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第三章
メレット迷宮5
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地を這う大沼蛇が魔物の隙間を抜けてシグルドへと迫り、牙で貫こうとする。毒蛙の群れが高いジャンプ力を活かし、長い舌を使用して上空からシグルドを攻める。連携されたような動きだが野生の生物は食うか食われるかの世界で、同じ種族でない限りわかり合うことなど殆どないため、偶然なのだがシグルドを驚かせるには十分だった。
しかし、それだけだ。
戦いでこの男が負けることなどそうそうない。
シグルドが取った行動は単純。
巨大な口を広げて迫る大沼蛇を真っ正面から叩っ斬る。頭から尻尾にかけて真っ二つに裂かれた大沼蛇は流石に命を散らせた。
大沼蛇を真っ二つに斬ったシグルドに毒蛙の群れが舌を伸ばし、シグルドの手足を拘束する。
「――ッ!!」
手足一つにつき一匹の毒蛙の舌が絡みつき、シグルドの動きを阻害する。その間に襲いかかるのは、食屍鬼達だ。
「邪魔――っだ!!」
襲いかかる食屍鬼を無視し、腕に絡まる毒蛙の舌を鷲づかみにする。そして、それを力の限り振り回した。
両腕を拘束していた二匹の毒蛙が、肉の鉄槌と化す。両足を拘束していた毒蛙も、迫っていた食屍鬼もまとめて薙ぎ倒されていく。
最後の食屍鬼を二匹の毒蛙で両サイドから挟み込み、シグルドは毒蛙の舌を手放す。両側から肉の鉄槌に挟まれた食屍鬼、とついでに毒蛙があまりの威力に原型を留めない肉壁と化していた。
大沼蛇、毒蛙、食屍鬼の群れを全て倒したシグルドが辺りを見渡す。周りにはもう魔物はいない。しかし、シグルドは警戒態勢を解かない。
まだ、あらゆる戦場で磨き上げてきた直感が気を抜くなと言っている。そして、次の瞬間には正しかったことが証明された。
沼の水面を盛り上げて出現したのは巨大な殺人植物。一体だけではない。大沼蛇を超える巨体の殺人植物が続けて沼の底から出現し、大量の蔦がシグルドを襲った。
「破壊」
鞭のようにうねる水を衝撃波で打ち払う。
威力は互角、しかし、数は向こうが上だ。続けて放たれた三つの水の鞭がミーシャに迫る。
強化のルーンによって身体能力を強化されたミーシャが地面を蹴り、鞭の隙間に体をねじ込んだ。
沼地を水が抉り、泥がミーシャに覆い被さるように大きく波立つ。更にスピードを上げることでミーシャはそれを回避するが、体力がないせいか肩で息をしていた。
「チィッ!! 防御っ」
思わず舌打ちをこぼし、障壁を張る。
大きな波を潜り抜けたミーシャを待っていたのは槍を握りしめた不死身の騎士だ。幽鬼のように青白い光を放っている騎乗槍で障壁ごとミーシャを突き刺そうとしていた。
槍と障壁が激突する。
その瞬間、ミーシャは悟った。
「(貫かれる!!)」
メリメリメリィ!!――と魔力で形成された障壁が悲鳴を上げる。
相手は本気でこちらを殺そうとはしていない。だが、それでも全力で魔力を込めていた障壁を貫くには十分だった。
「■■■■■■■■!!」
勢いづいた咆哮に苛つきながらもミーシャはこれまで球体を維持していた障壁を正面へと集中させる。最早、後ろを気にしてはいられなかった。
後ろの守りを捨て、正面へと集中させることで少しでも騎乗槍の侵攻を阻む。
それでも不死者の様子は一向に変わらず、威力も変わらない。
「くそったれぇ!!」
――もう防げない。そう判断したミーシャが身をよじり、騎乗槍の直線上から体を逸らす。だが、ガンドライドにとって守りを捨てたミーシャを捉えるのは、障壁を破るよりも簡単だった。
「――――」
騎乗槍を持っていた手とは逆の腕を上げ魔術を発動する。
ミーシャの足下に水が集まり、ミーシャを襲う。障壁を張り直す時間すらなかった。呼吸をさせぬように顔に水が張り付き、地面を歩かせぬように水が体を拘束する。
「(理性ない癖にこんなこともできるのかよっ)」
理性のない獣と同じように突撃だけしていれば良いのに、と睨み付けても効果はなく。水の牢獄とでも呼ぶべきか、大きな水球にミーシャは閉じ込められてしまう。
水が体に纏わり付き、何倍も体が重く感じられる。禄に呼吸もできなかったため、息も長く続かない。
「――――」
絶体絶命。騎乗槍を突き刺せば、簡単にミーシャの命を奪えるこの状況。だが、死刑台の上にいるようなものであるのにミーシャは冷静にだった。
「(――ルーン起動)」
確かに、水が体全身を包むまでそう時間は掛からなかった。腕を振るっても個体ではない水には意味がない。しかし、腕を振るうと同時に三つのルーンを投げることには成功した。
体の自由は奪われても魔力を封じられた訳ではない。魔力を総動員し、あの霜の巨人を焼いた魔術を発動する。
「(ムスペル・ナグルファルッ!!)」
沼の中心地に炎柱が立ち上がる。
魔力があまり籠もっていない即席のルーン石(ルーンストーン)を使用したため、霜の巨人を焼いた時のような威力は出ていない。
それでも単発でルーンを使うよりも威力は高い。
牢獄を包むように炎柱を立ち上がらせ、全て蒸発させたミーシャが地面へと投げ出される。
本来ならば、火除けと障壁を用いなければ中で無事に済むことなどないのだが、今回は大量の水がミーシャの身を守った。
「■■■■■■」
その瞬間――炎柱がそれ以上の水量によって掻き消される。
「嘘だろ……」
炎を消すために用いられた大量の水によって水蒸気が発生する。その中から悠々と姿を現わしたのは何一つとして傷を負った様子のない不死身の騎士。
最高火力を誇るムスペル・ナグルファル。少なくともミーシャの様子を嘲笑うように不器用に近づいた不死身の騎士も巻き込んで発動させたのだ。
使用する魔術の相性が悪いとは言え、不意を打ったはずの一撃。致命傷とは行かないものの少しはダメージが入っているとは思っていた。
それなのに、鎧にすら傷一つ見当たらない。
「…………最悪だ」
苦虫を噛み潰したように苦い顔をする。
回避不能の一撃必殺レベルの水の槍。それを大量に繰り出してきたり、範囲の広い水を纏った突進。通常の槍も簡単に障壁を突き破ってくる。
元々倒す気などなかったが、時間稼ぎすら怪しくなってきた。結界の外にいるシグルドが一刻も早く駆け付けてくれることを願うばかりだ。
「――――」
「くっ!!」
沼地から再び水がミーシャを捉えるために集まり出すが、地面を蹴りその場から脱出を測る。――が、
「――な、なんで!? 今まで前にっ」
後ろから伸びてきた腕がミーシャを捉える。その光景に目を見開く。水で形成された馬には乗っていない不死身の騎士だけだった。
「このっ――離れろ!!」
身体能力の強化時間はもうすぐ過ぎようとしている。それに焦ったミーシャが、腕を掴む不死身の騎士の体を力の限り蹴り上げようとする。
しかし、引き剥がすために渾身の力を込めて突き出した蹴りは不死身の騎士の体を突き抜ける。
「な!? 水!?」
目の前で起きた予想外の光景に目を見開く。
蹴りの威力で体を突き破ったのではない。水そのものだったのだ。馬と同じ要領で作られた分身体だと言うことに遅れて気付く。
不死身の騎士は当然のようにダメージを受けた様子はなく、兜の隙間から見える目は不気味に輝いていた。
「ハアァアァアァ……」
「グムゥッ」
吐き出された息に鼻がもげそうになり、顔をしかめる。本人の前でやるのは失礼だが、相手は人ではないので勘弁して頂こう。人に顔を近づけるのならば歯磨きぐらいはしてほしいものだと場違いながらに思ってしまう。
「(本当にコイツ理性ないのかよっ)」
理性を持たない獣では考えないような戦法に驚き、疑う。体にでも染みついているのだろうか……。
「――――――」
「……あぁ、くそっ」
人ならば顎が外れてしまうぐらいに大きく裂けた口が鎧の下から出現し、まずいと感じ取る。
何もしなければやられると察したミーシャが口を服の首回り隠しておいたルーンを探り当てる。
拘束されたことを後悔したミーシャが、今度そうなった場合に直ぐに脱出できるように隠しておいた通常のルーン石よりも半分小さいルーン石。一部には小さな穴が開いており、紐を通して服に縫い合わせられるようにしている。
