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Ⅲ
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「お前の新しい婚約者が決まった。これからは私の言うことに従いなさい。これ以上手間をかけさせないでくれ」
アーノルドが次に決めたのは、男爵家の嫡男リカルドだった。
年頃の令息たちは既に婚約が整っていて、身分を下げて男爵家で手を打ったのだ。
リカルドはサマンサと同じ年の好青年で
週に一度はサマンサの元に通い
手紙や贈り物も欠かさなかった。
自分の話をするだけでなくサマンサの話を聞いたりと、話題が豊富なリカルドと過ごす時間は楽しいものだった。
自分を大切にしてくれるリカルドと添い遂げれば、両親やみんなの望む幸せがあるのかも知れない。
二人の交際は順調のはずだった。
ある日、いつもの様にグレイスと馬車に乗り、サマンサだけが孤児院に降ろされた。
「サマンサ!丁度いいところに来てくれたわ!」
エマがサマンサに買い物に付いて来て欲しいと頼む。
「助かったわ。女性客一人に付きオマケが貰えるって言うんだもん」
孤児院の夕食の買い出しに行く店が女性客にクッキーを渡すというオマケをしていたので、エマはサマンサと二人で会計を分けてクッキーを二袋貰ったのだ。
クッキーは子供たちのおやつになる。
「私で良ければいつでも付き合うわ。エマや子供たちの為…だ、もの……」
貰ったクッキーを片手にサマンサは見つけてしまった。
自分の婚約者リカルドが、知らない女性と手を繋いで歩いている姿を…
「どうしたの?」
エマに尋ねられて、サマンサは誤魔化した。
「なんでもないわ。子供たちが喜んでくれると良いわね」
サマンサは屋敷に戻ってから考えていた。
リカルドは自分の婚約者だ。
大切にしてくれているし、毎週屋敷に来てくれている。
手紙も贈り物もしてくれる。
あの女性は誰?
屋敷で会っているけどリカルドと外出した事はない。
サマンサは悩んだ末、アーノルドに指示を仰ぐことにした。
勝手な行動をしないよう、自分に従うように言われていたからだ。
「お父様、リカルド様が知らない女性と手を繋いで歩いていたのですが、私はどうしたら良いのでしょうか?」
アーノルドはサマンサを睨んだ。
「浮気は男の甲斐性だ。そんな事で一々目くじらを立てるな。だが…、男爵家に伯爵家を馬鹿にされては困るからな。私が話しておこう」
アーノルドはリカルドを呼び出し、何やら話していた。
リカルドはすぐにサマンサの元へ、大きな花束を持ってやって来た。
「すまない。ほんの出来心だったんだ。大事なのはサマンサだけだよ」
二人の婚約は継続することになった。
それからリカルドは週に2度サマンサを訪ねるようになり、送られてくる手紙も増えた。
大丈夫。ちゃんと大事にされている。
お父様は浮気は男の甲斐性だって言っていたもの。一度くらい許してあげなくては…
そう思った矢先の出来事だった。
予定には無かったのだが、グレイスが急に出かけるというので、サマンサは孤児院に連れて行かれた。
特にやることも無かったので、サマンサはエマと買い出しついでに店に入って雑貨を見ていた。
聞き覚えのある声がしたので振り返ると、リカルドがこの間の女性と店に入ってきたのだ。
サマンサは慌てて店の奥に行き、顔を見られないようにする。
「こんなに堂々と歩いてて良いの?」
甲高い女性の声がした。
「良いんだよ。今日は家に居るはずだ。その為に手紙を送って予定を聞いているんだから」
リカルドの声だ。
「可哀想な婚約者様」と、女性は楽しそうに笑う。
「可哀想なのは俺だろう?あんなつまらない女を婚約者にしないといけないんだ。まぁ、伯爵家と繋がれるから、感謝しているけどな」
