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※愛し子の成長の一方で※
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愛しい子が同胞となるのを心穏やかに見守りたいだけなのに
「誰が無礼講などと言った……。我の戯けが」
翌日、目覚めた風琴は唸りながら言った。あの後何度絶頂しただろうか。確か5回以上? よく覚えていないが、少し起き上がるだけでも腰が悲鳴を上げる。
また今夜も抱かれなくてはいけないのか!? 誰だこんな契りを考えた奴は。腰痛用の塗り薬を東雲に塗ってもらいながら茵に沈んでいた。
「腰が悲鳴を上げないようにしっかりしろと忠告しておいただろ。月夜君が猛獣なのは分かるけど、一度身体を重ねてへとへとだったくせに、無礼講なんて言って誘うお前も中々にあれだな」
「妙薬のせいで、何かおかしくなっていたんだ。いつもの我なら流石にそんなことしない」
東雲に拳骨を与えたかったが、少しでも動くと腰が痛むので動けない。風琴は苛立ちをぶつける術も無く、舌打ちをした。
「そういや昨夜、騰蛇と紅月が結界の修復作業を手伝っていたんだけど、そのことでお前に伝えたいことがあるらしい。どうする」
「急用じゃないなら、明日が良いんだが。起き上がりたくない」
こんな姿を素顔を見られた相手に見られたくなどない。見られたら恥ずかしさのあまり熱を出しそうだ。東雲は、はいはいと返事する。
「一応伝えとくが、もしも急用であればせめて着替えないと、『天狗の最強のくせに、女役で腰が壊れる程抱かれたんだ』と思われるぞ。騰蛇からすれば、闘った相手が女役であんあん悲鳴を上げていたなんて知ったらとか情けなくて泣くかも」
本当にそれは嫌だ。騰蛇殿に知られたらまずいし、何より紅月に知られれば笑われる。急用でないようにと、風琴は願うしかなかった。
東雲が交渉してくれたものの、結局午後に会うことになった。痛む腰を擦りながら、のろのろと着替える。
いつもは我よりも先に起きているというのに、月夜はまだすやすやと寝息を立てている。肉体が妖力に適応しようとしているので当然であろう。それに昨夜は遅くまでやっていた気がする。風琴は苦笑して、月夜の頭を撫でる。
「腰が痛むのは嫌だが、お前がそれだけ大きくなった証だと思うと悪くはない」
枯木の如く痩せ細っていた童が我を困らせる程、成長したのだから喜ぶべきだろう。風琴は月夜の頬をそっと撫でると、部屋を後にした。
客間に入ると、先に紅月と騰蛇殿がいる。こやつらに勘づかれぬようにしなければ。風琴は不自然にならぬ勢いで腰を下ろす。少しだけ腰が痛んだが、表には出さない。
「まず結界の修復を手伝ってくれたことに感謝いたす。それで話とはなんだ」
「他の方には内密なので、音洩れしないように結界を張ってもよろしいでしょうか」
「ああ、構わん」
本当は我も使えるが、昨夜も使った上に口淫と情交で妖力があまりない。我が頷くと、紅月が指を鳴らして瞬時に結界を形成した。
「某と騰蛇で結界の壊れ具合を念入りに見て参りましたが、某達にしか分からないような細工の痕跡がございまして、他の天狗の方の耳に入る前に貴方にお伝えしたかったのです。……細工の位置は内部にございまして、内部の者が外法師を手引きしたか、主犯の可能性が高いかと」
紅月はあまり信用しきれないので、騰蛇殿に目を遣る。騰蛇殿は我の視線を受け止めると、ただ縦に首を振った。
「お前達しか気づかぬとは、よっぽど下手人は証拠を念入りに消したのだな。教えてくれて感謝する」
紅月と騰蛇殿は唖然として我を見る。もしや、我が盲目で同胞を信じており、同胞を疑われて怒るのかと思ったか。我は思わず溜め息をついた。
「言っておくが、人間嫌いで同胞の命を大事にしているからと、同胞を疑わぬ訳ではないぞ。むしろ我はまだ若年でありながら、隠居の身に追いやられたのだ。疑って当然だろうが」
何せ、義母の取り巻きに何度も殺されかけたのだから。風琴の残っている妖力が不穏に揺らいだ。
「以前から気になってはいたのですが、里から追い出された経緯について説明してもらえませんか」
こやつは余計なことを詮索するのが好きなようだな。風琴はあからさまに舌打ちをする。
「騰蛇殿も気になっているご様子ならば話さないこともないが、どうですか」
「ああ、俺も貴方のような俺と同等に渡り合える者が天狗の上の奴等から邪険に扱われている理由は気になる。今回のことに関係があるかもしれないし、話してくれないか」
……よりによって騰蛇殿までもか。風琴は舌打ちこそしなかったものの、少しだけ恨んだ。
「陰陽道に属する者であれば、他言しないと誓え。であれば、言っても構わぬ」
術師であっても神であっても、言質を取られるということは最大の首輪となる。誓ったことを破れば、どんな災厄が身に降りかかってもおかしくないし、我程の妖力のものであれば簡単に呪い殺せる。
「某、鷹智の懐刀である紅月は他言せぬと誓おう」
「同じく、十二天将騰蛇も他言しないと誓う」
いや待て。普通は俊巡する素振りぐらい、見せるだろうが。慇懃ではあるが、あっさりと言質を譲られたので風琴は困惑する。だが、言質を取ったからには答えねばならない。風琴は拳をぎゅっと握る。
「我が里を負われたのは、隠居の身であった先代こと我の父が亡くなったことで後ろ楯を喪ったこと。そして今の長と違い、我の母が元は人間だったからだ」
あまり思い出したくもない。我が知っている母上は天狗であった。飛ぶことは少なかったが、しなやかな翼と柔らかな妖力を兼ね備えた優しい方。
