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日常編
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ぽつぽつ会話をしながら食事を終えると、黒須が立ち上がった。織部が不思議そうに問う。
「あれ、どうしたんですか部長。トイレですか?」
「いや。後は二人で楽しんでいって。僕は邪魔だろうから先に会社に帰るよ」
「えー! まだいいじゃないですか! ねえ陽波! 話したいことがあるって言ってたじゃない!」
「ええ!?」
言ってない。織部のキラーパスに陽波は狼狽えた。
「話? いいよ。何でも言って。会社の中だと言い辛いこともあるだろうし……もしかして、僕への文句かな?」
黒須は冗談ぽく言った。陽波はいよいよ退路を塞がれる。何か丁度いい話題は無いものか。陽波は必死で脳内を探し回った。
「あーそのですね、言い辛いんですが……部長はどうしてそんなに私のことを気にかけてくれるんでしょうか……と思いまして。いやあの、自意識過剰かもしれないんですけどね!? 部長は優しいですからね! ええ!」
諦めた。脳内にあった話題はこれだけである。陽波は、黒須を見ていられずに視線をゆっくり下へ落とした。すると織部が追撃をする。
「私も気になります。部長、普段から陽波のことよく見てますよね。何か気になるんですか?」
「お、織部! 私の気の所為だから!」
「あんたは何パニクってんの」
織部に軽く頭を叩かれた。陽波は更に頭が下がる。黒須は立ったまま、言い辛そうに目を泳がせた。
「それは……うーん。ああ、立ったままだと迷惑だね」
黒須は再び席に戻ると、居心地が悪そうに少し身をそわつかせた。
「実は。平牧さん、酷く疲れた顔をしている時があるから、仕事が上手く回っていないかもと心配になったんだ。でも僕から声をかけたら委縮するだろうし……無理してないか気になってね、度々様子を窺ってたんだ」
「し、仕事は全然大丈夫です。お陰様で何とかなってますから!」
陽波はほっとして、慌ててフォローを入れた。黒須は小さく頷いた。そして申し訳なさそうな顔をする。
「うん……でもごめんね。いくら上司でも、ちらちら見られたら気持ち悪いよね。今度からは気を付けるよ」
「そんなことないです! いや、ええと? だ、大丈夫です!?」
言葉が出て来ず、陽波は「大丈夫です」と繰り返した。黒須は何か見極めるように目を細めて、優しく言った。
「平牧さん、無理はしてない?」
「し、してないです」
「……こう言われても、相手が上司だから気を遣ってるのかもって、僕は思っちゃうんだよね」
黒須は苦笑した。そして陽波と織部をそれぞれ見つめる。
「僕は頼りない上司かもしれないけれど、二人とも何かあったら気軽に言って欲しい。遠慮はしなくていいから。まだ若いのに上司ぶってるムカつくやつがいる、とかでもいいよ」
黒須の自虐に、陽波たち二人はほんの少し笑みを浮かべた。反応に困ったのである。
「僕はそろそろ戻るよ。上の人たちに睨まれちゃうからね。それじゃあ、二人はゆっくりしてって」
さりげなく伝票を掴むと、黒須は店を出て行った。陽波と織部は顔を見合わせる。お互い何から言っていいのか迷っていた。先に声を出したのは織部だ。
「部長……自虐が持ちネタなんだ」
「そこじゃなくない? 注目するところはそこじゃなくない?」
織部は息を吐いてコップを掴んだ。ただ触っているだけで、飲むつもりはないらしい。織部は純粋な疑問を呟いた。
「何であの人うちの会社にいるの? 私らと人間が違いすぎる」
「わけ分かんないよね。社長に弱みでも握られてんのかな」
