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54-2 ラグビーのボールは楽じゃない

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次の日、宿から皆で出た直後から誰かにつけられていた。なんで分かるかと言うと相手がド下手クソな上に複数人だから。
と言うか、そもそもあまり隠れる気が無いのかもしれない。
道はそれなりに混んではいたけれど、異様にぶつかったり近づいてくる人が何人もいる。さりげなく私を真ん中にして歩いてくれるので助かった。前を歩いていたサタナさんが、私を隠すようにスッと動く。その時、右側にいたディナさんに思いっきりぶつかってくる人がいた。しかもショールを強奪する勢いで。
ショールは頭からは脱げたけど、首にひっかかって盗られはしなかった。
「ちょっと!」ディナさんが怒ったけど犯人は逃走。
「コレ持ってなかったらとっ捕まえたのに。」
ジェード君は両手に持った結晶の袋を揺らす。
まずいな。と小さな声でサタナさんが呟くのが聞こえた。
その後は相変わらず つけられてる気配はするがぶつかる人は激減した。ほんと嫌な予感しかしない。

結晶の取引所内には付いてこなかった彼らだが、換金して外に出たら再び、である。しかも、なんか増えてるし。
大量の結晶をみんなで運んでいたから、強盗かスリ予備軍とも考えられるけど、むしろそっちなら(サタナさんとかが)返り討ちに出来るだろうからマシなんだろうな。
「ディナはん、えいこサンとこの店見てて待っててや。野暮用済ましてくるわ。」
小さな雑貨店の中に私達を置いて、サタナさんとジェード君が外に出た。ディナさんを見るとコクンと頷いたので、ついてきた人達をなんとかしに行ってくれたのだろう。
しばらくして二人とも戻ってきてくれた。店を出ても奴らはいない。
流石!今度こそお祭りを楽しまなくちゃ!

お祭りのテーマはどうやら虹のようだ。ディナさんに聞くと、虹の精霊を表していて太陽と恵みの雨に感謝するニュアンスだった。こちらの宗教観が分かってないからズレているかもしれないけれどだいたい合っているだろう。

お昼ご飯はマーケット広場の食べ歩きで済ませた。王都の屋台は薄味な素材重視の食べ物が多かったが、こちらはガツンとしたハイカロリーな物が多くて幸せです。王都→フライドポテト、ナイロ→ビザ味フライドポテト、みたいな。毎日だと太っちゃうなー、と思いながらディナさんとシェアしながら色々試した。ディナさんの筋肉は飾りじゃないので消費カロリーも多く、つまりよく食べる。

メイン広場の方に行くまでに、再び何人かついてきた。げんなりだ。その度にジェード君やサタナさんがふらっと消えて、ついてくる人数が少なくなる。そしてまた増える。流石にこの状況ではディナさんが私に張り付いてくれているから心配はしていないけれど、食べ物以外祭を楽しめていない。
ああ!イライラする!
『ママ、感知られ過ぎて気持ち悪い。』
マリちゃんだって疲れてきたようだ。

サタナさんがまた離れた直後、ジェード君が魔法で攻撃を受けた。
「街中で何してんだよ!」ジェード君が犯人に向かう。怪我はしてなさそう。
よかった、と、思った瞬間、目の前のディナさんに真っ白のどでかい袋が頭から被せられた。
「きゃ!」
え?とびっくりしたらふわりと体が持ち上がってディナさんが入って袋が遠ざかる。違う、私がさらわれた側だ!

遠くでディナさんが袋から這い出したのがギリギリ見えたあたりで、「あっつうっ!」と言って私を攫った男が私を放り投げた。マリちゃんが魔法を放ったようだ。着地に備えて身構えたら今度は違う男が私をキャッチした。
そしてまた小脇に抱えられて走られる、マリちゃんの攻撃→放り投げられる→キャッチ→小脇。

なんなの!私はラグビーボールじゃない!
だいたい150センチは小柄だけど、そんなにちんまく無いわ!ポンポンポンポン投げないでよ!

気がついたら大きな虹のオブジェがある広場まで来ていた。祭りのメイン会場まで連れてこられた?
その脇の方では沢山のカップルがイチャコラしている。恋人の聖地的な一角かーと若干現実逃避気味に考察してみた。

裏路地に連れてこられると、意外と優しく降ろされたが、両手足をちゃちゃっと手慣れた感じで縛り上げられる。おっとぉ、伝家の宝刀ウランさんの愛の証が使えないじゃないかい。
「マリちゃん、手足結ばれた。」『分かったよ。解縛のを練るね!』
我が子ながら素敵すぎる。しかし、魔法発動前に路地裏に面した家の中に押し込まれた。

手足を縛られて、押し込まれるとどうなるか。当然こけます。腕で受け身を取ったけど、こけた瞬間『きゅう。』という声が懐から聞こえた。場所的に潰してしまってはいないけどマリちゃんに何らかのダメージが!

「ようやく二人きりになれたね!」
転んだまま見上げると、乱雑な部屋に似つかわしくない清潔なピシッとした服装の男の人が立って居た。
「貴方は?」
「僕はティラだよ!マリアンヌ!」
ぞぞぞぞぞっ。
それはあの小説の主人公とヒロインの名前っ!

「あの、私マリアンヌじゃ「確かに髪色と身長くらいしか同じじゃないね!でも、その髪色は滅多にいないんだよ!しかも、それを隠そうとするなんて、なんて奥ゆかしい!君はマリアンヌになれる!」

別になりたくない。もしなれても、あんな男には惚れない。ついでに、この人はティラにちっとも似てない。

「それに、その美しい声はヒロインにぴったりだ!そして、君を手に入れれば僕はティラになれる!素晴らしい!ところで、最新刊は読んだかな?」

この人ヤバイ人だ。目が異様にギラギラしている。
刺激しちゃマズイ?

「あ、生憎拝見していません。」
月並みだけど、隙をついて逃げるしかない。今のところ殺されたりはしないみたい。
なるべく、二巻のマリアンヌに寄せて答えてみる。

「そうか、でも大丈夫!今から追体験出来るからね!安心して!貞淑な君には刺激が強いだろうけれど、僕は慣れているからね!任せると良い!」

なんと、ベルトをかちゃかちゃ言わせ始めた。
しまった、最新刊は主人公とヒロインが結ばれたとかなんとかサタナさんが言ってた。もしかしなくても、そう言う意味ですか?
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