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激情編
17 好きだよ
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アストの様子が変だ。一週間前、ティグロに色々言われた所為だろうか。
アニムスの人間たちは、他人の感情に敏感だと言うので、陽波は出来る限り明るく振舞ってアストの気持ちを和らげようと努力した。しかしアストは、
『俺、陽波の重荷になってないかな……』
とぼそっと呟いて、陽波ともあまり会話をしなくなってしまった。
陽波はアストのこの状態について“思春期かな?”と考えて、少しそっとしておくことにしたのだった。
「アスト、私、今日会社の飲み会があるんだ。夕飯、私の分はいらないから好きに食べて」
「うん。分かった」
「少し一人でゆっくりするといいよ。私がいたらうるさいだろうしね~」
陽波は返しを期待したものの、アストは曖昧に微笑むだけだ。どうも調子が狂う。
「じゃあ行ってくるー」
「気を付けて」
「アストもね」
陽波が出て行くと、部屋は静かになった。アストは息を吐く。
以前、陽波に指摘される前から薄々気付いてはいた。ただ認めにくかっただけだ。アストの存在が、陽波の人生を蝕んでいることに。
彼女には彼女の人生がある。アストの人生とは交わらない。共に歩む未来なんてものは最初から存在しないのだ。
陽波のことを想う人たちがいて、陽波にも想う人がいる。そこにアストは必要ない。だというのにアストは邪魔をしてしまった。
彼氏が欲しい、幸せになりたい、と言っていた陽波が諦めだしたくらいに、妨害をして、意識を変えさせてしまったのだ。
今更謝ったところで、どうにもならない。アスト自身、邪魔をするつもりはなかった。
以前、上司の名刺を隠したのも、衝動的なものだった。理由は後付けしただけで、本当は何も考えていなかったのだ。少し、嫉妬したのかもしれない。
離れる時が来たのだろう。これ以上陽波の迷惑になりたくない。それを陽波にどう伝えるか、伝えられるか、アストは悩んでいた。
明日伝える、やっぱり明日、今日はやめておこう、をずっと繰り返している。
意気地無しだ。ティグロに言われた通り、いっそ故郷に帰ってしまおうか。アストはぼんやり天井を見つめて息を零した。
**
陽波はけたけたと笑い転げている。織部は彼女の体を揺さぶった。
「おい陽波~。もう帰るよ!」
「え? 織部飲まないの? うっそーアハハハこんなに美味しいのに~?」
「この酔っ払いめ~」
この会社では、年末の時期をずらして早めに忘年会が行われていた。既に閉会したというのに、陽波は酔い過ぎて前後不覚の状態に陥っている。
「ねえ大きい唐揚げってさあ、どうやって切るのかな? 四人で分けるとしても、平等にならなくない? どうしても衣が大きいところとそうじゃないところが出来るでしょ?」
「平牧さんは何の話をしてるの?」
「怖いんだけど」
他の社員も混乱している。織部はどうしようか悩んでいた。
「唐揚げを四等分……したら私は大きいところがいいなあ。織部は?」
「うん。私は二次会行くから、陽波は帰れ」
「えー? 置いてくの? ひどーい。アハハハ! 人でなしぃ……」
普段以上に飲んでいるとは思ったが、まさかここまで酔っ払うとは織部も予想外だった。二次会に誘うつもりだったがどう見ても無理である。
何とか店の外まで陽波を引きずり出したが、その後が困ってしまった。タクシーに放り込むか、と考えていると、
「あ、部長! ちょうどいいところに!」
黒須部長を発見した。声をかけると、振り向いて柔和な笑みを浮かべた。どう見てもシラフだ。酒は飲んでいないらしい。酔っている陽波は何故か敬礼の格好をした。
「部長~! ご無沙汰してます! 平牧です! お元気そうで何よりです!」
「平牧さん、今日は朝から一緒だったよね? はは、お酒が美味しかったのかな。随分酔ってるみたいだ」
「そうなんですよ~本当に困っちゃって。ちなみに部長はこの後、予定ありますか?」
「このまま帰るつもりだよ」
「ああ~! それなら、もし良ければなんですけど、陽波のこと家まで送ってくれませんか? 私は今から行くとこあって」
他の同僚が織部を見ながら手招きをしている。織部はジェスチャーで答えながら黒須に向かって両手を合わせた。
「無理にとは言わないですけど、お願いします!」
「ああ、いいよ。この状態じゃ僕も見てて心配だからね」
「助かります!」
ふらついている陽波を黒須に押し付け、織部は素早く去って行った。途端に陽波が叫ぶ。
「おいこら織部ー! 唐揚げはどうすんだー!」
「唐揚げ?」
「いえ、違います、部長は良いんですよ、私と織部のこう……女の戦い的なやつです」
「そうなんだ……」
