アラサー魔法少女ミラクル☆ルチカ!!~マスコットキャラの愛が重くて面倒臭いと思っているけど本人には内緒だよ~

空木切

文字の大きさ
40 / 48
激情編

24 人間的に

しおりを挟む
 駅から徒歩での帰宅中、陽波は立ち止まった。妙な気配を感じたのだ。
 日は既に沈み、暗い道を街灯の明かりが照らしていた。人気はない。

「気の所為……か」

 振り返っても誰もいない。陽波は不安に襲われ走ろうとした。しかし、

「ざァ~んねん。上だよ上」
「え」

 陽波が上を見るも、既に相手は下にいた。

「隙だらけェ。よっと」

 陽波の体が浮く。子供か荷物のように小脇に抱えられていた。陽波は相手の正体に気付いて叫ぶ。

「ひえっ! ちょっとティグロ、何!?」
「夜道は危険だって教わんなかったのかァ?」
「はあ!? てか、あんた今更そんな悪役ムーブしたところでギャー!」

 ティグロは陽波を抱えたまま高く跳んだ。二階建ての家屋や電柱が下に見える高さで、宙に浮いている。
 陽波はぎゃあぎゃあと悲鳴を上げ、ティグロはその騒々しさに顔をしかめた。

「あー……暴れたら面倒だな。寝てろ」
「寝てろ!? この状況で寝れる神経があるとでも!?」

 ティグロは片手を陽波の頭にぽんと置いた。すると陽波は意識を失い、がっくり項垂れてしまう。

「あーあ。油断してりゃこんなもんか。つまんねェ」

 ティグロは溜め息を零して移動した。


**


 陽波は目覚めた。疲れていたのでもうひと眠りしようとして、駄目だと思い直す。

「ここどこ……」

 ソファに寝かされている。陽波は状況を理解しなければと思いつつまた横になってしまった。疲れていた。このまま寝ていたかった。

「また寝る気か?」

 ティグロが呆れ顔で陽波を見ている。明かりの下だと赤い目も柔らかく見えた。

「だって疲れたんだもん。それで、ここどこ? ティグロの家?」
「いや? 俺の家じゃねェ」
「はあ!?」

 陽波はすぐに起き上がった。周囲を観察する。どう見ても普通の一軒家だった。電気が通っていて、テレビもあって、綺麗なキッチンもある。そして陽波の部屋より相当広い。ソファも大きくてふかふかだ。

「どういうこと? 何目的なわけ? 身代金?」
「お前はー……いわゆる人質……的なやつだろ」
「何で自信無いの?」

 さっぱり分からない。陽波は居心地悪く身を縮こませた。ティグロの家ならば堂々と寝ようと思っていたが、見知らぬ他人の家ではどうしようもない。

「誰の家?」
「多分、ギオンの家の一つだ。あいつ転々としてるからな」
「ギオンって、ああ、あんたが手を組んでるっていう」
「そーそー」

 陽波が聞いた話では、ティグロとギオンとがいわゆる敵の立場ということだった。ギオンは姿すら見たことが無いが、ティグロとはどういう関係なのだろうか。気になった陽波は問いかける。

「ギオンっていわゆる敵のボスでしょ? ティグロは幹部だし」
「あー? ボスでもねーし幹部でもねーよ。諸々の言い出しっぺはあいつだし、俺は言われた通りにしてるだけだが、別に俺があいつより劣ってるわけじゃねーぞ」
「ふーん? でもギオンの方が強いんでしょ?」
「は? 俺よりちょっと強い程度だ。大して変わんねーよ」

 ティグロは明らかに見栄を張っている。陽波は突っ込みたくて仕方なかったが、何かされても困るので大人しく頷いた。

「じゃあギオンに指示されて私を人質にしたってこと?」
「別に?」
「じゃあ何で?」
「気分」

 気分か。そうか。陽波は再びソファに寝転がった。ティグロを見つめる。相変わらず耳と尻尾がふさふさである。いつも敵対しながら見上げていた彼を、今は寝転がりながら見ているのは変な気分だった。

