家出少女は昔振られた幼馴染と瓜二つ

ナックルボーラー

文字の大きさ
4 / 66

家出の延長

しおりを挟む
 俺は、あの後鈴音を慰める言葉が出てこなかった。
 生まれる前に母娘共に父親に捨てられ、自分を育ててくれた母親に、遠回しに自身の存在を否定された若い鈴音の心に深い傷を負ってしまったというのに。
 鈴音は母親に反発をして家を出て、見つからない遠いこの地に来たらしい。

 俺は両親に反発をして家を飛び出す程の勇気は無かったから、鈴音が全てを捨ててここまで来たのか予想が出来ない。
 けど……

『親父さんがいないって事はお袋さんが唯一の肉親なんだろ? なら、意地を張らずに仲直りしないとな。お袋さんは絶対にお前の事を心配している。お前の事が好きだから自分と同じ過ちを繰り返して欲しくないってことだろ』

 などと他人行事の様な大人の戯言を言って俺は家を出た。
 鈴音には家に帰る電車代と食事代で1万円渡しておいた。それだけあれば足りるだろう。
 元々一宿させるだけの約束だったし、短い間だったけど、一緒に食卓を囲めて楽しかったな……嫌な記憶を思い出したけど。

「おい古坂。なにボーッと画面と睨めっこしてるんだ。課長なんだから部下のお手本になるぐらい真面目に働け」

 ポカッと就業中に心ここにあらず状態だった俺の頭を本で叩く女性。
 俺は叩かれた部分を摩りながらに口を尖らし。

「分かってますよ白雪部長。ちょっと考え事をしていただけです」

 俺を叩いたのは課長である俺の上司の白雪部長。
 昨晩俺を夜遅くまで酒盛りに突き合わしたアルハラ上司だ。

「考え事は仕事が終わった後にしろ。もし悩み事なら終わった後にいつもの居酒屋で私が聞いてやる」

「そうなれば酒で全て忘れそうなのでノーサンキューで。それにしても、昨日あれだけ飲んだのに本当に元気ですね。酒が残ってたり二日酔いになったりしないのですか?」

「酒は私にとっては水みたいな物だからな。水で気分悪くなる奴はいないだろ? それと同じだ」

「なるほどなるほど。つまりは酒が恋人って訳ですか。良かったですね。これで恋人愚痴を聞かなくて済むって事だぐぇえ!」

 白雪部長に俺はヘッドロックをかけられ鶏の様な声を漏らす。
 
「ほほう? なら私には恋人が沢山いるから、お前にどれが私に相応しいのか審査して貰わないとな?」

 俺の失言に眉を引きつらす白雪部長。……どうやら恋人の事が気に障ったようだ。
 この人は美人だけど、所謂残念美人で。バリバリのキャリアウーマンだけど酒盛りの時は面倒だからな……。おかげでこの人に誘われて飲みに行くのは俺だけ。他の奴らは腹痛や頭痛、親戚の危篤とか明らかに嘘だと分かる嘘で回避している。てか、俺も断っているのに俺だけ強制参加させられるんだよな……。

「スミマセン白雪部長! 今日だけは、せめて今日だけは止めてください! 今日は前に見逃した映画がテレビ上映させるので!」

「そんなの録画すればいいだけの話だろうが! 私よりもテレビの方が大事なのか!?」

 俺は観たいテレビは録画よりもリアルタイムを好む。
 本当は劇場で観たかった映画だけど、仕事の都合で観れなかった映画がテレビで流れるとなれば観ない手はない。
 だから俺は答える。

「え、当たり前じゃないですか?」

 何故だろう。ヘッドロックからの武器(ロール状に丸められた書類の束)で殴打されたのだが?
 
