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第四章 ハートランドのゲーム
55: 2つの月が並ぶ時
しおりを挟む「関わるなって、言っただろう、、。」
「そうだっけ?忘れてた。ところで、奴ら何者だ?」
「あんた、それも分からず、あんな派手な事をやらかしたのか?ったく、俺が警察止めんのにいくら払ったと思ってるんだ。」
カサノバベックは、大聖堂の階段を登るのを止めて呆れたように言った。
が、その時の流騎冥の惚けた顔を見て、諦めたように、再び足を上げた。
「奴らか?又、あんたと揉める発端になりそうだから、あんたにゃ名前は出せない。スネーク・クロスに、ウチのボスをやれと依頼した組織の奴ら、で判るだろう?奴らもここに下見に来てたんだろうな。狙撃が上手く成功したら、間を置かずここで何かをやらかそうと企んでやがったのかも知れない。そんな矢先に、俺たちが雇った対抗狙撃の便利屋に出くわした、、てとこだ。奴らが、あわよくば、あんたの腕の一本でもへし折ってやれと考えても不思議じゃない。だが、ここは大聖堂の前だ。いくら奴らでも、無茶はやらないと思ったんだが、、、無茶をやったのは、あんたの方だった。」
「、、俺も有名人になったもんだな。」
流騎冥が、今更かきあげなくても、元から逆立っている金髪の前髪を指ですくい上げた。
「、、もういいよ。しかしあんた、もう少し出来た人かと思ってたんだがな、、?」
「銃口を向けられたからだよ。それでスィッチが入った。軍にはそんな奴はいない。それをやる時は、本気の命のやり取りが前提だ。」
兵士同士の流血を伴うイザコザがないわけではない。
だがその時、コケ脅しの力を笠に着ての脅しは通用しない。
誰もが自分の背中に等分の死を貼り付けているからだ。
それが例外的に出来るのは権力のある上官だけだったし、その上官に本気でついて行く兵士はいない。
「何もわかちゃいないくせに、賢そうな面をして見下した目で他人を見る。他人の命を奪う銃を、簡単に振り回す。俺はそういう奴らが大嫌いなんだよ。」
最後の台詞を流騎冥は吐き捨てるように言った。
「さあ、ついたぞ。ここだ。」
二人が長い隠し階段を登って到着したのは、クルナギ大聖堂の司祭が登壇する内部バルコニーが見下ろせるキャットウォーク状の隠し通路だった。
流騎冥は、キャットウォークの縁ギリギリに立って、下を覗き込んでいる。
結構な高さがあり、眼下に信者達が集まるホールも見てとれた。
カサノバベックは、高い場所が苦手なようで壁際から離れない。
「二つの月が揃って天に昇る夕べに、ボスはこの下のバルコニーで祈りを捧げる。そのあとスピーチだ。そして招待客たちが、こぞってボスに拍手を送る。儀式の完了だ。それでこの世界でのボスの位置が完全に確定する。」
二つの月への宣誓?
たしかに、我々の母なる惑星があった位置を、天空の2つの月が指し示す夜には、教会に限らず様々な場所や、人々によって、神事や行事が執り行われる。
それが暗黒街のボスの世代交代にどう使われるのか、その詳しい成り行きを、流騎冥は聞かされていないし、また聞くつもりもなかった。
流騎冥には、街のクズどもが、何をどう企もうが関係なかった。
要はスネーク・クロスの殺しを阻止する事、そして、その阻止した相手が、同じ軍の元スパイナーであることを、彼に知らしめる事だけが重要だった。
「暗殺の宣戦布告があったのは1ヶ月前だ。」
日時と場所を予告した狙撃は、既に暗殺とは呼ばないのだが、そういった暗黒街の遣り口の知識は流騎冥にもあった。
人口の多寡が、各コロニーの優劣を決めるような世界では、例えマフィアの世界であっても、偶発でない限り、そうたやすく人死には出せない。
ましてや、どちらかが全滅してしまうような規模の組織同士の武力抗争などは考えられないのだ。
従って戦略的な暴力闘争が展開される時には精神的な戦術が多く利用される。
この狙撃は、対抗組織が、コレルオーネに対して最後に仕掛けた地雷、あるいは「踏み絵」の様なものらしい。
暗殺狙撃を恐れ、己の存在を知らしめる為の最も重要なイベントから逃げ出すのか?そこに登場して己の胆力と実力を周囲に見せつけるのか?