追い出された時、亡き母を愚弄されても何も言えなかった怒りと悲しみが蘇り、風琴は顔をしかめる。
「よろしければ、風琴殿のお母上が天狗になった経緯もお話頂いてよろしいですか」
「長くなっても構わないなら」
風琴は少し息を整えると、淡々と話し始めた。
平安京が出来たばかりの頃であろうか。その当時、豪族の娘であった風琴の母は、宮中で女房として仕えることが決まっていた。
だが京に上る1月前に事件が起こる。豪族の領地を騒がせていた鬼が豪族の屋敷に乗り込み、彼女を連れ去ったのだ。
その頃、風琴の父は里を飛び出して日之本をふらふらとさ迷い、その豪族の土地に滞在していたところであった。豪族が娘を助け出した者は褒美をやるということで、娘を助け鬼を退治出来るものを募っていた。
風琴の父は腕試しと単身鬼のねぐらに乗り込んで、鬼に挑んだ。3日3晩の死闘を繰り広げ、どうにか彼は勝利した。
面も割れ、衣も襤褸切れ同然の彼が鬼のねぐらに身を潜めていた彼女に駆け寄って顏を見た途端、恋に落ちた。それもその筈、風琴の母は仙女に勝るとも劣らないと謳われた程の美人であったからだ。
だがその時の風琴の母は風琴の父に恋心を抱くことはなかった。天狗の本性を知って怯えることは無かったが、彼が何度も口説いても都で務めなければならぬと首を縦に振らぬ。
勿論、豪族も褒美として娘をやるわけにはいかないものだから、娘の代わりにありったけの財宝をやって領地から追い出した。
だが彼も諦めない。術で姿を偽り、都に向かう彼女の護衛としてその身を守ることにした。
そして無事に京に着いた彼女が女房として内裏に勤めている間、貴族に扮装して毎晩訪れては歌を贈った。母が言うには、風流を知らぬ粗雑な歌ではあったが必死に想いを伝えようとしているのが文面からひしひしと伝わったという。
それから数年後、女房として真面目に勤めていた彼女であったがある時、高い身分の者に見初められて襲われそうになった。彼女が咄嗟に呼んだのは風琴の父の名。呼ばれた彼はすぐに彼女の衣を剥ごうとした下衆を殴り飛ばすと、彼女の乱れた衣を整えてその場を去ろうとした。
しかし、彼女が彼の袖を掴んだので驚いて振り向くと、凛とした彼女が涙で顔を濡らしていた。
『他の誰かに奪われるくらいなら、貴方だけのものになりたい』
千夜か二千夜かは知らぬが、それ程通っても思いが伝わるとは思わなかった彼は、彼女を抱き締めると里に連れ帰ることにしたという。
それまで黙って聞いていた紅月が苦い顔をして都の方角に目を遣った。
「天狗が有能な女房を拐っても気づかないなんて、某が言ったら怒られそうですが、当時の 内裏の警備は甘過ぎですな」
「天狗の長の家系を見くびるなよ。父は関係者の記憶を弄ってから連れ帰っておる」
口にしてみると、帝の住処である場所に毎晩訪れた父は、危険を冒していたのではと思う。まあ人間側が問題にしなかったならそれでいいかと、話を続けた。
男の天狗が稚児を連れ帰って天狗にすることはよくあったが、女を天狗にするなど前代未聞。その上、長年里を飛び出していた嫡男が突然人間の娘を連れ帰って伴侶にすると宣言したものだから、大騒動になった。風琴の祖父は勘当を覚悟で反対した。
一方、風琴の父も不在の間に勝手に許嫁を決められていたので激怒した。結果、風琴の祖父と父は剣を交えることになった。
戦闘は天狗の歴史に残る程のもの。嵐が起こり、山は削れ、川は溢れる程の殺し合い。本来なら勝てぬ相手に風琴の父は死を覚悟で相対する。
決着が着いたのは十日後であろうか。精根尽き果てても剣の柄から手を離さない息子の想いを悟り、ようやく風琴の祖父は二人の婚姻を許した。
風琴の父と母は契りを結び、風琴の母は無事に人の身を捨て、天狗となった。
最初は2人の風当たりも強かったが、彼は必死に次代としての力を培い、彼女は宮中で身につけた人心掌握術を巧みに使って里の者達から認められていく。
徐々に2人とも里に馴染んでいったが、1つの懸念が残り続けた。それは中々子が成せぬということ。天狗は長命であるからか、出生率はとても低い。
その上、元人間である天狗が子を成せるかは分からない。2人ともそれに悩み試行錯誤した結果、100年近く後に風琴が生まれた。里中が喜びに沸いたが、数名だけが喜ぶどころか恨みを募らせた者がいた。
それから風琴が人で言えば7歳程度にまで育った頃、突如風琴と風琴の母が病に倒れた。どんなに手を尽くしても、病は悪化するばかり。
誰もが諦めたその時、どういう訳か風琴だけが治り風琴の母は病状が悪化して儚くなった。母の最期を看取ったのは、風琴の父のみ。誰も当時を詳しくは話したがらない。そして父までもがずっと真相を打ち明けることなく、秘密を墓場まで持っていってしまった。
「我に分かるのは、母が我の病まで引き受けて儚くなったことぐらいか」
「まさか……いや何でもない。天狗にはそのような病を肩代わりする術はあるのか」
「……我が知る限りでは無いな」
だから父が陰陽師か術師を連れてきたのではと考える。確証は一切無いから話さないが。風琴は騰蛇から視線を逸らすと、憂いを帯びた瞳を伏せた。
あれだけ母を愛していたのだから、父はもう女を娶らないと思っていた。だが父は周囲から言われるままに、かつて勝手に許嫁にされた相手と夫婦になった。
それからあの義母は父に隠れて風琴に冷たく当たるようになった。折檻など何度も受けたが周りは見てみぬ振りをする。父に言いつけようものなら翼を切り落として殺すとまで言われたのだから、幼い風琴は父に助けを求めることすら出来ない。
