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大地エンド後半
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意識を取り戻した時が、実は人生でいちばん狼狽えた時だったかも知れない。異世界からただいまと帰った場所は自分の部屋だったのだ。おおおぅ?となりながらも携帯を確認してびっくり、入学式の前の日の夜じゃないですか。
なんで?
――トントントン。
「えいこちゃん?制服のしつけ糸ちゃんと取ったー?」
お母さんは返事も待たずにドアを開けてきて、私は五センチは飛んだ。
「あら?試着?いいわね。いいわね。何度見ても可愛いわ。私達の時代とは違うわねぇ。あら?でも、妙にこなれてるわね……」
「そ、そうかな……?」
「えいこちゃん、あなた……」
「な……に……?」
「そんなに何度も試着してたの?うふふ。明日から三年間着るんだからーもー」
いや、すでに一年近く着てました。
「しつけ糸は大丈夫そうね。じゃあおやすみ」
言いたいことだけ言うとお母さんは去って行った。ビビりすぎて感動の再会もあったもんじゃない。泣いてしまったりしたら困るの自分なんだけど。
制服は時々魔法で修理してたから、綺麗だ。とりあえず、明日の入学式で困る事は無い、と思う。あー、でも月子ちゃんや総代の海里くん見たとき変な顔になりそう。
服を脱いでハンガーにかけて、念のため魔法をかけてみたけど、鏡におかしな動きをする自分が映っただけだった。魔力が無いから魔法がかからないのか、この世界では魔法は無いのか、うんともすんとも言わない。
本当に何で、ここに戻ったんだろう。まさかの夢オチか?とか考えながら、あっけなく私は眠りについた。
――――――――――――――――――――――――――
夢オチ疑惑が濃厚になったのは次の日の入学式の総代を見て。
「源野大地君!」
呼ばれた声も、見える姿も大地君高校生バージョンだった。海里くんじゃ無いの?!と衝撃を受けたけれど、この衝撃を共有できる相手がいない。
『イケメン源野君はイケメン双子弟がいるらしい。それと、うちのクラスの平さん、幼馴染らしいよ!』
はい、よく存じております。ともっちゃんに言うわけにもいかない。
私の知っているえいこの過去と少しずつ違っていた。そして、入学式といえばの大量の教科書。それをお母さんと手分けして持って帰る時に、またまた記憶にない事を言われた。
「そうそう、祠ね。無かったのよー」
「え?」
「あらやだ、覚えてないかしら?お誕生日の時にいわくつきの祠があるって話したでしょ?無くなっちゃってたの。仕方ないことなんでしょうけど、ちょっと寂しいわねー」
「お母さん、ごめん。教科書持って先帰っててくれる?」
「えいこちゃん?え?ちょっと?」
どういう事か分からなくて、気がつくと私はお母さんを置いて走っていた。
私は記憶にあるフェンスをくぐった。そこは記憶のままだ。だけど、中に入るとタンポポに蝶々が止まっていて、のどかな光景が広がっていた。しばらく進んだけれど、祠は……無い。私が数日後に飲み込まれる祠は無くなっていた。
「……祠は夢だったの?」
「いや、祠はそこにあった。去年雷が落ちて燃えたらしいがな」
聞き覚えがある声に振り返ると、大地君がいた。近くで見ると、かなり懐かしく思える黒髪と制服のせいか高校生っぽさがある。ただし、こないだまで中学生でしたよね?と思うほどに、あどけなさと言うものは皆無だ。なんだろう……妙に身体が出来上がってる?こんなんだったっけ?最後に別れた時の、サンサンの部屋で目に焼き付けた彼の姿に近く見える。まさか。
「俺のこと、知ってるか?」
「源野大地君。一年の、総代」
まさか、と思った。そんなはず無かった。彼がいること。あの世界にいた大地君にまた会える事なんてあり得ない。一雫の期待もしていなくて、逆に受け入れられない。
勘違いだったら、私はきっと生きていけない。
