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幼馴染の現状
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俺は飲み会と言う名の尋問を受けた。
原因は白雪部長を抜いての部下の凛と飲み会をしたから。
男女の上司と部下で飲み会に行く時は下心があるのが定石で、俺が新人の凛を手籠めにすると思ったのだろうけど。俺は部長の気魄に敗けて全てを吐いた。一応凛に許可を貰ってから。
俺と凛は幼馴染だという事。諸事情で葬式に参加出来なかった凛にその事を伝える為に話し易い居酒屋に誘ったこと。
所々を脚色してあるが概ね素直に話す。流石に凛は親と絶縁しているなんて凛の立場を考えると言えわるわけがないからな。
俺が凛を居酒屋に誘った事を話し終えると白雪部長は納得したのか。
「そうだったのか……。まあ、大体の事は分かった……。そうか……道理で田邊の名前に聞き覚えがあったわけか……」
など、何やら意味深な事を言っていた様な気がするが、
「理由は分かった。が、納得したわけではない。最近私の飲みを断っておいて、部下とは行くことどういうことなのか。反省の色を見せる為に、一杯飲め、古坂」
全然意味が分からず出された焼酎水割り。俺、酒の中で一番焼酎が苦手なんだけどな……。
白雪部長の笑顔の威圧に苦笑しか出来ない俺は諦めて出された透明の液体を口に含む。
先に口に広がったのは辛い味だ。その後に芋の匂いが広がり、追い打ちをかけるように酒の匂いも来る。
「ぐあ……はっ……やっぱり俺には無理だわこれ……」
一杯でギブアップ寸前に陥る俺を前に、白雪部長は水の様に同じ酒を飲み干す。
「だらしないな古坂。これぐらいで酔いつぶれるのか? そんなだと私と結婚した時に晩酌が出来ないではないか」
「……現時点で部長と結婚する未来はありませんのでご安心ください……」
会社の飲み会でこれなら結婚して毎日とか地獄過ぎる……が、部長って酒豪だけど料理とか得意で奥さん適正は高いんだよな。
てか、何杯飲むんだよこの人、まだ始まって10分なのに10杯言ってるんじゃないのか? 一杯一分ペースとか鬼か。
部長が酒瓶が空になって追加注文しているから、俺も何か口直しに何かソフトドリンクと摘みを追加注文するか。カルピスと……ネギまかな。
部長は他の部下たちの所に行き、1人になった課長の俺。
あれ? 俺ってもしかして人望ない? 飲み会で1人とか寂しんだけど。
と、自分の人望の無さに悲観していると、部下の女性、斎藤が酒を片手に俺に近づく。
「すみません古坂課長。先程部長との会話が聞こえて来たんですけど、課長と新人の田邊さんって幼馴染なんですか?」
酒が回って頬が赤い斎藤がそんな事をウキウキと聞いて来る。
聞こえてたか……それもそうだよな。大部屋って言っても参加者でごった返しな部屋だからな。
あんまり触れられたくない話題だけど、部下をはぐらかすと場の空気も悪くなるしな。
「あぁ。そうだ。田邊とは家が隣同士で昔から交流があって、世間から見れば幼馴染って枠組みかもな」
「そうなんですか!? うわぁ、家が隣同士の男女の幼馴染なんてフィクションの中だけかと思ってました! 定番ですけど、ベランダから互いの部屋に行くみたいな事あったんですか!?」
いつもは真面目な斎藤も飲みの席で酒が回っているのかテンションが高い。
この手の話は女性は好きだよな。
「まあな。けど、途中から親が危ないって言って遊ぶ時は普通に玄関からにはなったけど。今思えば落ちたりすれば危なかったよな。子供の行動力って自分ながらに怖いな……」
と、昔を思い出して背筋を冷やす俺に斎藤は畳みかける。
「もしかしてもしかして! 課長と田邊さんって恋人だったりするんですか!? 幼馴染の恋人って漫画だと超定番ですから!」
その質問に俺の胸がズキッと痛む。
昔の失恋の古傷か……。俺は鼻で笑い。
「お前それ、33の独身の俺によく言えたな。もしそうだったら、今も寂しい独身生活を謳歌してねえよ」
「あ、そ……そうですよね。スミマセン、少しテンションが上がって失礼な事を聞いてしまいました……」
斎藤は何かを察したのか頭を下げて来る。しかし俺は気にするなと手を振り。
「酒の席に恋バナは付き物だからな。それに、もう昔の事だ……」
俺は運ばれたカルピスを一口含むが、いつも甘いカルピスも何処か塩辛かった。
気まずくなって斎藤はもう一度俺に頭を下げると去って行く。再び一人になった俺は、飲み物と一緒に運ばれて来たねぎまを頬張りながらに、がやがやと飛び交う会話に聞き耳を立てる。
