家出少女は昔振られた幼馴染と瓜二つ

ナックルボーラー

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男運

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 俺は契約解除の危機に瀕しているオオヒラとの対応に追われていた。
 オオヒラは俺達の会社の中で重要な取引先でもあるから、打ち切られるのはマズイ。
 何としても対処しなければいけない。じゃないと、責任を問われて凛のクビに直結する。
 何としてもそれを防がないといけない。アイツには、養わないといけない鈴音家族がいるんだからよ!

「だから! 担当者に繋いで欲しいって言ってるんです!」

『ですから……そちらを担当している者が今は不在でして、繋ぐことはできませんと言ってるではないですか……』

 俺は緊急会議が終わった後、直ぐにオオヒラの営業部署に直通を入れた。
 電話に出たのは俺達を担当している者ではなく別の者だが、担当者を出してくれと言っても、今の様に不在だと言い張る。

「それは可笑しいですよ! 2時間前さきほど、急に契約の打ち切りを申し立てられたんです。って事は会社には出勤しているはずです。どうかそちらから連絡をして頂き、こちらに折り返し電話する様にお伝えください」

『我々も正直突然の事で戸惑ってはいるんですよ。今朝清太さんが出勤したかと思えば、いきなりそちらと契約を打ち切りする様に連絡を入れろと言ってきまして……。何か清太さんの気に障る様な事をされたんですか?』
 
 うぐっ。凛の名誉の為に事情は言えないが、確かに原因はこちらにもある。
 だが俺は、その清太って奴がどうにもきな臭く感じる。
 聞いた話だと、大平清太は特に悪目立った噂は一切無く、誠実な人物だと聞いている。
 だが、そんな奴が振られただけで取引を中止にするか?
 同じ人物に振られたのに、なんでこうも違うんだろうな。俺なら、絶対にそんな事はしないのによ。

「此方にも秘匿したい事はありますので話せませんが、取引を打ち切る様に命令を出したあと、清太さんはどちらに向かわれたのですか?」

『分かりません。何も告げずに有給を取ってお帰りになりました。言伝で何があっても自分に連絡しないで欲しいとも言ってました』

 くそ! 追及されない為に雲隠れをしやがったのか!?
 この対応者の話からして、大平清太って奴は営業部の中でも発言力が高い。
 それもそうだ。仮にも社長の孫。血族特権を使って無理を通している感じだ。
 …………血族特権? そうだ!

「分かりました。では、社長にお繋ぎできないでしょうか? 直接社長とお話をさせてください」

 オオヒラの社長、大平源次郎は俺達の社長とは知己の仲。
 そっちはこっちに大きな借りがある。なら、それを使わない手はない。

『大変申し訳ございません。社長の方も本日は外出中でして、御戻りが明後日となっております』

 クソ! そっちも出ているとか不運過ぎるぞ!

「なら連絡先を教えてください! こちらから社長に連絡を入れます!」

『それは出来ません。そちらも分かってると思いますが、社長の個人情報をホイホイ外部に教えることは出来ません。我々の方で一報を飛ばすことは出来ますが、絶対に目を通すって保障はありません』

 確かにそうだ。俺はとんだ無理を言っていた。重鎮の携帯番号を取引先とは言え簡単に教えられるわけがない。つまり、担当者も、頼みの綱の社長との連絡も入れれない。
 ここは素直に、担当者か社長が戻って来るのを待つしかない。

「……分かりました。では、担当者か社長に連絡が付いたら、こちらに電話する様にお伝えください」

『分かりました』

 そう言って通話は終わり、俺は肩を落しながら受話器を下ろす。
 約15分の問答に疲れた俺は、背凭れに深く凭れて天井を仰ぐ。そんな俺に部長が声をかける。

「古坂。どうだったんだ?……って、お前の話しで大体の内容は伝わてはいるが」

「ええ。ある意味取り付く島がありません。というよりも、他の社員も事情が分かってない様子でした」

「そうか……つまり、大平清太の独断で我々の取引を打ち切っているわけか……。何とも情けない男だ。振られただけで取引を止めるとは。これでは田邊に自分と付き合わないと会社がどうなるかと脅しているようなものだ。社長の孫が聞いて呆れる」

 俺も同感だ。会った事はないが、俺の中で大平清太の心証は地に堕ちている。
 もしかしたら、これまで社長の孫という身分で不自由なく成長をして、挫折を味わった事がないから、凛に振られてプライドでも傷つけられたのか? だとしても、器の小さい男だ。

「だけど、話せる相手が居なければ打開策がないですから、今日の所は、一旦この話は保留にして、他の取引先の処理をするしかないですね」

「そうだな。私も出張中の社長に連絡はしてみる。古坂は他の仕事をしていてくれ、進展があればお前に伝える。勿論、お前の方も進展があれば私に伝えろよ?」

 分かってますよ、と俺が答えると白雪部長は自席に戻る。
 一旦オオヒラの件は忘れて他の取引先だ。こうしている間も承認証だったり、取引報告などの書類が溜まっている。それを処理しないと他の取引先にも迷惑がかかる。
 俺が書類処理に取り組んでいると、気になって来たのは凛が話しかける。