その内の一つを口に含み、吐き出す。
吐き出したのは得意としている炎のルーン。吐き出されたルーン石は肩に飛んだ瞬間――――カッ!!と目映い光を漏らして爆発する。
しかし、それだけだ。
戦いでこの男が負けることなどそうそうない。
シグルドが取った行動は単純。
巨大な口を広げて迫る大沼蛇を真っ正面から叩っ斬る。頭から尻尾にかけて真っ二つに裂かれた大沼蛇は流石に命を散らせた。
大沼蛇を真っ二つに斬ったシグルドに毒蛙の群れが舌を伸ばし、シグルドの手足を拘束する。
「――ッ!!」
手足一つにつき一匹の毒蛙の舌が絡みつき、シグルドの動きを阻害する。その間に襲いかかるのは、食屍鬼達だ。
「邪魔――っだ!!」
襲いかかる食屍鬼を無視し、腕に絡まる毒蛙の舌を鷲づかみにする。そして、それを力の限り振り回した。
両腕を拘束していた二匹の毒蛙が、肉の鉄槌と化す。両足を拘束していた毒蛙も、迫っていた食屍鬼もまとめて薙ぎ倒されていく。
最後の食屍鬼を二匹の毒蛙で両サイドから挟み込み、シグルドは毒蛙の舌を手放す。両側から肉の鉄槌に挟まれた食屍鬼、とついでに毒蛙があまりの威力に原型を留めない肉壁と化していた。
大沼蛇、毒蛙、食屍鬼の群れを全て倒したシグルドが辺りを見渡す。周りにはもう魔物はいない。しかし、シグルドは警戒態勢を解かない。
まだ、あらゆる戦場で磨き上げてきた直感が気を抜くなと言っている。そして、次の瞬間には正しかったことが証明された。
沼の水面を盛り上げて出現したのは巨大な殺人植物。一体だけではない。大沼蛇を超える巨体の殺人植物が続けて沼の底から出現し、大量の蔦がシグルドを襲った。
「破壊」
鞭のようにうねる水を衝撃波で打ち払う。
威力は互角、しかし、数は向こうが上だ。続けて放たれた三つの水の鞭がミーシャに迫る。
強化のルーンによって身体能力を強化されたミーシャが地面を蹴り、鞭の隙間に体をねじ込んだ。
沼地を水が抉り、泥がミーシャに覆い被さるように大きく波立つ。更にスピードを上げることでミーシャはそれを回避するが、体力がないせいか肩で息をしていた。
「チィッ!! 防御っ」
思わず舌打ちをこぼし、障壁を張る。
大きな波を潜り抜けたミーシャを待っていたのは槍を握りしめた不死身の騎士だ。幽鬼のように青白い光を放っている騎乗槍で障壁ごとミーシャを突き刺そうとしていた。
槍と障壁が激突する。
その瞬間、ミーシャは悟った。
「(貫かれる!!)」
メリメリメリィ!!――と魔力で形成された障壁が悲鳴を上げる。
相手は本気でこちらを殺そうとはしていない。だが、それでも全力で魔力を込めていた障壁を貫くには十分だった。
「■■■■■■■■!!」
勢いづいた咆哮に苛つきながらもミーシャはこれまで球体を維持していた障壁を正面へと集中させる。最早、後ろを気にしてはいられなかった。
後ろの守りを捨て、正面へと集中させることで少しでも騎乗槍の侵攻を阻む。
それでも不死者の様子は一向に変わらず、威力も変わらない。
「くそったれぇ!!」
――もう防げない。そう判断したミーシャが身をよじり、騎乗槍の直線上から体を逸らす。だが、ガンドライドにとって守りを捨てたミーシャを捉えるのは、障壁を破るよりも簡単だった。
「――――」
騎乗槍を持っていた手とは逆の腕を上げ魔術を発動する。
ミーシャの足下に水が集まり、ミーシャを襲う。障壁を張り直す時間すらなかった。呼吸をさせぬように顔に水が張り付き、地面を歩かせぬように水が体を拘束する。
「(理性ない癖にこんなこともできるのかよっ)」
理性のない獣と同じように突撃だけしていれば良いのに、と睨み付けても効果はなく。水の牢獄とでも呼ぶべきか、大きな水球にミーシャは閉じ込められてしまう。
水が体に纏わり付き、何倍も体が重く感じられる。禄に呼吸もできなかったため、息も長く続かない。
「――――」
絶体絶命。騎乗槍を突き刺せば、簡単にミーシャの命を奪えるこの状況。だが、死刑台の上にいるようなものであるのにミーシャは冷静にだった。
「(――ルーン起動)」
確かに、水が体全身を包むまでそう時間は掛からなかった。腕を振るっても個体ではない水には意味がない。しかし、腕を振るうと同時に三つのルーンを投げることには成功した。
体の自由は奪われても魔力を封じられた訳ではない。魔力を総動員し、あの霜の巨人を焼いた魔術を発動する。
「(ムスペル・ナグルファルッ!!)」
沼の中心地に炎柱が立ち上がる。
魔力があまり籠もっていない即席のルーン石(ルーンストーン)を使用したため、霜の巨人を焼いた時のような威力は出ていない。
それでも単発でルーンを使うよりも威力は高い。
牢獄を包むように炎柱を立ち上がらせ、全て蒸発させたミーシャが地面へと投げ出される。
本来ならば、火除けと障壁を用いなければ中で無事に済むことなどないのだが、今回は大量の水がミーシャの身を守った。
「■■■■■■」
その瞬間――炎柱がそれ以上の水量によって掻き消される。
「嘘だろ……」
炎を消すために用いられた大量の水によって水蒸気が発生する。その中から悠々と姿を現わしたのは何一つとして傷を負った様子のない不死身の騎士。
最高火力を誇るムスペル・ナグルファル。少なくともミーシャの様子を嘲笑うように不器用に近づいた不死身の騎士も巻き込んで発動させたのだ。
使用する魔術の相性が悪いとは言え、不意を打ったはずの一撃。致命傷とは行かないものの少しはダメージが入っているとは思っていた。
それなのに、鎧にすら傷一つ見当たらない。
「…………最悪だ」
苦虫を噛み潰したように苦い顔をする。
回避不能の一撃必殺レベルの水の槍。それを大量に繰り出してきたり、範囲の広い水を纏った突進。通常の槍も簡単に障壁を突き破ってくる。
元々倒す気などなかったが、時間稼ぎすら怪しくなってきた。結界の外にいるシグルドが一刻も早く駆け付けてくれることを願うばかりだ。
「――――」
「くっ!!」
沼地から再び水がミーシャを捉えるために集まり出すが、地面を蹴りその場から脱出を測る。――が、
「――な、なんで!? 今まで前にっ」
後ろから伸びてきた腕がミーシャを捉える。その光景に目を見開く。水で形成された馬には乗っていない不死身の騎士だけだった。
「このっ――離れろ!!」
身体能力の強化時間はもうすぐ過ぎようとしている。それに焦ったミーシャが、腕を掴む不死身の騎士の体を力の限り蹴り上げようとする。
しかし、引き剥がすために渾身の力を込めて突き出した蹴りは不死身の騎士の体を突き抜ける。
「な!? 水!?」
目の前で起きた予想外の光景に目を見開く。
蹴りの威力で体を突き破ったのではない。水そのものだったのだ。馬と同じ要領で作られた分身体だと言うことに遅れて気付く。
不死身の騎士は当然のようにダメージを受けた様子はなく、兜の隙間から見える目は不気味に輝いていた。
「ハアァアァアァ……」
「グムゥッ」
吐き出された息に鼻がもげそうになり、顔をしかめる。本人の前でやるのは失礼だが、相手は人ではないので勘弁して頂こう。人に顔を近づけるのならば歯磨きぐらいはしてほしいものだと場違いながらに思ってしまう。
「(本当にコイツ理性ないのかよっ)」
理性を持たない獣では考えないような戦法に驚き、疑う。体にでも染みついているのだろうか……。
「――――――」
「……あぁ、くそっ」
人ならば顎が外れてしまうぐらいに大きく裂けた口が鎧の下から出現し、まずいと感じ取る。
何もしなければやられると察したミーシャが口を服の首回り隠しておいたルーンを探り当てる。
拘束されたことを後悔したミーシャが、今度そうなった場合に直ぐに脱出できるように隠しておいた通常のルーン石よりも半分小さいルーン石。一部には小さな穴が開いており、紐を通して服に縫い合わせられるようにしている。
その内の一つを口に含み、吐き出す。
吐き出したのは得意としている炎のルーン。吐き出されたルーン石は肩に飛んだ瞬間――――カッ!!と目映い光を漏らして爆発する。
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