それなりに怖い話。

只野誠

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てのむし

てのむし

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 女が寝ていると、急に、ぽと、と音がした。
 そして、カツカツカツカツと音が鳴る。

 女はすぐに虫だ。
 しかも、音からして、例のあの嫌な黒い虫だ、とそう思った。

 嫌だと思いつつも、今は冬だ。
 動きも遅いだろうし、どうにかできるかもしれない。
 女はそう思い、布団からでて部屋の電気を着ける。
 そうして、音のした方を見る。

 そこで見つけた物に女は固まる。

 見つけた物は虫なのではない。
 手だ。
 人間の手だけが、指を使い、床に手だけで立つように存在してたのだ。

 その手は手首のあたりから薄っすらと消えていっている。
 ただ手の方は透けることもなく、しっかりとした人の手である。
 爪にネイルかマニキュアをつけていることから、女性の手だろうか。

 そんな手が恐らくは天井から、落ちてきて床を指で歩いていたのだ。

 女は茫然とその手を見る。
 手もその動きを止め、女を見るかのように止まっている。

 その手には目などないのだが、女は確かにこの時、視線が合ったと感じていた。

 女が行動を、何か行動を起こそうとしたとき、その手は物凄い勢いで動き出した。
 指を奇怪に動かして、物凄い勢いで虫のように床を這いまわり、壁を登り、そして、天井へと消えていった。

 女はそんな光景を茫然と見る。
 しばらく呆然としていたあと、女は手が消えた天井の下まで行って、その場所を見上げる。

 ただの天井だ。
 穴なども開いてはいない。

 女がそうやって天井を見上げていると、何もない天井からそれは降って来た。
 落ちて来た。

 なにが?

 もちろん手が。
 手だけが。

 手が女の顔に落ちる。
 女の顔の上で手でわしゃわしゃと蠢く。

 女は声も上げずに、そのまま気絶する。

 女が目を覚ましたとき、それは女の寝床の上だった。
 なんだ夢だったのかと、女は安心する。

 だが、本当に夢だったのだろうか?



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