アラサー魔法少女ミラクル☆ルチカ!!~マスコットキャラの愛が重くて面倒臭いと思っているけど本人には内緒だよ~

空木切

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激情編

25-2

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 帰宅し、陽波はさっそく乾燥大豆を開封した。五百グラムもある。これしか見つけられなかったので買ったが到底使い切れる気がしない。
 陽波はたくさんの豆たちを見つめて現実に立ち返った。

「私思ったんだけどさあ、外にまいたらさすがに近所迷惑だよね」
「そうなの?」
「庭とかないし……。玄関にまくしかないか……」

 しかし。玄関にまいた豆を回収してゴミ箱に捨てるのも何か違う気がする。陽波は考えた。

 結局。

「よし行くぜアスト! この部屋にわだかまった邪気を振り払うのじゃ!」
「どういうキャラ?」
「はっきり言って家の中に豆まくの嫌だし、外にまいたのを回収するのも面倒だし、この際全てジェスチャーで済ませる!」
「意味ある?」
「気持ちだよ気持ち!」

 陽波は大豆の袋を置いて、左手にエア豆を抱えた。そして右手で玄関に向かって投げる動作をする。

「鬼は~外!」
「お、鬼は外?」

 アストも真似て同じように手を振った。陽波は満足そうに頷いて、今度は部屋の中央に向かって、

「福は~内!」
「福は内!」

 アストも追って真似をする。同じ動作を数回繰り返して、陽波は休憩を挟んだ。座ってアストをじっと見る。

「アスト、ちゃんと気持ち込めてる?」
「いや、正直分かんない色々」
「いい? 豆に聖なるパワーを込めて、自分の中とか、部屋の中から悪いものを外に追い出すの。代わりに良いものを入れまくるの。じゃんじゃん入れてく気持ちで」
「悪いもの……」

 アストは自分の手を見下ろした。自分の中の悪いものについて考えてみる。何かあっただろうか、悪いもの。優柔不断なところとか、弱いところか。
 アストはぎゅっと拳を握って陽波を見た。

「うん。俺、頑張って悪いものを追い出すよ」
「うむ。その意気じゃ。じゃあもう一本行くぞー。気持ちで負けるなー」
「おー! ……って待った陽波!」
「え?」

 陽波は振りかぶった手を下ろした。アストは苦々しい顔で「怪物が……」と呟いた。





 華麗に変身を果たしたミラクル☆ルチカは、道端で倒れる人々を背に怪物と向き合った。

「魔法少女は休みが無いのか~?」
「ごめん……」

 兎姿のアストが申し訳なさそうに言う。陽波は軽く手を振った。

「ああ違う違う。アストに文句言ったわけじゃなくて。そもそも悪いのはあっちだし」
「おー。ルチカ、相変わらず暇してんな」

 ティグロが眠そうに欠伸をした。お互い新年早々ご苦労なことである。ルチカは怪物の肩に乗るティグロを見上げた。
 
「あんたの所為で何の予定も入れられないのよ。それにね、今日はちゃんと忙しかったんだから!」

 ルチカは怪物に向かって右上段蹴りを食らわせた。怪物は全く怯まない。ばたばたと足踏みをして腕を振るった。ビルや地面が崩れる。
 ルチカは距離を取った。そして力強い目でティグロと怪物を見上げる。

「ふっ。気付いたわ。私にとって一番の鬼はあんたたちだということに!」
「鬼ィ? 鬼ねえ。ありゃ架空の生き物だろォ?」

 ルチカはミラクルスティックを野球のバットのように構えた。そして、

「今日は節分~! 行くぞ気分だけ千本ノック!」
「色々間違えてねェ?」
「アスト、足場頼むね!」

 ルチカは飛び上がった。すぐ足元にバリアが張られる。バリアの上に乗ったルチカは、怪物の胸元めがけて思い切りスティックを振りかぶった。

「ミラクル鬼は外ー!!」

 鈍い衝撃がルチカの腕に伝わる。怪物は僅かによろけた。スポ根気分だったルチカは続けて二回、三回と腕を振った。

「鬼は外ー! 鬼は外ー!」
「取り憑かれてんのかァ?」

 ティグロは引き気味でルチカを見下ろした。
 怪物が腕を振り上げるも、ルチカはミラクルスティックを掲げて宣言する。

「私は福を呼び込んでみせる。結局幸福なんてね、自分で掴まなきゃなんないんだから!」

 ルチカはスティックを両手でしっかり握りしめ、華麗かつ暴力的なスイングを決めた。怪物は衝撃に耐えきれず倒れてしまう。ティグロは思わず表情を歪めた。

「マジ~? このタイミングで倒れんのダサすぎんだろがよォ」
「行くわよアスト!」

 ルチカはバリアの足場から飛び降りるとアストを頭に乗せた。息を吸い込み、ミラクルティックを怪物に向けて構える。

「いっけー! スパークルクラッシュー!!」

 スティックの先から眩しい光が放たれ怪物に降り注ぐ。怪物は光と共に消滅し、壊されたビルなども元通りになった。ルチカは爽やかな空気を吸い込む。

「終わった。今日も活躍したわ私。節分なのに。節分だから? みんなの為に鬼は倒したからね……」

 ティグロが上空でじっとルチカを見下ろしている。赤い目には訝しむ色があった。

「何よティグロ、負け惜しみならいくらでも言いなさい!」
「お前、カレンダー持ってる?」

 ティグロの声には優しさすら滲んでいた。ルチカは首を捻りつつ答える。

「何でそんな真面目な口調? 持ってるけど」
「今日は何日?」
「今日? 今日は二月……じゃねえわ! 節分じゃない!」
「あ、ああ良かった。マジにボケたのかと思った」

 ティグロは真面目にルチカの頭を心配したらしい。表情も声も本気で気遣うものだったが故に、ルチカは自分の勘違いがより恥ずかしくなって悶えた。

「あああ! もう! こんな、誰だよ今日節分とか言ったの!」
「ルチカだよ……」
「アストだって一緒にやってたじゃん!」
「お、俺の所為……?」

 ルチカは叫びながら頭を抱えた。これなら笑われた方がマシである。ティグロはまた憐れむように言った。

「ん、まあ、よく休めよ。俺様はもう帰るからな」
「やめろ! 同情するな! やめろ!」
「じゃあな~。たまには頭の体操しろよォ」

 ティグロは消え、ルチカは地面に膝を突いた。プライドはずたずただ。

「ルチカ、ルチカ、変身解かないと!」
「あ、そうだった。あぶねー」

 あまりのショックで現実逃避していた。アストの声で我に返り、ルチカは陽波へと戻る。

「陽波、あの、だ、大丈夫?」
「慰めなくていい。余計悲しくなるから。……帰ろっか」

 正月休みを満喫する人々に紛れて、陽波とアストは帰路についた。
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