「女心が分からないからお前は今までに彼女が出来ないのだぞ? もういっそ、私がお前の貰い手に——————」

「白雪部長。先日の営業の報告書が出来ました。確認をお願いします」

「あー分かった。私の机に置いといてくれ」

 話を遮られ小さな舌打ちをする白雪部長。
 この人今とんでもない事言いそうにならなかったか?
 仕事中に部下の俺と戯れを自重した白雪部長は自身の仕事に戻る。
 その去り際に俺の方へと振り返り。

「そう言えば古坂。珍しい事に、お前のそのスーツとシャツ。しっかりとアイロンがけされてるんだな?いつもはヨレヨレだったが、今後も社会人らしく身だしなみはしっかりしろよ」

 白雪部長は俺の綺麗に伸ばされてパリッとしたスーツとシャツに気づいていた様子。
 これは別に俺がしたわけではないのだが……あいつ、ちゃんと家に帰ったのかな?



 その後、結局俺は鈴音の事を考えていた所為で仕事に集中できず、あの後も3度白雪部長から説教をくらい、危うく今日も終業後に居酒屋に拉致られそうになった所を躱して帰宅する。
 鈴音はお金が無いと言っていたが、あれだけあれば帰るだけの電車賃はあるだろう。
 帰って母親と仲直りしてくれたのなら、それに越した事はない。
 あーあっ、帰ってもまた寂しい独身生活か。まあ、そもそも昨日会っただけで特別な思い出もないアイツがいなくなった所で寂しいなんて気持ちはサラサラないけどな。

 4階建ての賃貸マンションの自宅の前に帰宅。
 いつもの感覚で鍵を入れた鞄の内ポケットを漁るが、そう言えば今日は鍵を持って出なかったな。
 仕事で先に出るって事で、鈴音に鍵を閉めて郵便ポストに入れといてくれと頼んだんだった。
 俺は郵便ポストを確認するが、郵便受けに鍵は無かった……。

「おいおいこれって……あいつ、俺の鍵を盗んで行ったとかじゃないよな?」

 相手は素性の知らない女子高生。
 心根は優しいあいつを信じて鍵を任せたが、もしかしてと思いもう一度玄関へと向かい、確認の為にドアノブを捻ると。

「開いてる……」

 元々鍵は掛かっておらず扉はすんなりと開かれ、部屋から料理の良い匂いが玄関まで漂う。
 俺が扉を開いた音に反応してか、部屋の奥からトタトタと足音が近づき。

「お帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・じッ!」

 脊髄反射で俺は”鈴音”の頭頂部を手刀で叩いた。
 鈴音は頭を押さえながらに涙目で俺を睨み。

「何するんですか! もしかして新妻風な出迎えは不服だったとか……でしたらやっぱり、お帰りなさいお兄ちゃん♡って出迎えをいたたたッ! 頬を摘ままないでください!」

 こいつは何も分かってない分かって無さすぎる!
 
「なんでお前はまだ俺の家ここにいるんだ! 自宅いえに帰れって言っただろ!?」

「嫌ですよ! なんで家に帰らないといけないんですか! 私は家に帰りたくありません!」

 強情に帰宅拒否する鈴音。俺は呆れと怒りで頭が沸騰しそうだ。
 
「そもそもお前、これはなんなんだよ!」

 俺は玄関と隣接させるキッチンを指さし問いただす。
 鈴音はキョトンとした表情で。

「なにってカレーですが? もしかしてこーちゃんはカレーを知らないの?」

「黙れ若造! 俺が言いたいのは、カレーの材料は家に無かったはずなのになんでカレーが作れて……ってお前、まさか!? てかその服!?」
 
 俺はもう1つ気づく。
 鈴音の服が今朝とは違う。今朝まではこいつは制服を着ていたはず。なのに今の鈴音の恰好は無地のTシャツというラフな格好。こんな服俺の家にはなかったはず。
 鈴音はバレたか、と舌を出し。

「カレーの材料とこの服はこーちゃんが家を出た後に近くのスーパーで購入しました。いやー私も女性ですから、三日も同じ服を着ていて気持ち悪くて。一緒にパンツとブラも買いました、安物ですが」

