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第1章
11︰私の友達
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強化されたボスモンスター【神皇花のゴーレム】を倒した俺達は、迷宮最深部のさらなる奥となる深層部へ訪れていた。
そこは今まで見てきたひだまり迷宮の面影がなく、闇色に覆われた世界だった。
そんな世界の中心には、一つの大きな石が置かれている。
綺麗な正方形に切り取られたそれはまさに石碑と呼べ、自らを光らせ優しく闇に覆われた大地を照らす。
まさに神秘的な光景だ。
俺はそんな石碑を見つめた後、アヤメがいう友達を探した。
しかし、右を見ても左を見ても人らしい姿はない。
もしかして人じゃないのか?
と考えたがそれも違うらしい。
『安心して。ここにはモンスターはいないから』
「人は? ここで友達が待っているんだろ?」
『人もいないわ。そうね、そろそろ答えを見せてあげましょうか』
バニラはそう言ってアヤメに顔を向ける。
アヤメはというと石碑の前に立ち、刻まれた文字を見つめていた。
俺は何となく石碑に刻まれた文字に目をやるが、何と書いているのか全くわからなかった。
なんせ文字が三角やら四角やら丸やらバツやらを適当に組み合わせたようなものだ。
とてもじゃないが、これは俺の知っている言語ではない。
「ふふっ」
アヤメはそんな文字を見て、楽しそうな表情を浮かべていた。
その笑顔はまるでわかるわかると共感でもしてるかのようなものだ。
俺がそんなアヤメを見ていると、バニラが微笑み出す。
その笑顔はまるで懐かしいものを見ているかのようなものだった。
『相変わらずね』
バニラがそう言葉をこぼす。
しかし俺は、その言葉を聞いて一つの疑問が浮かんだ。
それは、どうしてこの意味不明な文字を見て笑っているのかというものだった。
そんな疑問を持った俺に気づいたのか、アヤメが「クロノくん」と声をかける。
手招きをしている彼女を見て、俺はその隣へ移動した。
「ごめんね、一人にして」
「いや、気にしてないよ。それより友達はどこにいるんだ?」
「ここにはいないよ。でも、言葉はある」
「言葉?」
「うん。今日も平和で暇です。モンスターが迷宮からたくさんいてあふれそうだから対応してます。社交界が面倒、って感じに書かれてるよ」
アヤメは石碑を見つめながらそう答えた。
もしや、この石碑に刻まれている言葉が友達のものなのか?
俺が真相に気づき始めた時、アヤメがその答えを告げる。
「私のスキル【詠姫】でこの石碑の文字が読めるの。だからスキルを利用して友達と文通しているんだ」
「文通?」
「うん。こんな風にね」
アヤメは石碑に触れると刻まれていた文字が消え、まっさらになる。
その状態を確認したアヤメはなぞるように手を右へ動かしていく。
途端に先ほどとは違う形の文字が並べられていき、いくつかの文章が出来上がった。
不思議な光景だ。
あまりにも不思議で、現実だとは思えない自分がいた。
「これでよしっと。じゃあ、帰ろっか」
「帰るって、もういいのかよ?」
「うん。ここはあんまり長くいられないしね」
「……会わなくていいのか?」
「会いたいけど、会えないから。だって私の友達、この世界の人じゃないもん」
アヤメは笑って俺にそんなことを告げる。
だけどその笑顔は、寂しさをどこか誤魔化しているかのように思えた。
それなのに俺は何もしてやれない。
同情どころか、励ます言葉すら見つからなかった。
『行くわよ、クロノ』
「あ、ああ……」
『早くしなさい。ここに誰か来るなんてあまりないからね。もし来るとしたらアヤメぐらいよ』
「なあ、なんで苦労してまでアヤメはここにくるんだ?」
『……さあね。私はアヤメじゃないからわからないわ』
「そっか。なあ、また手伝おうか?」
『ありがたいけど、やめておくわ』
「どうして?」
『この深層部への扉はランダム出現なの。今回はたまたまここに出るって私が観測したから来たけど、次はそうもいかない。もしかしたら星五つの迷宮かもしれないし、それ以上かもしれないわ。だから、あなたに協力してもらうのはここまでよ』
「そうなんだ」
そうか、いろんな迷宮に行かないといけないのか。
なら、俺にとってむしろ好都合だ。
「それならまだ協力するよ。いや、させてくれ」
『あなた、私の話を聞いてた?』
「ああ、聞いた。いろんな迷宮に行くんだろ? つまりたくさんのアイテムと出会えるってことだろ!」
『出会えるって、生命を落とすかもしれないわよ?』
「俺を舐めるな。こう見えてもビックリマンシールを全種類集めた男だ。ちなみにコラボは絶賛収集中だからな!」
『いや、それと一緒にしないでよ……』
「いいや、同じだね。俺の信条は集め始めたらしっかりそろえる、だ。だからまだ協力する。それに、ここで降りるなんてありえないだろ?」
俺がハッキリと告げると、バニラが呆れたようなため息をついた。
俺が引かないことが伝わったみたいで、バニラは渋々という態度で承諾する。
『わかったわ。後悔しないでよ』
「望むところだ」
俺の答えを聞いたバニラは再びため息をつく。
これで今後も俺はアヤメ達と行動することが決まった。
次はどんな迷宮に行くのかな。楽しみだ、と期待に胸を膨らませているとアヤメが叫んだ。
「二人とも、早く早くぅー! そろそろ閉まっちゃうよぉー!」
『はいはい、今行くわー』
俺はアヤメの元へ駆けるバニラを追いかけるように走っていく。
これから本格的に始まる探索者生活にワクワクしつつ、どんなアイテムが手に入るのか楽しみにしながらひだまり迷宮へ戻っていった。
『そうそう、アヤメ。クロノがあなたのアシスタントとして手伝ってくれるって』
「え? 本当! ありがとうクロノくん!」
「え? いや、俺はアイテムが欲しくて……」
『ちゃんとこき使ってあげなさい』
「は~い。あ、バイト代どのくらいがいい? 今ならこのぐらい出せるよ」
ちなみに余談だが、俺はアヤメに提示されたバイト代を見て驚いた。
有名配信者だからな、アヤメは。そりゃお金があるんだろう。
「ぜひともお願いします!」
当然、提示されたバイト代で俺は働くことを決めた。
こうして俺はアイテムを収集しつつアヤメの配信を手伝うことになる。
「よろしくね、クロノくん」
「精一杯頑張らせていただきます!」
こうして俺のバイト先も決まった。
ちなみにバイト内容は配信機材を運ぶ手伝いをすることだ。
〈お〉〈再開した〉〈戦いどうなった?〉
〈あれ? クソガキが頭下げてるぞ〉〈どうしたどうした?〉
〈何があった〉〈マジで何があった?〉
そんなこんなをしているといつの間にか配信が再開していた。
それに気づいたアヤメが、俺にあることをお願いしてくる。
「クロノくん、さっき手に入れた【神皇の花飾り】を貸して」
「うん? いいけど何に使うんだ?」
「今日の企画が無事に終了したことをみんなに言うの。ダメかな?」
「ああ、なるほど。じゃあ使ってくれ」
俺はカメラの死角から【神皇の花飾り】をアヤメに手渡す。
受け取ったアヤメはカメラの向こうにいるリスナーへ向かって、いつもの満開スマイルを浮かべていた。
「みんなぁー、さっきのゴーレムと戦って勝ったよ。あと、レアなアクセサリーをドロップしたよぉー!」
〈おおおおお!!!!!〉〈マジか!〉〈おめでとう〉〈おめでとう〉〈マジぃ!?〉
〈やったぜ〉〈おおおおおおおおお〉〈マジおめでとう!!!!!〉
〈何手に入れたん?〉
「今回手に入れたのは、【神皇の花飾り】だよ。これ、十秒ごとに魔力を四分の一回復してくれる優れものなんだ」
〈マジでいいやつじゃん〉〈うわっ、ほしい〉〈後衛ならありがたいよそれ〉
〈いいなー〉〈俺もほしい〉〈すげぇー〉
〈っぱアヤメだね〉〈ブラボーブラボーおーブラボー〉
配信は大いに盛り上がっている。
どうやら企画は大成功したようだ。
こんな人気のある有名配信者の元でバイトか。俺もすごいことになったな。
そんなことを考えつつ、俺は楽しそうにしているアヤメを見つめる。
だが、この時の俺は全く知る由もなかった――あのデブが、またやってくるなんてことを。
★★★★★
面白いなぁーって思えたらブクマ、応援、コメントにレビューをしていただけたら嬉しいです
今後の活動の励みにさせていただきます
そこは今まで見てきたひだまり迷宮の面影がなく、闇色に覆われた世界だった。
そんな世界の中心には、一つの大きな石が置かれている。
綺麗な正方形に切り取られたそれはまさに石碑と呼べ、自らを光らせ優しく闇に覆われた大地を照らす。
まさに神秘的な光景だ。
俺はそんな石碑を見つめた後、アヤメがいう友達を探した。
しかし、右を見ても左を見ても人らしい姿はない。
もしかして人じゃないのか?
