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ごめんね

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「そんな…」

 ルジェルーノの下半身、クラゲの傘の上でアンは嘆いた。戦況はルジェルーノ自らが起こした砂嵐により見えはしない。
 しかし、アンは気づいた、気づいてしまった。それは自身の死霊術が解ける感覚、想像もしたくもない家族が消える感覚だった。

「ジャンが…消えた…」
「何ですって!?」

 男の召喚士カミルはその言葉に驚きつつも、ルジェルーノのコントロールを忘れはしない、とっさにジャンを衝撃波から守るためにワザと作っていた、衝撃波のない空白の空間に、ルジェルーノの衝撃波を送り込む。

「リーダー…!しっかりしてまだ戦いは終わってないわ!」
「でも…カミル…ジャンが…ジャンが…」
「悲しむのは後よ!」

 家族を失った痛みは想像を絶する。しかし今はその痛みに浸っている時ではない、まだ目の前に敵がいるからだ、ジャンを倒したとなると、数的不利はアン側にある。
 そう考えたカミルは、より一層、ルジェルーノの演奏を激しくさせた。

「リーダー!さぁ!しっかり!」

 カミルの呼びかけに力なくアンは頷く。

 ――ジャン、まさかあんたが逝くとわね…

 カミルもまたアンと同じく、一瞬だけ、悲しみに浸るしかし悲しみに浸っても、この戦いは終わらない。
 そう思い出さなければいけない、なぜ自分たちが戦い続けるのか。

 ――全ては争いのない世界のため、アンのために!!

 カミルは悲しみを怒りに、そして自分の中の魔力を振り絞り、ルジェルーノを操る。

「さぁ!奴らを打ちのめしなさい!ルジェルーノ!!」

 音が炸裂しそれは一方向に収束された衝撃波となり、標的である、エイダたちの元へと降り注いだ。




「アレン先生、もう持たない!」

 エイダは悲鳴をあげた、ルジェルーノの音の衝撃波がさらに強くなったのである。このままでは魔法の防御障壁が破られてしまう。

「こらえるのじゃエイダ!もう1発奴に打ち込む!」

 アレン先生は手のひらに白銀の光球を浮かばせながらそう叫ぶ。

 ――後一回でいいもう一度、魔法を打てればあのクラゲの化け物を倒せるのにのぅ!

 その自信がアレン先生にはあった。最初に撃った火球の魔法が、直撃する前に爆発したのは恐らく、音の衝撃波が壁の役割をしていたのだろう。火球はその壁を貫けず爆発したのだ。
 ならば次は、貫通力のある魔法を使えば良い。衝撃波の壁にも負けないような。そんな魔法を今まさに形成している時、魔法障壁内に突如、1人の男が現れる。

「よぅ!こっちは大丈夫か?…大丈夫じゃなさそうだな!」
「大丈夫なわけあるか!ドンキホーテ!」

 現れた男の正体はドンキホーテだ、テレポートの魔法を使用し魔法障壁内に入ってきたのだ。
 彼は状況を理解すると何か打開策を思いついたのか、詠唱を始める。

「何をするつもりじゃドンキホーテ!」

 アレン先生が聞く。するとドンキホーテは食い気味にこう答えた。

「アレを使うんだよ!アレを当てるから!あのクラゲに!アレン先生はトドメを!エイダはすまねぇもうすこし持ちこたえてくれ!」

 アレとはなんのなのか、エイダにはサッパリ理解できなかったが、アレン先生には伝わったのか今、詠唱している魔法をさらに完成度高めるべく集中を始めた。
 エイダはとにかくドンキホーテとアレン先生を信じるしかない。残る魔力を総動員させ障壁を厚く貼る。
 だがそれも長くは持たなそうだ、ルジェルーノの演奏は次第に激しくなり衝撃波の威力も増しつつある。
 エイダの魔法障壁にヒビが入った。

 ――いけない!

 ヒビが入ったところから徐々にヒビが拡大していく、嫌な音を立てながら次第に、次第に魔法障壁は亀の甲羅のように亀裂が入っていった。

「これ以上は!アレン先生!ドンキホーテ!」
「ああ待たせたな!エイダ!準備完了だぜ!」

 ドンキホーテは勢いよく剣を突き出す、すると剣の刃を囲むように黄金の五芒星が描かれた円の印が浮かび上がる。
 そして彼はその五芒星を横一文字に切り裂き、こう叫んだ。

「聖剣、擬似召喚!エクスカリバー!」

 するとクラゲの怪物、ルジェルーノの直下に同じ五芒星が描かれた円が出現する。しかし先ほどとは違う部分がある。
 それは大きさだ、円の直径はルジェルーノのクラゲの傘と同じぐらいの大きさだった。
 一瞬で生成されたその図形の中心から、光が溢れ出る。

「…!ルジェルーノ音の壁で防ぎなさい!」

 カミルはそれに気づきいち早く対策を講じる

 ――これは聖剣の力!?聖騎士の能力も使えるというの?!

 彼女は驚愕しつつその光を音の壁で遮った。しかし光は止まらない。
 その光は巨大な剣と化しルジェルーノを下から貫いた。
 聞き難い叫び声と共にクラゲの化け物ルジェルーノは演奏を止める。

「…今だ!先生!召喚士の胸を狙え!」

 肩で息をしながらドンキホーテは力いっぱいに叫ぶ。

「わかった!ドンキホーテ!エイダゆくぞ!」
「はい!」

 狙うは召喚士である男の方、アレン先生は魔法の名を呼ぶ。

「デルタ・レイ!」

 三種類の属性複合魔法である、白銀の光線が放たれた。



 ルジェルーノは光の剣に貫かれてもまだギリギリ持ちこたえ、姿勢を保ち空中に浮遊していた。
 ルジェルーノのクラゲの傘に乗っていたカミルは、先ほどのルジェルーノが、光の剣に貫かれたせいで起きた揺れで落ちそうになったアンを支えていた。

「リーダー!大丈夫!?」
「ええ私は大丈夫それよりもカミルは?」
「ええ私も…!?」

 カミルはアンを突き飛ばした。

「カミル?!」

 突き飛ばす瞬間カミルは小さく呟いた「ごめんね」と
 白銀の光線がカミルの胸を貫く。
 アンはまた1人家族を失った。
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