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第一章 遺産
14: ジャッキー・ハートランド
しおりを挟む「暫く見ない間に、いい男になったわね。君のお父さんから、真言君に乗り換えちゃおうかしら。」
ジャッキー・ハートランドはガラスコップの中のストローをかき回しながら宛然と笑った。
ハートランドは年齢的には保海真言の母である忍と同年代であるが、彼女も又、老いを感じさせない美貌の持ち主だった。
忍が陰の美ならハートランドは陽の美だ。
そして彼女も又、独身だった。
真言には、この魅力的な二人の女達を独身の状態に至らしめた原因が、彼の父にあるとはとうてい考えられなかった。
しかし事実はそうなのだ。
「で、なんなの?真言君から呼び出しなんて珍しいわ。私は貴方のお母さんの恋敵なのよ。」
ハートランドが悪戯っぽく笑う度に大粒の真っ白な歯が煌めく。
「僕はそんな風に貴方の事を考えた事はないし、それに父はもう死んでいます。」
「そうかしら、、、、。私にはそうは思えないわ。あの人はいつもそう。」
ハートランドは不思議な笑みを浮かべた。
「親父の事を調べたいんです。」
「死んじゃったのならそれでいいじゃない?真言君はいつもあの人に対しては頑なだった。そうでしょう?今更、調べて何になるの。」
ハートランドは青い瞳で真言の顔を直視した。
「僕が親父を拒絶していた事は認めます。今、親父の事を調べたくなったのは、父の死で思慕の念が湧いてきたからではありません。その必要が出てきたんです。母には頼めない種類の事です。」
「忍さんが駄目でも、私なら協力して上げられるの?」
「そうです。僕はHOKAIシステムの角度から親父の事知りたいんです。貴方は父の助手をされていた。それに今も、CUVR・W3のエキスパートだ。」
「源三郎さんからは叱られないの?」
ハートランドは楽しそうに言った。
まるで父親の目を盗んで悪さをしようとする甥っ子の相談を受けている叔母のような表情だ。
「僕が、何人の人間を痛めつけてきたかわかりますか?僕はそういう人間なんですよ。」
真言は話を早く進めたかった。
なにもハートランドが真言を子ども扱いした事に苛立っていたわけではない。
気持ちが荒ぶったのは、ハートランドが待ち合わせ場所に選んだ場所が悪かったのだ。
確かにここは、ハートランドのような人間の動向が問題にされず、そういう意味で関心を持たれない点では絶好の場所だったがその分、物騒な人種が多すぎたのだ。
そんな街から立ち上る「気」のようなものが、今の真言を刺激するのだ。
この街には、ハートランドのこぼすかも知れない情報を狙っている産業スパイ達の代わりに、彼女の肉を食らいつくしたいと思う人間たちがひしめき合っている。
現に、数分前から窓際に席を取る彼らを、物騒な連中が、道の向こうから物欲しげに眺めていた。
彼らのハートランドを見る目はギラつきすぎていた。
「そう。俺はあそこにも毛が生え揃った立派な大人だって事を言いたい訳ね。で、どうしたいの?」
「まず親父の蒸発の原因です。その間、どこにいたのか?何をしていたのか?きっと家族をほっておいて何処かで何かをしていたはずだ。あの親父が生活に疲れて蒸発だなんて事は考えられない。」
「蒸発って言葉はどうかしら。彼からの連絡は定期的に忍さんにもあった筈だし、この私にもあったのよ。」
「連絡ですって?母はそんな事をおくびにも出さなかった。」
それは真言が考えにも及ばぬ事実だった。
恐らく叔父の源三郎もその事を知らないだろう。
しかしそのことで保海源次郎が、名もない漁村に『降り落ちて』来たのを、タイミング良く地元の暴力団が回収できた訳が理解できる。
忍がその場所を何らかの方法であらかじめ知っていたのだ。
「忍さんが言わなかった理由?それは真言君に迷惑がかかるからよ。それに一端出かけたら、なかなか家族にも顔を合わせられない場所もあるのよ。」
真言は死ぬ直前の父親の姿を思い出した。
干からびたミイラ同然だった。
それに体中にびっしりと彫られた入れ墨。
そんな状態に人間を追いやる場所があるのだろうか?
