気高き翼に手を伸ばす

幽月 篠

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※矜持が試される時※

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 辱しめられても矜持を捨てられないとは、己はつくづく面倒な性格だ
(風琴がひたすら酷い目に遭いますので、苦手な方はお気をつけください)



 天狗には人間の稚児を愛で、やがて稚児を天狗にするという習慣がある。それを我は少し奇妙だと思っていた。母上以外の人間など容易に罪を犯す者ばかりだ。そんな奴ら我らと同列にしてよいものか。

『ちちうえ、どうしてみんなはちごをてんぐにするのですか』

 父はしばし手に顎をやって考えた後、我を見た。

『我らの性分なのか、同性をも比翼の如く思いを通わせる者が多い。それに稚児とはいうが、孤児みなしごだ。同情をかけて育てる内に、そのような思いが芽生えるのではないか』 

 幼い我にはまだ難しく、首を傾げることしか出来なかった。そんな我の頭を、父が優しく撫でてくれた。
 月夜を引き取ったばかりの時も、こんな幼い子供に恋慕を抱くのはおかしいと思っていた。ただただ可愛らしく、成長していく様が愛しく思えど、それが恋心とは思えなかった。
 それ故、抱く行為も月夜を天狗にするための物とはいえ、正直我が子同然の彼にそのようなことをしていいのか怖かった。
 だから今思えば、抱かれて良かったのである。彼の思いを受け止めるのは、矜持に傷が付けども、彼に辛い思いをさせずに済んだのだから。
 月夜に抱かれる度に、いつしか比翼の如く彼を想うようになってしまった。そこでようやく、同胞達の気持ちを理解できたのである。……なのに、我はこんな選択をしたのだ。彼は怒るだろうか。それとも泣くだろうか。それだけが気がかりだ。
 


「……っ」

 風琴が目を覚ますと、薄暗い牢の中にいた。手足は天井から伸びた鎖に繋がれており、身動きが出来ない。翼は拘束されていないが、火傷のような痛みがある。それと一番気になるのは、面が外されていることだ。ご丁寧に牢の隅に置かれているが、届かない。顔が空気に晒されて、気分が悪い。
 風琴は苛立ちながらも、翼を即座にしまった。この状況では、翼を折られたり、羽を毟られてもおかしくない。
 それにしても、どうやって出ようか。鎖に貼ってある呪符のせいか、妖気が吸われている。そのせいで何も出来はしない。
 最悪だな。思わず舌打ちをしたくなる。紅月や久脩が言っていたのはこの事か。彼らにそこそこ恩は売ったから、助けてくれると良いが。そう柄にもなく思ってしまうのは、舌を噛んで死ぬ決断が出来ぬ程、未練があるからである。
 幸い、赤瑪瑙の腕輪は何故か無事なので、残りの妖力を込めれば拘束を破ることが出来よう。しかし、脱出経路やこの状況が分からない内は下手に動かない方が良い。
 風琴が目を瞑って考えていると、こつこつと近づいて来る音がした。目を開けると、にやにやと黒雅が嗤っている。

「お目覚めはどうですか、お坊ちゃん」
「煩い、黙れ」

 風琴は黒雅を睨み付ける。黒雅は怖い怖いとおどけた調子で言いながら、牢の中に入ってきた。
 黒雅の腹を刺した筈だが、裂けた衣の腹部の辺りは包帯が巻かれているのが見えるだけである。傷にはなったが殺すには至らずか。
 天狗の生命力は強靭なのだから当然といえよう。本当の腕を飛ばせただけでも幸運と言うべきか。黒雅は風琴の前に来ると、彼の顎を掴んだ。

「本当に美人だこと。依頼では心が折れるまで身体中痛めつけろと言われた。後は見世物小屋や南蛮に売るのも自由、肉をばらばらにして鬼どもの餌にするのも自由とも言われたが、顔だけは傷つけたくないな。苦悶に歪んだ顔も美しいかろう」

