家出少女は昔振られた幼馴染と瓜二つ

ナックルボーラー

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母との確執

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 私には生まれる前から父親はいなかった。
 母は学生時代に私に血を分けた父と交際をして、その末に在学中に妊娠をしたらしい。
 
 母の両親、私からすれば祖父母はその事で激怒したみたい。 
 当たり前だよね。母が私を妊娠した時が16歳。今の私と同じ歳なんて私からしても可笑しい。
 学生で責任能力が無い母は最初私を中絶する様に言われたらしい。
 けど、医者からの断定で中絶をするのは危険と判断。だが、祖父母は自業自得だと言って無理やり中絶させようとしたが母は反発をして絶縁覚悟で家を出た。
 その後は宛を頼って交際相手の元教師の父にお願いしたらしいけど、母と交際が露見して職を失った事を母の所為だと逆恨みした父は母に暴力を振るい、母と私を捨てたとか……。

 両親から絶縁され、交際相手からも捨てられた母は当時絶望の淵に立たされたみたいだけど。
 それでもお腹の私には罪が無いと、身籠った身体で何とか掛け持ちでバイトをして、私を出産。
 その後は遅くまで仕事をしながら私を育ててくれた。
 頼る人がいない状況で子供1人育てるのにどれだけの労力がいるのか、子供を育てた事がない私でも想像ができる。だから母には感謝している。
 私をこの世に産んでくれてありがとう。私を育ててくれてありがとう。
 もし私が大人になったら精一杯恩返しをする、って……そう思っていた。

 私が産まれて16年。
 私は中学から私立の女子中に通い、進学した高校も女子高。
 女子高なのは母の意向だけど、あまり進学先とか気にしなかった私はその意向に従った。
 どちらも私立で学費もかかると言うのに、母は自身の仕事を増やして私の学費を稼いでくれた。
 
 母は娘の私から見てもかなり美人だと思う。近所の人から私と母はかなり似ているとよく言ってくれる。
 私も将来母みたいな人になるのかな。……ちょっと私の方は胸の大きさは見劣りするけど。大丈夫。私はまだ成長期。これからまだ大きくなる……はず。
 けど、美人な母だけど母は再婚、そもそも私の肉親の父とは籍を入れてないから、バツイチでもないのか。未婚で娘が1人の母だけど、母は誰とも結婚はおろか交際すらしていない、と思う。
 昔、母になんで母は結婚しないのかと尋ねたら、

『もう、恋愛はコリゴリなんだ……。お父さんに捨てられた事以上に、本当に好きだった人を振った馬鹿な自分にほとほと呆れてるから……』

 母は前に話してくれた。
 母には幼馴染の男の子がいたらしい。
 幼稚園の頃から高校までずっと同じ学校で、同年代の中で一番の仲良しで初恋の相手。
 母はずっとその男の子の事が好きだったみたいだけど、男の子が母を好きだったのかは分からない。
 ずっと一緒にいても一向に進展しない関係に母は不安になったみたい。
 彼は私の事を1人の女性として見てくれているのか……って。
 多分、その不安の隙を突かれたんだと思う。
 大人の言葉巧みな話術で母の心を奪い、母は徐々に父に心酔して、剰え最後は母は好きだったはずの幼馴染を振ってしまった。
 
『恋は盲目と言うけど、あの時の私はどうかしてたんだ……。本当に心の底から好きだった人が誰なのか……気づいた時にはすでに遅かった……。彼の心を傷つけ、自分の体は穢れていた……』

 お母さんはずっとその幼馴染の事を後悔している。
 時折、私が寝た後に、誰かの写真を握っては『ごめんなさい、ごめんなさい』と涙を流している。
 その幼馴染とはその後会ったのかと尋ねても。

