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「キリナ、気を付けた方がいいですわよ」

 家の用事でアルメダの家を訪れた時。

 アルメダは妙に深刻そうな顔をして言った。

「何に気を付けるの?」

「……ベルドロール家の動きが怪しいんですの」

 私はその名前に目を細める。

「動きが怪しいって、どんな風に?」

「私が懇意にしている商人たちの話では、やたらと忙しそうに何かの準備をしているとか。正体不明の黒装束の男たちを使っているという噂もありますわ」

「黒装束……」

 やはりこの前の事件の裏側には、ベルドロール家がいたのだろうか。

 しかし、魔法戦力を蓄えて、何をしようとしているのだろうか。まさか王国に反旗を翻すわけではないだろう。

 いくら魔法が希少で強力な存在であっても、王国と一貴族の戦いで勝てるはずがない。

 戦いを挑むとしたら、もう少し勝てそうな存在が相手のはずだ。自分達にとって邪魔になるような……。

「……あ」

 嫌な予感がした。

 ベルドロール家が、一番倒したいだろう相手は身近も身近。

 私の家、エルバルク家だからだ。

「気づきましたわね。ベルドロール家が何か仕掛けようとするということは、十中八九、狙いはあなたの家ですわよ」

「そういうことか……うん、ありがとう。アルメダ。十分注意するよ」

「それはそうと、最近、赤フードさんに会えていないのですが、どちらに行ったら会えるか知りません?」

 いきなり話題が切り替わる。

「わ、私は直接会ったことないし、知らないかな……」

「ですわよねぇ。もし、どこかで情報を掴んだら教えてくださいね。今の情報と引き換えということで」

 アルメダが教えてくれた情報はかなり貴重だ。

 あとで赤フード姿をちらりとでも見せに来るべきか……と悩みながら、私はエルバルク家の屋敷へと帰った。

 今日はもうやるべきことはない。

 いつもなら、冒険者稼業に出かけるのだがーー私も少しは休みたい。

 ついでに前々から試してみたいことがあった。

 赤フードなしでの、ギルドへの訪問だ。

 お姉さんがどんな対応をしてくれるのか、とても興味があった。

 たまにはこういうイタズラもいいだろう。

 私はワクワクしながら、準備を始めるのだった。
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