言い渡した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...