「あれ、そういえば私の荷物は?」
「隠した。あの棒があると面倒だからな」
「あー! そうじゃん、変身出来ない! ……けど、怪物が出なきゃ変身する必要ないし……って、あああ!」
「うるせーな」

 陽波は慌ててソファから降りた。ティグロを睨んで言う。

「ねえ、アストは無事なの!?」
「人の心配してる場合か? あのクソ兎には何もしてねーよ。ま、今頃慌ててるかもしんねェがな」
「帰る!」

 陽波が部屋を出ようとすると、ティグロに腕を掴まれた。力が強い。陽波が腕を引いてもびくともしなかった。だからといって簡単に諦める陽波ではない。必死で腕を引っ張る。

「離せ~!」
「帰ってどうする。あんな弱い奴どーでもいいだろ、放っとけ」
「よくない! 放っといてストレスで死んだらどうするの!?」
「さすがに弱く見過ぎだろそれは……」

 ティグロは呆れている。陽波はあの手この手で腕を振り解こうとしたが、状況は厳しい。

「この馬鹿力~! くそ~!」
「諦めろ。大人しくしてりゃ何もしねェからよ」

 陽波は一旦諦めて元の場所に戻った。ソファを軋ませながら問う。

「本当は何が目的なの? 気分でやることじゃないでしょどう考えても」
「……あの兎、ここまで来ると思うか?」
「無理だと思う」

 陽波は即答する。アストが颯爽と助けに来る光景は、想像し難い。
 ティグロは愉快そうに口元を歪める。

「信用ね~んだな。ハハハ。カワイソーに」
「信用はしてるよ、もちろん。単に私があんまり頼りたくないだけ。アストが助けに来てくれるかもって一瞬でも思うと、何も出来なくなるから。実際、助けを待ってたって何にもならないし」

 もしかしたら助けに来てくれるかもしれない。ただそれを頼りすぎても良くない。陽波は陽波で出来ることをするべきだと思っていた。なので敢えてアストの助けは期待しない。

 ティグロは楽しげに陽波を見ていた。そして息を吐く。

「つまんねーなー」
「それよりお腹空いたんだけど、何か食べ物無いの?」
「はあ~? ああ、地球人は毎日腹が減るんだったか。面倒だなァ」

 ティグロはキッチンへ行って冷蔵庫を開けた。中を見ている隙に、陽波はこっそり部屋の扉に手をかける。

「おい」
「何? 食べ物あった?」
「何勝手に出ようとしてんだよ」
「チッ。バレたか」

 だからといって諦める理由にはならない。陽波はすぐに扉を開けると、隙間に身を滑り込ませた。しかし、

「遅い」

 ティグロにスーツの襟を掴まれた。陽波は逃げられないと悟り、悔しく地団太を踏んだ。

「あーっ、もう! 見逃してよ!」
「ったく……」

 陽波はソファに放り投げられた。若干腰に負担がかかったが、陽波はすぐ起き上がろうとする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

【完結】ヤンデレ乙女ゲームの転生ヒロインは、囮を差し出して攻略対象を回避する。はずが、隣国の王子様にばれてしまいました(詰み)

瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
 ヤンデレだらけの乙女ゲームに転生してしまったヒロイン、アシュリー。周りには、攻略対象のヤンデレ達が勢ぞろい。  しかし、彼女は、実現したい夢のために、何としても攻略対象を回避したいのだ。  そこで彼女は、ヤンデレ攻略対象を回避する妙案を思いつく。  それは、「ヒロイン養成講座」で攻略対象好みの囮(私のコピー)を養成して、ヤンデレたちに差し出すこと。(もちろん希望者)  しかし、そこへ隣国からきた第五王子様にこの活動がばれてしまった!!  王子は、黙っている代償に、アシュリーに恋人契約を要求してきて!?  全14話です+番外編4話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...