 薄ら笑いが気持ち悪い。邪念で作り上げられた指が触れた箇所が異様に冷たい。風琴は無言で黒雅の瞳を射抜いた。

「おやあ、誰がそのような依頼をしたか気にならないのか?」
「どうせ、長の母かその縁者であろう。聞く価値もない」

 黒雅はつまらないという顔をすると、我の顎から手を離した。やはりあの方か。どこまで私を苦しめたいのかと、笑いそうになる。

「ご名答。しかし俺はお前を気に入っている。そして姉の要求を飲むほどの馬鹿じゃない」

 姉だと? 確かに、あの女に弟がいたが1人は里にいるし、もう1人は……幼くして谷底に落ちて行方知れずだったな。まさかそちらの方か。風琴の顔色がさっと変わる。黒雅はそれに気づき、にやりと嗤った。

「そうそう。末の弟の方。出来損ないだからと、あの糞親父に殺されかけたのさ。道満様が拾ってくれなかったら、死んでいただろうな」
「ならば何故、あの女の依頼など受けた」
「今はあんなんでも、昔は愛情をかけてくれた姉だったというまでよ。その恩を返さなければ天狗の名が廃るだろ。まあ破れた結界の隙間から化物どもを送り込んだのは失敗したがな」

 先日のあれは貴様だったのか。ということはやはり、義母の一味が手引きしたことになる。風琴はふつふつと怒りが沸き上がる。

「そんな怖い顔しなさんな。せっかくの別嬪が台無しだ。……まあそこで、俺からの提案がある。小僧……いや風琴よ、俺の女にならないか」

 …………は? こやつは、何を言っておるのだ。風琴は黒雅の言葉が理解できずに、唖然と見つめるしかない。

「痛めつけられて襤褸切れのように死ぬか、俺のものになって平穏に生きるかどちらか選択しろと言っているんだよ」

 戦った際に散々同胞を傷つけた奴から「平穏」の文字が出てくるとは。それに、我の顔を見てめかけ扱いしたくなったと。
 笑いが込み上げてくる。選択など、とうに決まっておるわ。風琴はにやりと笑うと、口を開いた。

「断る。同胞を殺めた相手のものになるくらいなら死んでやる。黒雅よ。貴様とて、天狗の生まれ。この矜持が理解できぬ訳がなかろうよ」

 黒雅は風琴に即答で断られてぽかんと口を開く。やがて呆れた顔をした。

「天狗は無駄に矜持が高い。誇りを捨てるくらいなら、簡単に命を投げ出す。だが良いのか。後悔しても知らないぞ」
「だからなんだ。我は常に己の正しいと思う道に従って生きてきた。貴様のものになることが正しいなどと、決して思わぬわ!」

 後悔はするかもしれない。だが、我は月夜以外のものになどなりたくない。この選択が地獄の入り口だとしても。
 すると黒雅は風琴の前髪を掴んだ。目と鼻の先にある顔は整っているというのに、邪悪な笑みを浮かべているせいかおぞましく感じる。

「そうか。ならばその意思を尊重するとしよう。じっくりと痛めつけてから殺してやる。だが、気が変わったら素直に言えよ。俺はお前と違って心が広いからな」

 しばらく黒雅と睨み合っていたが、突然黒雅が前髪を離すとつかつかと背を向けて何処かへ行く。戻ってきた時、手にしていたのは鞭であった。

「まずはお遊びからだな。さあてお坊ちゃんはどこまで耐えられるかな」

 黒雅はおどけた口調で言うが、力を込めて鞭を振るう。

「ぐっ……う……」

 胸と腹に当たった瞬間、焼けるような痛みが走る。だが風琴は歯を食い縛って耐えた。布越しでもこれならば、素肌に触れたらどうなるのか。考えたくもない。

「安心しろよ。顔だけは傷つけないからさ。まだまだ始まったばかりだ。ゆっくり楽しもうぜ坊っちゃん」

 黒雅はにっこりと嗤うと、容赦なく鞭を振る。初めて味わう凄まじい痛みに、風琴は耐え続けるしかなかった。
 衣が裂け、幾筋も血が流れる。だが叫ぶ訳にはいかない。相手を喜ばせるだけだ。傷の上から打たれて痛みが増していく。それでも、長の兄が弱音を吐いてはいけない。痛みの雨の中で唇を噛んで声を押し殺す。 
 やがて整った唇からつうっと血が流れて顎を伝った。
 

