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第七章 変わりすぎた日常

7話 冒険者登録について

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 見慣れぬ都会の風景の中を歩いているうちに見慣れた建物が現れた。
確かにトレーディアスで見た冒険者ギルドと形がそっくりだ、それに日が暮れたのに冒険者の人達が出入りしているのを見ると、ダートが言うように急な依頼が入った時これなら対応出来そうだ。
取り合えず手を引かれたまま建物内に入ると受付には見慣れない人達がいるけど、多分元冒険者の人達なのかもしれない。

「来たはいいけど何処で登録すればいいのかな……」
「冒険者用の受付で基本的に依頼を受けたり冒険者に登録したりできるからいこっか」
「確かあそこで依頼を出せもしたよね、トレーディアスでクロウを探す時にやった記憶があるけど……、大分うろ覚えかも」
「あれはヒジリさんが気を使ってくれたからで、本来は別にある依頼者用の一般受付で受理する流れになってるかなぁ……、ほらあの時連れて行って貰ったでしょ?」
「……あぁそういえば?」

 取り合えず二人で列に並んでいるけど、冒険者用の受付に近づいて行く度に聞き覚えのある声が聞こえて来る。

「先輩はそろそろ休憩の時間だから休んで来ていいよー、後はあたしがやっとくからねー」
「ありがとうなんよヒジリさん、でもなぁ?今日は人が多い気がするから休憩は後回しでもいいと思うんようち、だって一人減るとその分負担が増えてまうし……」
「それはそうだけどー、先輩をトレーディアス首都の冒険者ギルドから引き抜いたのはあたしだしー、それに忙しい時こそしっかりと休まないとダメだよー?」
「それなら休ませて貰うんけどぉ、何かあったら呼ぶんよぉ?仮眠室から起きて来るからね?」

 やっぱりあの声はヒジリだ。
四ヶ月ぶりに聞いた彼女の声に懐かしさを覚えるけど、トレーディアスの冒険者ギルドから引き抜いて来たというあの女の人は誰なのだろうか……、それに先輩って呼んでたけどもしかしてお世話になった人だったりするのかもしれない。

「貴様も休んでおけ、まだ夜間業務に慣れてないのだから無理をするな」
「はいっ!アキラ先輩後は宜しくお願いします!」
「あぁ……、時間になったら仮眠室に起こしに行く」

 男性の方も仮眠の時間のようで受付の奥の方へと消えてしまったけど、その減った分だけ人の進みが減ったからか、待て無さそうな人達が背中に背負っているリュック等から毛布等の寝具を取り出すと空いてるスペースに敷いたり、ギルドの入り口付近にある階段から上がっていく。

「ダート彼等は何をしてるの?」
「あの人達は泊まり組とかなぁ、宿を借りる事が出来ない程に収入が安定していない人達は二階にある雑魚寝用の部屋で集団で休んだりするらしいけど、自分の荷物をしっかりと確保しておかないと盗まれたりするらしいよ?」
「らしいって事は利用した事無いの?」
「あるにはあるけど、私は直ぐにAランク冒険者になったから長くはいなかった分盗まれたりした経験が無いから分からないかな」
「なるほど、それならしょうがないかな……、でも収入が安定していないという事はぼくが冒険者として登録したら利用しないと行けないのかな……」 

 ぼくも冒険者になるという事は暫くは収入が安定しないだろうし、そうなったらここの人達みたいな暮らしをするのだろうか。
そうなったらダートとは暫く一緒に暮らせないのかもしれない、折角また一緒にいられるようになったのにそれはやだな。

「……何言ってるの?レースにはこの都市に自分の家にあるし診療所の運営という安定した収入があるでしょ?、それに無理して夜遅くに依頼を受ける必要も無いと思うというかさせないから」
「あ、そうだったね……、でも夜遅くの依頼をさせないってどういう事?」
「遠出の何時帰って来れるか分からない依頼を受けてレースが長期間診療所をまた空ける事になったら意味がないでしょ?、受けるとしても今日中に帰って来れる依頼までになるように私が調整するね?」
「……それならお願いするけど冒険者になったら確かEランクからでしょ?」
「基本的にはそうだけどカエデちゃん曰く、登録時に鑑定魔術でその人の能力を見て貰ってその時の数値によってCからEに振り分けられるように最近はなったらしいよ?、それに伴い現在そのランクの範囲の人達も再度鑑定を受けて貰ったりしてるらしくて、振り分けをやり直してるらしいの」
「へぇ、そうなんだ」
「……次の方、どうぞこちらへ来てください」