黒須は先の苦労を想像しつつ、タクシーを呼んだ。
アニムスの人間たちは、他人の感情に敏感だと言うので、陽波は出来る限り明るく振舞ってアストの気持ちを和らげようと努力した。しかしアストは、
『俺、陽波の重荷になってないかな……』
とぼそっと呟いて、陽波ともあまり会話をしなくなってしまった。
陽波はアストのこの状態について“思春期かな?”と考えて、少しそっとしておくことにしたのだった。
「アスト、私、今日会社の飲み会があるんだ。夕飯、私の分はいらないから好きに食べて」
「うん。分かった」
「少し一人でゆっくりするといいよ。私がいたらうるさいだろうしね~」
陽波は返しを期待したものの、アストは曖昧に微笑むだけだ。どうも調子が狂う。
「じゃあ行ってくるー」
「気を付けて」
「アストもね」
陽波が出て行くと、部屋は静かになった。アストは息を吐く。
以前、陽波に指摘される前から薄々気付いてはいた。ただ認めにくかっただけだ。アストの存在が、陽波の人生を蝕んでいることに。
彼女には彼女の人生がある。アストの人生とは交わらない。共に歩む未来なんてものは最初から存在しないのだ。
陽波のことを想う人たちがいて、陽波にも想う人がいる。そこにアストは必要ない。だというのにアストは邪魔をしてしまった。
彼氏が欲しい、幸せになりたい、と言っていた陽波が諦めだしたくらいに、妨害をして、意識を変えさせてしまったのだ。
今更謝ったところで、どうにもならない。アスト自身、邪魔をするつもりはなかった。
以前、上司の名刺を隠したのも、衝動的なものだった。理由は後付けしただけで、本当は何も考えていなかったのだ。少し、嫉妬したのかもしれない。
離れる時が来たのだろう。これ以上陽波の迷惑になりたくない。それを陽波にどう伝えるか、伝えられるか、アストは悩んでいた。
明日伝える、やっぱり明日、今日はやめておこう、をずっと繰り返している。
意気地無しだ。ティグロに言われた通り、いっそ故郷に帰ってしまおうか。アストはぼんやり天井を見つめて息を零した。
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陽波はけたけたと笑い転げている。織部は彼女の体を揺さぶった。
「おい陽波~。もう帰るよ!」
「え? 織部飲まないの? うっそーアハハハこんなに美味しいのに~?」
「この酔っ払いめ~」
この会社では、年末の時期をずらして早めに忘年会が行われていた。既に閉会したというのに、陽波は酔い過ぎて前後不覚の状態に陥っている。
「ねえ大きい唐揚げってさあ、どうやって切るのかな? 四人で分けるとしても、平等にならなくない? どうしても衣が大きいところとそうじゃないところが出来るでしょ?」
「平牧さんは何の話をしてるの?」
「怖いんだけど」
他の社員も混乱している。織部はどうしようか悩んでいた。
「唐揚げを四等分……したら私は大きいところがいいなあ。織部は?」
「うん。私は二次会行くから、陽波は帰れ」
「えー? 置いてくの? ひどーい。アハハハ! 人でなしぃ……」
普段以上に飲んでいるとは思ったが、まさかここまで酔っ払うとは織部も予想外だった。二次会に誘うつもりだったがどう見ても無理である。
何とか店の外まで陽波を引きずり出したが、その後が困ってしまった。タクシーに放り込むか、と考えていると、
「あ、部長! ちょうどいいところに!」
黒須部長を発見した。声をかけると、振り向いて柔和な笑みを浮かべた。どう見てもシラフだ。酒は飲んでいないらしい。酔っている陽波は何故か敬礼の格好をした。
「部長~! ご無沙汰してます! 平牧です! お元気そうで何よりです!」
「平牧さん、今日は朝から一緒だったよね? はは、お酒が美味しかったのかな。随分酔ってるみたいだ」
「そうなんですよ~本当に困っちゃって。ちなみに部長はこの後、予定ありますか?」
「このまま帰るつもりだよ」
「ああ~! それなら、もし良ければなんですけど、陽波のこと家まで送ってくれませんか? 私は今から行くとこあって」
他の同僚が織部を見ながら手招きをしている。織部はジェスチャーで答えながら黒須に向かって両手を合わせた。
「無理にとは言わないですけど、お願いします!」
「ああ、いいよ。この状態じゃ僕も見てて心配だからね」
「助かります!」
ふらついている陽波を黒須に押し付け、織部は素早く去って行った。途端に陽波が叫ぶ。
「おいこら織部ー! 唐揚げはどうすんだー!」
「唐揚げ?」
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「そうなんだ……」
黒須は先の苦労を想像しつつ、タクシーを呼んだ。
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