15 / 66
第一章 遺産
15: 交渉成立
しおりを挟む「よう、おばさん。そんなガキより俺達の方がいい味してるぜ。」
頬に鶏の蹴爪をバイオ接続したチンピラ達のリーダー格の男が、わざとらしく舌舐めずりをしながら言った。
「絵に描いた様なお決まりの威し文句ね。私、銀甲虫のコールナンバーを持ってるのよ。」
ハートランドは保海を庇うように彼の前に出て胸を反らせる。
銀甲虫のコールナンバーは国家的重要人物に対する特典のようなものだ。
銀甲虫が本来の特別出動をしていない限り、ボディガードのようなサービスが受けられる。
銀甲虫が制度として成立する際に、このルールも裏取引の材料として発生していた。
他にもごく僅かだが、一般人用に、本人がそれを申請し、資格が認められばコールナンバーが与えられる特例もある。
それがあるからハートランドは、こんな場所での悪戯めいた出会いを楽しむつもりになったのだろう。
「ふん。そんなもの役に立つもんか。アタシも昔、あんたと同じようにミッキーマウスクラブに入ってたんだよ。所がどうだい。あの糞虫どもがやって来たのは、私がレイプされた後だった。」
ヤク中らしい女が喚いた。
その女のTシャツには擬人化された狂犬の顔のプリントがしてある。
保海は彼らがカルマドッグと呼ばれているチームである事に気づいた。
彼らはヤクザの様な組織でも少々手を焼く存在だった。
「と、いう事さ。奴らが来るかどうか、数秒有れば片が付く。嘘だと思うんなら、やってみな。」
ハートランドはハンドバックを引っかき回して、リップステックの様なモノのスイッチを押した。
そして数秒後、ハートランドはその美しい眉をひそめた。
リップステックからは期待された反応が返って来なかったのだろう。
その様子を見ていた男はヒステリックに笑った。
頬から生えだしている鶏の蹴爪が震えている。
「残念だったな。呼び子は効かないぜ。この街には銀甲虫よけの魔除けが至る所にあるのさ。なにせ、ここの連中はあの糞虫共が大嫌いだからな。」
その時、ハートランドの後ろにいた真言がするりと前にでた。
「思い出した、貴様らカルマドックだな?保海組のガトーの叔父貴の手を焼かせているそうだな。なんなら、ここで全員始末してやろうか?」
そう静かに言い切った真言の顔を、鶏男は不思議なモノを見る目付で見つめた。
カルマドックはこの町に巣くっているギャング団だ、誘拐、拉致、人身売買なんでもやる。
「ああん?なんだこの坊主は?家に帰ってせんずりでもこいてろ。」
鶏男が、子どもを脅かすように、真言に両手を突き出しながら舌を左右に動かして見せた。
それに対して真言は左手を軽く前に振り出した。
途端、鶏男の両腕がボトリと地面に落ちた。
余りにもあっけない真言のアクションと、残酷な結末だった。
「野郎!」
バイオアップされたもう一人の男が真言に一歩大きく踏み込んだかと思うと、回転し、その勢いで強烈な脚蹴りを放った。
男の蹴りと同時に真言はゆらりと動いた。
その動きは男の回転と同じ方向に、しかもその内懐に向かっていくものだった。
二人の身体が入れ替わったあと、脚蹴りを放った男の脚もふくらはぎから両断されている。
なぜか血は鶏男と同じく噴出しない。
真言はハートランドの為に、彼らがバイオアップであった事を感謝した。
例え二次元刀を使っていても相手が生身の人間であったなら、噴出する血の残酷なイメージの為に、真言は彼女から一生、口を利いて貰えなかったに違いない。
残ったヤク中の三人には目の前で何が起こったのかが理解できていないようだった。
それほど真言の動きは静かで、又、二人の男達を傷つけた凶器さえもその在処を見せなかったのだ。
「おい鶏。あいつらに医者を呼ばせる事だな。今なら間に合うぜ。」
鶏男の目は自分の切断された量手首に釘付けだったが、その焦点は合っていなかった。
彼の手首の切断面からは、緑色の粘液質のモノがにじみ出している。
だがそれは滴り落ちてこない。
血が出ないという事を除いては、バイオアップのパーツの典型的な切断面であったが、鶏男にしてみては、始めてみるものだったに違いない。
真言はハートランドの肘を掴むと、悠然と車に向かって歩き始めた。
カルマドック達の叫び声が入り交じり始めたのは、真言達が車に乗り込んで暫くした後だった。
環状ハイウェイを誘導ビームオートで流す真言の車の中で、ハートランドは小さく震えていた。
「真言君は、変わったのね。」
「昔は虫も殺せない気の優しい子だった?僕自身にはそんな記憶はないが、、、。ところで、貴方がミッキーマウスクラブに入っていたなんて、その方が意外ですよ。」
表向き、選ばれた善行を積んだ優良市民には、銀甲虫への情報提供の見返りとして彼らの出動要請権が与えられる、という事になっている。
