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第一章 遺産
09: 遺産の形
しおりを挟むロイヤルロッカーとの事務手続きを終え、保海は父・源次郎の契約していたロッカールームの前に一人で立っていた。
保海は渡された電子キーカードを手の中で弄びながら、その分厚い金属の壁に取り囲まれた小部屋を暫く見つめている。
佐藤が教えてくれた、このロッカールームの別名である(懺悔室)という言葉を思い出したからだ。
この別名の由来は、ロイヤルロッカーが元・教会を改造したという経緯から来る部分が大きいのだろうが、ワケありの遺産相続や、秘密めいた保管物に対する当てつけもあるのだろう。
「この僕に、父親に対する何の懺悔があるというのか、、?」
保海は小さく呟きながら、彼が成人して初めて触れる、ミイラではない生きた父親の証に触れる為に、部屋の中に足を踏み込んだ。
・・懺悔室の中は、殆ど空白と言ってよかった。
あるのは空調の為の小さなダクト、外部と内部の連絡用のパネルが壁に一つ、そして保海源次郎が残した遺産が二つ、壁際に立てかけてあるだけだ。
真言はその一つに見覚えがあった。
保海組は歴史のあるヤクザ組織だ。
家の中には、まがい物にせよ日本刀も飾ってあった。
その日本刀を包むための布製の袋に包まれて、それは立てかけてあった。
もう一つはプラスティック製の円筒形の容器、これもデザイン会社の社員が持つようなもので特に珍しいものではない。
真言の顔が少し歪む。
彼自身は取り立てて、父親が残したという遺産について過度な期待はしていなかった。
しかし彼の背後で起こった追跡劇と市街戦は、この遺産相続となんらかの関係がある筈だった。
それが、目の前の「長モノ」が二つきりとは。
真言は多少の苛立ちをもって、刀剣類が納めてあるだろうと思われる袋を手にした。
袋の口を締めてあるひもを解くと中から、予想通り刀の柄が現れた。
が、その柄は、日本刀のものではなく、何やら象牙質の物質を精密に彫刻したものだった。
その柄のモチーフに真言は心当たりはなかった。
何かの生物の白骨化した死体の様子を彫って有るようにも見えたし、文字の塊の様にも見えた。
しかしそれは手に握り込むと、真言の手にすっくりと収まった。
続いて真言は、その刀剣を鞘ごと袋から取り出した。
鞘は日本刀のものそっくりであったが、材質はどう見ても木製ではないようだ。
真言は柄と鞘の境目に当たる、ややせり出したレリーフに親指を当てた。
日本刀なら鍔に当たる部分だ。
鍔は最初少し抵抗を見せたが、やがて鞘に隠された刀身を少し露わにした。
刀身は金属ではなくガラスの様に見えた。
「まがいものだ。こんながらくたを。」
真言の動悸は、期待から怒りに変わりつつある。
真言は刀身を引き抜いた。
全身を現した刀身は、非常に透明度の高い薄いガラス質で出来ているように見えた。
真言はそれをもっとよく見ようと自分の目の高さに持って来た時に、ある一つの事実に気が付いた。
収まりかけていた動悸が又早くなっていく。
刀身の角度を何度も変えてみる。
しかし結果は同じだった。
この刀身には、比喩ではなく厚みが全く無かったのだ。
そして柄以外の重さもなかった。
「なんの手品だ?」
真言はかろうじて覚えている父、源次郎が幼い彼に見せた数々の手品を思い出した。
真言は震える指先で、この日本刀を元の状態に戻した。
直感的にこの日本刀は時間をかけてゆっくり調べるべき代物である事を悟ったからだ。
もしかしたら刀身を引き抜いた事自体が、大きな誤りであったかも知れないのだ。
次に真言は円筒形のプラステック蓋を外した。
中にはなにやら画布のようなモノが巻き込まれて納めて有る。
それを引き抜くとき、その画布は絹の様な手触りをよこした。
真言は画布をロッカールームの金属の床に広げる。
それは精密に描かれた一枚の風景画だった。
場面は夜だ。
何処かの針葉樹の森の中で、何か巨大で真っ黒なものが横たわっている。
林の隙間からは、横たわった化体の体表に穿たれた小さな窓のようなモノから黄色い光が漏れているのが見える。
それにしても異様な精密さだ。
写真の様にも見えたが、この生々しさは写真では表せない。
驚くほどの奥行きがある。
真言はその異様な精密さに惹かれて、絵の表面に顔を近づけ、再び驚くべき発見をした。
この絵にも厚みがなかったのだ。
画布自体には厚みがある。
問題はその中に描かれた絵だった。
厚みが無いのだ。
通常の絵の具で描かれていないのは一目瞭然だった。
それにしても絵の具なら、絵の具自体の厚みが見える。
写真の様に、画布自体が化学反応を起こしている様にも見えなかった。
森の絵は明らかに、画布の上に描かれたものだ。
なのに絵自体の持つ厚みがなかったのだ。
真言は急いでこの絵も元の状態にしまった。
日本刀に感じた、触れてはいけないモノへの恐怖感もあったが、何よりも、絵の中の、巨大な黒いモノが放つ小さな光点が、点滅した様に見えたからである。
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