そこで命の危機まで感じた風琴は、側近であった東雲の父の元に身を寄せ、長となるための修練に励むことにした。母親が生前の頃は両親にべったりと甘えていた風琴が突然家を飛び出したことに風琴の父は戸惑いを隠せなかったが、何かを察していたのか風琴を無理に連れ戻すことはしなかった。代わりに東雲の父の元に訪れては、風琴の手合わせの相手をしたり、皆で枇杷を食べたりする程度の交流をした。
そして風琴が成人の儀を迎えると、風琴が次の長であると宣言した。その当時には既に義弟がいたのだから、当然義母やその親族は反対する。だが生来の妖力の差や皆を纏め上げ率いるだけの器が風琴にあるとして、周りに認めさせた。
風琴は父の元に戻ると、長の仕事を身につけながら着々と長に必要な経験を積み、数十年後には長の座を引き継いだ。
風琴が長の仕事に慣れてきて、そろそろ許嫁を決めるという時期になった頃であろうか。突然父が病に倒れた。薬師達が手を尽くしたが、改善する見込みはなく悪化していくばかり。人間に力を借りようともしたが、父は人間の手など借りたら自刃すると言って聞かない。風琴は段々窶れていく父をどうすることも出来ず、風琴の父は死んだ。
途端に風琴が長になることを反対していた者が声を上げ、風琴が長になったことで神がお怒りになって風琴の父が病に倒れただの、人間の血が混じった風琴よりも義弟が相応しいと捲し立てた。風琴の父を慕うものは少なくなく、いつしか風琴が父を邪魔と殺したと根も葉もない噂が流れた。
風琴が必死に長の務めを果たしながら釈明しようとも長老どもは聞き入れないし、味方だったものは我が身可愛さで知らぬ存ぜぬを突き通す。凩は風琴の唯一の味方であったが、同時期に濡れ衣で牢に入れられていたので頼ることが出来ない。
いつしか風琴は里から追い出され、風琴の父の療養の為に建てられた庵に住むことになった。
「ここまで言っておいて何だが、実は外の天狗はともかく、今まで我らの里で病で死の淵に追いやられた者は、我を含めて3名だけだ。意味は分かるか」
「つまり病は自然にかかったものではない。原因は何かしらの呪詛で、風琴殿の義理のお母上本人かその身内が呪詛を仕組んだと仰りたいのですか」
流石にこれくらいは幼子でも分かるか。風琴は紅月の答えに思わず口端を上げた。
「あくまで、我の予想に過ぎんがな。だが動機としては充分であろう」
「ですね。結界が意図的に破壊されたのは、恐らく月夜殿が天狗になる前に殺そうとしたと考えられます。もしくは月夜君だけでなく、我々や貴方も死ねば御の字という算段であったかもしれませんな。それでも某がすぐに起きて泰重殿が貴方を叩き起こせば、対抗出来たでしょうけど」
こやつ神の分御霊というだけあって、余裕綽々であるな。風琴は自信ありげな紅月を見据える。
「それだけ言う根拠でもあるのか」
「死体の検視は致しましたから。あの程度なら、神気で食い殺せます。某の元の神は穢れを贄として食い殺し、浄化に転じる火の神です。穢れが強ければ強い程に権能を発揮いたしますので」
あまり神気を使うのも良くないとは思うが。こやつの場合、その神気を使えば使う程、人の器にヒビが入る。今の時点でも天命は四十路まで持つかどうかというところだろう。風琴がじっと睨むように眺めていると、紅月は苦笑した。
「心配してくださるのは嬉しいですが、今は貴方様自身の心配をなさってください。月夜殿の天狗の儀はまだ途中なのでしょう」
「………はあ!? 貴様、何故……どうしてそんなことが言える?」
妖術で誤魔化していたのにどうして分かったのだ。動揺のあまり、風琴は身を乗り出すと腰が痛んで風琴は呻きを必死に噛み殺した。
「貴方自身が月夜殿はもうすぐ天狗になると仰っていたでしょう。流石に適応するまでには時間がかかるかなと思いまして。それと……いえ、これ以上は止めておきましょう」
何を言おうとしたのだろうか。気になるが、聞いては我が恥をかく気がして風琴は聞くのを止めた。
「……その通り。あと15日前後はかかると思ってもらっていい。どうかその間は夜に警戒してもらえるとありがたい。毎日妖力を注ぎ込むのでな」
「承知いたしました。ですが、何かしら報酬をいただけると有り難いのですが」
どうせならある程度ばらして見張りを頼んだ方が良かろうと思ったが、あっさり了承してくれた。しかし報酬か。何をやれば良いのか。腕組みをして考えていると、紅月が微笑んだ。
「では、これからの争い事が終わったらたまに月夜殿と某の里に訪れて頂くことを報酬として所望してもよろしいでしょうか」
「それが報酬で良いのか? 銭など所望しないのか?」
「ええ。それが報酬で充分なのです」
一体何を考えているのやら。でも悪い条件では無さそうなので頷くと、紅月は幸せそうに笑みを浮かべた。
「ところで、里を追い出されたにも関わらず、里の者の多くは風琴殿を慕っているようにも見えたがどうしてだ」
騰蛇に聞かれ、風琴はどう答えればいいかと少し悩んだ。
「正直に言って我も分からぬ。追い出された時は弟と我の元許嫁候補の娘くらいしか、我を引き留めようとしなかったのでな。恐らくは長や東雲達が何かをして印象を回復してくれたのだと思うが」
それ以外の者に出来よう筈もない。確たる証拠も無いので今後確かめる必要が出てくるかもしれないなと東雲がいる方角に視線を向けた。
「ともかく結界が壊された要因について、最低でも盟約を結ぶまでは我々のような余所者が下手に暴いてはまずいでしょう。ですが、今後貴方のような優れた天狗が命を落としては盟約の利が薄れてしまう。なので何かあれば、すぐにこれで呼び出してください」