 それから6刻程鞭打ちは続いた。黒雅は陰陽師の式神であったからか、治癒の術を会得しているようだ。その証拠に、肉が見える程に鞭を打てば治癒を施し、また鞭を打つということを繰り返されている。
 その為、絶え間なく苦痛は続く。意識が朦朧とすれば、溝尾を殴られて無理矢理覚醒させられる。風琴は胸や腹だけでなく、背中も打たれたというのに、決して声を上げなかった。
 本来の衣は襤褸切れのようになり、流れた血の跡のせいか下に赤い衣を纏ったかのよう。風琴はぐったりと下を向いていた。

「坊っちゃんは翼も出さずに我慢して偉いねえ。普通ならみんな悲鳴を上げるのに」

 黒雅は子供を褒めるような物言いでにやにやと嗤っている。その程度の挑発なら無視できたが、鞭を打った男に頭を撫でられたのが不愉快でたまらない。風琴はぎろりと黒雅を睨んだ。

「触るな気持ち悪い」
「この程度で触るなとか言うなよ。これからいっぱい触るのだから。身体の奥までね」

 黒雅は我の唇に触れると、血が流れていた箇所を癒していく。どうせまた血が流れるのに無意味なことを。黒雅の顔など見たくなくて目を逸らす。すると黒雅は我の顎を掴んで、無理矢理視線を合わせてきた。

「坊っちゃん、気にならないの? 俺がどんな風に触るか」

 反対の黒い指で我の胸元から腹にかけて触れてくる。分かりたくないが、分かってしまう。絶対に嫌だが、我には抵抗する術など無い。あればとっくに首を跳ねているというのに。風琴は強がって笑みを作った。

「そんなことを気にしてどうする。我が泣いて嫌だと懇願すると考えているなら大間違いだ。この下衆が」
「強がっていられるのも今のうちだよ坊っちゃん。まあ今日は鞭打ちしかしないから安心してよ。明日からもっと痛いことと、一緒に始めるからね」

 黒雅はそう言いながら、我の尻を掴む。金的したいが、足も自由が効かないので出来ない。風琴はぎりりと奥歯を噛んだ。

「さあ休憩もおしまい。坊っちゃん、頑張ってね」
「ぎぁ………ぐ……う……」

 鞭の鋭い音が牢に響く。東雲はちゃんと助かっただろうか。月夜は我がいなくて大丈夫だろうか。風琴は痛みから逃避するように、2人のことばかりを考えて耐えるしかなかった。
 
 次の日、黒雅は数本の鉄の棒を片手にやって来た。針のように細く、先が尖っているものである。

「やあ風琴、おはよう。よく眠れたか」
「……うるさい、目障りだ」

 風琴は不機嫌そうに黒雅を睨んだ。排泄や水浴びはさせてもらえるが、移動中は目隠しと鎖がされているので、この空間の構造が把握しづらい。飯は食っておらず、水も水責めのような水浴びの際に少し飲んでしまったくらいか。

「おやおや、ご機嫌ななめかな。昨日言った通り、今日はもっと痛いことをやるけど、何か分かるかな」

 身体に突き刺すということだけは分かる。だがどこに刺すかは分からない。長く甚振るつもりだろうから急所は避けるに違いない。黒雅は我の指に指を絡ませてきた。

「指だよ。知っているか。爪と肉の間に針を刺すと、とんでもなく痛いらしい。前に陰陽師側の術師や白蛇の眷族を拷問にかける際にやったんだが、効果覿面。二人とも泣き叫んでいたね。特に術師なんか小便ちびってやんの。俺、汚いの嫌いだから思わずその術師を殺しちゃった。坊っちゃんはそんなことしないでね。まあ、厠に行ってもらったから大丈夫か」

 虜囚の割に清潔にされたのはそういうことか。我が痛みで漏らすことはないだろうが、覚悟はしておいた方がいいだろう。黒雅は針の先を妖火で炙ると我の指の先に当てる。風琴は奥歯を噛んで、痛みに備える。

「せいぜい、楽しみなよ坊っちゃん」

 一気に熱した針が爪と指の間に突き刺さる。

「っ…………がっ……ああぁ______!?」

 雷に打たれたが如き痛みが脳天を貫く。鞭打ちでは決して声を上げなかったが、予想だにしない痛みに喉が裂けんばかりに絶叫した。
 黒雅は無意識に逃げようとした風琴の指を掴んで他の指にも刺していく。爪に紅を塗ったような赤が彩られていく。黒雅は生理的に流れた風琴の涙を舐めると、にやりと嗤った。

