アラサー魔法少女ミラクル☆ルチカ!!~マスコットキャラの愛が重くて面倒臭いと思っているけど本人には内緒だよ~

空木切

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激情編

25 鬼は外

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 陽波は立ち上がり拳を掲げた。

「というわけで、節分の豆まきをします!」
「何が“というわけで”なの? 話の流れあった?」

 アストがお茶を飲みながら陽波を見上げた。話の流れなど無い。陽波が今唐突に思いついたからだ。
 陽波は思った。ここ最近、色々変な展開になったりしているのはこのワンルームに邪気だの邪念が溜まっているからだと。祓うしかない。お祓いしかない。故の豆まきである。

 陽波は胸を張りながら説明した。

「節分の豆まきというのはですねー、色々由来はありますが、要はまあ、豆をまいて家の中にいる鬼とか悪いものを追い払おうという日本の伝統行事です!」
「それは何となく知ってるけど、節分って年始にやるものなの?」

 本日、一月三日である。陽波は人混みに行きたくない、ただひたすら休みたいという思いで寝正月を満喫していたがさすがに飽きた。年末らしいことも正月らしいことも全くしていないが、豆まきくらいならいいだろうと思ったのだった。

「この際時期とかはどうでもいい。思い立ったら吉日」
「いいんだ……でも豆って何の豆まくんだっけ。黒豆じゃないよね」

 陽波の脳裏にスーパーのおせち料理セットが過ぎった。アストも同じだったのだろう。
 スーパーのおせち料理も美味しかったけど、煮豆くらい作っても良かったよなあと陽波は今更思った。

「大豆だよ大豆」
「大豆。地球人って大豆好きだよねー。お豆腐も醤油も大豆でしょ?」
「あ、でも待てよ。この時期に豆まき用の大豆って売ってるのかな……まあいいや。行ってから考えよう」

 陽波はささっと着替えて鞄を持った。

「化粧はいいか。ギリ正月だし無礼講無礼講」
「俺も行っていい?」

 アストが小首を傾げて陽波を見ている。この時期は確実にスーパーが混んでいる。どうするか。

「んん~、絶対迷子にならないなら来ても良いけど……あ、兎のままならいいかな」
「嫌だ」
「やっぱり?」
「陽波は俺を馬鹿にしすぎじゃない? 迷子になんかならないよ」
「だよねー。あははは。じゃあ行こっか」

 とか言っていた癖に。

 がやがやと騒がしいスーパー内。三が日というだけあって、普段見かけない小さな子供や、家族連れ、若者でごった返している。
 陽波はやっとの思いで乾燥大豆を見つけたものの、代わりにアストを見失ってしまったのだった。

「やっぱ手を繋ぐべきだったか~」

 仲睦まじく手を繋ぐ親子を見る度に悔やんだ。アストは手を繋ぎたがっていたのに、拒否したのは陽波だ。買い物時に片手が塞がれば普通に不便だからである。

 そう広いスーパーでもない、いずれ出会えるだろう。陽波は仕方なく食料品などの買い物を続けた。

「陽波~!」

 あらかた買い物を終えたところで、陽波の耳が聞き慣れた声をキャッチした。陽波は振り返って、固まる。そこにはアストがいた。いたにはいたが、

「陽波、どうしよう」

 アストは小さな女の子を抱えていた。まさかこの子を魔法少女に……は有り得ないか。陽波は一旦落ち着こうと、買い物カゴをその場に置いた。

「迷子?」
「たぶん……。泣きながら俺の足にくっついてきたんだよ。親も近くにいなくて」
「ぱーぱ、ないない」

 女の子は親指をくわえたまま首を振る。二つに結わえた髪がぴょこぴょこ揺れた。もう一度「ぱぱね、ないないだよ」と陽波に向かって言った。陽波は苦笑する。

「迷子の割に落ち着いてるね……」
「俺とお父さんを間違えたのかなーと思って、似た背格好の人探してみたんだけど、人が多くて分かんないんだよ。どうすればいい?」

 こういう時はお店の人に言って店内放送をしてもらうのが一番だ。陽波はアストにそう説明して、一緒にレジに向かった。

「あのねえ、ぱぱ、ちかももちなんだよ」

 女の子はよく喋る。陽波は相手をしながら人混みを抜けた。

「力持ち? へえ、すごいねえ。何でも持てるんだ」
「うん。ねえねも、だっこしてもらう?」
「ええ~! いいの~?」
「駄目だよ!」
「いやアスト、マジに取らないでよ」

 駄目なことくらい分かってますよ。レジに着いて、適当な店員に声をかけようと陽波が様子を窺っていると、

「千佳!」
「あ、ぱぱ!」

 父親らしき人が走ってきた。まだ若いお父さんだ。力持ち、と言っていただけあって、体つきががっしりしている。肩幅が広い。アストとは似ても似つかない体型である。
 アストは女の子を下ろした。父親は駆け寄って来た女の子を抱き上げると、陽波とアストに向かって頭を下げた。

「すみません。少し目を離した隙にいなくなってしまって。本当に助かりました」
「無事に会えて良かったです」

 ね、とアストを見ると、アストはこくこく頷いて表情を緩ませた。女の子がしきりに父親の襟を引っ張っている。

「ぱぱー、ぱぱー」
「どうした?」
「あのねえねも、だっこしてほしいって」

 女の子は陽波を指差して言った。父親は首を傾げる。陽波は慌てて手を振った。

「違います違います。お父さんが力持ちだって話を聞いてただけなんです」
「あ、ああ、そうなんですか。すみません、相手してもらって。……さあ千佳、お母さん待ってるから帰ろう。お姉さんたちにお礼言って」

 女の子は目をぱちぱちさせて陽波を見た。

「んー。ねえね、だっこは?」
「今はだっこの気分じゃないから大丈夫だよー。じゃあね、元気でね」
「んー……」

 女の子は不満そうだ。父親が力持ちであるところをどうしても見せたかったらしい。可愛いなあ、陽波がほっこりしているとアストが言った。

「陽波は俺がだっこするから大丈夫だよ」
「何言ってんの?」
「ふーん。じゃあいいや。ばいばーい」

 女の子は急に興味を失くして手を振った。陽波とアストも手を振りながら見送る。難しい年頃である。

 陽波は親子の姿が見えなくなってから息を吐いた。

「確実に変な女だと思われたよ私は。だっこされたいアラサー女として父親の脳にインプットされちゃったよ。何故新年早々こんなことになるんでしょうね」
「陽波、大丈夫だよ。俺はどんな陽波でも受け止めるから」
「事実でないことを受け止めないで欲しい」

 それは優しさでも何でもない。陽波は早く厄を払わなければと豆まきへの決意を一層固くした。
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