渡されたのは紅い瑪瑙が通された組み紐。手にした途端、苛烈な神気を感じて肌が粟立った。
「何だこれは」
「蛇神の神気をありったけに込めた呪具です。御守り代わりにして身につけて頂ければ幸いです」
軽く妖術を使って調べてみたが、邪な呪詛は籠められていない。まあ無いよりはマシだろうと手首に巻いた。
「有り難く頂いておこう。では夜は頼んだぞ」
「仰せのままに」
紅月はわざと恭しく頭を下げた。
客間を出た紅月は結界で周囲を覆うと、ちょいちょいと騰蛇を手招きする。
「どうした紅月」
「風琴殿の目の前では言いませんでしたけど、風琴殿は絶対女役ですよ。いやあ、あんな強い御方が女役なんてちょっと意外というか可愛らしいというか」
紅月は目を細めてふふっと笑う。それを呆れた顔で騰蛇は見下ろした。
「あのな……あんまり下世話なことを考えてたら、殺されはしないが殴られるぞ。それにあんな美人だと女役もそれほど意外ではない」
「えっ……!? 騰蛇殿、風琴殿の素顔を見たのですか!?」
騰蛇はうっかり漏らしてしまい、目を泳がせる。俺は何も見てないぞと誤魔化す騰蛇をじっと見ていたが、聞き出せる様子も無かったので紅月は諦めた。
「まあいいでしょう。風琴殿、今夜もあんあん啼かされそうですね。ちょっと覗いてみたいなあ」
駄目だぞと騰蛇に無言の視線で制されると、紅月は冗談ですよと苦笑した。
紅月の予想通り、風琴はその夜も月夜に啼かされることになった。
「月……夜……それ……あっ……やっ………」
月夜に口淫をされてから、風琴は背後からその身体を貫かれ、甘い声を上げていた。肩を押さえつけられて、身動きが出来ない。
固くなった前が擦れて辛い。最初は前が乾いた布で擦れることに痛みがあったのに、先走りが褥を濡らして滑りが良くなったせいか、揺すぶられる度に快楽を拾い続ける。
「おぐっ……深……い……」
激しく奥を抉られるのが最早苦しいのか悦んでいるのか分からない。抉られる度に視界がチカチカとして、意識が夢を揺蕩うようにふわふわとしていた。
「ふっ……う……激……しす……ぎ……」
妖力に適応する際の体力の消耗で少しは我が優位になれると思ったのに、とんだ間違いだった。ぐちゃぐちゃと我の身体を掻き乱す水音には一切の衰えはなく、むしろ我の弱い所を的確に狙っているのが腹立たしい。
「師匠……すみま……せん……っ……」
余裕の無い弟子の声が背後から聞こえる。こやつ反省する気はあるのか等と怒る気力はない。涙でぼやける視界には、月の光が障子越で差し込む様が見える。ああ、綺麗だな。情事の最中というのにそんなことを思ってしまう。あの晩もこんなに綺麗だったのかもしれない。
「ん……んんっ……あ……う……」
背後に人の気配を感じるのはあまり好きではないが、愛しい弟子が背後にいるのは落ち着く。風琴が茵に爪を立てていると、肩を押さえつけていた手が離れ、咥内に指が入ってきた。
「うあっ……あ……え……」
2本の指が舌を挟み、残りの指が咥内を弄ぶ。呂律も回らず、ろくに唾液も飲み込めない。溢れる唾液が顎を伝って落ちていく様は、獣のよう。風琴が昇りつめていくのを感じていると、うなじに熱い息がかかった。
「師匠……かわいい……」
弟子の言葉に、風琴は思わず中の肉を締め付ける。月夜は息を詰まらせると、風琴の身体を容赦なく貫いた。
「ああっ……あう……はっ……ああ___っ!!」
がりっとうなじを噛まれ風琴は声にもならぬ嬌声を上げると、ビクビクと身体を震わせた。
「くっ……う……」
月夜はどくどくと中に出すと、抜かないまま我の上に身体を乗せた。熱を帯びた月夜の胸が我の背に密着するのは悪くないが、こいつ重いな。風琴は己のことを漬物石に潰される漬物のようだと思ってしまった。
「月夜……上からどけ。……ちと……重い」
「申し訳ございません。すぐにどきます」
月夜は横に退いたが、我の身体を掴みそのまま横向きになった。勿論中の物は抜いていないのだからぐりっと中を掻き乱す。
「ん……ぅ……」
1回出したのにまた硬くなっている。こやつはどれだけ我に欲情しているのか。どろどろになった下半身に目を向けながら、風琴は考えていた。
「昨日は散々したのにまだ元気だな。無理してないか」
「無理はしておりません。ただ……師匠の艶姿を見ると、中心が熱くなってしまうのです」
それは十分に分かっておる。現に我の身体を貫いている物が熱くてたまらないのだから。硬さからするに今抜かせては据え膳に何とらやで明日の朝に襲われかねない。仕方ない。あと1回やるかと風琴は腹を決めた。
「あと1回出したら今夜は終わりだ。後始末してさっさと寝かせろ」
「承知しました。師匠」
風琴がぶっきらぼうに言うと、月夜は風琴の身体を抱き締めて腰を打ちつけた。
「あっ……ん……」
風琴は月夜の腕の中で己を包む月夜の腕をそっと掴む。先程よりも海原を揺蕩うような律動や背中から伝わる月夜の鼓動に目蓋が重くなった。
「師匠……月の光が綺麗ですね」
「ああ……っ……そう……だな」
揺すぶられながら、障子越しの月を見る。やがてまた中に出されると、風琴は小さな寝息を立てて月夜の腕の中で眠った。
「師匠、愛しております」
月夜は風琴の身体を濡れた手拭いで清めながら微笑む。師匠の艶やかな姿は勿論であるが、眠る姿もかわいらしい。
疲れさせてしまうことへの罪悪感はあれど、師匠が私の腕の中で眠られるのは信頼されている証のようで嬉しいのだ。また明日も師匠が疲れるまでやってしまうだろう。もっと師匠が楽な姿勢でやらなければ。