殆どは場の空気に流れてか「最近嫁さんとはどうなんだ」とか「最近彼氏が酷いんだよ」とか「俺、次のプロジェクトが成功したら、5年付き合っている彼女にプロポーズするんだ」とか恋愛話が多い。
付き合うとか結婚だとか……そんな事考えたりしなかったな。
前の部長にはそろそろ身を固めてもいいだろと見合い話を勧められたりしたけど、あまり乗り気を見せなかったからいつの日か言わなくなったな。
両親には孫の顔を見せた方がいいのだろうが、弟の慎太が一昨年授かり婚して孫が出来たから、とやかく言われなくなったし、俺はこのまま生涯独身でもいいけど……極稀に人恋しくはなるんだよな。
俺に好意的……かは分からないけど、白雪部長は昔から俺を気に掛けてくれた。
そんで揶揄っているのかセクハラ発言をするけど……俺はあの人の事を頼れるお姉ちゃんみたいにしか感じられないんだよな。勿論、1人の女性としてかなり魅力的ではあるんだけど。
俺は心中で一人語りをしていると、2つ隣の席から女衆の会話が聞こえる。
「ねえねえ田邊さんって彼氏とかいるの?」
「えっと、彼氏はいない、かな」
声からして凛と……小山か。
「それはそうでしょ。田邊さんって今年で33でしょ? 彼氏じゃなくて、結婚しているのかって聞くもんじゃない」
そんで福嶋も話に加わった。
話の内容的に凛の恋愛事情らしいけど、興味ない……のに、クソっ! 正直気になる!
「あ、そうだよね。田邊さんって結婚しているの?」
「えっと、結婚もしていないよ。ほら、結婚指輪してないでしょ?」
…………は? あいつ、結婚していないのか?
高校の担任の宮下と結婚したとばかり思ってたが。離婚したのか?
「嘘本当に!? え、なに、バツイチ!?」
「……最初にその言葉が出る事に言及したいけど、一度も結婚してないよ。まあ、子供はいるけど」
凛に質問を投げていた小山と福島が固まる。
「え、えっと……なに? 結婚はしていない。けど子供はいるって……どういうこと?」
福嶋が凛に恐る恐ると尋ねると凛は愛想笑いを浮かべて答える。
「私、彼氏に捨てられたんだ。子供が出来た後に」
ピシャリと聞いていた小山と福島は開いた口が塞がらないぐらいに驚愕する。
俺もそうだ。凛の現状を聞いて気が気でない……だが、これってどこかが聞いた様な……。
てか、言った本人が何事も無かったように烏龍茶をぐびぐび飲むってどういう精神だよ。
「ちょ、ちょっと待って! 子供が出来た後に彼氏に捨てられたって。その後子供はどうしたの!?」
「元気に産まれたよ。その後は私一人で育ててるんだ。まあ、助けてくれた人はいるけど」
「いや……そんな普通に言われても。父親がいない状態で子供を育てるって辛くない?」
「うーん……辛くないって言えば嘘にはなるけど……仕事で疲れて帰って来た後に、子供の笑顔を見るとさ、疲れなんて吹き飛ぶよ。そしていつも思うんだ。この子にはこれからも元気に生きていってほしいって」
……………あいつ。やっぱり。
「てか、子供が出来たから捨てるってその彼氏、すっごくムカつくんだけど! 私、そういう無責任な男が一番嫌い!」
小山が足でテーブルを踏み憤慨する。全員の視線が凛たちに集まり、凛は小山を宥める。
「落ち着いて小山さん。私の代わりに怒ってくれて嬉しいけど、もうあの人の事なんてどうでもいいの」
「いーや田邊さんがどうでもいいって言っても私の腹の虫が鳴りやまない! その彼氏の住所教えて、私がバット持ってぶん殴りに行くから!」
「いやだから落ち着いて! 本当にどうでもいいから今更!」
酒が回っているのか暴れる小山を男陣で抑え込む中、福嶋が凛に言う。
「それにしても最低な男に会ったものだね……。まあ、昔はどうであれ、女で一つで子供を育てるって凄い事だと思うな。私も母子家庭だったからお母さんの苦労は知っているし。世間ではシングルマザーに冷たい風潮があるけど、私は田邊さんを応援しているから。しっかり子供を育ててね」
福嶋のエールに凛はありがとうと微笑むが、次第にその笑みに苦色が浮かび。
「私は褒められる様な母親じゃなく、最低な母親だよ……」
「どうして?」
凛は自嘲する様に語る。
「自分の昔の失敗で得た価値観を娘に押し付け、剰え娘の存在自体を否定する事まで言っていた。私にはそういうつもりはなかったけど……娘の心を深く傷つけていたんだ……」
凛は唇を血が出んばかりに深く噛み。
「私の所為で……娘は……家出してしまった……」
その言葉を聞いて俺は身体の芯が凍る様に動かなくなる。
動悸が早くなり、胸が苦しくなる。そして脳裏に浮かぶ鈴音の顔……やっぱりあいつは!