「お前な! 俺がお前に渡した1万円は家に帰る為の駄賃で渡したんだぞ! なにこれから居候しますって態度は!?」

「え、駄目ですか?」

「当たり前だ! 家に帰れよ!」

 俺は強引に鈴音を家から追い出そうと首根っこ掴んで引きずるが鈴音は抵抗する。

「そんな無慈悲な事しないでください! お願いです、もう1日もう1週間、いえ、もう1か月泊めさせてください!」

「なんでだよ! 普通逆に小さく妥協するものだろ! なんで増えていってるんだよ!」

「お願いです! 泊めてくれるのでしたら私なんでもしますから! 炊事洗濯掃除など! 身の回りの世話をします! こーちゃんが望むなら下の世話もしますから! 慈悲を! この哀れな家出少女に慈悲を与えてください!」

 鈴音は俺の足を掴んで必死に懇願する。
 だが、独身男性の家に未成年の女性を泊まらすのは色々と危ない。
 そもそもこの部屋は独り暮らし用でそんなに広くない。
 こんな狭い家に男女2人で住むのは倫理的に危険だ。

「てかよ。男の俺に頼まなくても、同性に頼む方がいいだろ」

「……こんな身元不明の未成年を泊めるお人よしはいませんよ……」

 お前が言うな。だが、確かにな。普通であれば身元が分からない相手を無償で泊めるのはリスクはあってもリターンは無い。

「本当はこーちゃんの前に何人か声をかけましたが、全員が私を怪しんで首を横に振ったんです……。こーちゃんだけなんですよ! 私を家に泊めてくれるのを了承してくれたのは! お願いです! 泊めてください!」

 涙目で子犬の様に縋る鈴音。
 家に帰ればいいだろってのは抜きにして、ここは鈴音が知らない土地。友人も知り合いもいない土地でお金もなく1人なら不安で一杯だろう。そんな土地で唯一コイツを受け入れた俺に鈴音は最後の頼みとお願いしているのか……。
 
「…………はぁ……。分かった。分かったよ。泊めてやるよ」

「本当ですか!?」

「だが、自分の言葉には責任持てよ。炊事洗濯掃除はしっかりして貰うぞ。家事も仕事の一環だ。働かざる物食うべからず。まずは折角作ったカレーを食べようか。俺、カレー大好物なんだよな」

「分かりました。今装います! 手を洗って待っていてください!」

 泣き顔から一変して花が咲いた様に笑顔になる鈴音。この変わりように俺は背筋が凍る。
 やっぱり女って怖ぇ…………が。
 
 上機嫌に鼻歌を歌いながら食事の準備をする鈴音の横姿を見て、俺は肩を竦め。

「……その顔で泣かれると俺は勝てる気がしねえな…………」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】経理部の女王様が落ちた先には

Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位 高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け ピンヒールの音を響かせ歩く “経理部の女王様” そんな女王様が落ちた先にいたのは 虫1匹も殺せないような男だった・・・。 ベリーズカフェ総合ランキング4位 2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位 2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位 関連物語 『ソレは、脱がさないで』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位 『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

三年間片思いしていた同級生に振られたら、年上の綺麗なお姉さんにロックオンされた話

羽瀬川ルフレ
恋愛
 高校三年間、ずっと一人の女の子に片思いをしていた主人公・汐見颯太は、高校卒業を目前にして片思いの相手である同級生の神戸花音に二回目の告白をする。しかし、花音の答えは二年前と同じく「ごめんなさい」。  今回の告白もうまくいかなかったら今度こそ花音のことを諦めるつもりだった颯太は、今度こそ彼女に対する未練を完全に断ち切ることにする。  そして数か月後、大学生になった颯太は人生初のアルバイトもはじめ、充実した毎日を過ごしていた。そんな彼はアルバイト先で出会った常連客の大鳥居彩華と少しずつ仲良くなり、いつの間にか九歳も年上の彩華を恋愛対象として意識し始めていた。  自分なんかを相手にしてくれるはずがないと思いながらもダメ元で彩華をデートに誘ってみた颯太は、意外にもあっさりとOKの返事をもらって嬉しさに舞い上がる。  楽しかった彩華との初デートが終わり、いよいよ彩華への正式な告白のタイミングを検討しはじめた颯太のところに、予想外の人物からのメッセージが届いていた。メッセージの送り主は颯太と同じ大学に進学したものの、ほとんど顔を合わせることもなくなっていた花音だった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...