それから試行錯誤しながら、体位を何度も変える内に10日以上が過ぎた。
「誰が無礼講などと言った……。我の戯けが」
翌日、目覚めた風琴は唸りながら言った。あの後何度絶頂しただろうか。確か5回以上? よく覚えていないが、少し起き上がるだけでも腰が悲鳴を上げる。
また今夜も抱かれなくてはいけないのか!? 誰だこんな契りを考えた奴は。腰痛用の塗り薬を東雲に塗ってもらいながら茵に沈んでいた。
「腰が悲鳴を上げないようにしっかりしろと忠告しておいただろ。月夜君が猛獣なのは分かるけど、一度身体を重ねてへとへとだったくせに、無礼講なんて言って誘うお前も中々にあれだな」
「妙薬のせいで、何かおかしくなっていたんだ。いつもの我なら流石にそんなことしない」
東雲に拳骨を与えたかったが、少しでも動くと腰が痛むので動けない。風琴は苛立ちをぶつける術も無く、舌打ちをした。
「そういや昨夜、騰蛇と紅月が結界の修復作業を手伝っていたんだけど、そのことでお前に伝えたいことがあるらしい。どうする」
「急用じゃないなら、明日が良いんだが。起き上がりたくない」
こんな姿を素顔を見られた相手に見られたくなどない。見られたら恥ずかしさのあまり熱を出しそうだ。東雲は、はいはいと返事する。
「一応伝えとくが、もしも急用であればせめて着替えないと、『天狗の最強のくせに、女役で腰が壊れる程抱かれたんだ』と思われるぞ。騰蛇からすれば、闘った相手が女役であんあん悲鳴を上げていたなんて知ったらとか情けなくて泣くかも」
本当にそれは嫌だ。騰蛇殿に知られたらまずいし、何より紅月に知られれば笑われる。急用でないようにと、風琴は願うしかなかった。
東雲が交渉してくれたものの、結局午後に会うことになった。痛む腰を擦りながら、のろのろと着替える。
いつもは我よりも先に起きているというのに、月夜はまだすやすやと寝息を立てている。肉体が妖力に適応しようとしているので当然であろう。それに昨夜は遅くまでやっていた気がする。風琴は苦笑して、月夜の頭を撫でる。
「腰が痛むのは嫌だが、お前がそれだけ大きくなった証だと思うと悪くはない」
枯木の如く痩せ細っていた童が我を困らせる程、成長したのだから喜ぶべきだろう。風琴は月夜の頬をそっと撫でると、部屋を後にした。
客間に入ると、先に紅月と騰蛇殿がいる。こやつらに勘づかれぬようにしなければ。風琴は不自然にならぬ勢いで腰を下ろす。少しだけ腰が痛んだが、表には出さない。
「まず結界の修復を手伝ってくれたことに感謝いたす。それで話とはなんだ」
「他の方には内密なので、音洩れしないように結界を張ってもよろしいでしょうか」
「ああ、構わん」
本当は我も使えるが、昨夜も使った上に口淫と情交で妖力があまりない。我が頷くと、紅月が指を鳴らして瞬時に結界を形成した。
「某と騰蛇で結界の壊れ具合を念入りに見て参りましたが、某達にしか分からないような細工の痕跡がございまして、他の天狗の方の耳に入る前に貴方にお伝えしたかったのです。……細工の位置は内部にございまして、内部の者が外法師を手引きしたか、主犯の可能性が高いかと」
紅月はあまり信用しきれないので、騰蛇殿に目を遣る。騰蛇殿は我の視線を受け止めると、ただ縦に首を振った。
「お前達しか気づかぬとは、よっぽど下手人は証拠を念入りに消したのだな。教えてくれて感謝する」
紅月と騰蛇殿は唖然として我を見る。もしや、我が盲目で同胞を信じており、同胞を疑われて怒るのかと思ったか。我は思わず溜め息をついた。
「言っておくが、人間嫌いで同胞の命を大事にしているからと、同胞を疑わぬ訳ではないぞ。むしろ我はまだ若年でありながら、隠居の身に追いやられたのだ。疑って当然だろうが」
何せ、義母の取り巻きに何度も殺されかけたのだから。風琴の残っている妖力が不穏に揺らいだ。
「以前から気になってはいたのですが、里から追い出された経緯について説明してもらえませんか」
こやつは余計なことを詮索するのが好きなようだな。風琴はあからさまに舌打ちをする。
「騰蛇殿も気になっているご様子ならば話さないこともないが、どうですか」
「ああ、俺も貴方のような俺と同等に渡り合える者が天狗の上の奴等から邪険に扱われている理由は気になる。今回のことに関係があるかもしれないし、話してくれないか」
……よりによって騰蛇殿までもか。風琴は舌打ちこそしなかったものの、少しだけ恨んだ。
「陰陽道に属する者であれば、他言しないと誓え。であれば、言っても構わぬ」
術師であっても神であっても、言質を取られるということは最大の首輪となる。誓ったことを破れば、どんな災厄が身に降りかかってもおかしくないし、我程の妖力のものであれば簡単に呪い殺せる。
「某、鷹智の懐刀である紅月は他言せぬと誓おう」
「同じく、十二天将騰蛇も他言しないと誓う」
いや待て。普通は俊巡する素振りぐらい、見せるだろうが。慇懃ではあるが、あっさりと言質を譲られたので風琴は困惑する。だが、言質を取ったからには答えねばならない。風琴は拳をぎゅっと握る。
「我が里を負われたのは、隠居の身であった先代こと我の父が亡くなったことで後ろ楯を喪ったこと。そして今の長と違い、我の母が元は人間だったからだ」
あまり思い出したくもない。我が知っている母上は天狗であった。飛ぶことは少なかったが、しなやかな翼と柔らかな妖力を兼ね備えた優しい方。
追い出された時、亡き母を愚弄されても何も言えなかった怒りと悲しみが蘇り、風琴は顔をしかめる。
「よろしければ、風琴殿のお母上が天狗になった経緯もお話頂いてよろしいですか」
