逆らえない欲求 after story

くろねこや

文字の大きさ
10 / 14
右隣の男 after story

花と烏 7

しおりを挟む
夢から覚めた時、僕は泣いていた。

涙が止まらなかった。



最愛のお兄さんを失った『弟』の悲しみ。

兄は龍神様と眠るのだと、

2人が眠るこの地を永遠に守るのだと、

大太刀を手に誓った

宮司さん達のご先祖様。




ノンノ』が息を引き取る時、

カララク』に伝えた

『愛してる』。


彼から激しく伝わってきたその気持ち。

僕の知っている言葉に翻訳された『その気持ち』を、本当はどんな言葉で烏さんに伝えたのだろう。









3日目の夢だけは視点が移り変わった。

最初は『花』の『弟』。
『花』の記憶によると、まだ少年のように見えた。

次は『花』、

そして『烏』。

最後はまた『弟』。


視点が分散されたせいか、肉体的な痛みや苦しみは、軽減されていたのだと思う。

そうでなければ、『花』の『死』に身体が引きずられて、僕も死んでいただろう。



涙が止まらない僕を後ろから抱いてくれた周吾さんに、覚えている限りの全てを話す。


話を聴いてもらい、ノートに書き終えると、やっと気持ちが落ち着けることができた。



『花』の遺体をギュッと抱きしめた『烏』の『感情』だけは、難解すぎて同化できなかった。

まるで底が見えない深い穴を覗くような、近づくことすら許されないような。

最後の『怒り』だけは分かる。
例えるなら、台風の日。
全てを呑み込み押し流す濁流みたいだった。

視点が『弟』に切り替わってくれなければ、『危なかった』と思う。





しかし、夢に出てきた青年『烏』が『龍神様』の化身だった、というのはあまりにファンタジーな話だ。

人間の背中に翼が生えるというのも実際(夢だが)目にしていなければ信じられなかっただろう。


それでも『ただの夢』と片付けるには、やはり感覚がリアルすぎる。

山を焼く炎の熱さ、鼻を襲う血の匂い、手にした大太刀の冷たさ、重さまでよく覚えている。

まるで、その出来事をその場で目撃していたような…。






祭りの最終日。

満月が綺麗な夜だった。



「ノンノ イッカクㇽ ♪  ノンノ カララク ♪」

奥さんに教わった通りに、発音が難しいあの歌を、僕と彩人さんが歌う。


僕が作った花輪には、周吾さんが。

彩人さんが作った花輪には、竜瑚さんが黒い棒を投げた。

2人とも、スッと投げて、一度で簡単そうに通してしまった。


「やば…。周吾さん、カッコいい…」

目を輝かせた僕を見て、周吾さんは照れくさそうに笑った。

彩人さんは……、竜瑚さんに抱きついて激しいキスしていた。


「オレたちも…」

近づく周吾さんの唇を、目を瞑って受け入れた。






手作りだとは思えない、美しく立派な舞台。

舞台の上と、洞窟の前に灯された篝火かがりびが影を揺らめかせる。

『幽玄の美』とはこのことだろうか。

太鼓の音が響き、自然に気分が高揚していく。


宮司さん家族や村人達が集まる神社側とは逆の、洞窟側で舞台を見上げる。

彩人さん、周吾さん、竜仁さん。
僕達4人の他には誰もいない。


竜瑚さんは、黒い羽でできた長衣を頭から被っており、その顔は見えなくなっている。


その静謐せいひつな雰囲気は、先ほど彩人さんにしつこくキスしすぎて、お兄さんに襟首掴まれて引き摺られていった人と同じだとは思えない。


逞しい体躯。
重そうな大太刀を片手で軽々と振るい、舞台の狭さを感じさせないスピードで駆け抜け、くうを切り裂くようにくるりと回る。

その刀身は氷のように透明で、篝火にきらめく。




夢をみているようだ。


満月の輝く夜。

ふわりとした黒い影が、美しく大太刀を振りながら回る、竜瑚さんの姿と重なっていく。


舞台の上、いるはずがないのに。

村長と、その娘が、失った首から血を噴き出しながら倒れていく。

影がくるりと回れば、また違う身体が次々と倒れていった。



なんて綺麗で、なんて悲しい。

「烏さん…」



幾つもの首、

幾つもの首のない身体が積み重なった頃。

黒い影は消え、

死体も消え、

『地面』には

大きな太刀だけが刺さり残されていた。








「…と! 結人!」

周吾さんの声にはっとした。


竜瑚さんの舞は終わり、大太刀は『舞台』の上にあった。

「ゆ…め…?」


舞台を見ていた村人たちは帰ったのか、いつの間にかいなくなっていた。



「彩人!! 目を開けてくれ!」

衣装をまとったままの竜瑚さんは、倒れた彩人さんを抱きしめていた。

なんで倒れて…?


「あぁ、彩人…よかった」

竜瑚さんの涙に震える声。

無事、彩人さんの意識が戻ったようだ。

2人は抱き合い、何度も口付けを交わす。


僕はホッとして、周吾さんに崩れかけた腰を支えてもらった。


『花』さんは…、『烏』さんは…、彼らに生まれ変わって結ばれることが出来たのだろうか。





その夜も、

周吾さんと抱き合った。

昨晩もした・・から、すぐに吐き出す精も尽き、

彼と身体を繋げたまま眠りに落ちれば、

もう夢は見ることはなかった。





朝になり、明るい窓辺に座る。

腰は怠いが、よく眠れたからか、すっきり目を覚ますことが出来た。

夢の内容をメモしたノートを見返す。
忘れないように走り書きしたから字が汚い。

まだ早い時間だから、3人は未だ寝ているようだ。

身体の繋がりを解いても起きなかったところをみると、周吾さんもかなり疲れてるんだろう。


僕は彼らが目を覚ますまでの時間、長内おさない教授へ報告するレポートの材料をまとめることにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


◯『ノンノ』という村に住む美しい男が、『カララク』という山に住む男と恋に落ちた。

◯『花』は村長の娘と結婚させられそうだった。村長自身も『花』の身体を狙っていた。

◯村長は『花』の母親を辱めて自死に追いやり、『花』の婚姻に反対した父親を毒の吹き矢で殺した。

◯『花』が18歳の誕生日=婚儀の夜。
『烏』は村に火矢を放ち、『弟』が『花』を連れて山へ逃げた。

◯その5日後、『花』は『烏』を庇って毒の槍を受け、亡くなる。

◯『烏』は村長と娘、その他十数名の村人を大太刀を使い、首を刎ねて殺した。

◯『烏』は昔の村長と交わした『盟約』に縛られて村に近づけなかった?

◯『花』が殺された=『盟約』が破られた?
だから村人を殺しに村へ降りて来られた?
『烏』が火矢を放った時点で既に破られていたとするなら、『烏』から大事なものを奪おうとしたから?

◯『花』が愛した『弟』と、『弟が愛した人間』は害さないと『烏』は約束した。祭りは『烏』に『その人間』を紹介して、害さないでほしいと願うための行事か?

◯『烏』は『弟』の前で『黒い龍』に変わった。

◯『龍』は『花』の遺体を抱き、村の奥にある洞窟に消えた。 

◯『烏』が言っていた 『風』、『牙』とは?
『花』の両親の名前?

◯村人達を殺した大太刀と、
『花』と『烏』が眠る洞窟は、
『弟』の子孫=宮司が守っている。

◯氷のように透き通った刀身から、大太刀を守る一族は『氷太刀』姓を名乗っている。

◯『黒い龍』=『龍神様』。
『花』の両親は『龍神様』を信仰していた。

◯歌詞の『盗人』は村長の娘から許嫁を奪った『烏』のことか。愛し合う2人を引き裂き、『龍神様』から『花』を奪った『村長』のことか。

◯『花』が好きだった白い花は、山に放たれた炎で燃えて絶滅した?

◯『花』が『烏』に作った花輪。
『龍神様』に毎年お供えしていた花束と花輪。
それをモデルに、祭りの花輪を作ったか?
和紙がない時代はどうしていたのだろう?

◯花輪に黒い棒(男根)を投げるのは、『花』と『烏』が永遠に結ばれるよう祈ったものかもしれない。

◯何故『弟』の血から『烏』に似た竜瑚さんが生まれたのか?『弟』との新しい盟約が原因?竜瑚さんの背中にあるアザは生まれつき?『烏』と同様に翼は生えるのか?

◯18年に一度だけ祭を行うのは、『花』が18で亡くなったからか?
村の人口を減少させないため?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「だめだ。箇条書きしてみたけど、絶対教授には見せられない。ほとんど僕がみた『夢』の話だし、証拠のない推測ばかり…」


僕は、宮司さん、竜瑚さん、竜仁さん、村人達から直接聴いた部分だけを報告することにした。

教授はここに来たことがあるらしいから、既に知っている内容ばかりになるだろう。
『つまらない』と彼女は言うだろうけど…。

それでも、『彼等の話は外に漏らしてはいけない』。そう思うのだ。


ーーーある意味、腐女子の教授は喜びそうだが。





『花』の最後の言葉、『花の弟』の激しい悲しみを思い出してしまった僕は、周吾さんが目覚ますのを待ち、

「愛してる」

と口付けた。

今ここで、共にある奇跡・・・・・・に感謝しながら…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

身体検査その後

RIKUTO
BL
「身体検査」のその後、結果が公開された。彼はどう感じたのか?

処理中です...