「やはり、泣いている美人は素敵だ。もっと泣き叫んでみな」

 1本1本、丁寧に突き刺される度に喉がひりつく。どのくらい経ったか。黒雅は手の指全部に刺して抜き終わると、ぐったりとした風琴の前髪を掴む。涙に濡れ、唇は血でにじんでいるというのに、萌葱の瞳は強い意思を失っていなかった。

「本当に最高だ。気の強い美人程、痛めつけたくなる」
「最悪の趣味だな……貴様」

 風琴は吐き捨てるように呟く。叫んでしまったせいか、声は掠れてしまっていた。黒雅は笑みを浮かべて風琴の手を握る。

「さあもう1回しよう。お楽しみはその後にね」

 黒雅は風琴の指先を癒していく。もう1回あの苦痛を受ける。風琴はそれを考えただけで本当に泣きたくなったが、必死に無表情を繕った。


 2回目の針刺しが終わった時、風琴は喉が完全に嗄れてしまっていた。気を失えてしまったらどんなに楽なのだろう。許されはしないと分かっているのにそんなことを思ってしまう。既に針を抜かれて、元通りに癒されたのに、痛みの余韻がじんじんと指先に残っていた。

「坊っちゃん、今日も我慢したねえ。えらい、えらい」

 黒雅が昨日と同じく頭を撫でてくる。声を出すのも辛くて、風琴は黒雅を睨んだ。

「あれ、坊っちゃん喉嗄れちゃった? 今からお楽しみなのにもったいない。喉も治すね」

 黒雅が風琴の喉に手を当てると、喉の痛みが消えていく。だが、その手つきがいやらしくて風琴はぎりりと奥歯を噛んだ。身体の傷は癒えている。それなのに、心が血を流したままだ。
 痛みへの恐怖が雪のように静かに積もっていく。我は天狗なのだ。痛みに臆してはいけない。必死に自分に言い聞かせていると、ぶちりと何かが引き千切れる音がした。音は黒雅の方からする。顔を上げると、黒雅の手の中にどろりとした邪念を纏った羽根があった。

「このままだと爛れちゃうから少し弄って……っと。これなら大丈夫だ。さあてやっとお楽しみの時間なんだけど、坊っちゃん今は人界でどのくらいの時間が経っていると思う」
「……人界よりも早いのだろう。その方が貴様にとっては都合がいい」

 ただの勘であるが答えてみる。黒雅は口端を吊り上げて嗤った。

「ご名答。此処での1日は人界の1刻から2刻くらいだ。元は道満様が作り上げた異界だけど、今の所有者である道満様の子孫のせいで安定はしていないがな」

 黒雅は己の羽根を風琴の足元に落とす。指を鳴らすと、羽根が震えて海鼠のようにぬるぬるとしたものに変わる。
 そして我と東雲を捕えたあの時のような触手が風琴の足に巻き付きながら這い上がってきた。風琴は冷たくぬるぬるとするその感触に、おぞましさと恐怖を感じる。

「貴様っ、一体何を」
「だからお楽しみだってば。今から俺の前にその邪念に思い存分、凌辱されてもらおう。安心しなよ、爛れはしないから」

 風琴の顔が真っ青になる。分かっていたのに、嫌だと叫びたくなる。我が身体を許すのは月夜だけなのに、こんな穢らわしいのに身体を開きたくない。
 抵抗したいが、助かる術はないので耐えるしかない。襤褸切れ同然の布の隙間から邪念が肌を這っていく。やがてそれは後孔の入り口に触れた。月夜……すまない……。風琴の頬を一筋の涙が伝って落ちた。
 



「んんっ……うう……」

 風琴の身体を覆うように黒い粘液が這いずり回っていた。口元を触手と化した粘液に抉じ開けられて、舌を無理矢理絡め取られており、奥歯や唇を噛むことが出来ない。
 皮膚の薄い箇所だけでなく、胸や魔羅を容赦なく責め立てられ、休まることを許されない。そして、後孔には人間の魔羅ほどに太くなった触手が激しく突き上げていた。

「うぐっ………ん……」

 感じたくもないが、身体に止めどなく快楽が走り続けている。心は冷めきっておるのに、身体が言うことを聞かないとはなんと歯痒いことか。唯一幸運なのは、口を塞がれていることで淫らな声が出ないことだろう。