「家出って……それ大丈夫なの? 家出してどれくらい?」
「……2週間」
やっぱり、日にちも一緒だ。こんな偶然あるわけがない。これは確定だ!
「り――――――!」
俺が凛に声を掛けようとした時だった。
突如背後から誰かに抱き着かれた。そして背中に伝わる柔らかい感触。誰だよ!
「おーい古坂飲んでいるかぁ? 折角の飲み会なんだから飲め飲め! 飲み放題だから幾ら飲んでも大丈夫! 気にせず高い酒も飲めよ。ほらこの酒美味しいぞ?」
「スミマセン部長! 今そんな場合じゃなくて!」
「なんだ? 私の酒が飲めないのか? お前はいつから上司との一献交えるのを断るぐらい生意気になったんだ。ほらほら、いいから飲めって」
「だからちょ―――――!」
この人は酒が入ると横柄になるよな、それがこの人の最大の欠点だ。
けど本当に今はこの人の相手をしている場合ではない。
鈴音は、俺の家に居候する家出娘は、凛の――――――あれ、世界が回る……。
俺は部長に無理やり酒を飲まされた様で、視界がぐるんぐるんと回る。気持ち悪い……。
ちくしょう……凛に言わないといけないのに……いしき……が。
俺はそこからの記憶は無かった。
原因は白雪部長を抜いての部下の凛と飲み会をしたから。
男女の上司と部下で飲み会に行く時は下心があるのが定石で、俺が新人の凛を手籠めにすると思ったのだろうけど。俺は部長の気魄に敗けて全てを吐いた。一応凛に許可を貰ってから。
俺と凛は幼馴染だという事。諸事情で葬式に参加出来なかった凛にその事を伝える為に話し易い居酒屋に誘ったこと。
所々を脚色してあるが概ね素直に話す。流石に凛は親と絶縁しているなんて凛の立場を考えると言えわるわけがないからな。
俺が凛を居酒屋に誘った事を話し終えると白雪部長は納得したのか。
「そうだったのか……。まあ、大体の事は分かった……。そうか……道理で田邊の名前に聞き覚えがあったわけか……」
など、何やら意味深な事を言っていた様な気がするが、
「理由は分かった。が、納得したわけではない。最近私の飲みを断っておいて、部下とは行くことどういうことなのか。反省の色を見せる為に、一杯飲め、古坂」
全然意味が分からず出された焼酎水割り。俺、酒の中で一番焼酎が苦手なんだけどな……。
白雪部長の笑顔の威圧に苦笑しか出来ない俺は諦めて出された透明の液体を口に含む。
先に口に広がったのは辛い味だ。その後に芋の匂いが広がり、追い打ちをかけるように酒の匂いも来る。
「ぐあ……はっ……やっぱり俺には無理だわこれ……」
一杯でギブアップ寸前に陥る俺を前に、白雪部長は水の様に同じ酒を飲み干す。
「だらしないな古坂。これぐらいで酔いつぶれるのか? そんなだと私と結婚した時に晩酌が出来ないではないか」
「……現時点で部長と結婚する未来はありませんのでご安心ください……」
会社の飲み会でこれなら結婚して毎日とか地獄過ぎる……が、部長って酒豪だけど料理とか得意で奥さん適正は高いんだよな。
てか、何杯飲むんだよこの人、まだ始まって10分なのに10杯言ってるんじゃないのか? 一杯一分ペースとか鬼か。
部長が酒瓶が空になって追加注文しているから、俺も何か口直しに何かソフトドリンクと摘みを追加注文するか。カルピスと……ネギまかな。
部長は他の部下たちの所に行き、1人になった課長の俺。
あれ? 俺ってもしかして人望ない? 飲み会で1人とか寂しんだけど。
と、自分の人望の無さに悲観していると、部下の女性、斎藤が酒を片手に俺に近づく。
「すみません古坂課長。先程部長との会話が聞こえて来たんですけど、課長と新人の田邊さんって幼馴染なんですか?」
