生徒会長・七原京の珈琲と推理 学園専門殺人犯Xからの手紙

須崎正太郎

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第二話 九月二十七日――それは時間的に不可能な犯行

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 永谷先生が亡くなってから三日ほどの間、僕は激動の渦中にいた。

 まず事件当日を思い出すと、職員室からの通報を受けて警察や救急隊がやってきた。永谷先生は病院に搬送されたがすぐに死亡が確認された。さらに警察の行動は素早く、校内に残っていた生徒や教師たちは、全員、講堂に集められた。

「犯人がまだ校内に残っているかもしれませんので、保護致します」

 とのことだったが、その後、警官隊が校内をくまなく捜査したが、犯人はどこにもいなかった。不審物も発見されなかった。

 その日は午後九時に解散となり、僕も高千穂翠もウグ先輩も迎えに来た保護者と共に帰宅したわけだが、僕は犯行現場の目撃者の上、迂闊にも現場に残されていた手紙に手を触れてしまったことで、翌日、学校の校長室に呼び出され、警察を相手に証言をすることになった。

 手紙に触れた件は、警察と、担任の延岡小咲のべおかこさき先生にかなり強めの注意を受けた僕だったが、とはいえ、そこは混乱していたということで話はおさまった。

 高千穂翠をはじめとする、体育倉庫に集まっていた野次馬の生徒たちが、「七原生徒会長は手紙を開いて見ただけ」と証言をしてくれたこともあって、悪意ある行動ではなかったということで、お咎めなしとされたわけだ。

 それは良かった。
 だがその後、今回の事件を担当している、稲田いなだという、アラサーくらいの男の刑事さんに、

「永谷先生は、どういう先生だった?」

 と尋ねられても、いきなりは答えられなかった。
 永谷先生は僕が所属する二年一組の体育を担当する教師だが、別に親しくもなく、かといって僕とは大きなトラブルもなかったからだ。

 すると、回答に窮している僕を見て稲田刑事は、目を細めて、

「ああ、ごめん。これは質問が悪かったね。つまり、生徒の間の評判はどうだった?」

「正直に答えていいよ、七原君」

「そう、我々に気にせず正直に答えなさい」

 稲田刑事に続いたのは、校長先生と教頭先生である。
 このふたりは揃って五十代で、年齢は五歳くらい離れているはずだが、双子のようにそっくりである。顔も体格も服装も、おまけに話し方や声の調子、さらには喋る内容までいつも一緒だと生徒の間では評判だ。

 おまけに校長の苗字が田中たなかで、教頭が田々中たたなかなのである。神のイタズラとしか思えない奇跡だが、それはともかく僕は稲田刑事の質問に回答した。

「熱心な指導をする先生でした。だから、苦手なひともいたかもしれません」

「熱心、というと?」

「声が大きくて、生徒を怒鳴ったり、すぐに叱ったり」

 話しながら思い出したが、僕が一年生のとき、同じクラスであり、数少ない友人である下村櫻太しもむらおうたと廊下でゲームの話をしていたときに、永谷先生がいきなり「ゲームを持ち込んどるのか!」と怒鳴りつけてきたことがあった。

 ただ話をしていただけです、と答えると「紛らわしいおしゃべりをするな」とだけ言い残して立ち去ったが、下村はそんな永谷先生の背中に向けて小さく「なんだあいつ、死ね」とつぶやいたっけ。

「すると、永谷先生を嫌っている生徒さんもいたということだね?」

「刑事さん、生徒を疑うのはやめてくださらんかな」

「そうそう、子供たちは犯人ではありませんぞ」

 田中校長と田々中教頭が揃って、僕ら学生をかばってくれた。
 お見事。教育者の鑑《かがみ》だ。

 とはいえ、生徒は犯人じゃないなんて断言はできないだろう。あの手紙にも書いてあったじゃないか。

 私はこの学校の人間です、と。



 安曇学園はしばらく休校となった。
 暇になったが、外出するのを両親に止められたこともあり、しばらくは自宅で勉強をすることになった。

 けれども、気持ちは学校と事件に向いている。
 事件現場を見たときに感じた怒りが原動力だった。

 僕はなぜ、自分が怒っているのか分からなかった。永谷先生にはそれほど良い印象もなかったのに。だがとにもかくにも、テレビをつけたり、ネットを見たりして、事件の情報収集に努めていた。

 ――人口三十万人の、ごく平凡な地方都市、ごく普通の高等学校で巻き起こった、謎多き猟奇殺人!