「抵抗もしないでえらいねえ。思ったよりもすぐに感じているということは、生娘ではないのかな」

 黒雅はにやにやと我を眺めていた。こいつの口に針を突っ込んでやりたい。頑張れば、素手で喉笛を裂くことも可能だろうか。しかし出口が分からない時点ではそんなことをしても不毛だ。

「でもおかしいな。普通は邪念で犯すと、発狂したり、泣き叫んでいるんだが。もしかしてあの羽虫達に身体を開いた?」

 同胞達がそんなことをするわけがなかろうが。少なくとも、我と共に戦った者達にそんな下衆はおらぬわ。風琴は粘液に犯されているのにも関わらず、戦闘時と変わらぬ殺気を黒雅に浴びせた。

「おお怖い。そんなに睨むなよ。でも、生娘ではないんだろう。弟である長か、あの面倒なお前の右腕か、あとは……弟子とやらかな」

 風琴は弟子について触れられても、反応を見せない。こんなことを思うのはなんだが、今まで月夜に貪られるように抱かれてよかった。初めて抱かれた時は散々泣いて弱音を吐いたから。今の状態は辛くて気持ち悪いけど、初めてがこんな凌辱でなくて良かったと思ってしまう。

「うーん、少しも顔色変わらないのが残念。まあ坊っちゃんの初めてなんてどうでもいいか」

 黒雅が軽く指を動かすと、口元の触手が外れる。口を解放されて、風琴はぜいぜいと肩で息をした。

「はあっ……っ……う……」
「やっぱり、口を塞がない方がいいね。邪念に情欲を掻き立てる効能があればいいのに無いのが残念。生娘ではないから、慣らすのはもうこのくらいでいいかな。では大人しくなるための薬を使うよ。俺は暴れてくれてもいいけど、坊っちゃんは俺を殺すだけの実力があるからね。用心のためだよ」

 黒雅はそう言いながら、懐から薬包と水の入った竹筒を取り出す。薬と水を口に含むと、我の顔に手を添えた。痛みはともかく、何が入っているか分からない薬なんぞ飲まされてたまるか。我は顔を背けようとしたが、無駄である。

「ううっ………ん……」

 鼻を摘ままれ、舌を絡められてはなす術もない。薬が喉を伝って腹に流れ落ちた。

 吐き出そうと思えども、吐き出す術はない。唇が離れた後、風琴は恨めしげに黒雅を見た。

「何を……っ……飲ませた……」
「少しの間だけど、手足の感覚が無くなる薬だ。媚薬もありはするけれど、俺としては使いたくない。だって、媚薬で我を失った奴を抱いても味気無いだろう?」

 媚薬でないことを安心すべきか、はたまた理性があるままで辱しめられるのを悲しむべきか。どちらにせよ、月夜以外に抱かれるのは嫌だ。
 効き目は早いのか、四半刻程もすれば手足に力が入っているのかすら分からなくなる。すると鎖が緩み、床に膝を突く姿勢になった。
 邪念に犯されていた間、床に溢した腎水のぴちゃりという音が耳に届き、風琴は舌打ちをする。仕方ないとはいえ、これ程までに我は感じてしまったのか。自分が情けない。自分への怒りも込み上げている間にも、後孔を派手な水音を立てて犯されている。

「っ………ふ……う……ぐっ……」

 必死に奥歯を噛み締めるあまり、砕けやしないだろうかと不安にもなる。だがこいつの前で乱れる姿など見せたくはない。……腎水を出している時点でとうに遅いのは理解しているが。
 突然、手を叩く音がしたと思うと、身体を辱しめていた邪念が急に萎れるように縮んでいく。後孔からも抜けて、風琴の身体がひくりと震えた。

「気持ち良さそうだったけど、そんなにこの邪念が良かった?」
「たわけ……。気色悪いに決まっておろうが」

 風琴は嘲笑を繕う。本当は嗚咽を溢したい。童の頃のように泣きじゃくりたい。そんな我儘を押し殺す。そうせねば、我が我でいられない。
 黒雅は風琴の震える太股を見て嗤った。