「長くなっても構わないなら」
風琴は少し息を整えると、淡々と話し始めた。
平安京が出来たばかりの頃であろうか。その当時、豪族の娘であった風琴の母は、宮中で女房として仕えることが決まっていた。
だが京に上る1月前に事件が起こる。豪族の領地を騒がせていた鬼が豪族の屋敷に乗り込み、彼女を連れ去ったのだ。
その頃、風琴の父は里を飛び出して日之本をふらふらとさ迷い、その豪族の土地に滞在していたところであった。豪族が娘を助け出した者は褒美をやるということで、娘を助け鬼を退治出来るものを募っていた。
風琴の父は腕試しと単身鬼のねぐらに乗り込んで、鬼に挑んだ。3日3晩の死闘を繰り広げ、どうにか彼は勝利した。
面も割れ、衣も襤褸切れ同然の彼が鬼のねぐらに身を潜めていた彼女に駆け寄って顏を見た途端、恋に落ちた。それもその筈、風琴の母は仙女に勝るとも劣らないと謳われた程の美人であったからだ。
だがその時の風琴の母は風琴の父に恋心を抱くことはなかった。天狗の本性を知って怯えることは無かったが、彼が何度も口説いても都で務めなければならぬと首を縦に振らぬ。
勿論、豪族も褒美として娘をやるわけにはいかないものだから、娘の代わりにありったけの財宝をやって領地から追い出した。
だが彼も諦めない。術で姿を偽り、都に向かう彼女の護衛としてその身を守ることにした。
そして無事に京に着いた彼女が女房として内裏に勤めている間、貴族に扮装して毎晩訪れては歌を贈った。母が言うには、風流を知らぬ粗雑な歌ではあったが必死に想いを伝えようとしているのが文面からひしひしと伝わったという。
それから数年後、女房として真面目に勤めていた彼女であったがある時、高い身分の者に見初められて襲われそうになった。彼女が咄嗟に呼んだのは風琴の父の名。呼ばれた彼はすぐに彼女の衣を剥ごうとした下衆を殴り飛ばすと、彼女の乱れた衣を整えてその場を去ろうとした。
しかし、彼女が彼の袖を掴んだので驚いて振り向くと、凛とした彼女が涙で顔を濡らしていた。
『他の誰かに奪われるくらいなら、貴方だけのものになりたい』
千夜か二千夜かは知らぬが、それ程通っても思いが伝わるとは思わなかった彼は、彼女を抱き締めると里に連れ帰ることにしたという。
それまで黙って聞いていた紅月が苦い顔をして都の方角に目を遣った。
「天狗が有能な女房を拐っても気づかないなんて、某が言ったら怒られそうですが、当時の 内裏の警備は甘過ぎですな」
「天狗の長の家系を見くびるなよ。父は関係者の記憶を弄ってから連れ帰っておる」
口にしてみると、帝の住処である場所に毎晩訪れた父は、危険を冒していたのではと思う。まあ人間側が問題にしなかったならそれでいいかと、話を続けた。
男の天狗が稚児を連れ帰って天狗にすることはよくあったが、女を天狗にするなど前代未聞。その上、長年里を飛び出していた嫡男が突然人間の娘を連れ帰って伴侶にすると宣言したものだから、大騒動になった。風琴の祖父は勘当を覚悟で反対した。
一方、風琴の父も不在の間に勝手に許嫁を決められていたので激怒した。結果、風琴の祖父と父は剣を交えることになった。
戦闘は天狗の歴史に残る程のもの。嵐が起こり、山は削れ、川は溢れる程の殺し合い。本来なら勝てぬ相手に風琴の父は死を覚悟で相対する。
決着が着いたのは十日後であろうか。精根尽き果てても剣の柄から手を離さない息子の想いを悟り、ようやく風琴の祖父は二人の婚姻を許した。
風琴の父と母は契りを結び、風琴の母は無事に人の身を捨て、天狗となった。
最初は2人の風当たりも強かったが、彼は必死に次代としての力を培い、彼女は宮中で身につけた人心掌握術を巧みに使って里の者達から認められていく。
徐々に2人とも里に馴染んでいったが、1つの懸念が残り続けた。それは中々子が成せぬということ。天狗は長命であるからか、出生率はとても低い。
その上、元人間である天狗が子を成せるかは分からない。2人ともそれに悩み試行錯誤した結果、100年近く後に風琴が生まれた。里中が喜びに沸いたが、数名だけが喜ぶどころか恨みを募らせた者がいた。
それから風琴が人で言えば7歳程度にまで育った頃、突如風琴と風琴の母が病に倒れた。どんなに手を尽くしても、病は悪化するばかり。
誰もが諦めたその時、どういう訳か風琴だけが治り風琴の母は病状が悪化して儚くなった。母の最期を看取ったのは、風琴の父のみ。誰も当時を詳しくは話したがらない。そして父までもがずっと真相を打ち明けることなく、秘密を墓場まで持っていってしまった。
「我に分かるのは、母が我の病まで引き受けて儚くなったことぐらいか」
「まさか……いや何でもない。天狗にはそのような病を肩代わりする術はあるのか」
「……我が知る限りでは無いな」
だから父が陰陽師か術師を連れてきたのではと考える。確証は一切無いから話さないが。風琴は騰蛇から視線を逸らすと、憂いを帯びた瞳を伏せた。
あれだけ母を愛していたのだから、父はもう女を娶らないと思っていた。だが父は周囲から言われるままに、かつて勝手に許嫁にされた相手と夫婦になった。
それからあの義母は父に隠れて風琴に冷たく当たるようになった。折檻など何度も受けたが周りは見てみぬ振りをする。父に言いつけようものなら翼を切り落として殺すとまで言われたのだから、幼い風琴は父に助けを求めることすら出来ない。