 ぼく達がこうやって話してる間に何時の間にか最前列になったようで受付の黒髪の女性の元へと呼ばれる。
でも何だろうこの人の声も聴き覚えがある気がするような気がするけど、受付の前に立ってみると長い黒髪に赤い瞳、冒険者ギルドの制服を着てはいるから一瞬分からなかったけど、アキラさんの奥さんであるアンだ。

「もしかしてこの声、アンさんですか?」
「……あら?あなた達、帰って来てたのね」
「今日やっとレースを連れて帰って来れたんですっ!……、そうしたらおかあさ、あ、いえ、診療所の手伝いに来て頂いていたカルディア様にアンさん達が最近栄花の仕事が忙しいと聞いたので」
「……えぇ、その通り忙しいわ?ここの冒険者ギルドの長がとある大国のさる王族の婿殿だもの、本来は騎士団の幹部が職員達に一人立ちが可能になるまでの間、訓練指導員として滞在する事になるのだけれど相手が相手だもの……、グラサン団長に頼まれて私達が駆り出される事になったのよ」
「という事はここにジラ……、ん!?」

 ジラルドの名前を言おうとした途端受付から身を乗り出したアンに手で口を塞がれる。

「……あなた何を考えてるの?私が名前をぼかしているのだから察するべきじゃないかしら?」
「今のはレースが悪いよかな」
「あ、ごめん……」
「……分かれば宜しい、一応受付にはそれぞれ防音の魔術が付与された魔導具があるから会話が漏れる事はないけど、気を付けないといけないわ?人によっては口の動きだけで何を言ってるのか分かるように訓練された人もいるから」
「それってぼく達のこの会話も聞かれたら良くないんじゃ……、それにアキラさんやヒジリさんの声やさっきぼく達を呼ぶ声も聞こえてたし……」

 防音ならそういう声も全て聞こえないように出来るのではと思うけど違うのだろうか……。

「……職員同士の会話が聞かれた所で困る事は無いわ、どちらかというと何も聞こえない方が不気味だと思わない?、それにこれ位の会話は全然聞かれても困らないわよ、むしろこうやって防音の魔導具を使用して雑談ばかりしてる方が悪目立ちしそうね、だからそろそろ用件を言ってくれないかしら?」
「確かに……、えっと用件何だけど冒険者の登録に来たんだ」
「……あなたが?、私の知ってるレースくんはそういうのに向いてないと思うけど本当に良いの?」
「うん、ダート達や診療所を守る為に冒険者になって戦う力があるっていう証拠が欲しいんだ、だからお願いします」
「……へぇ、ふふ、暫く見ない間に良い顔をするようになったのね、いいわ鑑定の魔導具であなたの能力を見てあげるって言いたいけど、残念な事に【心器】を扱う技術を習得している人をこんな公な場で鑑定するわけには行かないの、だからギルド長の部屋で頭を抱えながら指導をしている姫ちゃんに直接見て貰ってちょうだい、案内するから」

……アンはそういうと受付のスペースに『現在離席中』の札を立てぼく達に手招きをする。
そのまま彼女について行くと遠くから『……ここの計算が違います、これだと依頼内容に対して冒険者の数が多くなってしまうので、払う報酬が多くなり過ぎますので依頼主さん側の負担が大き過ぎます』という一月ぶりに聞く懐かしいカエデの声が聞こえて来た。
あぁ、ギルド長室が近くにあるんだなぁって思っていると『だぁぁっ!だから俺はそういう難しい計算は出来ないんだよぉ!誰か変わりにやってくれぇ!』というジラルドの悲鳴が響いて来て思わずぼくとダートは苦笑いをしてしまうのだった。
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