「古坂課長……本当に申し訳ございません。私の所為で……」

「だから、お前の所為じゃないって言ってるだろ。今回のこれは、相手側の器の小ささだ。本当に、プライベートを仕事に持ちだすなよな。会社はお前の私物じゃないってのによ」

 俺は本心でそう思っている。凛は悪くない。
 悪いのは、一度振られたぐらいで相手に嫌がらせをする相手の性根だ。

「お前は母親としての責務を果たしているだけだ。母親が娘を大切にする気持ちは間違っちゃいない。だからお前は、鈴音の為に断ったんだろ?」

 凛が一見優良物件の大平清太を振ったのはそれが起因している。
 凛は、母親としての本能か、自分の事よりも娘を第一に考えている。
 娘の幸せの為に自分の幸せを投げ打つ阿呆だ。だからこそ、鈴音を大切にされないと感じて断った。

「娘を大切に想うのは母親として当たり前だから。別に、凄い事でもないよ」

「馬鹿。世の中に当たり前は有り触れているが、だからって凄くないわけがないだろ。体を痛めて産んだのに、虐待して殺す親も沢山いる。当たり前? 大いに凄いと思うね。少なくとも、必死に、そして愛を注いで子を育ててるお前を、俺は尊敬するよ」

 あーヤバい。自分で言ってて恥ずかしいぜ。
 だってのに、凛はお構いなしにクスクスと笑い。

「ありがとう、こーちゃん」

「古坂課長だ。仕事中はそう呼べって言ってるだろ」

 俺は出来る限り凛の気持ちを尊重はしたいが、反省はして貰いたいな。

「つーか。アプローチかけられる度にこんな問題起こされるとなれば、流石に俺も庇いきれなくなるからよ。そろそろ誰かと結婚すればいいんじゃないか? そうすれば、断る常套句が出来るだろ」

 流石に既婚者を誘う奴はいないだろ。絶対とは言わないけど。
 だから凛には身を固めて欲しいが……自分で言っててムカムカするな、チクショウ。

「そう簡単に見つかれば苦労はしないよ。私にだって譲れない条件ってのがあるんだから。今回のそれも、譲れない条件があって断ったんだしね……」

 凛の譲れない条件、それは鈴音を娘として大切にしてくれる人物。
 やっぱりこいつは、自分を犠牲にする、本当の阿呆だ。

「本当に、この世に男性は星の数いるのに、どーして良い人と巡り合えないのかな。それにしても、私の男運って本当に悲惨だね、まったく……」

 本人が話している以上に悲惨な人生だったはずなのに、よよよと噓泣き風の態度で反応が困る。
 ここは1つまた揶揄ってやるか。

「お前の男運は俺と出会った事で全部使い果たしたのかもな」

 ケラケラ笑う俺だが、凛は穏やかに微笑み。

「そうかもね」

 真っすぐな瞳と言葉に反撃を喰らった様に俺は顔を熱くする。
 暫し凛を直視して固まる俺は、必死に解除を試みてグッと唇を噛む。

「ば、馬鹿言うな! 冗談に決まってるだろ! あー! お前、今すぐオオヒラに渡す菓子折りを買って来い! お金は渡す! お前の品定めで上等なやつを選べ!」

 俺は強引に財布から2万円を取り出し凛に押し付ける。
 凛はお金を受け取ると、「分かりました。では行って来ます」と言って部署を後にする。

 凛が去り、やっとで1人になれた俺は心労で机にうつ伏せる。

 あぁ……30を超えた大人が必死に誤魔化すなんて高校生かよ……。
 これが女性経験が少ない弊害なのか。あぁ、童貞捨てたい。彼女欲しい。


 
 康太の命で謝罪用の菓子折りを買いに向かう凛は、先程の康太の言葉を思い返していた。

『お前の男運は俺と出会った事で全部使い果たしたのかもな』

 恐らく康太は冗談で言ったのだろう。流石にそれを本気にするつもりはない。
 だが、凛はそれを否定するつもりはない。

 これまで凛が合って来た男性は屑だった。
 鈴音の父親である宮下。凛との未成年交際が発覚して職を失い、全てを凛に責任転嫁して非情にも凛を捨てた男。未練は微塵もなく、可能なら一生会いたくない人物。
 そして今回の大平清太。凛が自分の命よりも大切な娘の鈴音を蔑ろにしようとする発言。到底凛は受け入れられるものではなかった。それを拒絶した結果が、件の取引の打ち切りだ。

 その2人と比べると太陽はかなりの良心者だ。
 一度裏切った凛をまるで昔の様に接してくれる。未だに話しの最初に眼を逸らすのは治ってないが。

「本当に、私の男運はこーちゃん。貴方に全部注いだのかもね。そしてそれを、私は捨ててしまった。もしかしたらこの先、私は良い男性に巡り合えないのかもね。まるで、裏切ったことへの罰みたいに」

 目尻に溜まる涙を強く拭う凛。
 そんな最中、凛の懐に仕舞う携帯からバイブ音と振動が鳴る。
 誰からだろ?と凛は携帯を取り出し発信者を確認すると、目を見開き、そして歯を強く喰いしばる。
 必死に心を落ち着かせ、あくまで平静を取り繕う凛は、ゆっくりと通話開始のボタンを押し、耳に当てる。そして、静かな声音で電話相手に言う。

「よく臆面もなく電話して来ましたね――――――大平さん」
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