一般市民はそれを半分は憎しみと嘲りの気持ちを込めてミッキーマウスクラブと呼んでいた。
実際にはそんな人間は殆どいない。
たまにいても、あのカルマドッグの女の様にこのシステムを本心から信じ込み、裏切られる事になる。
「今じゃ銀甲虫のコールナンバーは、有力者でなくても、お金で買えるのよ。たれ込み屋クラブに入る必要はないわ。それに私は、お金なんて払ってない。CUVR・W3への貢献が評価されたのよ。」
ハートランドは自尊心を傷つけられたと感じたのか少し怒ったように言った。
「成る程、銀甲虫はいつでも呼び出せる公的ボディガート代わりという訳だ。大したもんだ。金と権力はいつでも人間に魔術を見せてくれますからね。」
真言はどう猛に笑って見せる。
別段、意識してその表情を作って見せたのではない。
それはこんな時の彼の習い性だった。
「今の君のその顔は、人を脅すときの保海源三郎にそっくりだわ。」
「、、どうでも良いことだ。それより今ので僕は子どもじゃないという事を貴方に示して見せた。僕の頼みを大人の頼みとして聞いて貰えますか?」
保海真言はハートランドの恐怖が醒めない内に最後の威しを掛けた。
ハートランドは真言が寝小便を漏らしていた時代を知る女だ。
そうでもしなければ軽くあしらわれるのは目に見えていた。
「そのチンピラじみた言い方は気にくわないけれど、まだ私に協力できる事があるなら言ってご覧なさい。」
「CUVR・W3に潜りたい。できますか?叔父貴の所のCUVR・W3を使ってでもいい。」
この申し出の為にハートランドの顔は更に曇った。
「確かに保海源三郎が起こそうとしている企業設備のシステムはもうスタンバイしている。私の口から言うのはなんだけど、ソラリスと比較しても兼色はないわ。でも今やるのには危険が伴うのよ。ビッグマザーに接続するのには政府の認可が必要なの、源三郎は必死になってそれをとりつけようとしているけど、時間がかかりそうだわ。」
「秘密裏に接続しなければならないという事ですね。それは僕にとっても有り難い。貴方ならそれが出来る筈だ。」
「仕方ないわね、、。でも直ぐにと言うわけにはいかないわ。準備がいるし、それに長くも続けられない。いいわね。」
「で、いつ?」
「明日の昼から。ビバリーのボシュロム美術館を知っているわね。今は廃館になっているけど、そこに来て。」
保海は車のビーム誘導を切り離すと、マニュアル操作に切り替えた。
急激な加速にハートランドが小さく息を飲み込んだ。
彼には明日の昼間までに、やって置かなければならない事がいくつかあったのだ。
何時までも美しい姥桜とドライブを楽しんでいる訳には行かなかった。
0
あなたにおすすめの小説
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー
びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。
理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。
今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。
ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』
計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る!
この物語はフィクションです。
※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~
月江堂
ファンタジー
― 後から俺の実力に気付いたところでもう遅い。絶対に辞めないからな ―
“賢者”ドラーガ・ノート。鋼の二つ名で知られる彼がSランク冒険者パーティー、メッツァトルに加入した時、誰もが彼の活躍を期待していた。
だが蓋を開けてみれば彼は無能の極致。強い魔法は使えず、運動神経は鈍くて小動物にすら勝てない。無能なだけならばまだしも味方の足を引っ張って仲間を危機に陥れる始末。
当然パーティーのリーダー“勇者”アルグスは彼に「無能」の烙印を押し、パーティーから追放する非情な決断をするのだが、しかしそこには彼を追い出すことのできない如何ともしがたい事情が存在するのだった。
ドラーガを追放できない理由とは一体何なのか!?
そしてこの賢者はなぜこんなにも無能なのに常に偉そうなのか!?
彼の秘められた実力とは一体何なのか? そもそもそんなもの実在するのか!?
力こそが全てであり、鋼の教えと闇を司る魔が支配する世界。ムカフ島と呼ばれる火山のダンジョンの攻略を通して彼らはやがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる