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港区映画館殺人事件
ハラミなんていくら焼いてもいいですからね
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シャーセェイ!、シャーセェイ!という若者たちの掛け声が鳴りやまない。
焼き肉屋の店内を見回すが、よく目立つ角刈り頭がどこにも見当たらない。
店の入り口でキョロキョロとしている大男に、バンダナにエプロン姿の若者が駆け寄ってきた。
「ンンラッシャイヤスェ!お客様お一人でしょうか」
「あ、いや、20時から予約の駒場です」
それを聞いた気のよさそうな若者は、手元の端末をポチポチと操作する。
「駒場様ですね、既にお連れの方がお席に着かれてますので、ご案内します」
連れられるままに部屋の奥へと案内される駒場。
暖簾で仕切られた区画で七輪を囲んで、その男は座っていた。
「内海さん、お待たせしました」
「お」声を掛けられた角刈りの男、内海は、もきゅもきゅとナムルを食べながら会の主催者を振り返った。「意外に早かったやん」
と言ってはいるが10分も待てなかったらしい。
内海の前には既に少し中身の減ったビールのジョッキが置かれている。
「一応、早めに抜けてきました」
申し訳なさそうに小さく笑うと、内海の差し出した飲み物のメニューを手に取る。
そしてそのまま店員に「生ビール一つ」と短く注文し、席に着いた。
そうして初めて駒場は、内海の手元に開かれた状態で伏せられた、カバーのついた本に気付いた。
「あれ、読書ですか」
「ああこれ、シシュウやねん」
「シシュウ?死の臭いってことです?」
炭と焼かれた肉の臭いで満ちていることに気付き、ある意味これも死の臭いかと内海は内心苦笑する。
「いや、ポエムの集まりの方の詩集やね」
「へぇ、それも依頼で?」
「そうや・・・ないんやけどね」
内海は恥ずかしそうにはにかんで、そっと懐にしまった。
駒場も、それ以上は詮索しない。
内海は、SNSに漂う考察班や事後孔明よりかは頼りになるが、十徳ナイフよりかは頼りにならないことを自称する、いわゆる探偵である。
ポケットに入るものと引き換えにどんなことにも相談に乗るという収益見通し不透明なビジネスモデルを敢行する蛮勇さと、決して大人気とは標榜しない謙虚さを兼ね備えていた。
そう、実にクレイジーな男である。
しかも時代外れの角刈りである。
「で、どうしたの今日は」
「実はうちの母が担当している事件が迷宮入りになりそうでして」
「君のご母堂と言うと、神奈川のどこかの警察署長やったよね。ほなあれか、横浜で起きてる『関帝廟道士殺害事件』のこと?」
「困っているのは実母の方ではなく継母の方でして・・・品川の殺しです。いや、正しくは港区か」
「いよいよ複雑な家庭事情やねぇ」
現在、最も世間を騒がせている、関帝像の持つ青龍偃月刀が凶器となった、道士服を着た中華マフィアが殺された事件ではないと知ると、内海は脳内のニュースサイトをペラペラとめくった。
「品川のっていうと、あの品川駅前の映画館で起きたアレか」
「ええ、母もすっかり参ってますよ。全く事件の真相が見えてこないと」
「しゃあないな、俺も一緒にその事件の真相考えたるから、どんな事件やったのか教えてくれる?」
駒場がいざ話し始めようとしたその時、のれんの先から景気のいい声が響く。
「オマッタッシヤッシャァ!生ビールと牛タン塩、ハラミ、ネギ塩ハラミ、上ハラミに辛味噌ハラミになります!」
「あー・・・内海さん?」
「言うてへんかったっけ。肉も頼んどいたの」
内海は受け取るや否や、タン塩を七輪の金網の真ん中に、それを取り囲むようにハラミを配置していく。
「ハラミばっかりじゃないですか」
「ええやないか、自分かてカルビばっか喰うとる癖に」
だとしても、普通カルビとかも頼みません?そう言いかけた言葉を駒場は飲み下す。
こればかりは、遅れてきた自分が悪い。
最悪、この後に自分でカルビを頼めばいいではないか。
しかしまあ、じゅうじゅう、パチパチと音を立てて焼きあがる肉を前に、人が死んだ話をすることになるとは。
幸い、そこまで現場が凄惨というわけではないのが救いか。
そういえば、乾杯をしていなかった。
駒場と内海がそのことに気付いたのは、ほぼ同時だった。
ゴツンと言う音に続き、金色の麦酒が揺れる。
二人の酒会は、始まったばかりだ。
焼き肉屋の店内を見回すが、よく目立つ角刈り頭がどこにも見当たらない。
店の入り口でキョロキョロとしている大男に、バンダナにエプロン姿の若者が駆け寄ってきた。
「ンンラッシャイヤスェ!お客様お一人でしょうか」
「あ、いや、20時から予約の駒場です」
それを聞いた気のよさそうな若者は、手元の端末をポチポチと操作する。
「駒場様ですね、既にお連れの方がお席に着かれてますので、ご案内します」
連れられるままに部屋の奥へと案内される駒場。
暖簾で仕切られた区画で七輪を囲んで、その男は座っていた。
「内海さん、お待たせしました」
「お」声を掛けられた角刈りの男、内海は、もきゅもきゅとナムルを食べながら会の主催者を振り返った。「意外に早かったやん」
と言ってはいるが10分も待てなかったらしい。
内海の前には既に少し中身の減ったビールのジョッキが置かれている。
「一応、早めに抜けてきました」
申し訳なさそうに小さく笑うと、内海の差し出した飲み物のメニューを手に取る。
そしてそのまま店員に「生ビール一つ」と短く注文し、席に着いた。
そうして初めて駒場は、内海の手元に開かれた状態で伏せられた、カバーのついた本に気付いた。
「あれ、読書ですか」
「ああこれ、シシュウやねん」
「シシュウ?死の臭いってことです?」
炭と焼かれた肉の臭いで満ちていることに気付き、ある意味これも死の臭いかと内海は内心苦笑する。
「いや、ポエムの集まりの方の詩集やね」
「へぇ、それも依頼で?」
「そうや・・・ないんやけどね」
内海は恥ずかしそうにはにかんで、そっと懐にしまった。
駒場も、それ以上は詮索しない。
内海は、SNSに漂う考察班や事後孔明よりかは頼りになるが、十徳ナイフよりかは頼りにならないことを自称する、いわゆる探偵である。
ポケットに入るものと引き換えにどんなことにも相談に乗るという収益見通し不透明なビジネスモデルを敢行する蛮勇さと、決して大人気とは標榜しない謙虚さを兼ね備えていた。
そう、実にクレイジーな男である。
しかも時代外れの角刈りである。
「で、どうしたの今日は」
「実はうちの母が担当している事件が迷宮入りになりそうでして」
「君のご母堂と言うと、神奈川のどこかの警察署長やったよね。ほなあれか、横浜で起きてる『関帝廟道士殺害事件』のこと?」
「困っているのは実母の方ではなく継母の方でして・・・品川の殺しです。いや、正しくは港区か」
「いよいよ複雑な家庭事情やねぇ」
現在、最も世間を騒がせている、関帝像の持つ青龍偃月刀が凶器となった、道士服を着た中華マフィアが殺された事件ではないと知ると、内海は脳内のニュースサイトをペラペラとめくった。
「品川のっていうと、あの品川駅前の映画館で起きたアレか」
「ええ、母もすっかり参ってますよ。全く事件の真相が見えてこないと」
「しゃあないな、俺も一緒にその事件の真相考えたるから、どんな事件やったのか教えてくれる?」
駒場がいざ話し始めようとしたその時、のれんの先から景気のいい声が響く。
「オマッタッシヤッシャァ!生ビールと牛タン塩、ハラミ、ネギ塩ハラミ、上ハラミに辛味噌ハラミになります!」
「あー・・・内海さん?」
「言うてへんかったっけ。肉も頼んどいたの」
内海は受け取るや否や、タン塩を七輪の金網の真ん中に、それを取り囲むようにハラミを配置していく。
「ハラミばっかりじゃないですか」
「ええやないか、自分かてカルビばっか喰うとる癖に」
だとしても、普通カルビとかも頼みません?そう言いかけた言葉を駒場は飲み下す。
こればかりは、遅れてきた自分が悪い。
最悪、この後に自分でカルビを頼めばいいではないか。
しかしまあ、じゅうじゅう、パチパチと音を立てて焼きあがる肉を前に、人が死んだ話をすることになるとは。
幸い、そこまで現場が凄惨というわけではないのが救いか。
そういえば、乾杯をしていなかった。
駒場と内海がそのことに気付いたのは、ほぼ同時だった。
ゴツンと言う音に続き、金色の麦酒が揺れる。
二人の酒会は、始まったばかりだ。
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