そこで命の危機まで感じた風琴は、側近であった東雲の父の元に身を寄せ、長となるための修練に励むことにした。母親が生前の頃は両親にべったりと甘えていた風琴が突然家を飛び出したことに風琴の父は戸惑いを隠せなかったが、何かを察していたのか風琴を無理に連れ戻すことはしなかった。代わりに東雲の父の元に訪れては、風琴の手合わせの相手をしたり、皆で枇杷を食べたりする程度の交流をした。
そして風琴が成人の儀を迎えると、風琴が次の長であると宣言した。その当時には既に義弟がいたのだから、当然義母やその親族は反対する。だが生来の妖力の差や皆を纏め上げ率いるだけの器が風琴にあるとして、周りに認めさせた。
風琴は父の元に戻ると、長の仕事を身につけながら着々と長に必要な経験を積み、数十年後には長の座を引き継いだ。
風琴が長の仕事に慣れてきて、そろそろ許嫁を決めるという時期になった頃であろうか。突然父が病に倒れた。薬師達が手を尽くしたが、改善する見込みはなく悪化していくばかり。人間に力を借りようともしたが、父は人間の手など借りたら自刃すると言って聞かない。風琴は段々窶れていく父をどうすることも出来ず、風琴の父は死んだ。
途端に風琴が長になることを反対していた者が声を上げ、風琴が長になったことで神がお怒りになって風琴の父が病に倒れただの、人間の血が混じった風琴よりも義弟が相応しいと捲し立てた。風琴の父を慕うものは少なくなく、いつしか風琴が父を邪魔と殺したと根も葉もない噂が流れた。
風琴が必死に長の務めを果たしながら釈明しようとも長老どもは聞き入れないし、味方だったものは我が身可愛さで知らぬ存ぜぬを突き通す。凩は風琴の唯一の味方であったが、同時期に濡れ衣で牢に入れられていたので頼ることが出来ない。
いつしか風琴は里から追い出され、風琴の父の療養の為に建てられた庵に住むことになった。
「ここまで言っておいて何だが、実は外の天狗はともかく、今まで我らの里で病で死の淵に追いやられた者は、我を含めて3名だけだ。意味は分かるか」
「つまり病は自然にかかったものではない。原因は何かしらの呪詛で、風琴殿の義理のお母上本人かその身内が呪詛を仕組んだと仰りたいのですか」
流石にこれくらいは幼子でも分かるか。風琴は紅月の答えに思わず口端を上げた。
「あくまで、我の予想に過ぎんがな。だが動機としては充分であろう」
「ですね。結界が意図的に破壊されたのは、恐らく月夜殿が天狗になる前に殺そうとしたと考えられます。もしくは月夜君だけでなく、我々や貴方も死ねば御の字という算段であったかもしれませんな。それでも某がすぐに起きて泰重殿が貴方を叩き起こせば、対抗出来たでしょうけど」
こやつ神の分御霊というだけあって、余裕綽々であるな。風琴は自信ありげな紅月を見据える。
「それだけ言う根拠でもあるのか」
「死体の検視は致しましたから。あの程度なら、神気で食い殺せます。某の元の神は穢れを贄として食い殺し、浄化に転じる火の神です。穢れが強ければ強い程に権能を発揮いたしますので」
あまり神気を使うのも良くないとは思うが。こやつの場合、その神気を使えば使う程、人の器にヒビが入る。今の時点でも天命は四十路まで持つかどうかというところだろう。風琴がじっと睨むように眺めていると、紅月は苦笑した。
「心配してくださるのは嬉しいですが、今は貴方様自身の心配をなさってください。月夜殿の天狗の儀はまだ途中なのでしょう」
「………はあ!? 貴様、何故……どうしてそんなことが言える?」
妖術で誤魔化していたのにどうして分かったのだ。動揺のあまり、風琴は身を乗り出すと腰が痛んで風琴は呻きを必死に噛み殺した。
「貴方自身が月夜殿はもうすぐ天狗になると仰っていたでしょう。流石に適応するまでには時間がかかるかなと思いまして。それと……いえ、これ以上は止めておきましょう」
何を言おうとしたのだろうか。気になるが、聞いては我が恥をかく気がして風琴は聞くのを止めた。
「……その通り。あと15日前後はかかると思ってもらっていい。どうかその間は夜に警戒してもらえるとありがたい。毎日妖力を注ぎ込むのでな」
「承知いたしました。ですが、何かしら報酬をいただけると有り難いのですが」
どうせならある程度ばらして見張りを頼んだ方が良かろうと思ったが、あっさり了承してくれた。しかし報酬か。何をやれば良いのか。腕組みをして考えていると、紅月が微笑んだ。
「では、これからの争い事が終わったらたまに月夜殿と某の里に訪れて頂くことを報酬として所望してもよろしいでしょうか」
「それが報酬で良いのか? 銭など所望しないのか?」
「ええ。それが報酬で充分なのです」
一体何を考えているのやら。でも悪い条件では無さそうなので頷くと、紅月は幸せそうに笑みを浮かべた。
「ところで、里を追い出されたにも関わらず、里の者の多くは風琴殿を慕っているようにも見えたがどうしてだ」
騰蛇に聞かれ、風琴はどう答えればいいかと少し悩んだ。
「正直に言って我も分からぬ。追い出された時は弟と我の元許嫁候補の娘くらいしか、我を引き留めようとしなかったのでな。恐らくは長や東雲達が何かをして印象を回復してくれたのだと思うが」
それ以外の者に出来よう筈もない。確たる証拠も無いので今後確かめる必要が出てくるかもしれないなと東雲がいる方角に視線を向けた。
「ともかく結界が壊された要因について、最低でも盟約を結ぶまでは我々のような余所者が下手に暴いてはまずいでしょう。ですが、今後貴方のような優れた天狗が命を落としては盟約の利が薄れてしまう。なので何かあれば、すぐにこれで呼び出してください」
渡されたのは紅い瑪瑙が通された組み紐。手にした途端、苛烈な神気を感じて肌が粟立った。
「何だこれは」
