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第3章 聴講生になったので、自由にします!

領主が出張って来た

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  召喚獣たちは小屋に戻して、冒険者ギルドに水晶の間を報告すれば……

  4階層と低い事もあって、胡散臭げだった。

  ただ、自分の履歴でも見たんだろうねえ。

  「確認させる。それまでは待機だ」

  そう言われて、辺境伯領の上級ダンジョンで2週間待たされた事を思い出した。

  けど、4階層だし、すぐだろう。と思ったんだ。

  「6階層以下に潜ってて良い?」

  そう聞けば、眉を釣り上げて、「待ってろ!」と言われた。

  何日掛かるのよ!と思って、アヒル口になってたら、ギルマス、ブツブツ言ってた。

  「成人したばかりに、能力があるからと、ランクあげるんじゃねーよ」

  絶対!に、この町を拠点になんかしないんだから!



  待って2日目に、確認はされた様だけど……

  「領主様が褒美をくださるそうだ。明日の晩、領主邸から馬車を寄越して下さる。綺麗にしておけ」

  もう、にやにやした顔から、ギルマスの邪な考えが、手に取る様に分かった。

  自分を使って、領主様の機嫌でも取ろうって。

  ん?領主様の機嫌?

  あー!そっか、マグノリア嬢がふくよかになった事で、勝手に失望して、失恋したエイドリアン公爵様か!

  なら、わざわざドレスなんか着ず、冒険者スタイルのまま、行かせて貰おうかねえ。

  しかし、いつになったら、6階層以下に潜れるのかしら?

  なんかめんどくさくなって来た。



  お約束通り、次の日の夕刻に、冒険者ギルド前に、お迎えの馬車が来てたんだけど……

  ギルマスが「礼儀を分かってないのか!」と怒鳴ってたので、無視してたんだ。

  武器を取り上げられるのも嫌なので、既にインベントリに直してるので、手ぶら状態。

  そこに馬車、だったんだけど……

  くくくと笑って、降りて来たのが侍従じゃないのは、1目で分かるよ。

  絶対者の鷹揚な態度で、直々に来た事に気付いた。

  ギルマスは顔色を変え、「エイドリアン公爵様!」と叫んで、アタフタしてるし。

  でも、まあ、王太子殿下を見てるので、慌てはしないけど。

  だけど、やけに面白そうに見て来るのは、何でだろう?

  ヴィルジーク様並の強面のイケメンだけど、こっちの方が顔もガタイもゴツいね。

  これで、儚げな美女が好きって、美女と野獣か!

  「初めまして」と言って、貴族の令嬢相手に、挨拶として行う手の甲へのキスをしてるんだけど……

  手のひらの方を愛撫する様に擽って、にこって、上級テク!

  深窓の令嬢であれば、顔を真っ赤にする処だよ。

  「シルヴィオ・エイドリアンだ。Aランク冒険者のライラ・ドーリッシュ子爵令嬢」

  フルネームって、自分の事を知ってるって言ってるよ!


  エスコートされるまま、馬車に乗り、向かい合わせに座れば、またにっこり微笑んだ。

  「お名前はかねがね聞いていたが、なるほど可愛らしいだけの方ではないのだな」

  聞いていた?!って、誰からよ!とは言えないので、首を傾げておいたんだけど、眉間に皺が出そう。

  必死に、顔に猫を貼り付けてるのに、逃げ出しそう。

  「冒険者ですので、この様に、もてなして戴かなくても」

  シラっと、そう言ったんだけど、何でかくくくと笑ってる。

  まさか……

  ヴィルジーク様の学友とまでは思わなかったんだ。

  ほぼ同い年なので、顔は知っているだろうけど、知古と言える仲だとまでは。

  小さい頃から冒険者してる自分を心配して、ヴィルジーク様が、放課後、自分が外から戻って来る処を見に来てたり……

  自分に絡もうとしたら、ヴィルジーク様がさりげなく牽制の睨みを効かしていたりする姿に気付き、学友達にからかわれていた事も知らなかったんだ。


  屋敷に着けば、丁寧に対応されただけでなく、公の晩餐であれば、20名ほどが一堂に会する長いテーブルの端と端に案内されるのに……

  家族用と言っていい、10名以下のテーブルで、それも近い対角って!

  どういうつもり!?と戸惑ってた自分。

  出されるディナーのクリムゾンディアのソテーなんか、ワインを入れたソース添えで美味しい筈が、警戒してる為、味が……

  シルヴィオ・エイドリアン公爵様は楽しそうだけどね。


  食後にやっと、水晶の間の話になって……

  長かったと思ってたら、褒美は、好きなだけ上級ダンジョンに潜れるだけじゃなく、領内を出入り出来る、エイドリアン公爵家の家紋のバッジ。

  いやいや、拠点はダーイン辺境伯領ベーゼルで良いです。

  ここの上級ダンジョン踏破したら、戻って、見付けた上級ダンジョンに潜るんだ!

  だから、戴いてもねえ。

  でも、わざわざ事を荒立てなくても良いし、貰っとこ。

  「ありがとうございます」

  神妙に、頭を下げて貰っておいたんだけど……



  次の日、上級ダンジョンに潜ろうとしたら、にこにこ笑顔のエイドリアン公爵様が、数名の鎧を着た騎士達と居た。

  顔が引き攣りそうになるよ。

  まさか、だよね?

  位置把握の魔法が掛かった魔道具のバッジだった!?

  えっ!でも、自分をストーカーする価値ある!?

  自分、守ってあげなきゃいけない美女じゃないよ!




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