コレルオーネが殺されれば、勿論、次はなく、完全な敗北ということになる。
抗争の果ての最後のケリの付け方とすれば、まあ妥当な所なのだろう。
「だから俺達は、狙撃を防ぐ為に当日のロケーションを徹底的に調べ上げ策を講じて来た。だが、どうにもならなかったのが、この場所だ。」
聖堂は、外界とコロニーを隔離する外壁に近い場所にある。
2つの月が並ぶ時、その様子が最も美しく見える場所だ。
聖堂が建てられた意味を考えると、当然の事でもあった。
「ここからだと外壁まで2キロほどだな。それに、この方向にある外壁は一部がハニカム構造になっている。更に1キロ後ろは、無人の農業コロニーだ。合計3キロ。そこからハニカムの穴を潜ってここまで狙い撃つてか?まあスネークならやってのけるだろう。しかし、それならまだ対抗手段はある。無人コロニーへの人員の配備と、下にある演壇から外へと突き抜けになっている開放された窓を遮蔽することだ。」
流騎冥は、聖堂の縦長アーチ型の巨大な窓の向こうに開ける光景を見ながらそう言った。
コロニーの外壁の向こうに覗ける砂漠は、いつもの様に荒れ狂っていて、全てが霞んで見えた。
「無人コロニーへの人員配置は勿論やる。俺はむしろそっちに期待をかけている。あんたは最後の保険見たいなモノだ。だが聖堂の窓への細工は意地でも出来ない。誓いとスピーチは、あの窓を通じて二つの月に向かってなされるものだ。それを避けるという事は、ウチのボスが自らキングの器ではないと言っているようなものだ。」
「で、その試練を万人の目の前で乗り越えてみせれば、コレルオーネのキングの座が確定するって事なんだな。」
「ライバル組織が仕掛けてきた最後の悪足掻きだが、意外にこれが効いてる。そうなる前に、スネーク・クロスを殺せと、方々に指示を出したが、未だに奴の尻尾すら捕まえられない。」
「コロニーの外に、身を潜めて居るのかも知れないぞ。軍に手を回せばよかったな。」
「それは最初にやった。軍は金ばかり要求しやがってまともに動かない。もしかしたら対抗組織と俺達の両方に良い顔をしてやがるのかも知れない。」
流騎冥はすぐさま、ジェシー・ルー・リノ将軍の顔を思い出した。
リノの正体は、正規の将軍職よりも、「軍の裏の顔」のまとめ役の方が、その実体に近かった。
両方に良い顔をしていると言うより、どちらかが倒れるまでは、双方から金を巻き上げ、生き残った方に恩義を着せ、軍の支配下にしようと目論んでいるのだろう。
軍は、コロニー内の治安に付いて、いざとなれば警察を差し置いて介入する権限が与えられているし、軍がその気になれば都市に巣くうマフィアなど木っ端微塵の筈だった。
「俺は、これから直ぐに外壁の方を調べに行く。あのハニカムをどうとかするのは無理だが、狙撃に使われる可能性のある穴の位置くらいはリストアップできる。そこから逆算して農業用衛星コロニー内の狙撃ポイントもかなり絞れるかも知れない。それでも言っておく。狙撃は一撃必殺、先手必勝だ。あんたの部下が向こうでスネーククロスを追い詰めることを期待してるよ。まあ、一発目が外れたら、こっちに勝ち目がない訳じゃない。俺も二発目が放たれる前に、弾をぶち込み続ける。それで向こうの狙いがズレるだろう。まあ、そんな感じだ。とうだ?その程度なんだぜ、それでもまだ俺を雇う気か?」
「勿論だ。リスクは承知のうえだ。ただ、それを最小限にする努力はする。ボスは、これが最後の賭けだって事は充分分かっている。今までもそうやって凌いで来たから、俺たちはこうやって駆け登れて来たんだ。」
「それならいい。だが、これは俺からの忠告だが影武者を使うのは止めてくれよ。その場は、そいつを代わりに死なせておいて、実は命を取り留めましたって、後から本人が現れるなんて筋書きは頂けない。俺も命張ってるんだ。それにそれをやってから俺の口封じみたいな段取りもな。そういうのには俺もそれなりに対応させてもらう。まあ、大丈夫だとは思うがな。おたくのボスは、今までだって命をかけて来たんだろう?」
「、、随分、渋いことを言うんだな?」
「ああ。あんた、俺が何で退役させられたか本当の理由を知ってるんだろう?俺は、二度も三度も他人に利用され使い捨てにされるつもりはない。俺はあの時から、真剣勝負をやるのは、相手が同じく真剣勝負をやる時だけに、してるんだよ。」
流騎冥は、暗い目でそう言った。
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