「蛇神の神気をありったけに込めた呪具です。御守り代わりにして身につけて頂ければ幸いです」
軽く妖術を使って調べてみたが、邪な呪詛は籠められていない。まあ無いよりはマシだろうと手首に巻いた。
「有り難く頂いておこう。では夜は頼んだぞ」
「仰せのままに」
紅月はわざと恭しく頭を下げた。
客間を出た紅月は結界で周囲を覆うと、ちょいちょいと騰蛇を手招きする。
「どうした紅月」
「風琴殿の目の前では言いませんでしたけど、風琴殿は絶対女役ですよ。いやあ、あんな強い御方が女役なんてちょっと意外というか可愛らしいというか」
紅月は目を細めてふふっと笑う。それを呆れた顔で騰蛇は見下ろした。
「あのな……あんまり下世話なことを考えてたら、殺されはしないが殴られるぞ。それにあんな美人だと女役もそれほど意外ではない」
「えっ……!? 騰蛇殿、風琴殿の素顔を見たのですか!?」
騰蛇はうっかり漏らしてしまい、目を泳がせる。俺は何も見てないぞと誤魔化す騰蛇をじっと見ていたが、聞き出せる様子も無かったので紅月は諦めた。
「まあいいでしょう。風琴殿、今夜もあんあん啼かされそうですね。ちょっと覗いてみたいなあ」
駄目だぞと騰蛇に無言の視線で制されると、紅月は冗談ですよと苦笑した。
紅月の予想通り、風琴はその夜も月夜に啼かされることになった。
「月……夜……それ……あっ……やっ………」
月夜に口淫をされてから、風琴は背後からその身体を貫かれ、甘い声を上げていた。肩を押さえつけられて、身動きが出来ない。
固くなった前が擦れて辛い。最初は前が乾いた布で擦れることに痛みがあったのに、先走りが褥を濡らして滑りが良くなったせいか、揺すぶられる度に快楽を拾い続ける。
「おぐっ……深……い……」
激しく奥を抉られるのが最早苦しいのか悦んでいるのか分からない。抉られる度に視界がチカチカとして、意識が夢を揺蕩うようにふわふわとしていた。
「ふっ……う……激……しす……ぎ……」
妖力に適応する際の体力の消耗で少しは我が優位になれると思ったのに、とんだ間違いだった。ぐちゃぐちゃと我の身体を掻き乱す水音には一切の衰えはなく、むしろ我の弱い所を的確に狙っているのが腹立たしい。
「師匠……すみま……せん……っ……」
余裕の無い弟子の声が背後から聞こえる。こやつ反省する気はあるのか等と怒る気力はない。涙でぼやける視界には、月の光が障子越で差し込む様が見える。ああ、綺麗だな。情事の最中というのにそんなことを思ってしまう。あの晩もこんなに綺麗だったのかもしれない。
「ん……んんっ……あ……う……」
背後に人の気配を感じるのはあまり好きではないが、愛しい弟子が背後にいるのは落ち着く。風琴が茵に爪を立てていると、肩を押さえつけていた手が離れ、咥内に指が入ってきた。
「うあっ……あ……え……」
2本の指が舌を挟み、残りの指が咥内を弄ぶ。呂律も回らず、ろくに唾液も飲み込めない。溢れる唾液が顎を伝って落ちていく様は、獣のよう。風琴が昇りつめていくのを感じていると、うなじに熱い息がかかった。
「師匠……かわいい……」
弟子の言葉に、風琴は思わず中の肉を締め付ける。月夜は息を詰まらせると、風琴の身体を容赦なく貫いた。
「ああっ……あう……はっ……ああ___っ!!」
がりっとうなじを噛まれ風琴は声にもならぬ嬌声を上げると、ビクビクと身体を震わせた。
「くっ……う……」
月夜はどくどくと中に出すと、抜かないまま我の上に身体を乗せた。熱を帯びた月夜の胸が我の背に密着するのは悪くないが、こいつ重いな。風琴は己のことを漬物石に潰される漬物のようだと思ってしまった。
「月夜……上からどけ。……ちと……重い」
「申し訳ございません。すぐにどきます」
月夜は横に退いたが、我の身体を掴みそのまま横向きになった。勿論中の物は抜いていないのだからぐりっと中を掻き乱す。
「ん……ぅ……」
1回出したのにまた硬くなっている。こやつはどれだけ我に欲情しているのか。どろどろになった下半身に目を向けながら、風琴は考えていた。
「昨日は散々したのにまだ元気だな。無理してないか」
「無理はしておりません。ただ……師匠の艶姿を見ると、中心が熱くなってしまうのです」
それは十分に分かっておる。現に我の身体を貫いている物が熱くてたまらないのだから。硬さからするに今抜かせては据え膳に何とらやで明日の朝に襲われかねない。仕方ない。あと1回やるかと風琴は腹を決めた。
「あと1回出したら今夜は終わりだ。後始末してさっさと寝かせろ」
「承知しました。師匠」
風琴がぶっきらぼうに言うと、月夜は風琴の身体を抱き締めて腰を打ちつけた。
「あっ……ん……」
風琴は月夜の腕の中で己を包む月夜の腕をそっと掴む。先程よりも海原を揺蕩うような律動や背中から伝わる月夜の鼓動に目蓋が重くなった。
「師匠……月の光が綺麗ですね」
「ああ……っ……そう……だな」
揺すぶられながら、障子越しの月を見る。やがてまた中に出されると、風琴は小さな寝息を立てて月夜の腕の中で眠った。
「師匠、愛しております」
月夜は風琴の身体を濡れた手拭いで清めながら微笑む。師匠の艶やかな姿は勿論であるが、眠る姿もかわいらしい。
疲れさせてしまうことへの罪悪感はあれど、師匠が私の腕の中で眠られるのは信頼されている証のようで嬉しいのだ。また明日も師匠が疲れるまでやってしまうだろう。もっと師匠が楽な姿勢でやらなければ。
それから試行錯誤しながら、体位を何度も変える内に10日以上が過ぎた。
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