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激情編
22 間違えた
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間違えた気がする。正解も分からないが、間違えたのではないかという気持ちが寝起きの陽波の胸中にあった。
「陽波、朝ごはん出来てるよ」
「…………あ、そう」
昨日あれだけ色々言ったのは何だったんだ。まるで何事もなかったように、アストは変わらず陽波の為に朝食を作っていた。
「どうしたの? 顔洗ってこないの?」
「行ってくる」
昨日の夜の出来事は夢だと信じたくなる。しかし夢ではない。陽波は体中の至る所に不調を感じていた。
途中で何度も止めようと思った。しかしアストの兎耳が見えて、余裕が無いのが文字通り目に見えたのでとても言い出せず。まあいいか、という風になあなあで済ませてしまった。
陽波の頭に強く残ったのは、アストは男だったなあ、ということだけである。
「男だったなあ……」
だから何だという話だ。今更だった。陽波はぼんやりと流れる水を眺めた。
**
陽波は一日出来るだけ何も考えないように勤めて、帰宅した。帰宅後もアストは変わらずいつも通りに接してくる。夕食も用意済みだ。しかし、
「ハンバーグだ!」
「陽波、食べたいって言ってたでしょ?」
「嬉しい!」
陽波は喜んで食卓についた。湯気の立つハンバーグを頬張る。
少し焦げ目のついたハンバーグ。デミグラスソースも酸味と甘味のバランスがちょうどいい。昔の失敗作とは比べものにならないくらい美味しかった。陽波も思わず笑顔になる。
「アスト料理上手くなったよね~」
「ずっと作ってるからね。喜んでもらえて良かった」
「でも昨日はハンバーグ駄目って言ってたじゃん。どういう心境の変化?」
気になって聞いてみた。昨日の時点では、ハンバーグはちょっと……という反応だったはずだ。アストはうんと頷いて床を見下ろした。
「俺、陽波の為って一生懸命になり過ぎて、陽波がちゃんと見えてなかったなあと思ったんだ。俺は家政婦でも執事でもないし、栄養士でもないんだよね。大事なことを見落としてたよ」
「まあ分かってくれたのは嬉しいけど」
嬉しいけど、着地点が変わっていない。これでは今までと何も変わらないのである。陽波的には一旦全てリセットして、アストには魔法少女方面でより頑張ってもらおうと思っていたのだが。陽波は改めて言うべきかと口を開いた。
「あのさー、アスト。昨日も言ったと思うけど、私的には」
「ごめん。陽波の言うことでもそれは聞けない」
言い終わる前に拒否されてしまった。陽波は苦笑いを浮かべた。アストも苦い顔をしている。
「言ったこと、覚えてはいるんだね」
「覚えてるよ。すごくショックだったから。でも俺、今は陽波の世話をするのが生き甲斐というか、これを失くしたらもう生きていけないんだよね」
「重い……」
勝手に人の世話を生き甲斐にしないで欲しい。アストは完全に目的を見失っている気がする。陽波はどう切り出したものか、迷いながらハンバーグを食べ進めた。
「あのさあ」
「ねえ、陽波は俺のこと好き?」
「え? あ、いや……」
陽波は口ごもる。好きも嫌いも気軽に言えなくなってしまった。
アストの問いは今までとは違う意味合いを持っている、とさすがの陽波も理解していた。答えられず、気まずく付け合わせのキャベツを齧る。
「陽波、好きな人いるの?」
「この話やめない? 私食事中だし……」
とは言うも既にほぼ食べ終わっている。アストが黙ったので、陽波は残ったキャベツを片付けて食器を手に立ち上がった。
「食器は俺が片付けるよ」
アストは陽波の肩に触れた。途端、陽波は身をびくつかせて食器を落としてしまう。がしゃん、と耳に痛い音がしたが絨毯の上だったので幸いにも割れずに済んだ。
「あ、ご、ごめん。うっかり手が滑った。割れなくて良かったね」
「俺が片付けるから、陽波はお風呂入ってきなよ」
陽波も手伝うつもりだったものの、アストに近付かれると体が固まってしまう。仕方なく、任せることにして陽波は風呂場へ向かった。
**
間違えたのかもしれない。アストは一人で食器を片付けながら息を零した。
「でも陽波も悪いじゃん……」
確かに勢いで襲ったのは悪かった。しかしアストもアストで我慢も限界だったのだ。他にどうすれば良かったのか。
昨晩、陽波がまっすぐ見上げてきた目には、困惑の色が強くあったように思う。それが最後まで消えなかったのが、アストの心に強くしこりのように残っていた。
