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封印

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「もう行っちゃうの?」

 妖精のメームが寂しそうにいう。ここにいる妖精達一同も同じ気持ちのようだ。
 ここは妖精の里つまり地上である。妖精一同の力を借り、ロシナンテと馬車を地上に引き上げてもらったのだ。
 幸いにも、ロシナンテの体と馬車には先の戦いに巻き込まれたのにもかかわらず傷ひとつ付いていない。それに加えて行き先ももうすでに決まった。
 故に、もう出発してしまおうというエイダ達の算段であった。

「うん、メーム今までありがとうね」

 エイダは明るく、礼を言う。

「あなたの活躍!末代まで語り継ぐよ!あ、後それと、ちょっと待っててね!」

 メームは急いで、移動し妖精達の集団の中に入る。

「おーいエイダ荷造りできたぜ!」

 ドンキホーテがエイダを呼ぶ。

「ごめーんちょっと待ってー!」

 そんなやりとりをしている間に、メームが身の丈以上の布の包みを、複数の妖精とともに持ってきた。

「これは?」

 エイダが不思議そうに聞くと、メームは不敵な笑みを浮かべて、布の包みをはがした、「ジャーン」と言って。

 エイダの目の前に美しい短剣が、姿を晒す。剣の鍔には真珠のような宝石がはめ込まれ、刀身は光の反射加減によってまるで螺鈿細工のような煌めきを放っていた。

 あまりの美しさに見とれているエイダに、メームは嬉しそうに話す。

「これはね私達の祖先が大切に保管してきた、妖精の大剣なの!人間のあなたからすれば、ただの短剣かもしれないけどね!」
「そんなものもらえないよ!」

 エイダは思わずそう言った。しかしメームは食い下がる。

「いいのよ、貰って」
「でも…」
「この大剣はね」

 メームが語り始める。

「昔からの言い伝えで、託すべきものに託せって伝えられてきたの、今回の件でよくわかったわ!託すべき者!それはあなたよエイダ!」

 エイダは少々困惑を隠しきれない。メームさらに続ける。

「あなたはこれからも、多分、世界を救う感じなんでしょ?だったらこれを振るうにふさわしいのはあなたしかいないわ!」

 そう言ってメームは、無理やりエイダの手を動かして、剣の柄を握らせる。ここまでやられてはもうしょうがない、エイダは諦めて剣を強く握り剣を体と平行に持った。
 妖精達から歓喜の声が上がる。「英雄だ」と。

「ほう珍しいのぅ?」
「うわ!アレン先生いつのまに!」

 エイダの肩、髪の毛の隙間からひょっこりとアレン先生が顔を出す。エイダは心臓が止まる思いだ。

「なに、お前さんを迎えにきたんじゃ、それにしても随分な収穫じゃのう?」
「そんなにすごいの?」

 騒ぐ妖精達を横目にエイダはアレン先生に聞く。

「その剣は、特別な素材でできておる、おそらく魔法の補助装置として使えるはずじゃ、まるで杖のようにの」
「あ、そういえば私、魔法習ったのにアレン先生から杖使ったことなかった!」
「あー…それはじゃの、必要ないかなって、正直に言うと忘れとった、まあ基本は同じじゃ、お主ならすぐ慣れる!」

 忘れていた、その言葉にどうも引っかかりを覚えたが、エイダは切り替えて妖精達に別れを告げる。

「それじゃあ、みんな!今までありがとう、私行くね!」

 妖精達もまた、別れの言葉を告げる、中に手を振るものもいた。
 すでに馬車に乗り込んでいるドンキホーテは、馬車から体を出し手を振る。エイダも馬車に乗り込んだ後、名残惜しそうに手を振った。



「さてと」

 ドンキホーテは、そう言い馬車のエイダのとなりの座席に座る、ガデレート山脈までは多少時間がかかるロシナンテの足なら、1週間と言ったところだろうか。
 しかし、その間にのんびりとしていいわけではない、やることがあるのだ。ドンキホーテはおもむろに喋り出す

「追加で質問に答えてもらうぜ、ええと…」
「アイラよ」
「そうだったな、アイラ」

 馬車の中、ドンキホーテの対面にはアンとアイラがいた。エイダは緊張感に生唾を飲む
 ドンキホーテは話を続ける。

「メルジーナ先生って知ってるか?」
「ええ」
「メルジーナ先生の自宅に火をつけたのはお前か?」
「いいえ、その任務は私の兄妹アルがやっていたわ」
「…随分と素直に答えてくれるんだな?」

 訝しむドンキホーテに対して、アイラは言う。

「どうせそこまで知っているのなら、隠したところですぐに真実にたどり着くでしょう?」
「まあいいさ、やっとこさこれでアロク達に、成果を報告できる」

 ドンキホーテは長いこと追っていた、メルジーナ先生の火事の犯人をあっさりと見つけてしまったのだ、そのことに若干の安堵を覚えそれ以上、追及することはしなかった。

「いいか、これで質問は終わるが、変なことはするなよ見張ってるからな」

 ドンキホーテは釘を刺した後、腕を組みアンとアイラを見張る姿勢をとった。そんな肌に刺すような緊張感の中、エイダが口を開く。

「ねぇ、私達、姉妹なのよね…?」

 アイラは笑いながら返した。

「ええ、そうよ、裏切ったあなたの口からそんな言葉出るなんて意外だけど」
「裏切ったつもりは、ないよ」

 強い口調でエイダは返す。

「私はただ、グレン卿のいいなりになるような人生は嫌なだけだよ」
「あなたには私がそういう風に見えるの?エイダ?」
「ええ、もちろん」
「なら、誤解だわ私達、兄妹はね自らの意思でグレン卿に、父上に、支えているの」
「騙されてるだけ、それは!」

 エイダは食い気味にいう。

「いずれ分かるわ、あなたにもねエイダ…私達の使命の偉大さが」

 これ以上は無駄ね、と言わんばかりにアイラは口を閉ざし、それ以上エイダと会話することはなかった。




「父上」

 もはや、廃れ誰からも忘れられた遺跡に声が木霊する。

「アイラから、報告を受けました。どうやらこちらにエイダ達が向かっているそうです」

 青年の声に老人が反応する。

「封印の方はどうだ、アル」
「解除には成功しました」

 老人は笑みを浮かべて、労うように言う「よくやった」と。

「ならば我々は、あわてずに迎撃の用意をするぞ」

 老人の顔から笑みが消え、冷徹に指令を言い渡す。

「マリデ・ヴェルデを封印する」
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