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38-2 モートンさんのお部屋

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「モートンさん。こんにちは。」
「おやおや、我が国の天使様のご機嫌はいかがかな?」
モートンさんはあの日以来私を天使なるものに認定している。
「モートンさんをお待ちしていました。」
「この老いぼれに御用とな!しばしお待ちくだされ、所用を済ませますでな。」

モートンさんは魔力、聖力の吹き溜まりの情報を更新する。吹き溜まりを含め、地図全体的に数値が増加している。
毎度の事ながら魔法は見えて無い。けれど、結果は見えるのでアハ体験状態だ。

「はてさて、なにようですかな?」
「内緒のお話がしたいのですが、今からお邪魔しても構いませんか?」
いたずらっぽく言うと
「ほほう。興味深いの。うむうむ構いませぬぞ。」
いたずらっぽく返される。やっぱりこの人はノリが良い。
髭を撫で付け、ついて来るよう促された。
黒い厚みのあるローブを引きずって歩いている割に、進みは早い。そういえばブレーキ力は身体に関係するらしいので見た目おじいちゃんだけどローブの下はボディビルダー級なのかもしれない。なんてったって闇の国のNo.4だし。
想像するのは、、やめよう。


モートンさんの部屋はいかにも魔法使いの部屋という雰囲気だった。薄暗く、所狭しと物が置いてあり、家具は重厚な空気を織り成している。
席を勧められ、空中からお茶菓子が湧いてくる。魔法の映画のワンシーンのようだ。

「それで、話とは?」
にこやかな目に好奇心が覗く。見た目はお爺ちゃんだけれど、やはり中身は衰えていないらしい。

「はい、陛下がなされているプロジェクトが知りたいのです。」
「ほほう。何故?とは聞きますまい。図書室に通い詰めてらっしゃったんじゃ。天使様なら、大方の予想はついていられるのじゃろう。」
「破壊神が現れるのを止められるのですね?」
「うむ。」
ほんとは図書室は関係なく、ゲーム上で大地君が知っていた知識参照。

モートンさんの手の上にこの世界の立体図が映し出される。
「過去の魔女達の功績により、破壊神が出現するより前に、聖力と魔力をぶつけ合えば世界を分けることが出来ることがわかっておりましてな。」
手の上の世界が半分に千切れた。
バラバラの断面は美しく無い。

「この時エネルギーとして魔力や聖力のほとんどを使い切ることで、破壊神を出現を止める事が出来るとされておるのじゃ。後いくつかの古文書が揃えば、これは成し遂げられる所まで来ておる。
陛下はこれに当たり、魔力や聖力に変わるエネルギーを探されておっての、ウラン殿はこの時に人々が希望する側に残れるよう資質を変える研究をされておる。」
聖魔のどちらの器が大きいかが資質じゃな。と付け加えた。

ゲームでは、陛下の研究もウランさんの研究も成し遂げられない。それでも新魔王の大地君は大陸を分離しようとし、モートンさんは聖人の奴隷化を推し進める。魔王陛下主人を亡くしたその影は、大地君を不義の子だと信じ、歪み、彼らの道は別れた。

「陛下やウラン殿の研究が成功せねば、光の国の協力どころか、興味も引けぬでな。あちらはこちらほど聖力の技術は進歩しておらぬ。」

聖人は魔人より寿命が短い。その分魔人より子供の数は多い。そして、彼の国は世襲制であり、国内は王位継承の度に揉めている、はずだ。あちらに穴だらけの提案を受け入れる余裕は無い。

「さて、これを聞いて天使様は如何思われる?」

突然授業の時のように質問が投げられた。
大陸分断の方はもう目処がついてるらしい。その状況で陛下やウランさんが行なっている研究は成功するのだろうか?ゲームで言及されていない物で、こちらの世界の理論で研究されてあるものは私の知識じゃ太刀打ちできない。

「地図はありますか?」
「うむ。」

出された地図に付属のパンダの駒を置く。

「…現在古文書が見つかっているところは、こちらですね?」
続けて笹の駒を置く。

「そしてこちらが現在、力が溜まっている所です。」
古文書がある所は全て、力溜まりがある所だ。
「今力が溜まっている所に力が溜まる論理的な理由は見受けられません。それが、地形的な理由か神秘的な理由なら、昔からそうだったのでしょう。そして、そこに古文書があるなら、現在古文書が見つかっていない力溜まりにも古文書があるのではと思います。」

「左様。これらの場所に古文書はございますな。」

驚いてモートンさんを見る。

「我らは絶えぬ一族と言われております。世界が滅ぶ前から様々な伝承を守っておりましてな、それによると、今まさに示された箇所に知らせが眠るとされとりますな。」

事も無げに話すけど、それトップシークレットじゃ無いの?

驚く私を尻目にモートンさんは目に余裕の笑みを浮かべて指を組む。
「さて、天使様は何故わしにこの話を持ってこられたのか。古い友人のテルラ殿でもなく、仲が良く、今質問された事柄により近いウラン殿にでもなく、この老いぼれに。」

なんだろう。何か私は見落としている事があるの?モートンさんの意図が読めない。

「…私はモートンさんがいちばん事情をご存知だと思っています。」
「なにゆえに?」
間髪入れず聞かれるので思考が追いつかない。
「まず、ご高齢であるので過去の出来事や知識が豊富であり、また陛下の側近でいらっしゃる期間も長い。それと、図書室によくいらっしゃって、情報の更新をされています。」
「それで、情報が早いと?」
「いえ、早いのは勿論ですけれど、モートンさんは常に内殿にいらっしゃって陛下のお世話を主になさっていますから。」
「どういう意味じゃ?」
「内殿にいて、特に部下と会議などもなさらないのに情報に明るいのは、情報を集める人と直接繋がっていらっしゃいますよね?でないと、この地図全体の情報を定期的に更新できません。」

モートンさんは内殿で陛下の補佐をしている。そして時々私たちに歴史を話したりはするが、ウランさんのように外殿で部下と仕事はしていない。

何故なら、魔王陛下の影の本来の仕事は諜報と暗殺の元締めだ。現在の手駒の筆頭格がサタナさん。私はサタナさんを借りたい。真の実力はウランさんより遥か上で、私を危険に晒すことを厭わない人。

「わしが何故部下と会議をしていないとご存知なのかの?」

咄嗟に答えが出せない。しまったと思ってしまった。そして、その隙を見逃してくれる相手では無かった。

「天使様。貴女は何を知っておいでですかな?この老いぼれに何をさせようと考えておるのじゃ?」
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