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第三章 戦う意志と覚悟

3話 すれ違いの悲劇 ダート視点

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 コーちゃん達と話しているのは楽しいけどレースが出て行ってから一向に戻ってこない事が気になってしまう。
少し外に出てくるとは言っていたけど、あの人はこの町には私達以外に親しくしている人はいないから直ぐに飽きて帰って来ると思っていたのだけれどどうしたのかな……、もしかして最近私と一緒に町に出るようになって色んな人と話すようになって大分改善されて来たけど余計な事をまた言ってしまってトラブルを起こしているのかもしれない……

「ん?ダーどうしたん?急にそわそわして……もしかしてトイレ?それなら我慢しいとさっさと行きな?うちらの仲なんやし遠慮せんでええよ?」
「えっ、そうじゃなくて……」

 コーちゃんが心配そうな顔をしてトイレを進めてくれるけど……そうじゃない、私のレースが帰って来ないのが心配なのって言いたいけどそんな事いうと遊ばれるだけだと思う。
私は本当の事だから良いんだけど、彼はそういうのに精一杯アピールしても気づいてくれないから悲しくなるだけだ……。

「それとも何か心配な事があったの?おばちゃんに話していいのよぉ?」
「マローネおばさま……あのレースが帰って来ないの私どうしよう」
「そうねぇ……それなら探しに行った方が良いと思うわよ?」

 マローネおばさまの言う通りだと思う……。
でも折角の女子会を無駄にするのは良くないと思うし探しに行って良いのかな……

「もうそんな顔しないでいいのよ?でも……今のあなた一人で行かせるのは不安だからコーちゃんも一緒に付いて行って?私はそろそろ帰るわねぇー」
「……マローネさんに言われると断れんわぁ。今日はゆっくりしたかったんやけどなぁ、ダー行くで?姐さん次の女子会はレースの家でやるからよろしゅうねってダー!?うちも行くから先走るのやめぇ!」

コーちゃんが付いて来てくれるのが分かったから、急いで立ち上がるとおばさまに頭を下げてお礼を言って急いでコーちゃんの家を出てレースを探し始める。
暫く町の中を探したけどレースの姿がどこにも無い事に不安を覚えてしまう……本当に何処に行ってしまったのかな……。

「ダー……あんた本当、気持ちを自覚してから色々と変わったなぁ……付いて行くのに大変やわぁ」
「あっ……コーちゃんごめんなさい……でも私……」
「えぇって、うちはそこまで気にしとらん。それよりもかわいい妹分が恋をして明るくなったのが嬉しいだけなんよ?……ってあれ?あそこにいるのレースじゃ……」
「え?」

 コーちゃんが指さした先を見ると、綺麗なアイスブルーの髪を腰まで伸ばした人に腕を掴まれて引きずられるようにして何処かへ連れていかれる彼がいた。
どうしよう……やっぱりレースが何かやってしまったんじゃと頭の中で心配の警報が鳴る。

「コ、コーちゃん……」
「……後をつけるで?今から何も言わずにうちの歩いた後ろを焦らずにゆっくり付いてき……」
「う、……うん」

 コーちゃんはそういうと気配を消して二人の後を追って行く。
その姿を見失わないように私も付いて行くけど……どんどん見慣れた道になり私とレースの家に向かっているのが分かるけどどうしてそこに向かっているのか分からなくて心配になる。

「……ダー、何であいつがあんたらの家に向こうてんのかうちには分からんけど……しかけるで?魔術で攻撃する準備しとき」
「わかった……」
「行くで……」

 コーちゃんはそういうと目の前から一瞬にして消えたと思ったと同時に、一瞬で距離を詰めながら短剣を抜き切りかかっていた。
彼女の動きの速さは引退して尚、Aランクに匹敵する程だからこれで大丈夫かと思ったのに相手は一瞬にして何処からか武器を取り出して攻撃を防ぐと後ろに下がって獲物を構える。

「あんたっ!レースをどうする気だっ!」

 コーちゃんが自身の分身を魔術で作り上げて左右から挟むように攻撃をするけれど、突然現れた氷の壁にぶつかり動きを阻害されてしまう。

「その技は【幻鏡の刃】の水魔術に……あそこにいるのは【泥霧の魔術師】か……貴様ら何の用だ?」
「うちらの事を知ってる……?」
「……あなたは誰なのですか?」

 私達の事を知ってる相手に疑問が出るけど、相手は何も言わずに武器を何処かに消すと手元に魔術で手の平と同じ大きさの氷の球体を作り出して、中に異様に小さい初級魔術のファイアボールを入れて私たちの前に投げて来る。
何をするのかと思わず警戒して身構えるけど、氷の魔術を初めて見たから何が起きるか分からなくて防御を固める事しか出来ない。

「なんや……?」
「……防がねば死ぬぞ?【バックドラフト】」
「まずいっ!ダートっ!コルクっ!アキラさんの魔術から逃げてっ!」

 空中で私達の方向に球体に穴が開くと、周りの空気を一瞬にして取り込み爆発を起こす。
一瞬にして起きた現象に魔術を使い障壁を作る事も出来ずに飲み込まれてしまい上手く呼吸も出来なくなる程の高熱に全身を焼かれ重度の火傷を負ってしまったのか、呼吸が出来なくなり息を吸おうとすればする程体に取りこまれない空気に死を覚悟してしまったけど体の痛みや苦しみが一瞬で消えて行き治って行く。
何が起きたのか分からずに前を見ると、レースが私とコーちゃんの前に全身を大きく損傷したまま治癒術を使っている姿が見える。

「「レースっ!」」
「……なん……だと?」

……私達の目の前でゆっくりとレースが倒れて行く……。
咄嗟に受け止めるけど、呼吸が荒く体も燃えるように熱くて今にも死んでしまいそうでどうしようか分からなくなってしまう。
それでもまだ彼に意識があるのか擦れた声で『ぼくは大丈夫だから……ちゃんと落ち着いて話し合いをして……』と言うと治癒術に意識を集中しているのか何も言わなくなる。
話し合いをしてって言われても強引にレースを誘拐しようとしているこの人と何を話せば良いのか私には分からない。
私のレースを傷つけたこいつを許せないけど彼が言うならしっかりと話しをしようとコーちゃんと眼を合わせて合図を取った。
……もし理由が許せない事なら確実にこいつを俺が始末してやる。
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