家出少女は昔振られた幼馴染と瓜二つ

ナックルボーラー

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着替え

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 初の単身での仕事を他の人に迷惑をかける事なく終わり、あその週の土曜日。
 基本土、日が休日の営業課の私は自室の姿見の前で外出着に着替えをしていた。

「……最近、この服あまり着てなかったからね。少しサイズが……太ったかな?」

 約1年ぶりに着た服の窮屈さに苦言を漏らす私。
 運動不足でここ最近スタイルの維持を怠ってきたから、その付けが回って来たのか。
 体重の増加はあまりないけど、脂肪が少し増えたのかな……ダイエットしないと。

「相手は一応、取引先の重鎮。失礼な恰好で行くわけにはいかないよね……いや、今回のはあくまでただの食事で仕事絡みは一切ないんだけど」

 私は今日の夕方に食事の約束をしている。
 相手はこの地域で最も大きい事業を持つ小売店『オオヒラ』の社員、大平清太。
 だが、ただの社員ではなく、社長の孫という立場で、本人はただの社員に過ぎないと語るが、私の態度が会社に影響を与えないと断言はできない。
 
 お金がないシングルマザーだから、元々服の数も無いけど、最適な服を選ばないといけない。
 
 私はクローゼットから服を取り出しは、姿見で服と体を重ね、駄目だと自己判断しては服を放り投げる。
 約束の時間までまだ3時間はあるが、化粧とかの時間を含めて早いに越した事はない。
 私が何着目かを手に取った時、ふと思わず零してしまった。

「……もしこれがこーちゃんだったら、どれだけ気合が入ったかな……」

 あくまで今回のは仕事先の相手に失礼が無いという様にする為の礼儀に過ぎない。
 相手に良く魅せようとかの気は一切なく。必要最低限の礼装であれば良いと思っている。
 だけど……思ってしまう。もし相手が幼馴染のこーちゃんだったら、私は本気で着飾ってただろうな、って。
 
 私は先日の昼食の時を思い出す。
 私が大平さんに食事に誘われたと聞いた時のこーちゃんの反応は冷めていた。
 我関せず、さして興味が無いとばかりな態度で、上司としての意見を話すだけで、止めはしなかった。
 あの時の私は……心の隅で、行くな、って言って欲しかったのかもしれない。
 ハハッ……私馬鹿だな。
 何年かぶりに初恋の相手と再会してどこか舞い上がっていた。
 もう、私とこーちゃんの関係はあの時とは違うはずなのに。
 未だに、こーちゃんって呼ぶのだから、私は何処かで未練に思っているのかもしれない。

「……そろそろこの気持ちを断ち切る為に……婚活、始めないといけないのかな……」

 私は下野目さんが言った言葉が頭に残っている。

『娘の事を思うなら。お金がある男性と結婚も良いと思うわ』

 お金の事ではない。娘の事を思うなら……それが私の心を揺さぶる。
 私は今後も結婚しなくても良いと思っていた。
 だけど、娘の鈴音を思うなら、やはり父親が必要なのかもしれない。鈴音は父親に憧れているから……。
 けど……誰でも良いってわかではない。
 第一条件は、鈴音を本当の娘の様に接してくれる人だ。
 もしそんな人がいれば、私は…………。

「……あ、服、皺が付いたな……」

 我に返ると無意識の内に手に握っていた服に皺を作っていた。
 皺が付いた服を着ていくわけにはいかず、私はその服も床に放り投げる。

「早く、服を選ばないとな——————」

「お母さん、なにしてるの?」

「きゃあああああ!」

 気配も音も無い背後から突然と声をかけられ絶叫をあげる私。
 バッと後ろを振り返ると、部屋の扉にパ〇コを口を加える鈴音が立っていた。

「い、いきなり声をかけないでよ鈴音!一瞬、心臓が飛び出るかもしれなかったじゃない!」

「いや、普通に声を掛けただけで理不尽に怒られても……」

 パ〇コを口から離した鈴音は目を細めて私に言い返す。
 うぐぐ……とぐぅの音が出ない私だけど、私は現在の鈴音の姿を見て指摘する。

「てか貴方。なに下着姿で家を闊歩しているの。年頃の娘がはしたない」

「部屋に服を散乱させてるお母さんに言われたくないけどね。けど、仕方ないじゃん、暑いんだから。家は節電でクーラーもあまり使えないんだし」

 クーラーもまともに使用できない貧乏で悪かったわね。
 けど……この子知らない間に育ったわね。中学生から一緒にお風呂入らなくなったし。
 この子の年齢層では中々に育った体型じゃ……私、貴方を出産してから胸が大きくなったのに……。
 謎の娘への敗北感を味わう私を他所に、鈴音は私の部屋に散らばる服を見渡し。

「それにしてもどうしたの? こんな服を出して—————」

 鈴音は何かを察したのか、目を輝かせ。

「もしかしてデート!? え、ええ! 相手は康太さん!?」

 宝石の様に目を輝かせて顔を近づける鈴音に私は居た堪れなくなって顔を逸らす。
 「落ち着きなさい」と鈴音の顔を押す私は、ため息を吐き。

「残念ながらどちらも不正解。相手は取引先の相手で、ただの会食。貴方が期待する事は一切ないわよ」

 ……この子、本当に分かり易いな。
 落胆ぶりが目に見えて分かる。
 この子、本当にこーちゃんの事、気に行ってるんだな……。
 
「……てか貴方。私に何か用があって部屋に来たんじゃないの?」

「娘が母親に声を掛けるのに理由が必要なのかって疑問はあるけど……まあ、あるんだけど、理由。はい、これ。台所で鳴ってたよ」

 鈴音はそう言ってポイと私の方に何かを放り投げる。
 ……って、スマホ!?
 運動音痴の私は慌てながらに投げられたスマホを何度かお手玉をしてキャッチ。
 ふぅ……と安堵の息を零した後に、私は鈴音に注意する。

「ちょっと鈴音!人に物を渡すのに投げちゃ駄目でしょ! 落したら弁償代も馬鹿にならないのに!」

「それぐらいなら小学生でも取れると思ったからね。お母さんは、本当に運動音痴なんだから……」

 悪かったわね! 貴方と違って運動音痴で!
 私は鈴音を睨んだ後に、携帯画面を見る。
 そこには一通のメールが表示されていた。

「音の長さ的にメールかL〇NEだと思うけど、相手の為に早く返してあげた方がいいよ」

「高校生に言われなくても分かってるよ!」

 最近、どこか口煩くなった娘の成長に悲嘆しながら、私は送られてきたメールを開く。
 送り主は…………え?
 画面に映りだされた送り主に言葉を失った私は、メール画面を開き内容を見る。
 そのメールの内容も、今の私からすれば驚愕だった。
 
 思考が止まる事数秒……私は着飾った外出着ではない、最低限の服に着替え、携帯と財布を手に持ち、家を飛び出した。
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