酒が回って頬が赤い斎藤がそんな事をウキウキと聞いて来る。
聞こえてたか……それもそうだよな。大部屋って言っても参加者でごった返しな部屋だからな。
あんまり触れられたくない話題だけど、部下をはぐらかすと場の空気も悪くなるしな。
「あぁ。そうだ。田邊とは家が隣同士で昔から交流があって、世間から見れば幼馴染って枠組みかもな」
「そうなんですか!? うわぁ、家が隣同士の男女の幼馴染なんてフィクションの中だけかと思ってました! 定番ですけど、ベランダから互いの部屋に行くみたいな事あったんですか!?」
いつもは真面目な斎藤も飲みの席で酒が回っているのかテンションが高い。
この手の話は女性は好きだよな。
「まあな。けど、途中から親が危ないって言って遊ぶ時は普通に玄関からにはなったけど。今思えば落ちたりすれば危なかったよな。子供の行動力って自分ながらに怖いな……」
と、昔を思い出して背筋を冷やす俺に斎藤は畳みかける。
「もしかしてもしかして! 課長と田邊さんって恋人だったりするんですか!? 幼馴染の恋人って漫画だと超定番ですから!」
その質問に俺の胸がズキッと痛む。
昔の失恋の古傷か……。俺は鼻で笑い。
「お前それ、33の独身の俺によく言えたな。もしそうだったら、今も寂しい独身生活を謳歌してねえよ」
「あ、そ……そうですよね。スミマセン、少しテンションが上がって失礼な事を聞いてしまいました……」
斎藤は何かを察したのか頭を下げて来る。しかし俺は気にするなと手を振り。
「酒の席に恋バナは付き物だからな。それに、もう昔の事だ……」
俺は運ばれたカルピスを一口含むが、いつも甘いカルピスも何処か塩辛かった。
気まずくなって斎藤はもう一度俺に頭を下げると去って行く。再び一人になった俺は、飲み物と一緒に運ばれて来たねぎまを頬張りながらに、がやがやと飛び交う会話に聞き耳を立てる。
殆どは場の空気に流れてか「最近嫁さんとはどうなんだ」とか「最近彼氏が酷いんだよ」とか「俺、次のプロジェクトが成功したら、5年付き合っている彼女にプロポーズするんだ」とか恋愛話が多い。
付き合うとか結婚だとか……そんな事考えたりしなかったな。
前の部長にはそろそろ身を固めてもいいだろと見合い話を勧められたりしたけど、あまり乗り気を見せなかったからいつの日か言わなくなったな。
両親には孫の顔を見せた方がいいのだろうが、弟の慎太が一昨年授かり婚して孫が出来たから、とやかく言われなくなったし、俺はこのまま生涯独身でもいいけど……極稀に人恋しくはなるんだよな。
俺に好意的……かは分からないけど、白雪部長は昔から俺を気に掛けてくれた。
そんで揶揄っているのかセクハラ発言をするけど……俺はあの人の事を頼れるお姉ちゃんみたいにしか感じられないんだよな。勿論、1人の女性としてかなり魅力的ではあるんだけど。
俺は心中で一人語りをしていると、2つ隣の席から女衆の会話が聞こえる。
「ねえねえ田邊さんって彼氏とかいるの?」
「えっと、彼氏はいない、かな」
声からして凛と……小山か。
「それはそうでしょ。田邊さんって今年で33でしょ? 彼氏じゃなくて、結婚しているのかって聞くもんじゃない」
そんで福嶋も話に加わった。
話の内容的に凛の恋愛事情らしいけど、興味ない……のに、クソっ! 正直気になる!
「あ、そうだよね。田邊さんって結婚しているの?」
「えっと、結婚もしていないよ。ほら、結婚指輪してないでしょ?」
…………は? あいつ、結婚していないのか?
高校の担任の宮下と結婚したとばかり思ってたが。離婚したのか?
