冒険者の幼馴染と、ずっとその隣にいたい男の話

くろねこや

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番外編

遠い未来で

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「ノース先生、好きです。オレと付き合ってください」

この男が私の研究室に来るのははたして何度目だろう。

500歳を超えた年寄りを相手に、全く物好きなことだ。


「何度も言いますが。私は誰とも付き合う気は…、」

なんだ?

あ…。いつもの香り…か?

ふわりと爽やかで、柑橘のような好ましい香りがする。

『好きだ』

この匂いを嗅ぐと、そんな言葉が頭に浮かんでくる。


これは香水なのだろうか?

いや、

この生徒自身の匂いだ。

季節は夏。

汗のせい…か。

研究塔の最上階だからな、ここは。

風向きも影響しているのだろう。

いつもより、強くて…。


「はい。付き合いましょう」

え?

いや、そんな答えを返すはずじゃ…。

だがどうにもこの香りが私の思考を邪魔してくる。


「本当ですか?! 嬉しいです。先生」


まぁ、付き合うくらいならいいだろう。

この人間の男を相手に、私が子を成さなければいいだけの話。

せっかく母がくれた数千年という長い寿命だ。

手放すつもりなどない。







「先生は、研究を末永く続けていきたいのですよね?」

「あぁ。そうだ」


何故だろう。

彼を自宅へ招いてしまった。

向かい合うように座ったソファセット。

テーブルを挟んだあちら側に座っているというのに、男の“柑橘の香り”が鼻腔から脳へと染み渡っていく。


「古代種としての寿命を失いたくない、ということですよね?」

「あぁ。人として短い寿命で死ぬのは困る。子を産む時間さえも惜しい」


彼に私の秘密を話してしまった。

この研究塔で自身が“古代種である”と知られることは大変よろしくない。

また研究対象として監禁されかねない。

450年前に捕まって、酷い目に遭ったことがある。『不老不死の薬を作る』などと戯言を抜かす男に。

私は不老でもなければ不死でもないというのに。

例え寿命が長くとも、害されればすぐに死ぬのだから。

かつてミード村にいた、占い師のような謎の老婆が助けてくれなければ、私はあの時に血液を抜かれ尽くして殺され、腑分けされていただろう。


だからこそ、定期的に世界中の拠点をぐるぐると回るように生きて、長寿であることを誤魔化して生きてきた。

『賢者ノースの名を継ぐ者』と称して。

…それだというのに。


「それならオレが産みますよ。先生の子を」

「は…? そんなこと、できるわけが…」

いや、この生徒はできないことを『できる』とは言わない。


「……まさか、君…」

「はい。オレも古代種です。まだ18なので先生の足元にも及ばない若輩者ですが…」

確かに目の前に座るこの生徒…リュークの色彩は、私と同様に淡い。


「『子を成せば、男と同じ時間を共に暮らせる』…のだったな」

「ええ。その筈ですが」

「なら私が先に君の子を産もうじゃないか」

「…なるほど? 先生は少しでも若返りたい…ということですね?」

私の言葉の意図をすぐに察してくれるところも素晴らしい。

「そうだ。500年以上研究を続けてきたが、生き物の多様性は計り知れない。世界中の生き物を調べ尽くすなら、生きられる時間は少しでも長い方が良い」

「ふふ…。先生のそういうところ、オレは大好きですよ」


立ち上がった男が背後に回ってくる。

後ろから抱き込まれ、『すぅ、』と首筋の匂いを嗅がれるのが擽ったい。

「あぁ。…堪んないですね。あんたの香り」


いつもと違う、少し粗野な言葉。

ああ、本当に堪らない。匂いに脳が侵される。


「君も、私のことを『番である』と感じるのか?」

「『も』ということは、先生もオレを番だと感じてくれているんですね」


生きられる時間がさらに長くなる上、番とずっと一緒にいられるなんて最高じゃないか…。


「少しでも早く、子どもを作ろう」

「はは。好きですよ、先生。あなたの仰せのままに」


男が妊娠している、という状況は大変よろしくない。『自分は古代種です』と言っているようなものだからな。

腹が目立つ前に休職して、一度ミード村へ帰ってみようか。両親と弟の墓参りもしたい。

出産後は故郷で養子を迎えたことにして戻ってくればいいだろう。

自身の変化をこと細かに記録せねばならないな…。

その次はリュークに産んでもらおう。


彼と私の差異は? 番の香りは汗の他にどこから発生している? 古代種の子ができる器官とは?…

主観的にだけでなく客観的に古代種を研究できる!

ああ! 知りたいことが溢れて止まらない!


「先生が楽しそうで何よりです」


あぁ。楽しみだ。
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