私のお猫さま 25歳を迎えて猫又さまになりました

月見こだま

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第一部

03:猫又さま、外出する

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 ミケが猫又になって一週間。ミケは家の外の世界に興味を持ち始めた。

「桜ちゃん。わたしはもう、ただの猫ではないにゃ。世界を知り、見聞を広めなければ、立派な猫又にはなれないにゃ。外へ連れて行くにゃ」
「外? あ、そろそろ定期健診だね」
「そうじゃないにゃ! 病院は嫌いにゃ!」
「うーん、来週予約してるけど、しっぽどうしよう……」


 安全のため、わたしはミケをキャリーバッグではなく、ペット用の抱っこ紐に入れて、近所の小さな商店街へ向かうことにした。
 その道すがら、ミケは突然、抱っこ紐の中でモゾモゾし始めた。

「ふむ……。猫の姿では、あまりにも目立ってしまうにゃ。ここは、人間に化けるにゃ」
「え、ちょっと待ってミケ! ここ、道の真ん中……ていうか」

(人間になれるの!?)

 それは聞かされてなかった! 言ってくれればよかったのに……!
 モゾモゾ、モゾモゾ。そして、抱っこ紐から出てきたのは、可愛らしい黒髪の少女だった。歳は八歳くらいに見える。

「これで完璧にゃ!」

 ミケは満足げだが、それは『完璧』ではなかった。頭の上には、ピンと立った三毛猫の耳。腰からは、豊かで美しい二本のしっぽが、だらりと垂れ下がっている。服は、わたしが昔買った、大きめのパーカーを無理やり着ている状態だ。本当に化けることが出来るなんて思わなかったけど、うそ。ほんとは出来るかもって思って。一応持ってきててよかった……。

「ミケ! 耳としっぽ! あと、その格好は完全に不審者!」
「にゃ? 耳としっぽは、わたしの誇りにゃ。それに、この姿は、霊力が不安定だから、完全に消せないにゃ」

 商店街を歩いていると、すれ違う人々は皆、目を丸くする。


「見て! あの子、すっごいリアルなコスプレ!」 
「何のキャラだろう? 猫耳としっぽが可愛い!」

 ミケは、自分が人気者だと勘違いし、得意げに二本のしっぽをブンブン振る。
 やがて、一行は老舗の和菓子屋の前に着いた。そこで店番をしていた、しわくちゃな笑顔の猫好きのおばあちゃんが、ミケを見て立ち止まった。
 おばあちゃんはミケの頭に手を伸ばし、猫耳を撫でた。

「おや、おや、懐かしい匂いがするねぇ。あんた、ずいぶん昔からこの町を見てきたんだろうね?」

 ミケは、おばあちゃんの手の温もりに、フリーズしたように動かなくなった。
「この匂いは……。どこかで……」

 ミケの金色の瞳が揺れ、遠い記憶の断片を探るように宙を見つめた。おばあちゃんは何も言わず、ただ優しく微笑んだ。

「お饅頭、一つおまけだよ。猫さんは甘いものが好きだからね」

 ミケは、おばあちゃんが差し出した、ほんのり温かい饅頭を、人間に化けた手で受け取った。不思議な出会いが、ミケの胸に、過去への扉を開く鍵をそっと置いたようだった。
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