「嘘も程々にしなよ。ではこれからがお楽しみの本番だ」

 黒雅は我の後ろに回ると、片手で我の腰を掴む。衣擦れが聞こえたと思うと、熱く滾った硬いものが我の後孔に触れる。

「せいぜい囀ずってごらん。籠の小鳥さん」

 背後から耳元に吐息がかけられる。その直後、一気に敵の熱に身体を貫かれた。

「あぐっ………うあっ……」

 辱しめに悲しんだり、抵抗してはいけない。それは相手の思う壺なのだから。助けを求めてはいけない。助けをする側になれど、助けを求める相手などいないから。なのに……。

「はあっ……くっ……つく……よ………あう……」

 月夜、お前の腕の中が恋しい。お前の腕の中で疲れて眠ってしまうまで泣いてしまいたい。辱しめを受けている我には過ぎた我儘と知っている。
 それでも、その我儘を押し殺せはしない。風琴は黒雅に犯されながら、今は届かない月夜の存在に縋っていた。

「ううっ………あん………くぅ……」

 風琴は鎖を仰向けになれる程緩められている代わりに、黒雅に組み敷かれていた。仰向けのまま抱かれ、嫌でも向かい合う形になっている。
 まだ後ろや俯せであれば良かった。快楽で火照った顔を見られたくない。こやつの顔を視界に入れたくない。目を瞑ろうものなら侮られるので、黒雅を睨む。

「坊っちゃん、気持ち良いかい。俺のをうまそうにしゃぶっているけど」
「はっ。何を言う……初めて我と……っ………情交をした相手の方が……っ……何枚も上手だ」

 正直、月夜の方が太いし長い。それに月夜との情交は身も心も全てを委ねる心地好いのだ。こやつとの情交は、快楽こそあれ、冷たい水の底に沈むような心地がする。

「ふうん。羨ましいことで。だけど、もうそろそろ出そうだろう。楽にしてあげるよ」
「ぐっ……」

 腰を両手で掴まれると、ずんと浅いところから深いところを一気に貫かれる。風琴が息を詰まらせていると、抜き差しが一層激しくなった。

「あううっ……あがっ……いっ………んん」

 嫌だと言いそうになったのを唇を噛んで堪える。一言でもそう言ってしまえば、我の何かが崩れてしまいそうな気がする。それに、嫌だと言ったところで、こやつは我の言うことを聞くどころか、興奮する質の輩だ。

「うぐっ……う……んんっ___」

 白濁を出した後、奥に熱が爆ぜる。こやつに出されたのは2度目だが、出される度に身体の熱が失われているような気がする。

「まだ……やるのか……貴様」
「坊っちゃんの身体が名器だから仕方ないよ。たくさん楽しもうね」

 黒雅は風琴の唇を奪う。風琴は舌を絡め取られながら、黒雅の舌を噛み千切ってやることができたら、どれ程胸がすくだろうと考えていた。
 それから2刻後、黒雅は凌辱の後片付けをしていた。凌辱という割には、後孔の白濁をきちんと掻き出し、清潔な手拭いで身を清める。それからぐったりと気を失っている風琴に女物の衣を着せた。

「中々、折れないねえ。この坊っちゃんは」

 今の主や、主側の外法師達に風琴を慰み者として献上すれば、あっさり陥落するだろう。だが、それだけはするつもりがない。俺だけの手でじわじわとこの美人の心を手折る。他の者にそれをさせたくはない。

「……だって君は道満みちたる様が救った命だからさ。君は覚えていないようだけど」

 道満様が救ったかつての幼子を殺すわけにはいかない。さっさと俺のものになって、鳥籠で囀ずる小鳥になればいい。そうすれば、俺以外お前を傷つける相手などいなくなるから。黒雅はくすりと笑うと、風琴の頭を撫でた。
 その後、風琴への拷問と凌辱は10日以上に渡って繰り返された。拷問が終わってから治癒を受けるので、身体には傷跡など残らない。
だが、体力と心は磨り減っていく。最初は用意されるわずかな食事を摂っていたが、それすらも摂らなくなっていった。殺意を此方に向けていた萌葱の瞳は、生気が薄れていっている。
 黒雅は桶に汲んだ水をかけてみたが、無反応なままだった。

「いい加減に俺のものになりなよ。死にたくないだろう」

 風琴の耳元で呟く。すると、風琴が僅かに顔を上げた。

「しつこい……。断ると言っている……」

 以前よりも声は小さいが、揺るぎない意思の強さが分かる。やはり気の強い美人は良いと思いつつも、このままでは死んでしまう。
 そうなれば姉や父の目論見が成功するが、それは俺の考えに反する。黒雅は、溜め息を1つした。

「そんなに強情だと損をするだろう。まあ俺はこれだけ強情な美人が良いのだけど」

 黒雅は風琴の顎を掴んで口づけをする。風琴は面倒そうに眉をしかめた。

「今日は鞭を使うよ。爪に針を刺したり、焼きごてをするよりは楽だろう」

 黒雅は鞭をちらつかせる。風琴は鞭の痛みを嫌という程思い知ったせいか、僅かに瞳が震える。黒雅は笑みを浮かべると、鞭を勢い良く振った。
 一刻経つと、風琴は気を失った。すると、黒雅は固定していた鎖の先を外し、風琴の身体を治癒していく。2、3日休ませてから、再開した方が良いだろう。 
 風琴の血の気のない頬に触れていると、遠くから足音が聞こえてきた。黒雅は己の衣で風琴の顔を隠す。

「黒雅、まだその天狗に執心しているのか? いい加減、殺すか南蛮人に売ったらどうだ」

 牢の外から問うたのは、黒雅の今の主である、蘆屋の血筋の術師。黒雅はただ首を横に振った。

「いいや。こいつは俺のものだ。もう少ししたら折れる」

 そう答えてはみたが、嘘である。折れる前に死を選びかねない。何か確実に心を折る方法は……。黒雅は風琴の顔を見ながら考えていたが、ある策を思いつく。

「そうだ。俺に良い考えがある」

 黒雅は己の考えを主に話す。すると術師もにやりと笑みを浮かべた。

「それは良い。黒雅、鬼を貸す。実行してみろ」
「ありがたき幸せ」

 黒雅はくすりと嗤うと、風琴の髪に触れた。
 

「う……うん……?」

 風琴が目を覚ますと、見慣れない部屋にいた。まるで、書物に書かれた大陸の後宮にあるような造りの部屋だ。

「誰か……助けてくれた訳ではないようだな。夢か?」

 身体を起き上がらせてみると、じゃらりと部屋には似つかわしくない音がする。音がした手元を見ると、鉄の手枷が合いも変わらずそこにあった。鎖は部屋の柱に繋がれている。

「はあ……」

 今度はこのような場所で拷問するつもりか。女物の服にしろこの部屋にしろ、まったく悪趣味な。風琴は舌打ちをする。そこに黒雅が現れた。

「もう起きたか。休んでいていいのに」
「貴様、此処はどこだ」

 黒雅は風琴が今まで眠っていた寝台に来ると、風琴の肩に手を置いた。

「坊っちゃんのために用意した部屋だ。今にも死にそうだったから、拷問を中断したんだよ。回復したら、またするけどね」

 やはりそういうことか。そんなことをせずに殺せばいいのに。だが、一時の休息を与えて心を折るのがこやつの策なのかもしれない。

「まあ拷問しなくても良いかもしれないが」
「……どういうことだ」

 ぼそりと呟いた黒雅の言葉が引っ掛かる。風琴は恐る恐る黒雅に尋ねた。

「坊っちゃんは弟や弟子を愛しているのだろう。だからさ。寂しくないように、2人の首を今から持ってこようと思って」
「なっ……貴様! 月……いや、自分の実の甥を殺すつもりか!?」
「そうだよ。今の姉には愛情を感じないし、もらった恩は返したからな。元々、俺には同胞への愛着なんて無い。だから里の奴らは殺すか、売り飛ばそうと思っている」

 黒雅の瞳に憎悪がちらつく。黒雅の境遇を考えれば、当然なのかもしれない。だが……

「止めろ! 同胞達を傷つけるな!」

 風琴は黒雅の胸ぐらを掴もうとする。黒雅はさらりと避けると、風琴を背後から抱き締めた。

「ああ、やはり同胞のことになると動揺するのか。風琴はかわいいなあ」

 風琴は黒雅の甘ったるい声がおぞましくて、身体が震わせる。黒雅は目を細めると、風琴の唇に触れた。

「そうと決まれば、善は急げだ。待っていてね。今から俺、頑張ってくるね」

 風琴は黒雅の腕から逃れようともがく。だが、抵抗も空しく耳元で意味の分からない言葉を紡がれた。それは陰陽師が呟く呪によく似ている。風琴がまずいと思った時には、再び意識が闇に沈んだ。
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【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

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