「ああ、そうか。前は海里だったな。でも、今回は真面目にやってみた」
「真面目に?」
「そうだ、逃げずに、真面目に、な。そうすりゃ、ちょっとは伝わるかと思った」
誰に?何を?それから何故ここにいるの?浮かぶ質問は口から出ずに、ただ彼が次に口にする言葉に集中していた。
大地君はゆっくり私に向かって歩いてきて、目の前で止まり、その手は私の頬に触れた。
「こっちに送り出してくれたのはディナだ。あいつの記憶と引き換えに、俺は記憶を全て持ってここに来た。正確には一年前、ここに雷が落ちた瞬間だが」
ディナさんが。そうか、と妙に納得した。私を愛してくれた彼女は、私が必死で無いことにしていた想いに気づいていたのかもしれない。多分、彼女と私は同じ恋の仕方しか出来ないから。
「こっちに戻って、しばらく色々思い出して考えてみた。あっちでいい歳食ってからだぜ?あの時分かんなかった事だって気がつくくらいには成長してる。それで、ようやくえいこサンに追いついた。えいこサン、ずっと逃げてたろ?笑ってかわして、俺の想いとか、自分の想いとか全部から。じゃないと立てないくらいに……えいこサンが弱いなんて、あの時の俺は思いもしなかった。悪かった」
これは何のご褒美だろう?自分の弱さに向き合えなかったから、色んな人の気持ちを利用して誤魔化して来た私に、今更それを受け取る権利なんて無い。
私はにぱっ笑ってみせた。
「大地君が謝る事なんて何もないよ?」
「あんな、えいこサン多分気づいてないけど、その笑顔が偽物だってくらい分かるんだよ。分かるくらい、えいこサンを見てた」
優しく抱きしめられて、心の底がじんわりとした。
「そんな事、ない」
「ならなんで泣くんだよ?」
言われて自分が泣いている事に気がついた。
「お願い、それ以上は言わないで?」
「嫌だ。俺はもう『一緒に居られないのが辛い』んだよ。約束だろ」
彼は私の逃げ道をそうやって塞いでくれてから、優しくキスをした。
※この続きでR18向け小説↓書きました。若干えいこ鈍感度上がってます。苦手でなければ同一作者から飛んでください。
異世界無双してきたモブ娘に学園モノはハードルが高い
なんで?
――トントントン。
「えいこちゃん?制服のしつけ糸ちゃんと取ったー?」
お母さんは返事も待たずにドアを開けてきて、私は五センチは飛んだ。
「あら?試着?いいわね。いいわね。何度見ても可愛いわ。私達の時代とは違うわねぇ。あら?でも、妙にこなれてるわね……」
「そ、そうかな……?」
「えいこちゃん、あなた……」
「な……に……?」
「そんなに何度も試着してたの?うふふ。明日から三年間着るんだからーもー」
いや、すでに一年近く着てました。
「しつけ糸は大丈夫そうね。じゃあおやすみ」
言いたいことだけ言うとお母さんは去って行った。ビビりすぎて感動の再会もあったもんじゃない。泣いてしまったりしたら困るの自分なんだけど。
制服は時々魔法で修理してたから、綺麗だ。とりあえず、明日の入学式で困る事は無い、と思う。あー、でも月子ちゃんや総代の海里くん見たとき変な顔になりそう。
服を脱いでハンガーにかけて、念のため魔法をかけてみたけど、鏡におかしな動きをする自分が映っただけだった。魔力が無いから魔法がかからないのか、この世界では魔法は無いのか、うんともすんとも言わない。
本当に何で、ここに戻ったんだろう。まさかの夢オチか?とか考えながら、あっけなく私は眠りについた。
――――――――――――――――――――――――――
夢オチ疑惑が濃厚になったのは次の日の入学式の総代を見て。
「源野大地君!」
呼ばれた声も、見える姿も大地君高校生バージョンだった。海里くんじゃ無いの?!と衝撃を受けたけれど、この衝撃を共有できる相手がいない。
『イケメン源野君はイケメン双子弟がいるらしい。それと、うちのクラスの平さん、幼馴染らしいよ!』
はい、よく存じております。ともっちゃんに言うわけにもいかない。