「嘘本当に!? え、なに、バツイチ!?」
「……最初にその言葉が出る事に言及したいけど、一度も結婚してないよ。まあ、子供はいるけど」
凛に質問を投げていた小山と福島が固まる。
「え、えっと……なに? 結婚はしていない。けど子供はいるって……どういうこと?」
福嶋が凛に恐る恐ると尋ねると凛は愛想笑いを浮かべて答える。
「私、彼氏に捨てられたんだ。子供が出来た後に」
ピシャリと聞いていた小山と福島は開いた口が塞がらないぐらいに驚愕する。
俺もそうだ。凛の現状を聞いて気が気でない……だが、これってどこかが聞いた様な……。
てか、言った本人が何事も無かったように烏龍茶をぐびぐび飲むってどういう精神だよ。
「ちょ、ちょっと待って! 子供が出来た後に彼氏に捨てられたって。その後子供はどうしたの!?」
「元気に産まれたよ。その後は私一人で育ててるんだ。まあ、助けてくれた人はいるけど」
「いや……そんな普通に言われても。父親がいない状態で子供を育てるって辛くない?」
「うーん……辛くないって言えば嘘にはなるけど……仕事で疲れて帰って来た後に、子供の笑顔を見るとさ、疲れなんて吹き飛ぶよ。そしていつも思うんだ。この子にはこれからも元気に生きていってほしいって」
……………あいつ。やっぱり。
「てか、子供が出来たから捨てるってその彼氏、すっごくムカつくんだけど! 私、そういう無責任な男が一番嫌い!」
小山が足でテーブルを踏み憤慨する。全員の視線が凛たちに集まり、凛は小山を宥める。
「落ち着いて小山さん。私の代わりに怒ってくれて嬉しいけど、もうあの人の事なんてどうでもいいの」
「いーや田邊さんがどうでもいいって言っても私の腹の虫が鳴りやまない! その彼氏の住所教えて、私がバット持ってぶん殴りに行くから!」
「いやだから落ち着いて! 本当にどうでもいいから今更!」
酒が回っているのか暴れる小山を男陣で抑え込む中、福嶋が凛に言う。
「それにしても最低な男に会ったものだね……。まあ、昔はどうであれ、女で一つで子供を育てるって凄い事だと思うな。私も母子家庭だったからお母さんの苦労は知っているし。世間ではシングルマザーに冷たい風潮があるけど、私は田邊さんを応援しているから。しっかり子供を育ててね」
福嶋のエールに凛はありがとうと微笑むが、次第にその笑みに苦色が浮かび。
「私は褒められる様な母親じゃなく、最低な母親だよ……」
「どうして?」
凛は自嘲する様に語る。
「自分の昔の失敗で得た価値観を娘に押し付け、剰え娘の存在自体を否定する事まで言っていた。私にはそういうつもりはなかったけど……娘の心を深く傷つけていたんだ……」
凛は唇を血が出んばかりに深く噛み。
「私の所為で……娘は……家出してしまった……」
その言葉を聞いて俺は身体の芯が凍る様に動かなくなる。
動悸が早くなり、胸が苦しくなる。そして脳裏に浮かぶ鈴音の顔……やっぱりあいつは!
「家出って……それ大丈夫なの? 家出してどれくらい?」
「……2週間」
やっぱり、日にちも一緒だ。こんな偶然あるわけがない。これは確定だ!
「り――――――!」
俺が凛に声を掛けようとした時だった。
突如背後から誰かに抱き着かれた。そして背中に伝わる柔らかい感触。誰だよ!
「おーい古坂飲んでいるかぁ? 折角の飲み会なんだから飲め飲め! 飲み放題だから幾ら飲んでも大丈夫! 気にせず高い酒も飲めよ。ほらこの酒美味しいぞ?」
「スミマセン部長! 今そんな場合じゃなくて!」
「なんだ? 私の酒が飲めないのか? お前はいつから上司との一献交えるのを断るぐらい生意気になったんだ。ほらほら、いいから飲めって」
「だからちょ―――――!」
この人は酒が入ると横柄になるよな、それがこの人の最大の欠点だ。
けど本当に今はこの人の相手をしている場合ではない。
鈴音は、俺の家に居候する家出娘は、凛の――――――あれ、世界が回る……。
俺は部長に無理やり酒を飲まされた様で、視界がぐるんぐるんと回る。気持ち悪い……。
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