目当ての物が無かったのか、二人は何も買わずに笑いながら店を出て行った。
「サマンサ、今のって……」
エマが心配そうにサマンサを窺った。
「えぇ。私の可哀想な婚約者みたいね…」
大切にしてくれると思っていたのに、全部嘘だったんだ。
サマンサはこの事をアーノルドには言えなかった。
しかし、思わぬところでリカルドの浮気が発覚する。
サマンサはアーノルドに呼び出された。
「サマンサ、リカルド君との婚約は破棄になった」
「何故でしょうか?」
サマンサが尋ねると、アーノルドは怒鳴る。
「別の女性との間に子供が出来たそうだ!もちろん向こうの有責での破棄だ!お前は何をやっているんだ!せっかく私が見つけた婚約だったんだぞ!どうして男一人も繋ぎ止められんのだ!」
「申し訳ございません…」
サマンサは謝ることしか出来ない。
「お前は今いくつだ?」
怒りが治まらないアーノルドの口調は硬い。
「18です」
「アマンダは再来月に式を上げる。そうなれば、お前の居場所は此処にはない。わかっているな?」
「はい…」
「私には手に負えん。自分で嫁ぎ先を見つけて来るなり、働き先を見つけるなり、好きにしてくれ」
「承知いたしました」
アーノルドに「戻って良い」と言われ、サマンサは自室に戻った。
(孤児院で雇ってくれるかしら?)
サマンサは誰かに嫁ぐよりも孤児院で働きたいと思い、グレイスが外出しなくても、毎日のように孤児院に通うようになる。
アマンダの婚姻が1ヶ月後に迫ったある日
ローレン家に一通の手紙が届いた。
タスマン公爵家の嫡男クロードが、サマンサと婚約を結びたいとの事だった。
アーノルドはすぐに了承し、
クロードからの返事には顔合わせではサマンサだけにタスマン家の屋敷に来てほしいと書かれていた。
「相手は格上の公爵だ。粗相のないようにしなさい」
「あなたにはもう後がないのよ」
「私じゃなくてあなたが選ばれるわけ無いわ。どうせ何も言わないお飾りの妻が欲しいんでしょう。そうに決まっているわ」
こうしてサマンサは一人でタスマン家を訪れ、契約結婚に同意したのだった。
アーノルドが次に決めたのは、男爵家の嫡男リカルドだった。
年頃の令息たちは既に婚約が整っていて、身分を下げて男爵家で手を打ったのだ。
リカルドはサマンサと同じ年の好青年で
週に一度はサマンサの元に通い
手紙や贈り物も欠かさなかった。
自分の話をするだけでなくサマンサの話を聞いたりと、話題が豊富なリカルドと過ごす時間は楽しいものだった。
自分を大切にしてくれるリカルドと添い遂げれば、両親やみんなの望む幸せがあるのかも知れない。
二人の交際は順調のはずだった。
ある日、いつもの様にグレイスと馬車に乗り、サマンサだけが孤児院に降ろされた。
「サマンサ!丁度いいところに来てくれたわ!」
エマがサマンサに買い物に付いて来て欲しいと頼む。
「助かったわ。女性客一人に付きオマケが貰えるって言うんだもん」
孤児院の夕食の買い出しに行く店が女性客にクッキーを渡すというオマケをしていたので、エマはサマンサと二人で会計を分けてクッキーを二袋貰ったのだ。
クッキーは子供たちのおやつになる。
「私で良ければいつでも付き合うわ。エマや子供たちの為…だ、もの……」
貰ったクッキーを片手にサマンサは見つけてしまった。
自分の婚約者リカルドが、知らない女性と手を繋いで歩いている姿を…
「どうしたの?」
エマに尋ねられて、サマンサは誤魔化した。
「なんでもないわ。子供たちが喜んでくれると良いわね」
サマンサは屋敷に戻ってから考えていた。
リカルドは自分の婚約者だ。
大切にしてくれているし、毎週屋敷に来てくれている。
手紙も贈り物もしてくれる。
あの女性は誰?
