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第一章 非日常へ

23話 悪戯な笑み

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 どういう顔をして帰ればいいのだろうか、そんなことを家の前に立って考えてしまう。 
あそこまで言われて謝りに行ったのに、患者さんは既に村を出て行ってしまった。 
ぼくはどうすれば良かったのだろうかと悩むけど、そもそもな話そうやって悩んでしまう時点で時は既に遅い。 
 
「家の前でいつまで突っ立ってんだよ」 
 
 玄関のドアが開いて彼女が顔を出す。 
こいつ家の前で何してんだ?っていうような顔をしているけれど、そんな顔もされるだろう。 
家を飛び出したと思ったら直ぐに帰って来るんだからそう思われて当然だ。 
 
「すいません、帰って来ました」 
「帰って来ましたって……ここはおめぇの家だろうが堂々と入ってくりゃいいだろ」 
 
 それもそうだ。 
どうしてぼくは家の前で立ち竦んでいたのだろう。 
 
「おめぇさぁボケーッとしてっけど入んの?入らねぇの?」 
「あぁ、いえ…その…」 
「あぁもうじれってぇっ!そうやって突っ立ってんなら無理矢理にでも入れっからな!」 
「ちょッ!ダートさん!」 
 
 ぼくの態度が彼女を怒らせてしまったのだろう。 
腕を掴んで強引に家の中に引き入れ、無理矢理引きずるようにリビングまで連れて行くとぼくを椅子に強引に座れせて、彼女も隣にと座り込む。 
 
「謝りに行った割にはおせぇけど、何があったんだよ」 
 
 何となくぼくの態度で察したのだろうしここは隠すと更に怒らせてしまいそうだから素直に伝えた方が良さそうだ。 
 
「行ったのはいいのですが、帰って来たと思ったら直ぐに荷物をまとめて村を出て行ってしまったらしくて謝れませんでした……」 
「あぁそうなったかぁ」 
 
 特に驚いていない様子でぼくの事を見ている。 
これは黙っていてやるから話せよって事らしい、話を聞いてくれるのは嬉しいけれどどうしてここまでぼくの話を聞こうとしてくれるのだろうか。 
ぼくには理解出来ないけれど彼女なりの考えがあるのかもしれない。 
 
「ぼくはどうすれば良かったんでしょうか……」 
「いや?出て行ったんならそれでいいんじゃね?」 
 
 この人は今何て言ったのか。
出て行ったならそれでいい?あれほどぼくに謝りに行けと言ったのに、 その発言の意味がぼくには理解出来ない。 
 
「え?あの……それってどういう」 
「おめぇは謝ろうとしたけど出来なかったんだろ?」

 確かにそうだけれど結果的にぼくは謝る事が出来なかった。
その真実がぼくの心に強くのしかかって行く
 
「えぇ……」 
「おめぇは自分から謝ろうと思って動けたんだからそれでいい」 
 
 そういう事で良いのか分からない、謝りに行った以上はしっかりと本人に伝えるべきだと思うのだけれど違うのだろうか。 
仮に彼女の言う通りだとするなら行動する意味が大事だったのかもしれない。 
 
「おめぇは納得出来ねぇみてぇだけどよ、出て行った以上は謝れねぇだろうが」 
「確かにそれはそうですが」 
「ならもう過ぎて終わった事だっ!くよくよ悩んでんじゃねぇ」 
「あなたって人は……」 
 
 本当にこの人は意味が分からないし、ぼくのペースを乱してくる。 
どうしてこの人にここまで振り回されたりしなければいけないのか納得が行かない。 
 
「ところでちょっといいか?」 
「……どうしました?」 
「俺にここまで言われてんのにどうしておめぇ怒んねぇの?」 
 
 ここまで言われたら怒った方が良いのはぼくも分かっているけど怒り方が分からない。 
今迄誰かと喧嘩したり嫌な気持ちを相手にぶつけた事が無いからどうすればいいのか分からなくてどうすればいいのか悩んでしまう。 
  
「それにおめぇさぁ……、これから一緒に住むのにいつまで敬語で話しかけてくんの?」 
「いつまでって……」 
「それによぉ……、また同じ失敗したくねぇならそういうのやめた方が良いんじゃねぇか?」 
 
 つまり敬語で相手に接するのが悪いのだろうかと考えてみるけれど、ぼくの中の治療術師としてのイメージがそれを許さない。 
 
「診療所に来る人達にも敬語を止めなきゃいけませんか……?」 
「あ?そりゃおめぇ仕事の時は別だろうが」 
 
 仕事の時は今までで良い?つまり仕事とそれ以外は分けろって事だろうか……それならぼくでも出来そうだ。 
 
「って事でよぉ……試しに俺の事をダートさんじゃなくて、ダートって呼んでみろよ」 

 彼女が悪戯な笑みを浮かべながらぼくの顔を見る。
もしかしてぼくに名前を呼ばせたいだけだったりしないか?

「えっと……ダート」
「にしし、それでいいんだよそれで!そんな感じで少しずつ治して行きゃいいだろ!」

……そうやってぼくの背中を叩いて笑う彼女に調子を狂わされていく。
この村に来てから一人でいる事が多かったから、価値観が固まってしまい意固地になっていたのかもしれない。
そんなぼくの事を嫌だと言ってもダートは少しずつ治そうとしていくのだろう。
ただその行動の中に温かいものを感じてそれでも良いのかもしれないと感じるぼくがそこにいた。

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