 センセーショナルな見出しが、テレビやWEBを独占する。
 平凡だの普通だのと連呼されると、個性がまるでない町だと言われているようだが、実際、我が地元ながら本当になにもない場所なので、そう言われてしまうのも無理ないかな、と僕はひとりで納得していた。愛郷心に欠けている若者で悪い、悪い。

 そして、事件からちょうど四日が経った日の夜。
 ウグ先輩が僕にインスタでDMを送ってきたのだ。

『やあやあ、元気? 聞いたよ、刑事に取り調べされたって?』

 僕はメッセージをすぐに返した。

『誰から聞いたんですか。ひとを犯人みたいに言うの、やめてくださいよ』

『ごめーん、そんなつもりじゃなかったけれど。いやいや、でもこれは貴重な経験だよ。人生で刑事さんと話をするなんてこと、ないと思うから。でも、なにを聞かれたの』

『永谷先生の評判について聞かれました。よく怒鳴るひとでした、苦手なひともいたかも、と答えましたけれど』

『こわいよー。それじゃ生徒が犯人って言ってるようなもんじゃないか。ちょっと会長~!』

 ウグ先輩の困ったような笑顔が、目に浮かぶようだった。
 僕は面白くなって、ちょっとニヤニヤしながら、キッチンに行ってボトルコーヒーをカップに入れる。飲む。頭が冴え始めた。いまなら円周率も徳川十五代将軍もノンストップで読み上げられるぞ。

『でも本当に、永谷先生を殺そうとするひとなんて、いるんですかね?』

 僕はずばりと切り込んだ。
 直球すぎて引かれるかなと思ったが、ウグ先輩はすぐに返事をくれた。

『どうかな。私はけっこう永谷先生が好きだったけれど。家庭科準備室でジュースを飲むのを許してくれたし。優しいひとだったよ』

「ジュースひとつでデレるとは、安いJKだな」

 その程度でウグ先輩の歓心を買えるなら、アイスクリームでもクレープでもおごる男子生徒が山のようにいると思うが、とカフェインのせいで余計なことまで考えながら僕は続ける。

『けれどあの熱血指導ですから、嫌っているひともいたと思いますよ。手紙にもありましたから。恨まれるに足る男だった、と』

『確かに私は永谷先生の体育を受けたことがないから、のんきなこと言えるのかもねー。けれど、少し嫌いといっても殺人までいくのは普通じゃないよね。恨みかあ』

『そもそも犯人が学校の中の人間とは限りませんよ。手紙では学校の人間だと言っていましたけれど、あれは嘘かもしれません』

『犯人が外から来たってこと?』

『可能性の話です』

 アイスコーヒーをガブ飲みしていると、より頭が回ってきた。
 スマホを操作する指もよく動く。

『ちょっと事件を整理しますね。テレビやネットで得た情報も込みですが。

 被害者は、永谷郁夫ながたにいくお、三十三歳、独身。
 安曇学園の体育教師にして、バスケ部の顧問。身長百七十七センチのがっちりした体格。
 九月二十日に殺害される。死亡推定時刻は当日の午後三時半から四時半ごろ。

 事件当日は、六時間目まで体育の授業を担当していた。午後三時半に六時間目が終わったあと、後片付けなどの仕事を行うために体育倉庫に残った。これは複数の生徒の証言から確実。

 午後四時二十分ごろ、ボールを取りに来たバレー部の生徒が体育倉庫の引き戸を引いて、中を覗き込むと、古いマットレスが倒れていて、そのマットレスの下にひとが倒れているのが見えたそうです。バレー部員たちは慌ててマットレスを起こした。

 すると、永谷先生がうつ伏せになって倒れており、その背中は工作用のカッターナイフで滅多刺しにされ、かつ切り刻まれていた、と。……ああ、マットレスは、いつも倉庫の中に立てかけてある、古くてボロボロのマットレスですよ。どうしてあんなものの下になっていたのかは、分からないですが。……