否、有るのかも知れない。
現に保海真言は『厚みのないモノ』を、その父親から受け継いでいたのだから。
「この地球上に違う世界に繋がるゲートがあると言って、真言君は信じるかしら。私は信じられなかった女だけど、、、。」
ハートランドの表情が真剣になった。
「それはCUVR・W3と関係がある?」
「あれば、まだついて行けたわ。、、と言うか表面的な意味でね。でも彼はそれを探し当てたのかも知れない。源次郎がCUVR・W3を開発して、一番最初にやった事は何か判る?」
「皆目。」
「CUVR・W3は、世界中のビッグマザーを利用することを知っているわね。彼はそこで民族学上のデータから初めて気象学まで、ある目的の為に、ありとあらゆるデータにアクセスした。アクセスだけなら誰でも出来る。でもそれを生身の人間が、通常の手段で行う事は時間的にとても無理だし、第一出来たとしても人間の処理能力を遥かに超えているわ。ねぇ。人間の目がカメラと違って、目の前の情報に対していかにデタラメかは知っているでしょう?でもそのデタラメさは、見たいものだけを見れるという点で実に合理的でもあるのよ。源次郎はそれをCUVR・W3を通じてやろうとした。彼は、この世ならざる世界を見つけるために、この世界のデータを有る一つの形状にまとめ上げ、それを疑似体験することによって、ならざる世界を直感的に見つけだそうとしたのよ。奇妙な論理でしょう?でもCUVR・W3に深く関わるほどそれが可能だと最近になって思えてくるの。」
ハートランドの陶器のような白い肌が紅潮していた。
自分自身の話に興奮しているのかも知れない。
「、、、ハートランドさん。ここを出ませんか?顔を動かさないで窓の外を見て下さい。ゴキブリどもの数が増えている。」
真言は、この場所に居座るのはそろそろ潮時だと感じた。
店の前の表通りの人通りが途絶えている。
この世界に住む人間は、誰もが、多少なりとも危険を回避するアンテナを備えている。
誰も、自分の視野に入ってきた盛りの付いた狂犬達には近づかない。
「見なくても判っているわよ。あの連中の事ね。でも真言君は強いんでしょう?」
ハートランドの表情はいつもの悪戯ぽいものに戻っていた。
「呆れた人だ。僕を試したくて、わざとこの場所を選んだ。そうなんでしょう。」
ジャッキー・ハートランドは肩を大げさに竦めながら、席をたった保海真言に続いた。
通りに出た途端、街のチンピラどもは彼らを、待ってましたとばかりに取り囲んだ。
彼らがジャッキー・ハートランドの素性を知って誘拐まがいの事を企てているのか、それとも単に極上の女が舞い込んだから、それを喰ってやろうと考えたのかまでは判らない。
いずれにしても出会い頭の出来事ではないから、厄介事に発展しそうだった。
真言が鬼猿から借り受けた車の停止位置からは十メートルほど離れている。
相手は五人。
三人までは身体はノーマルのようだったが、その代わりにヤクをうっている様に見えた。
真言は、後の二人の歩き方の不自然さで、彼らがバイオアップ処置を受けている事を見抜いた。
真言の左脇にはフレシェットガンが吊されており、右脇には寸を詰めた二次元刀がやや斜めに隠されている。
二次元刀の刃は、厚みがないという特徴は勿論だが、その「長さ」も確定的なものではないことは後に判っていた。
刃の形状は真言の意志に反応しているのだ。
もちろん、二次元刀をこんな場面で使うつもりで身に付けているわけではない。
いわば貴重品を肌身離さず持っている、そんな感覚だった。
だが、一度、これを実戦で試してみたいような気もしていた。
二次元刀の刃には厳密な意味で実体がなく、鞘の方もそれに合わせて伸縮指揮棒の様に三段階に縮むことは(独房)の中で調べ尽くしてある。
今は、二次元刀を人目に付かずに持ち運ぶために最も短い状態にしてフレシェットガンのショルダーホルスターの開いた方にぶら下げてあった。
真言は今回、素手を使わずに二次元刀を使ってみる気になっていた。
真言の素手も、フレシェットガンも、二次元刀も、全て相手に致命傷を与える能力を持っていたが、二次元刀のみが、その凄まじい切れ味故、急所さえはずせば相手が生き延びる確率が高いと言えたからだ。
もっともそれは切り落とされた身体の部位を彼らが回収し、病院に持ち込む知恵を持っていたらの話だが。
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