と考えたがそれも違うらしい。
『安心して。ここにはモンスターはいないから』
「人は? ここで友達が待っているんだろ?」
『人もいないわ。そうね、そろそろ答えを見せてあげましょうか』
バニラはそう言ってアヤメに顔を向ける。
アヤメはというと石碑の前に立ち、刻まれた文字を見つめていた。
俺は何となく石碑に刻まれた文字に目をやるが、何と書いているのか全くわからなかった。
なんせ文字が三角やら四角やら丸やらバツやらを適当に組み合わせたようなものだ。
とてもじゃないが、これは俺の知っている言語ではない。
「ふふっ」
アヤメはそんな文字を見て、楽しそうな表情を浮かべていた。
その笑顔はまるでわかるわかると共感でもしてるかのようなものだ。
俺がそんなアヤメを見ていると、バニラが微笑み出す。
その笑顔はまるで懐かしいものを見ているかのようなものだった。
『相変わらずね』
バニラがそう言葉をこぼす。
しかし俺は、その言葉を聞いて一つの疑問が浮かんだ。
それは、どうしてこの意味不明な文字を見て笑っているのかというものだった。
そんな疑問を持った俺に気づいたのか、アヤメが「クロノくん」と声をかける。
手招きをしている彼女を見て、俺はその隣へ移動した。
「ごめんね、一人にして」
「いや、気にしてないよ。それより友達はどこにいるんだ?」
「ここにはいないよ。でも、言葉はある」
「言葉?」
「うん。今日も平和で暇です。モンスターが迷宮からたくさんいてあふれそうだから対応してます。社交界が面倒、って感じに書かれてるよ」
アヤメは石碑を見つめながらそう答えた。
もしや、この石碑に刻まれている言葉が友達のものなのか?
俺が真相に気づき始めた時、アヤメがその答えを告げる。
「私のスキル【詠姫】でこの石碑の文字が読めるの。だからスキルを利用して友達と文通しているんだ」
「文通?」
「うん。こんな風にね」
アヤメは石碑に触れると刻まれていた文字が消え、まっさらになる。
その状態を確認したアヤメはなぞるように手を右へ動かしていく。
途端に先ほどとは違う形の文字が並べられていき、いくつかの文章が出来上がった。
不思議な光景だ。
あまりにも不思議で、現実だとは思えない自分がいた。
「これでよしっと。じゃあ、帰ろっか」
「帰るって、もういいのかよ?」
「うん。ここはあんまり長くいられないしね」
「……会わなくていいのか?」
「会いたいけど、会えないから。だって私の友達、この世界の人じゃないもん」
アヤメは笑って俺にそんなことを告げる。
だけどその笑顔は、寂しさをどこか誤魔化しているかのように思えた。
それなのに俺は何もしてやれない。
同情どころか、励ます言葉すら見つからなかった。
『行くわよ、クロノ』
「あ、ああ……」
『早くしなさい。ここに誰か来るなんてあまりないからね。もし来るとしたらアヤメぐらいよ』
「なあ、なんで苦労してまでアヤメはここにくるんだ?」
『……さあね。私はアヤメじゃないからわからないわ』
「そっか。なあ、また手伝おうか?」
『ありがたいけど、やめておくわ』
「どうして?」
『この深層部への扉はランダム出現なの。今回はたまたまここに出るって私が観測したから来たけど、次はそうもいかない。もしかしたら星五つの迷宮かもしれないし、それ以上かもしれないわ。だから、あなたに協力してもらうのはここまでよ』
「そうなんだ」
そうか、いろんな迷宮に行かないといけないのか。
なら、俺にとってむしろ好都合だ。
「それならまだ協力するよ。いや、させてくれ」
『あなた、私の話を聞いてた?』
「ああ、聞いた。いろんな迷宮に行くんだろ? つまりたくさんのアイテムと出会えるってことだろ!」
『出会えるって、生命を落とすかもしれないわよ?』
「俺を舐めるな。こう見えてもビックリマンシールを全種類集めた男だ。ちなみにコラボは絶賛収集中だからな!」
『いや、それと一緒にしないでよ……』
「いいや、同じだね。俺の信条は集め始めたらしっかりそろえる、だ。だからまだ協力する。それに、ここで降りるなんてありえないだろ?」
俺がハッキリと告げると、バニラが呆れたようなため息をついた。
俺が引かないことが伝わったみたいで、バニラは渋々という態度で承諾する。
『わかったわ。後悔しないでよ』
「望むところだ」
俺の答えを聞いたバニラは再びため息をつく。
これで今後も俺はアヤメ達と行動することが決まった。
次はどんな迷宮に行くのかな。楽しみだ、と期待に胸を膨らませているとアヤメが叫んだ。
「二人とも、早く早くぅー! そろそろ閉まっちゃうよぉー!」
『はいはい、今行くわー』
俺はアヤメの元へ駆けるバニラを追いかけるように走っていく。
これから本格的に始まる探索者生活にワクワクしつつ、どんなアイテムが手に入るのか楽しみにしながらひだまり迷宮へ戻っていった。
『そうそう、アヤメ。クロノがあなたのアシスタントとして手伝ってくれるって』
「え? 本当! ありがとうクロノくん!」
「え? いや、俺はアイテムが欲しくて……」
『ちゃんとこき使ってあげなさい』
「は~い。あ、バイト代どのくらいがいい? 今ならこのぐらい出せるよ」
ちなみに余談だが、俺はアヤメに提示されたバイト代を見て驚いた。
有名配信者だからな、アヤメは。そりゃお金があるんだろう。
「ぜひともお願いします!」
当然、提示されたバイト代で俺は働くことを決めた。
こうして俺はアイテムを収集しつつアヤメの配信を手伝うことになる。
「よろしくね、クロノくん」
「精一杯頑張らせていただきます!」
こうして俺のバイト先も決まった。
ちなみにバイト内容は配信機材を運ぶ手伝いをすることだ。
〈お〉〈再開した〉〈戦いどうなった?〉
〈あれ? クソガキが頭下げてるぞ〉〈どうしたどうした?〉
〈何があった〉〈マジで何があった?〉
そんなこんなをしているといつの間にか配信が再開していた。
それに気づいたアヤメが、俺にあることをお願いしてくる。
「クロノくん、さっき手に入れた【神皇の花飾り】を貸して」
「うん? いいけど何に使うんだ?」
「今日の企画が無事に終了したことをみんなに言うの。ダメかな?」
「ああ、なるほど。じゃあ使ってくれ」
俺はカメラの死角から【神皇の花飾り】をアヤメに手渡す。
受け取ったアヤメはカメラの向こうにいるリスナーへ向かって、いつもの満開スマイルを浮かべていた。
「みんなぁー、さっきのゴーレムと戦って勝ったよ。あと、レアなアクセサリーをドロップしたよぉー!」
〈おおおおお!!!!!〉〈マジか!〉〈おめでとう〉〈おめでとう〉〈マジぃ!?〉
〈やったぜ〉〈おおおおおおおおお〉〈マジおめでとう!!!!!〉
〈何手に入れたん?〉
「今回手に入れたのは、【神皇の花飾り】だよ。これ、十秒ごとに魔力を四分の一回復してくれる優れものなんだ」
〈マジでいいやつじゃん〉〈うわっ、ほしい〉〈後衛ならありがたいよそれ〉
〈いいなー〉〈俺もほしい〉〈すげぇー〉
〈っぱアヤメだね〉〈ブラボーブラボーおーブラボー〉
配信は大いに盛り上がっている。
どうやら企画は大成功したようだ。
こんな人気のある有名配信者の元でバイトか。俺もすごいことになったな。
そんなことを考えつつ、俺は楽しそうにしているアヤメを見つめる。
だが、この時の俺は全く知る由もなかった――あのデブが、またやってくるなんてことを。
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