「陽波、朝ごはん出来てるよ」
「…………あ、そう」
昨日あれだけ色々言ったのは何だったんだ。まるで何事もなかったように、アストは変わらず陽波の為に朝食を作っていた。
「どうしたの? 顔洗ってこないの?」
「行ってくる」
昨日の夜の出来事は夢だと信じたくなる。しかし夢ではない。陽波は体中の至る所に不調を感じていた。
途中で何度も止めようと思った。しかしアストの兎耳が見えて、余裕が無いのが文字通り目に見えたのでとても言い出せず。まあいいか、という風になあなあで済ませてしまった。
陽波の頭に強く残ったのは、アストは男だったなあ、ということだけである。
「男だったなあ……」
だから何だという話だ。今更だった。陽波はぼんやりと流れる水を眺めた。
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陽波は一日出来るだけ何も考えないように勤めて、帰宅した。帰宅後もアストは変わらずいつも通りに接してくる。夕食も用意済みだ。しかし、
「ハンバーグだ!」
「陽波、食べたいって言ってたでしょ?」
「嬉しい!」
陽波は喜んで食卓についた。湯気の立つハンバーグを頬張る。
少し焦げ目のついたハンバーグ。デミグラスソースも酸味と甘味のバランスがちょうどいい。昔の失敗作とは比べものにならないくらい美味しかった。陽波も思わず笑顔になる。
「アスト料理上手くなったよね~」
「ずっと作ってるからね。喜んでもらえて良かった」
「でも昨日はハンバーグ駄目って言ってたじゃん。どういう心境の変化?」
気になって聞いてみた。昨日の時点では、ハンバーグはちょっと……という反応だったはずだ。アストはうんと頷いて床を見下ろした。
「俺、陽波の為って一生懸命になり過ぎて、陽波がちゃんと見えてなかったなあと思ったんだ。俺は家政婦でも執事でもないし、栄養士でもないんだよね。大事なことを見落としてたよ」
「まあ分かってくれたのは嬉しいけど」
嬉しいけど、着地点が変わっていない。これでは今までと何も変わらないのである。陽波的には一旦全てリセットして、アストには魔法少女方面でより頑張ってもらおうと思っていたのだが。陽波は改めて言うべきかと口を開いた。
「あのさー、アスト。昨日も言ったと思うけど、私的には」
「ごめん。陽波の言うことでもそれは聞けない」
言い終わる前に拒否されてしまった。陽波は苦笑いを浮かべた。アストも苦い顔をしている。
「言ったこと、覚えてはいるんだね」
「覚えてるよ。すごくショックだったから。でも俺、今は陽波の世話をするのが生き甲斐というか、これを失くしたらもう生きていけないんだよね」
「重い……」
勝手に人の世話を生き甲斐にしないで欲しい。アストは完全に目的を見失っている気がする。陽波はどう切り出したものか、迷いながらハンバーグを食べ進めた。
「あのさあ」
「ねえ、陽波は俺のこと好き?」
「え? あ、いや……」
陽波は口ごもる。好きも嫌いも気軽に言えなくなってしまった。
アストの問いは今までとは違う意味合いを持っている、とさすがの陽波も理解していた。答えられず、気まずく付け合わせのキャベツを齧る。
「陽波、好きな人いるの?」
「この話やめない? 私食事中だし……」
とは言うも既にほぼ食べ終わっている。アストが黙ったので、陽波は残ったキャベツを片付けて食器を手に立ち上がった。
「食器は俺が片付けるよ」
アストは陽波の肩に触れた。途端、陽波は身をびくつかせて食器を落としてしまう。がしゃん、と耳に痛い音がしたが絨毯の上だったので幸いにも割れずに済んだ。
「あ、ご、ごめん。うっかり手が滑った。割れなくて良かったね」
「俺が片付けるから、陽波はお風呂入ってきなよ」
陽波も手伝うつもりだったものの、アストに近付かれると体が固まってしまう。仕方なく、任せることにして陽波は風呂場へ向かった。
**
間違えたのかもしれない。アストは一人で食器を片付けながら息を零した。
「でも陽波も悪いじゃん……」
確かに勢いで襲ったのは悪かった。しかしアストもアストで我慢も限界だったのだ。他にどうすれば良かったのか。
昨晩、陽波がまっすぐ見上げてきた目には、困惑の色が強くあったように思う。それが最後まで消えなかったのが、アストの心に強くしこりのように残っていた。
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