大企業でもない、ただ新しいだけの会社だ。揃っている社員も皆適当で、給料だけ貰いにきているような者ばかりだ。黒須のような、労わりの心を持った人間は珍しい。ほとんどの社員が隣人はどうでもいいタイプである。
織部は機嫌を斜めに、頬杖を突いた。
「あーあ。煙に巻かれたって感じ。絶対何か隠してるよ部長は」
「まだ疑ってんの? 純粋に部下を気遣ってるだけでしょうに、疑ったら可哀想じゃん」
陽波はスマホで時間を確認して立ち上がった。織部はいまいち納得していない様子で、渋い顔をしている。
「会社戻りたくねー」
「分かる」
「……陽波さ、ぶっちゃけ、黒須部長に気はある?」
「えー? しばらくそういうのはいいや。あの合コンで懲りた」
陽波は自分の頭を掻きまわした。あの地獄はもう思い出したくない。陽波は、今の魔法少女生活が終わるまで恋愛沙汰は封印すると決めたのだった。アストの心労の種は減らしておきたい。
織部は妙に思ったのか陽波の顔を覗いた。
「ふーん。ちょっと前まで『早く彼氏作りたい!!』とか血眼で言ってたのにねえ」
「血眼では言ってない。まあ、色々あるのよ私にも」
織部の言う“ちょっと前”は魔法少女が二人引退してしまった時期だろう。彼氏! 結婚! で引退したので、陽波も彼氏を作ってさっさと辞めたいと自棄になっていたのだった。
店を出て歩きながら織部が言った。
「陽波は早く誰かと一緒になって私を安心させて欲しい」
「親か?」
「言っちゃ悪いけど、あんた事故ったりとかしそうなんだもん。突然いなくなりそうっていうか……。変な男に引っかかって事件に巻き込まれそうっていうか……」
まさにそうだ。他の惑星の男を拾った挙句魔法少女をさせられている。織部の観察眼を恐れながらも陽波は知らぬ振りを通した。
「有り得ないって。私どんな人間なわけ?」
「あはは、まあ……」
「何で濁した?」
苦笑いを浮かべる織部と共に、陽波は午後の業務に戻った。陽波は何となく気になって、仕事中にちらちらと黒須を見ていたのだった。
「あれ、どうしたんですか部長。トイレですか?」
「いや。後は二人で楽しんでいって。僕は邪魔だろうから先に会社に帰るよ」
「えー! まだいいじゃないですか! ねえ陽波! 話したいことがあるって言ってたじゃない!」
「ええ!?」
言ってない。織部のキラーパスに陽波は狼狽えた。
「話? いいよ。何でも言って。会社の中だと言い辛いこともあるだろうし……もしかして、僕への文句かな?」
黒須は冗談ぽく言った。陽波はいよいよ退路を塞がれる。何か丁度いい話題は無いものか。陽波は必死で脳内を探し回った。
「あーそのですね、言い辛いんですが……部長はどうしてそんなに私のことを気にかけてくれるんでしょうか……と思いまして。いやあの、自意識過剰かもしれないんですけどね!? 部長は優しいですからね! ええ!」
諦めた。脳内にあった話題はこれだけである。陽波は、黒須を見ていられずに視線をゆっくり下へ落とした。すると織部が追撃をする。
「私も気になります。部長、普段から陽波のことよく見てますよね。何か気になるんですか?」
「お、織部! 私の気の所為だから!」
「あんたは何パニクってんの」
織部に軽く頭を叩かれた。陽波は更に頭が下がる。黒須は立ったまま、言い辛そうに目を泳がせた。
「それは……うーん。ああ、立ったままだと迷惑だね」
黒須は再び席に戻ると、居心地が悪そうに少し身をそわつかせた。
「実は。平牧さん、酷く疲れた顔をしている時があるから、仕事が上手く回っていないかもと心配になったんだ。でも僕から声をかけたら委縮するだろうし……無理してないか気になってね、度々様子を窺ってたんだ」
「し、仕事は全然大丈夫です。お陰様で何とかなってますから!」