『会える訳がない。私に会う資格なんてない……。今の私にできる事は、あの人が私の事なんて忘れて、幸せになってくれることを祈るだけ』

 その言葉は本心なのだろうけど、母の悲しそうな表情は忘れられない。
 母は口癖のように言った。
 
『恋は焦らず、しっかりと相手の事を見極めて、自分と本心としっかりと向き合いなさい。貴方は私の様に後悔して欲しくない』

 母は私に自分と同じ過ちを犯して欲しくないという親心で言ったのだろうけど、その時私は自覚しなかったけど、心のどこかで母の言葉がチクりと心を痛めていた。
 
 時が経って、私にも初めての彼氏が出来た。
 相手は大学生の年上で、どこか遊んでいる様にも感じたけど、心遣いが出来る優しい人だった。
 私は初めての彼氏が出来て、母にも報告しようと思った。
 母は恋愛に対してトラウマがあるけど、娘の恋を認めてほしかった。
 けど…………。

鈴音の彼あなたはまだ学生でしょ!? 責任を持って娘と付き合っているの!?』

『え、え……』

『付き合うってだけの中途半端じゃなくて、最終的には結婚を視野に入れて交際しているのかって聞いてるの! 不埒な考えと中途半端な気持ちで交際しているのなら、娘と別れなさい! 添い遂げる覚悟がない限り、私は絶対に貴方を認めないから!』

 いつも優しかった母の初めて怒った顔を見た。
 烈火の如く私の彼氏を責め、私たちの交際を絶対に認めないと言い切った。
 その事に彼氏は憤慨して、私に別れを告げた。その去り際。

『お前の母親頭がイカレてるぜ!』

 ただ認めないなら分かる。けど、あそこまで怒る道理はあるのだろうか。私も疑問だった。
 だから私は破局した後に母に問い詰めた。

『お母さん! なにもあそこまで言わなくてもいいじゃん! おかげで振られちゃったよ!』

『鈴音。貴方、男を見る目がないわね。彼、相当な遊び人よ。恐らく、若い貴方の体目当てで近寄って来たに違いないわ』

 元々合コンで知り合ったのだから、多少の下心はあったのは違いないだろう。
 けど、予想や見た目で判断する母の意見に賛同は出来なかった。

『お母さんがお父さんに騙されていたってのは知っている。それでどれだけ苦労したのかも知っている。けど、私の恋は応援してくれてもいいでしょ! お母さんは私に幸せになって欲しくないの!』

 振られた彼氏に対しての未練は一切ない。
 少し言われただけで直ぐに別れを切り出すのなら、そこまで私の事が好きだったのではないのだろう。
 私も傷ついてないから、私も彼の事は心の何処かで本気ではなかったのだから、お互い様かもしれない。
 その事に関しては母に感謝している。けど……それでも、おめでとうの一言が欲しかった。

『分かって鈴音。貴方は学生、子供なのよ。恋を焦っては駄目。互いに責任が持てる社会人になってからでも遅くない。ゆっくり恋を育んで、結婚を前提に付き合ってくれる人を見つけなさい。私の様に”後悔”しない様に』

 また……後悔と言った。
 お母さんの気持ちは分かっている。
 高校を中退して、中卒で色々と就労に苦労したのも。
 私に少しでも裕福に過ごせるように資格の勉強も沢山していたのも。
 それが功を成して、遂先日、給料の良い企業に転職出来て、2人でお祝いしたよね……けど。

『後悔後悔って……。なら、その後悔の末に生まれた私ってなんなの!?』

 ずっと胸をチクリと刺していた痛みの正体が分かった。
 お母さんはずっと父との交際を後悔していると言っていた。なら、その交際で産まれた私はお母さんにとってなんなの……。

『私の体にはお母さんが憎んでいるお父さんの血も半分流れている! お父さんの顔は知らないけど、私の何処かがお父さんに似ているんじゃないの!? なら、お父さんの面影と重なる私が憎いと心の中で思ってるんじゃないの!』

『鈴音……ちょっと貴方、何言ってるの……私はそんなこと』

『うるさいうるさい! もうお母さんの言葉は信じられない! お母さんが後悔している恋で産まれたのが私だって言うのなら、こんな家出て行ってやる!』

 子供ながらの些細な事での癇癪。
 お母さんは私に愛情を持って育ててくれた事は知っている。
 けど、ずっと溜め込んで来た不満が爆発したのだ。

 ろくに服も私物も入ってない鞄だけを持って家を出た。
 家を出る間際に見えた母の顔……かなり、悲しそうだったな。
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