 現場に残されていたカッターの数は四十二本。そのすべてに『X』の赤文字が書かれてあり、Xからの手紙に記されていた通り、すべて安曇学園の美術室にあった備品だった――』

『わおわお。長文乙、ってやつだねー。国語はお得意かい?』

『大好きなコーヒーを飲んでいるから長文も書けます。飲むと頭が冴える体質だと最近気が付きました』

『ステキボディ乙。今度、副会長も交えて『サン・フラワー』にでも行こうよ。学校の前にあるカフェだよ、知ってるよね? ……ところで私もテレビで見たよ。永谷先生は間違いなく、あのカッターのうちの一本でやられた。それから現場に落ちていた四十二本のカッターからは、指紋なんかが全部拭き取られていた。けれど美術室の木クズがわずかについていたから、あれは美術室のものにまず間違いないだろうって』

『そうなんです。だから犯人は美術室からカッターを盗んで、指紋を拭き取って、Xの文字を書いて、永谷先生を殺したことになる。大急ぎですよ。まずいつごろ、カッターを盗んだのか』

『それは三時半以降だろうね。当日の六時間目、美術室は使われていた。私が美術の授業を受けていたから、間違いないよ』

 ウグ先輩のメッセージを見て、僕は一瞬、指を止めた。

『先輩、美術室にいたんですか? 当日の午後三時半まで』

『いたよ。しかも切り絵の授業だったからカッターも使った。どうして犯人は、先生を殺すのに美術室のカッターなんて使ったんだろうね。確かに工作用のものだから、しっかりしたカッターではあるけれど、おまけにXなんて字を書いて。謎だよ』

『それも謎ですが……』

 僕はもう一口、コーヒーを飲んだ。
 すると、頭がいっそう回転し始める。

『三時半には永谷先生は生きていた。カッターも美術室にあった。
 そこから四時二十分の遺体発見までは五十分しかありません。
 この五十分以内に永谷先生が殺されたことは、死亡推定時刻から考えてもまず確実なんですが――

 犯人は三時半から行動を開始したとして、四十二本もカッターを盗み、指紋を拭き、Xの字を書いて、さらに校舎の中を移動して、永谷先生を殺したことになります。五十分で。……できますかね?』

 ウグ先輩から返事が来るまで、たっぷり一分、間があった。

『会長、あとふたつ疑問があるよ』

『ふたつといいますと?』

『ひとつめ。生徒には帰りのホームルームがある。これは三時五十分までかかる。犯人が生徒や、クラスの担任を受け持っている教師だとすると、自由に動けるようになるのは三時五十分からだ。時間の余裕は三十分しかなくなる。

 ふたつめ。我が校には防犯カメラがいくつか、設置されている。外部からの侵入者を想定しているうえに、予算の都合で、校舎の一階や校門周囲と外壁にばかりついていて、二階は階段前にしかついていない。さらに校舎三階と、肝心の体育倉庫や美術室前にはついていないけれどね。それでも犯行当日、学校内を大急ぎで動いている人間や、外部からの不審者がカメラに写っていれば、警察は当然、目を付けると思う。けれど、そんな情報はいまのところないね』

「自由時間は三十分……。さらに、防犯カメラ……?」

 僕は思わず、口をもぐもぐさせてしまった。
 また、アイスコーヒーをぐびりとやると、

『すると犯人は、防犯カメラに写らないように歩いた。あるいは映っていても違和感のない、つまり学校内の人間。そしてクラスの受け持ちがない教師の可能性が高い』

『お見事。情報だけ整理すると、そうなるよね。さすが会長。私の見込んだ男だー』

 褒められても、ちっとも嬉しくなかった。
 犯人が学校内にいるなんて。恐らくそうだろうと思っていたが、改めて考えて、そんな結論を出してしまうと、なんだか辛い。知っている人間が殺人犯かもしれないと思うと、こんなに気持ちが沈むものなのか。