陽波はほっとして、慌ててフォローを入れた。黒須は小さく頷いた。そして申し訳なさそうな顔をする。
「うん……でもごめんね。いくら上司でも、ちらちら見られたら気持ち悪いよね。今度からは気を付けるよ」
「そんなことないです! いや、ええと? だ、大丈夫です!?」
言葉が出て来ず、陽波は「大丈夫です」と繰り返した。黒須は何か見極めるように目を細めて、優しく言った。
「平牧さん、無理はしてない?」
「し、してないです」
「……こう言われても、相手が上司だから気を遣ってるのかもって、僕は思っちゃうんだよね」
黒須は苦笑した。そして陽波と織部をそれぞれ見つめる。
「僕は頼りない上司かもしれないけれど、二人とも何かあったら気軽に言って欲しい。遠慮はしなくていいから。まだ若いのに上司ぶってるムカつくやつがいる、とかでもいいよ」
黒須の自虐に、陽波たち二人はほんの少し笑みを浮かべた。反応に困ったのである。
「僕はそろそろ戻るよ。上の人たちに睨まれちゃうからね。それじゃあ、二人はゆっくりしてって」
さりげなく伝票を掴むと、黒須は店を出て行った。陽波と織部は顔を見合わせる。お互い何から言っていいのか迷っていた。先に声を出したのは織部だ。
「部長……自虐が持ちネタなんだ」
「そこじゃなくない? 注目するところはそこじゃなくない?」
織部は息を吐いてコップを掴んだ。ただ触っているだけで、飲むつもりはないらしい。織部は純粋な疑問を呟いた。
「何であの人うちの会社にいるの? 私らと人間が違いすぎる」
「わけ分かんないよね。社長に弱みでも握られてんのかな」
大企業でもない、ただ新しいだけの会社だ。揃っている社員も皆適当で、給料だけ貰いにきているような者ばかりだ。黒須のような、労わりの心を持った人間は珍しい。ほとんどの社員が隣人はどうでもいいタイプである。
織部は機嫌を斜めに、頬杖を突いた。
「あーあ。煙に巻かれたって感じ。絶対何か隠してるよ部長は」
「まだ疑ってんの? 純粋に部下を気遣ってるだけでしょうに、疑ったら可哀想じゃん」
陽波はスマホで時間を確認して立ち上がった。織部はいまいち納得していない様子で、渋い顔をしている。
「会社戻りたくねー」
「分かる」
「……陽波さ、ぶっちゃけ、黒須部長に気はある?」
「えー? しばらくそういうのはいいや。あの合コンで懲りた」
陽波は自分の頭を掻きまわした。あの地獄はもう思い出したくない。陽波は、今の魔法少女生活が終わるまで恋愛沙汰は封印すると決めたのだった。アストの心労の種は減らしておきたい。
織部は妙に思ったのか陽波の顔を覗いた。
「ふーん。ちょっと前まで『早く彼氏作りたい!!』とか血眼で言ってたのにねえ」
「血眼では言ってない。まあ、色々あるのよ私にも」
織部の言う“ちょっと前”は魔法少女が二人引退してしまった時期だろう。彼氏! 結婚! で引退したので、陽波も彼氏を作ってさっさと辞めたいと自棄になっていたのだった。
店を出て歩きながら織部が言った。
「陽波は早く誰かと一緒になって私を安心させて欲しい」
「親か?」
「言っちゃ悪いけど、あんた事故ったりとかしそうなんだもん。突然いなくなりそうっていうか……。変な男に引っかかって事件に巻き込まれそうっていうか……」
まさにそうだ。他の惑星の男を拾った挙句魔法少女をさせられている。織部の観察眼を恐れながらも陽波は知らぬ振りを通した。
「有り得ないって。私どんな人間なわけ?」
「あはは、まあ……」
「何で濁した?」
苦笑いを浮かべる織部と共に、陽波は午後の業務に戻った。陽波は何となく気になって、仕事中にちらちらと黒須を見ていたのだった。
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