私の知っているえいこの過去と少しずつ違っていた。そして、入学式といえばの大量の教科書。それをお母さんと手分けして持って帰る時に、またまた記憶にない事を言われた。
「そうそう、祠ね。無かったのよー」
「え?」
「あらやだ、覚えてないかしら?お誕生日の時にいわくつきの祠があるって話したでしょ?無くなっちゃってたの。仕方ないことなんでしょうけど、ちょっと寂しいわねー」
「お母さん、ごめん。教科書持って先帰っててくれる?」
「えいこちゃん?え?ちょっと?」
どういう事か分からなくて、気がつくと私はお母さんを置いて走っていた。
私は記憶にあるフェンスをくぐった。そこは記憶のままだ。だけど、中に入るとタンポポに蝶々が止まっていて、のどかな光景が広がっていた。しばらく進んだけれど、祠は……無い。私が数日後に飲み込まれる祠は無くなっていた。
「……祠は夢だったの?」
「いや、祠はそこにあった。去年雷が落ちて燃えたらしいがな」
聞き覚えがある声に振り返ると、大地君がいた。近くで見ると、かなり懐かしく思える黒髪と制服のせいか高校生っぽさがある。ただし、こないだまで中学生でしたよね?と思うほどに、あどけなさと言うものは皆無だ。なんだろう……妙に身体が出来上がってる?こんなんだったっけ?最後に別れた時の、サンサンの部屋で目に焼き付けた彼の姿に近く見える。まさか。
「俺のこと、知ってるか?」
「源野大地君。一年の、総代」
まさか、と思った。そんなはず無かった。彼がいること。あの世界にいた大地君にまた会える事なんてあり得ない。一雫の期待もしていなくて、逆に受け入れられない。
勘違いだったら、私はきっと生きていけない。
「ああ、そうか。前は海里だったな。でも、今回は真面目にやってみた」
「真面目に?」
「そうだ、逃げずに、真面目に、な。そうすりゃ、ちょっとは伝わるかと思った」
誰に?何を?それから何故ここにいるの?浮かぶ質問は口から出ずに、ただ彼が次に口にする言葉に集中していた。
大地君はゆっくり私に向かって歩いてきて、目の前で止まり、その手は私の頬に触れた。
「こっちに送り出してくれたのはディナだ。あいつの記憶と引き換えに、俺は記憶を全て持ってここに来た。正確には一年前、ここに雷が落ちた瞬間だが」
ディナさんが。そうか、と妙に納得した。私を愛してくれた彼女は、私が必死で無いことにしていた想いに気づいていたのかもしれない。多分、彼女と私は同じ恋の仕方しか出来ないから。
「こっちに戻って、しばらく色々思い出して考えてみた。あっちでいい歳食ってからだぜ?あの時分かんなかった事だって気がつくくらいには成長してる。それで、ようやくえいこサンに追いついた。えいこサン、ずっと逃げてたろ?笑ってかわして、俺の想いとか、自分の想いとか全部から。じゃないと立てないくらいに……えいこサンが弱いなんて、あの時の俺は思いもしなかった。悪かった」
これは何のご褒美だろう?自分の弱さに向き合えなかったから、色んな人の気持ちを利用して誤魔化して来た私に、今更それを受け取る権利なんて無い。
私はにぱっ笑ってみせた。
「大地君が謝る事なんて何もないよ?」
「あんな、えいこサン多分気づいてないけど、その笑顔が偽物だってくらい分かるんだよ。分かるくらい、えいこサンを見てた」
優しく抱きしめられて、心の底がじんわりとした。
「そんな事、ない」
「ならなんで泣くんだよ?」
言われて自分が泣いている事に気がついた。
「お願い、それ以上は言わないで?」
「嫌だ。俺はもう『一緒に居られないのが辛い』んだよ。約束だろ」
彼は私の逃げ道をそうやって塞いでくれてから、優しくキスをした。
※この続きでR18向け小説↓書きました。若干えいこ鈍感度上がってます。苦手でなければ同一作者から飛んでください。
異世界無双してきたモブ娘に学園モノはハードルが高い
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