13 / 66
第一章 遺産
13: 内調のプラグとミスターX
しおりを挟むCUVR・W3からのブラックアウトののち、4時間後に岩崎警部は本庁に呼び出されていた。
そこでは、いつもの様に彼の捜査に横やりを入れるための形式論が、延々と話し合われるのだろうと、腹を括っていた岩崎にすれば、肩すかしの会見が行われていた。
まずメンバーが異なっていた。
いつも、自室に呼び出して岩崎に横柄な態度で命令を下す上司は、彼の横の席に座っており萎縮していた。
イスミン・コーナンウェイ・ガタナを中心とするバタランの外交官達は上座に座っていた。
他にも幾人かが会議の円卓に付いていたが、彼らの殆どが、岩崎がテレビでしか見たことのない高名な人物ばかりだった。
そんな中で岩崎は、捜査の進捗状況をかいつまんで報告し終えたばかりだった。
これがジャッジメントシステム下で捜査活動を行うという事なのかと岩崎は思った。
「我々の予想通りだな。いや実に君の活躍は素晴らしい。ひょっとすると君は電脳空間における最初の刑事になるかも知れんな。」
大げさに喜んで見せた金髪の男を、岩崎は知っていた。
ガートランド警視総監。
警察機構の頂上にいる男だった。
「慎みたまえ。イスミン・コーナンウェイ・ガタナ女史が同席されておるのだぞ。」
ガートランドの斜め前の頭の禿げ上がった鷲鼻の男が彼を一喝した。
この鷲鼻の男の名前は結局、まるでそうする事によって厄災が降りかかって来るかの様に、この会議中、誰からも口に出されることは無かった。
岩崎は勿論この人物を知らなかったが、警視総監を叱りとばすのだ、相当な実力者に違いなかった。
「ところで管博士、岩崎君の報告を聞いて、彼に我々のプラグの装着は可能だと思ったかね?」
禿頭の男が、話の成り行きを、学者の集団と思われる比較的年齢層が高いグループの方に振った。
プラグ装着と聞いてイスミンが、小さな悲鳴を上げたが、管と呼ばれた小柄な老人はそれを無視して答えた。
「岩崎警部は、十年前にウェーブ銃を被弾しています。被弾といっても掠めたという程度なのですが、問題は場所です。治療の為に、彼の後頭部の脳髄の一部分はバイオメモリチップでカバーされる事になりました。それを基部にすれば、プラグは短時間の内に装着可能であり、場合よればソラリスのそれより高性能を引き出せる可能性もあります。なによりソラリス製ではないのですから、高度な機密性が保持されます。それに先ほどの報告からは、彼にはもとよりcuvrに対して潜在的な適応能力がある事が伺えます。ですから。」
「待って下さい!」
イスミンがたまりかねた様子で席を立って発言しようとした。
しかし彼女の隣に座っていたバタランの外交官が、イスミンの腕を掴み首を静かに横に振った。
イスミンは渋々発言を取りやめ岩崎の方を切なげに見つめた。
「岩崎警部。君には、あまり説明の必要はあるまい。プラグを付ければ君の捜査は飛躍的に進展するはずだ。ただし早くても二週間かかるプラグ装着を、一日でやってしまおうというのだ。危険が無いとは言えない。判断は君に任せたいと思うが、どうかね。」
「ミスターX。それにお答えする前に、どうしてもお伺いしておきたいことがあります。勿論、話せない内容なら、お教え願える範囲で結構なのですが。」
ガートランド警視総監が岩崎の口を閉じさせるために彼を睨み付けた。
しかしガートランドは階級が上でも、岩崎に人間的な貫禄負けをしていたようだ。
岩崎は平然とそれを受け流した。
「よろしい。なんだね。差し支えの無い範囲で話してやろう。君にはそれだけの権利があると思う。」
ミスターXという揶揄を気にも止めず鷲鼻の男の口元には微笑みさえ浮かんでいた。
もちろん、その微笑みは狩猟者が出来の良い猟犬に与えるものであったが。
「今回に限って国家の内調機関が動かず、私の様な一介の市警警部がこの調査に当たっているのは何故ですか?しかもどうやら今度はその内調のプラグだけを拝借するようだ。確かにジャッジメントシステムは時々突拍子もない事を我々に要求するが、今回に限っては、それ意外にも人間の介在があるような気がします。」
岩崎は彼自身が古いタイプの刑事であり、通常の捜査活動に多くの刑事や捜査官が、ハイテクノロジーに依存する部分を、己の行動と直感で賄う傾向が強い事を知っていた。
その傾向が、対ビッグマザー戦の様相が強くなっている今回の捜査で買われた事は薄々気づいていた。
しかも同じビッグマザーの中にジャッジメントシステムとCUVR・W3が同居している状況の中でだ。
今の二つは対立関係にあるが、もちろんビッグマザーにはそんな自覚はない。
一つのコンピュータがいくつもの疑似人格的なものを内包することがあっても、それは一人の人間の多重人格のような在り方ではない、と考えられている。
CUVR・W3が防御機能のようなものを持たない限り、いずれはジャッジメントシステムが優勢になる筈だった。
そして岩崎は、今回の調査がそれ以上の背後を持っている事にも気づいていた。
これは単純な電脳空間の中で起こった猟奇的な殺人事件ではない。
岩崎はその背景が知りたかったのだ。
「君は、この任務が不服なのかね?」
「いいえ。アッシュ氏の件については私個人の責任ででも調べるつもりでした。」
イスミンの目は既に潤み初めていた。
「それでは、その事を私に聞くのは止めにしたまえ。ただもう少し違う角度では、君に情報を与える事が出来る。カーズ。君からそれを説明したまえ。」
カーズ、内調機関の総責任者だ。
岩崎はその名前だけを聞いたことがある。