 それに、犯人が教師かもしれないと分かっても、謎は消えない。
 三十分ではなく五十分だとしても、結局、時間的な余裕はあまりないように思えるし、なによりも、

『犯人が誰だとしても、どうしてカッターを大量に盗んで殺したんでしょう。おまけに一本一本にXと書いてまで』

 このメッセージを送ると、ウグ先輩からの返事はさらに遅かった。
 きっかり五分経ってから、

『わかんない。とにかく休校が明けたら、生徒会室に集まりたいね。直接、話したいこともあるし』

 先輩が、この話題を終わらせようとしているのが分かった。恐らく疲れたのだろう。『そうですね、とにかく休校明けを待ちましょう』なんて凡庸な言葉を返しながら、そういえばウグ先輩は事件当日も、僕と高千穂翠を相手になにか話をしようとしていたな、と思い出した。ウグ先輩の話とは、いったいなんだろう。

 それにしても、あまりにも珍妙で、恐ろしい事件。
 なにが怖いかって、Xの手紙にあった通り、犯人はきっと、

 ――私はこの学校の人間です。

 学校のどこかに潜んでいるのだから。
 廊下を歩いていて、出くわした人間が、殺人犯かもしれない。考えるだけで背筋が冷たくなった。

 その後、事件から二週間近くが経った十月三日。
 全校生徒は登校することになった。



 三日の朝は講堂で全校集会が開かれて、田中校長が一時間近く喋っていたが、要約すると、動揺するな、噂話はやめろ、事件は必ず警察が解決する、永谷先生の葬儀は近親者だけで執り行った、登下校はなるべく集団で、ということだった。最後に黙祷もくとうを捧げることで集会は終了する。バスケ部の生徒を中心に、何人かの生徒がすすり泣いているのが記憶に残った。

 犯人も、この講堂のどこかで黙祷もくとうをしているんだろうか。

 授業中から休み時間まで、教室は妙に静かだった。一部の生徒たちがヒソヒソ話をする他は、誰もがお互いの顔をチラチラ見合う光景が展開された。だが昼休みには、一部の女子生徒が涙を流していた。誰もがやはりショックを受けていて、次の動きをどうするべきか、お互いの顔色をうかがっているようだった。

 放課後になった。
 学校がそんな状態でも、僕はひとまず生徒会室に向かおうと思った。

「あ」

「あ」

 教室から廊下に出ると、高千穂翠と出くわした。
 彼女は二年三組なので、僕とはクラスが違うのだ。

 お互いに、なぜだか会釈。
 それからふたりで生徒会室に歩いていくが、僕は少しだけホッとした。

 学校がこういう状態なので、信頼できる人間が隣にいるのは嬉しいものだ。
 事件発生当時、僕と高千穂翠とウグ先輩は一緒にいた。だから僕にとって、高千穂翠とウグ先輩だけは確実に殺人犯ではない、信用できる人間なわけだ。

「やあ、やあ、おふたりさん。来たね」

 生徒会室に入ると、ウグ先輩がニコニコ顔で待っていた。

「来ると信じて待っていたよ。はっは、私たちは、ほら、あの事件当時、いっしょに現場を目撃した仲間だ。仲良くしよう、ね。仲良く。はっはっは」

「明るいんですね。お世話になっていた永谷先生が亡くなったのに」

 言ってから、皮肉みたいになってしまったなと反省した。そういうつもりはなかったのだけれど。

「嘆いていても仕方がない。もちろん悲しくはあるし、あの現場は衝撃的だったけれどもね。……どうだい、オレンジジュースでも。家庭科準備室のを持ってきたんだ。ああ、会長には缶コーヒーを買ってきたよ。コーヒーが好きと言っていたからね」

「ありがとうございます。これは助かる」

 ウグ先輩が差し出してきた缶コーヒーを、僕は喜んで受け取った。
 ブラックなのが、またたまらない。さすがウグ先輩、分かってるう。

「私と副会長はジュースだね」

「鵜久森先輩。コップがひとつ多いです」

 高千穂翠が指摘した。
 机の上には、紙コップがみっつ置かれていたのだ。

「ああ、それはね、実はここにもうひとり、二年生の生徒が来るからだよ。いまは手洗いに行っているけれどね。そう、実はあの事件の日、私はこの話をしようと思っていたんだ。生徒会にはいま書記がいないだろう? だから書記役にその二年生を推薦しようと思ってね。……おっ、きたきた」

 ガラガラと戸が引かれて、男子生徒が「ど、どうも」と顔を出した。
 クセッ毛じみたスポーツ刈りに、伏し目がちな一重まぶたをした学生だった。体格よりも大きめのスクールバッグを肩にかけ、手には水筒が入ったサブバッグを持っている。ずいぶん重装備である。