屋敷で会っているけどリカルドと外出した事はない。
サマンサは悩んだ末、アーノルドに指示を仰ぐことにした。
勝手な行動をしないよう、自分に従うように言われていたからだ。
「お父様、リカルド様が知らない女性と手を繋いで歩いていたのですが、私はどうしたら良いのでしょうか?」
アーノルドはサマンサを睨んだ。
「浮気は男の甲斐性だ。そんな事で一々目くじらを立てるな。だが…、男爵家に伯爵家を馬鹿にされては困るからな。私が話しておこう」
アーノルドはリカルドを呼び出し、何やら話していた。
リカルドはすぐにサマンサの元へ、大きな花束を持ってやって来た。
「すまない。ほんの出来心だったんだ。大事なのはサマンサだけだよ」
二人の婚約は継続することになった。
それからリカルドは週に2度サマンサを訪ねるようになり、送られてくる手紙も増えた。
大丈夫。ちゃんと大事にされている。
お父様は浮気は男の甲斐性だって言っていたもの。一度くらい許してあげなくては…
そう思った矢先の出来事だった。
予定には無かったのだが、グレイスが急に出かけるというので、サマンサは孤児院に連れて行かれた。
特にやることも無かったので、サマンサはエマと買い出しついでに店に入って雑貨を見ていた。
聞き覚えのある声がしたので振り返ると、リカルドがこの間の女性と店に入ってきたのだ。
サマンサは慌てて店の奥に行き、顔を見られないようにする。
「こんなに堂々と歩いてて良いの?」
甲高い女性の声がした。
「良いんだよ。今日は家に居るはずだ。その為に手紙を送って予定を聞いているんだから」
リカルドの声だ。
「可哀想な婚約者様」と、女性は楽しそうに笑う。
「可哀想なのは俺だろう?あんなつまらない女を婚約者にしないといけないんだ。まぁ、伯爵家と繋がれるから、感謝しているけどな」
目当ての物が無かったのか、二人は何も買わずに笑いながら店を出て行った。
「サマンサ、今のって……」
エマが心配そうにサマンサを窺った。
「えぇ。私の可哀想な婚約者みたいね…」
大切にしてくれると思っていたのに、全部嘘だったんだ。
サマンサはこの事をアーノルドには言えなかった。
しかし、思わぬところでリカルドの浮気が発覚する。
サマンサはアーノルドに呼び出された。
「サマンサ、リカルド君との婚約は破棄になった」
「何故でしょうか?」
サマンサが尋ねると、アーノルドは怒鳴る。
「別の女性との間に子供が出来たそうだ!もちろん向こうの有責での破棄だ!お前は何をやっているんだ!せっかく私が見つけた婚約だったんだぞ!どうして男一人も繋ぎ止められんのだ!」
「申し訳ございません…」
サマンサは謝ることしか出来ない。
「お前は今いくつだ?」
怒りが治まらないアーノルドの口調は硬い。
「18です」
「アマンダは再来月に式を上げる。そうなれば、お前の居場所は此処にはない。わかっているな?」
「はい…」
「私には手に負えん。自分で嫁ぎ先を見つけて来るなり、働き先を見つけるなり、好きにしてくれ」
「承知いたしました」
アーノルドに「戻って良い」と言われ、サマンサは自室に戻った。
(孤児院で雇ってくれるかしら?)
サマンサは誰かに嫁ぐよりも孤児院で働きたいと思い、グレイスが外出しなくても、毎日のように孤児院に通うようになる。
アマンダの婚姻が1ヶ月後に迫ったある日
ローレン家に一通の手紙が届いた。
タスマン公爵家の嫡男クロードが、サマンサと婚約を結びたいとの事だった。
アーノルドはすぐに了承し、
クロードからの返事には顔合わせではサマンサだけにタスマン家の屋敷に来てほしいと書かれていた。
「相手は格上の公爵だ。粗相のないようにしなさい」
「あなたにはもう後がないのよ」
「私じゃなくてあなたが選ばれるわけ無いわ。どうせ何も言わないお飾りの妻が欲しいんでしょう。そうに決まっているわ」
こうしてサマンサは一人でタスマン家を訪れ、契約結婚に同意したのだった。
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