実物は岩崎が想像していたより平凡な男に見えた。
「我々の所には、プラグを装着した人間がいる。それにソラリス外経由でCUVR・W3に接続できる装置もある。今回の様な捜査方針が立てられるまでに、我々は独自に捜査を開始していた。しかし残念な事に、我々は何も手に入れる事が出来なかった。送り込んだ捜査員達がこちらに回収されたとき彼らの脳髄は真っ白になっていたからだ。プラグや装置のせいとは考えにくい。第一、CUVR・W3に繋がっている母体コンピュータは、国家のものだ。我々が弾かれる訳がない。要は適正の問題だと判断した。ソラリスの第一レベルは特殊なのだと。」
カーズは事務的に話したが、その底には事件を一市警部長に横取りされた悔しさがある事を隠しようがなかった。
「ソラリスの第一レベルを構成している人間達は、巨大な精神力をもっていると言われますからね。内調の人間では無理なのかも知れない。」
岩崎が平然と言ってのけた。
カーズがもの凄い目で岩崎を睨み付ける。
その様子を見て禿頭の老人がかすかに笑いながらいった。
「返事だけを聞かせてもらおう。この会議は、もう君に時間を割裂く余裕は残っていない。」
「お引き受けします。」
岩崎は逡巡なく明快に言った。
「判った。管博士。彼を頼む。今直ぐだ。設備は内調のものを使えばいい。管博士、君もその方が楽だろう。」
「大変な事を引き受けましたな。」
管博士はエレベーターの地下十六階のボタンを皺だらけの手で押しながら岩崎に言った。
どうやらおしゃべり好きの老人でもあるらしい。
「博士はさっきの会議で、私のプラグ装着の成功率は高いと仰いませんでしたか?」
「問題はCUVR・W3の第一レベルに正式に接続された後の事です。ある意味で貴方が無事だったのは、プラグなしで第一レベルをのぞき込んでいたからなのかも知れない。ただの閲覧者に過ぎないのですからな。CUVR・W3の第一レベルでプラグで接続するという事は、そこにいる相手のむき出しの精神と同居するという事になるのだから。そこでトラブルが起こるのだとすれば、それは聖痕現象以上のもののはずだ。第一、アッシュ氏を殺害した犯人が第一レベルにいる可能性が高いのでしょう。しかも貴方はそれを追う立場にある。高次の意識から貴方は丸見えだ。潜入捜査にもならんという事でしょうが。儂はカーズらの部下はそれで喰われたと思っておる。」
「しかし、それを心配するなら既にソラリスにはプラグを付けた監視管が、、、。」と言いかけて岩崎は、一昨々日の長いソラリス側のレクチャーの中に、第一レベル監視管の名前が挙がらなかったのを思い出した。
岩崎は、第一レベルの付き添いに第二レベルの内部監視管であるイマヌェル見崎が選ばれた理由を、ただプラグなしで接続できる人物だからだと思いこんでいたのだ。
もとから第一レベルには内部監視官など存在していないのだ。
(なんという間抜けだ。俺は頭に血が上っていた。こんな単純なミスを犯すとは。)
「第一レベルに接続しているメンバーのリストが上がれば早いのでしょうがね。それはトップシークレットになっている。あの人でさえも、その全容の細目を知らない筈だ。」
管博士はそう言ってから、しまったと言った顔をした。
「この世にもミスターXが知らない事があるのですな。」
管博士は触れては為らない領域に一瞬だが踏み込んでしまったのだ。
結局俺は奴らの手駒だ、、岩崎が内心、歯がみをした時、高速エレベーターのドアが開いた。
そこは、内調のCUVR・W3対策ブロックに繋がる廊下の入り口でもあった。
0
あなたにおすすめの小説
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー
びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。
理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。
今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。
ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』
計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る!
この物語はフィクションです。
※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~
月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―
“賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。
だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。
当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。
ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?
そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?
彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?
力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる