蛇が知るは秋のぬくもり(旧版)

幽月 篠

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終幕 其の弍


主の幸せを願う故に、大蛇は己の気持ちを無いものとした

 京に着くまでの道中は、とても穏やかなものだった。秋也は影縄と手合わせをしたり、甘味処に寄ったりしながらゆっくり京へと向かう。その間に二人の絆が深まっていくと同時に、影縄は己の胸の内に淡い何かが芽生え始めているような気がした。
 そして京に辿り着いた時、京の華やかさと人の多さに少し困惑しながら土御門の屋敷に向かう。だがその前に一度あの神社に寄ってみることにした。戦乱の世は荒廃していたが、土御門が率先して初代達と外法師達を退治た時に建て直されたらしい。こじんまりとしているが、結界が張り巡らさせているので落ち着く。神社を出る時、着流しの青年が此方に話しかけてきた。

「ほう、君か。これから精進するんだよ」
「はい?…………はあ、分かりました」

 青年はにっこり微笑むと街角へと姿を消した。その人の瞳が鮮やかな桔梗の色をしているのが、ひどく印象に残っていた。

 土御門の屋敷に着くと、土御門の当主は暖かく迎えてくれて夕方から話し込んで夜になってしまった。当主から一部屋を与えられ、影縄と荷解きを手早く済ませた。秋也は部屋で寛ぐ影縄を残し、庭に出てみる。京でも星の美しさは変わらぬまま。特に今日はよく晴れて綺麗だ。
 秋也がぼんやりとしていると、空から何かが降ってきた。否、屋根から飛び降りたのだ。よく見るとそれはいくつか年下の少女である。その少女は長い髪を靡かせ、ゆっくりと此方に舞い降りて来る。月を背にして舞い降りる少女の笑みに秋也は言葉を失っていた。少女の無鉄砲に呆れたのではない。天女の如き美しさに見惚れたのでもない。ただ春の陽光の如き無邪気な笑みに心を動かされたのだ。少女は秋也の前に優雅に降り立って頭を軽く下げる。

「やっと会えましたね。私、晴子と申します。貴方は秋也あきや……さんですよね?」
「はい……。紅原秋也と申します……」

 ぎこちなく秋也が答えると少女は桔梗色の瞳を優しく細めて笑った。秋也にとってその笑みが酷く眩しいものに映る。それ故、己にとってこの少女は手が届かぬ存在天女だと決め込んでいた。

 ただ大蛇は、少女と対面する少年の横顔を見た途端、自らに芽生えていた何かが叶わぬと気づいてしまった。そして芽生えかけた何かを無いものとして長い間、心の隅に押しやることとなるのである。
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