佐久間巧さくまたくみ君。二年三組の生徒で、ひどく字がうまく、書くのも早い。一年生のとき、宮沢賢治の感想文をコンテストに出して佳作を取ったこともある。書記に持ってこいの逸材だよ。部活も委員会もやっていないから、もちろん暇らしい。どうだい、七原会長。私の推薦で、彼を生徒会に入れてやってくれないかい」

「はあ、それは、佐久間君と、副会長がいいなら」

「わたしは別にいいけれど」

「ぼ、ぼくも、はあ、ええと、仲間に入れてくれるなら、はい。お願いします」

 佐久間君は、ぺこりと頭を下げた。
 まったく他人のことは言えないが、コミュ力がお世辞にも高そうではない。
 僕に高千穂翠に佐久間君。ウグ先輩はどうしてこう、友達がいなさそうな人間ばかりに目を付けて集められるのだろうか。陰キャの展覧会でも開けそうだな、なんて心の中で毒づいた僕だったが、彼のスペックには素直に一目置いた。

「感想文コンテストで佳作なんて、すごいじゃん。僕には無理だ」

「いや、その、大したことは。はあ、まあ、……はあ、はあ」

 はあ、が何回出てきただろうか。
 思わず出ちゃう気持ち、すごく分かるけれど。

「あっははは、結構、結構。仲良くやってくれ。私もときどき顔を出すから。ね、佐久間君。いい会長と副会長だろう?」

「そ、そうですね、いい人そうです、はあ。漫画みたいな生徒会ができそうで」

 これまでの短いやり取りで、僕らのどこにいい人の匂いを嗅ぎ取ったのか、漫画のような生徒会さを見いだしたのか、問いつめたいところである。

「さて、新生徒会の三人が揃い、さらに伝説の前生徒会長まで結集したところで」

「どこが伝説なんですか、どこが」

「君が知らない伝説の私がいるのだよ。三年生の間を聞き込みしたまえ。私のまだ見ぬ一面が見えてくる。はっはっは」

「佐久間君、ここは記録しなくていいと思うよ」

「は、はあ、そうですか。書記はそういうものかと思って」

 さっそくルーズリーフにペンシルを走らせる佐久間君を見て、高千穂翠が冷たい目でツッコミを入れる。

「はっはっは、佐久間君、君はいい。やる気があって大変よろしい。私は君のそういうところが大好きだよ。……と、話がそれた」

 伝説なんて言うからですよ。

「こうして四人が集まったところで、話をしておきたい。言うまでもなく、永谷先生が殺された事件についてだ」

 ウグ先輩の言葉で、さすがに室内の空気が引き締まった。

「痛ましい事件であることは間違いない。しかも、そうとう謎に満ちた事件のようだ。どうだい、みんなでひとつ、謎について考えてみないかい」

「探偵団をする気ですか、僕たちで」

「まずは話をしようということさ」

 ウグ先輩は不謹慎にも、瞳を光らせながらそんなことを言った。
 好奇心旺盛な先輩だとは思っていたが、探偵までやりたがるとはね。
 とはいえ、事件について話がしたいのは僕も同感だった。

「確かに、事件の謎は解明したいです」

「そう。ここには、あの事件現場を目の当たりにした人間が三人もいるしね。基本は警察に任せるとしても、私たちにできることはしておきたいじゃないか。気付いたことがあれば、なんでも発言したまえ。――さて、そもそもなぜ、永谷先生はあんな殺され方をされなければならなかったのか」

「う、恨みでも、買っていたんじゃ、ないでしょうか?」

「まず、そう考えてしまうよな。けれど、鵜久森先輩ともメッセージで話したけれどさ、殺されるほどの恨みってなると、さすがにな。この学校に、永谷先生を殺したいほど恨んでいるひとっているのか?」

「わたし」

 いきなり高千穂翠が、そんなことを言いだした。
 これには僕もウグ先輩も、佐久間君さえもびっくりした顔で、彼女を一直線に見据えたものだ。

「わたしは永谷先生を、殺したいほど恨んでいた。あのひとは、わたしからすべてを奪ったから」
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