アラサー魔法少女ミラクル☆ルチカ!!~マスコットキャラの愛が重くて面倒臭いと思っているけど本人には内緒だよ~

空木切

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激情編

23 アホなんだよな

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 陽波は仕事を終えて息を吐いた。定時まで残り五分。不要になった資料をシュレッダーにかけてその時を待っていた。

「平牧さん」
「ふぁい!」

 陽波は驚いて体が跳ねた。声の主は黒須部長だ。申し訳なさそうに陽波を見ている。

「ごめん、驚かせたね」
「い、いえいえ全然、ボケっとしていた私が悪いんです」
「今日はどう? 家には帰れそう?」

 黒須は、陽波が先日『家に帰りにくい』と言ったことを覚えていて、気を遣ってくれたらしい。陽波はその気遣いに感動しつつ、頷こうとして躊躇った。アストのことは嫌いではない、しかし二人で過ごすのを気まずく感じる気持ちはあった。

 何も知らない黒須は朗らかに言った。

「帰りにくいようなら、また言ってね。仕事はいくらでもあるから」
「あー、部長の家……」

 何を言いかけたのか陽波はすぐに口を噤んだ。家に帰りにくいから部長の家に泊めてくださいと言いかけたわけではない。

「僕の家が何?」
「部長の家、綺麗そうですよね~」
「そうかな? 僕的にはそれなりに綺麗にしてるつもりだけど、人から見たら汚いかもしれない」

 黒須はそう言って笑った。陽波は癒しを感じていた。かつてはふわふわ兎が務めていた癒し担当は今や黒須のものになりつつある。陽波は気付けば言っていた。

「部長、今日も仕事お手伝いさせてもらってもいいですか?」
「もちろん。平牧さんはテキパキこなしてくれるから助かるよ」

 この人が上司で良かった。陽波は神様やら会社の社長様やらに感謝した。


**


 定時になると続々社員が帰って行く。意識の低い社員ばかりである。普段は陽波もその一員なのだが自分を棚に上げた。今日は残業組の一員なのだ。

 黒須は部長というだけあって仕事は多い。陽波は細々した資料の整理やら印刷物をファイリングするやらという雑用を手伝った。
 黙々と仕事を続けているうちに、部署には黒須と陽波の二人きりになっていた。


 雑用をこなしながら、陽波はアストのことを考える。彼にどう接するのが正解か分からない。アストはこれまで通り、陽波の世話を続けるのだろうか。陽波はそれをどう受け止めればいいのか。一番の問題は、

(私は、アストのことが好きなのか? 恋愛的に? うーん……)

 しっくりこない。アストを異性として見たことすらなかった。陽波にとってアストは、魔法少女に出てくるお助けマスコットキャラのイメージでしかない。もしくは、弟のような。

(やっぱり間違えたな)

 選択肢を間違えた。拒否するべきだった。お陰で話がこんがらがってきている。


 陽波はもう、アニメの魔法少女のような可憐な少女ではない。自覚はしている。初めては好きな人と、なんて夢ももう見ていない。

 ただ、断れないままにずるずる流されて、何が良いかも分からないまま終わっていて、それが陽波の人生における“初めて”だとすると酷く虚しい気持ちになった。

(せめてもうちょっと……)

 段階とかムードとか、そういうのがあってもよかったんじゃないか。陽波は少女ではないが、夢も希望も見る権利くらいはある。

「平牧さん、大丈夫?」

 黒須に声をかけられ陽波ははっとした。

「あ、はい。すみません、ぼーっとしてました」
「いいよいいよ。ぼーっとしてて。疲れたなら休んでいいからね」
「ありがとうございます……」

 この人だったらなあ、と陽波はぼんやり考えてしまった。何を考えているのか。昨晩のアストの熱っぽさを思い出して、つい重ねてしまいそうになる。

「アホか私は。私は、アホなんだよな……私はアホ」

 ファイルを閉じて息を吐く。変な独り言を言ってしまった。黒須に変な目で見られそうだが、彼なら許してくれるだろう。

 ファイルを棚に戻したところで、棚の上の扉が開いていることに気付いた。陽波の身長では脚立に乗らなければ届かない高さだ。

「誰だよ開けっ放しにしたのは……仕方ない」

 脚立を持ってきて扉を閉める。そこで気付いた。鍵付きの棚だ。鍵は黒須のデスクのそばにある。陽波は脚立に乗ったまま黒須の方を見た。目が合ったので聞いてみる。

「ここの棚が開いてたんですけど、鍵、そこにありますか?」
「うーん? あれ、落ちてる」

 黒須は壁の隙間に落ちていた鍵を拾うと、陽波のところまで持って行った。

「鍵が見当たらなくてそのままにしたんだろうね。はいこれ、お願いしていい?」
「はい」

 受け取って鍵をかける。しかし鍵が上手く抜けず、力任せに引っ張った拍子に体がぐらついた。

「あ、やばっ」
「危ない!」

 陽波はバランスを取ろうとするも、足が滑って落ちた。成す術もないまま陽波の体は後ろに倒れ……る前に黒須に抱き留められていた。

「す、すみません。ありがとうございます」
「受け止められて良かった……ああ、心臓が止まるかと思ったよ」

 黒須の柔らかい声が近くに聞こえる。陽波は一刻も早く離れようとするも、足が脚立に絡まってしまいろくに身動きが取れない。
 陽波はどぎまぎしながら、平静を装って言った。

「あ、あの、部長……足が引っかかっているので、床に下ろしてくれますか」
「本当だ。ごめんね、気付かなくて」

 離れていく温もりが少し惜しい。陽波は何とか脚立から足を外して息を吐いた。心臓がどきどきしているのは、驚いたからだろうか。

「足、痛くない?」
「大丈夫です」

 黒須の問いに笑みを返して陽波は立ち上がった。何故だか彼の手の指が気になって仕方なかった。
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